調査レポート

信頼の揺らぎと修復のメカニズムに関する研究

公開日:

引用について
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(記載例)パーソル総合研究所 「調査名称」

調査概要

調査名称

パーソル総合研究所・九州大学
「信頼の揺らぎと修復のメカニズムに関する研究 (上司と部下の信頼関係に関する研究Phase2)」

調査目的
  • リーダーとメンバーの信頼関係に揺らぎを引き起こす出来事の実態把握
  • 信頼が揺らいだ後の反応行動とその影響の解明
  • 信頼を修復するプロセスの検証

企業で働くリーダー(管理職)およびメンバー(非管理職)

リーダー層 : 1,775名 (男性1,321名、女性454名) 
メンバー層 : 1,636名 (男性842名、女性794名)

調査方法

調査会社のアクティブパネルを用いたアンケート調査(Web方式)  
*実施に際しては、個人が特定されないように配慮し、承諾を受けたうえで回答を得た
*回答者は、パーソル総合研究所(事業部門)との直接的な取引はなく、利益相反は生じない
*九州大学大学院心理学講座研究倫理委員会の承認を得ている(承認番号:2025-041)

調査時期

本調査 2026年 3月9日 – 3月17日

実施主体

株式会社パーソル総合研究所、九州大学大学院 池田浩研究室
※定性分析:出石琴美(ユトレヒト大学)

  • 図版の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合がある。

調査報告書 全文

研究の背景と目的、位置づけ

本調査におけるリサーチクエスチョン

調査概要

調査結果サマリ・提言

信頼の揺らぎの実態

信頼低下のメカニズム

信頼の揺らぎが職場に与える影響

信頼修復のメカニズム

本研究のまとめ

Appendix (調査項目、回答者属性)

本研究の位置づけ

先の研究報告であるPhase1「上司と部下の信頼関係に関する研究~被信頼感に着目した「信頼のらせん関係」の検証~」では、相手の顔やふるまいが見えやすい「安心」を前提とした職場から、たとえ非対面であっても相手に身をゆだねられる「信頼」に基づく職場運営への移行が求められることを提起した。他方で、現実の職場では信頼が揺らぐ出来事が不可避に生じ、揺らぎへの対応が関係修復・悪化の分岐点となる。本研究(Phase2)では、「信頼の揺らぎと修復」に焦点を当て、揺らぎの実態・メカニズム・修復プロセスを解明することを目的とする。

本研究の位置づけ

どのような出来事が信頼を揺らがせるのか

信頼の揺らぎは約3人に1人が経験

まず、相手への信頼が揺らいだ経験の割合を確認した。過去3カ月以内に、リーダーの33.3%がメンバーへの信頼が揺らぐ出来事を、メンバーの34.7%がリーダーへの信頼が揺らぐ出来事を経験していた。信頼の揺らぎは特別な出来事ではなく、多くの職場で日常的に生じている現象といえる。 

図表1.相手への信頼が揺らいだ経験の割合(過去3カ月以内)

相手への信頼が揺らいだ経験の割合(過去3カ月以内)

リーダーとメンバーでは信頼判断の基準が異なる

次に、信頼が揺らぐ背景にある判断基準の違いを確認した。定性・定量の分析から、リーダーは、報連相や期限遵守、指示の確認など、メンバーの業務遂行や責任ある行動を重視する傾向がみられた。一方、メンバーは、説明の十分さや傾聴、一貫した対応など、リーダーの関わり方を重視していた。信頼の揺らぎには、立場によって重視する行動や判断基準が異なるという非対称性が存在する。

図表2.信頼の判断基準の違い

信頼の判断基準の違い

メンバーへの信頼が揺らぐ場面では、報連相の不足が最も多い

メンバーへの信頼が揺らいだ出来事の発生頻度と信頼低下度を見ると、リーダー側では次のような結果がみられた。発生件数では「報連相がない/遅い」が最も多く、次いで「約束・期限・ルールを守らない」であった。一方、信頼が下がった程度(信頼の低下度)が大きかったのは「重大なコンプライアンス問題」、次いで「裏切り・陰口・表裏のある態度」。発生頻度の高い出来事と、信頼を失う出来事は異なる。

図表3.メンバーに対して信頼が揺らいた出来事別|信頼低下度・発生件数

メンバーに対して信頼が揺らいた出来事別|信頼低下度・発生件数

リーダーへの信頼が揺らぐ場面では、言動の不一致や不誠実な対応が多い

一方、メンバー側の結果を見ると、リーダーへの信頼が揺らいだ出来事では、「嘘・ごまかし/言っていることが変わる」が最も多かった。次いで「指示があいまい/一貫しない」であった。信頼の低下度が最も大きかったのは「ハラスメント(近い言動を含む)」、次いで「理不尽な対応・叱責」であった。

図表4.リーダーに対して信頼が揺らいた出来事別|信頼低下度・発生件数

リーダーに対して信頼が揺らいた出来事別|信頼低下度・発生件数

同じ出来事でも、揺らぐ前の信頼度によって信頼低下の大きさは異なる

さらに、信頼が揺らぐ前の信頼の程度によって、揺らぎによる信頼低下への影響が異なるのかを確認した。

その結果、リーダー・メンバーの双方において、事前の信頼が高い群ほど、信頼が揺らぐ出来事が生じた際の信頼低下は小さい。反対に、事前の信頼が低い群では同じ出来事でも信頼低下が大きかった。

日頃築かれた信頼関係は、揺らぎに直面した際の緩衝材、いわば「信頼の貯金」として機能し、関係悪化を和らげる可能性が示唆された。

図表5.揺らぐ前の信頼度別|信頼の揺らいだ出来事に対する信頼低下度(リーダー回答)

揺らぐ前の信頼度別|信頼の揺らいだ出来事に対する信頼低下度(リーダー回答)

図表6.事前の信頼度別|信頼の揺らいだ出来事に対する信頼低下度(メンバー回答)

事前の信頼度別|信頼の揺らいだ出来事に対する信頼低下度(メンバー回答)

信頼低下は何によって増幅されるのか

信頼低下は「出来事」ではなく「受け止め方」によって生じる

ここからは、信頼が揺らぐ出来事そのものではなく、その受け止め方に着目する。自身の怒り・反発、動揺といった「感情的反応」や、相手の意図や性格、課題の難しさなどに原因を求める「原因の帰属」(解釈)が、その後の信頼低下を大きく左右することが分かった。

リーダー、メンバーの双方で、信頼低下に最も強く影響していたのは「怒り・反発」だった。また、相手が意図的に行った、あるいは能力不足によるものだと受け止めるほど、信頼低下は大きくなりやすい。

図表7.「メンバーに対する信頼低下」に影響する感情的反応と原因の帰属

「メンバーに対する信頼低下」に影響する感情的反応と原因の帰属

図表8.「リーダーに対する信頼低下」に影響する感情的反応と原因の帰属

「リーダーに対する信頼低下」に影響する感情的反応と原因の帰属

信頼が低下した後には多様な反応行動が生じる

では、信頼が低下した後、人はどのような行動をとるのか。信頼が低下すると、「距離をとる」「監視する」「沈黙する」「声を上げる」「関係を再交渉する」などの反応行動がとられる。特にメンバーは、「距離をとる」や「監視」が多くみられ、信頼低下が表面化しにくい傾向が確認された。

図表9.信頼低下のメカニズムとその後の行動

信頼低下のメカニズムとその後の行動

信頼の揺らぎは職場にどのような影響をもたらすか

信頼が揺らぐと、リーダーは「育てる意欲」を失う

次に、信頼の揺らぎが職場に及ぼす影響を確認した。まず、リーダー側は「育成意欲の低下」「リーダーの負担増加」「心理的距離・期待の低下」「権限委譲の低下」の影響が相対的に大きい。

リーダーはメンバーへの期待や関与を控え、「育てること」から距離を置く傾向がみられた。信頼の揺らぎは当事者間の関係悪化にとどまらず、育成や支援といった職場運営の中核機能そのものに影響を及ぼすことがうかがえる。

図表10.信頼の揺らぎによって生じる影響(リーダー回答)

信頼の揺らぎによって生じる影響(リーダー回答)

信頼が揺らぐと、メンバーは「働く意欲」を失う

一方、メンバー回答では、リーダー回答と比べて「関係の質・協働の低下」「心理的距離・期待の低下」「チーム・組織への波及」が高く、加えて「モチベーションの低下」も大きな影響として示された。

メンバーは、リーダーへの期待や仕事への関与を弱め、「働くこと」から距離を置く傾向がみられた。信頼の揺らぎはリーダーとの関係悪化にとどまらず、職場への関与や就業意欲そのものを低下させることがうかがえる。

図表11.信頼の揺らぎによって生じる影響(メンバー回答)

信頼の揺らぎによって生じる影響(メンバー回答)

信頼はどのような行動によって修復されるのか

信頼修復には、謝罪・責任の受容・行動変容・継続的な関与が重要

次に、信頼が低下する出来事が生じた後、相手がどのような修復行動をとったかを確認した。その結果、「自分の責任を認めた」「明確な謝罪があった」「再発防止の行動変容がみられた」「その後も継続的に関わろうとした」など、複数の修復行動が確認された。

一方で、メンバーから見たリーダーの修復行動の実施率は概ね3割前後にとどまり、リーダーから見たメンバーの修復行動実施率の約5割を下回った。信頼修復に向けた働きかけは両者で確認されたものの、その実施率にはリーダーとメンバーで差がみられた。

図表12.リーダー・メンバーからみた相手の信頼修復行動の実施率

リーダー・メンバーからみた相手の信頼修復行動の実施率

信頼修復は「理解→納得→安心→再期待」の段階で進む

さらに、信頼修復には段階的なプロセスがある。まず、原因や経緯の説明による「理解」、次に、謝罪や再発防止の行動変容による「納得」、そして、感情への配慮や一貫した対応による「安心」を経て、再び相手に「期待」できる状態へと進むことが確認された。

信頼の揺らぎ後には、沈黙・監視・距離化へ向かう「負のらせん」と、信頼・被信頼感(相手から信頼されていると感じる)の再形成・強化へ向かう「正のらせん」の両方の道が存在する。4つの段階で進む信頼の修復行動の成否は、関係悪化(負のらせん)と関係再生・強化(正のらせん)を分ける分岐点となることが示唆された。

図表13.信頼が揺らいだ後の分岐と修復のメカニズム

信頼が揺らいだ後の分岐と修復のメカニズム

信頼のらせん動態モデル

信頼は形成・揺らぎ・修復を経て再形成される

以上の結果から、信頼関係は形成・揺らぎ・修復を繰り返す動的な関係であることが示唆される。Phase1では信頼と被信頼感が相互に強化される「信頼のらせん関係」を確認した。Phase2(本研究)では、その信頼関係が揺らいだ際の信頼低下および、修復プロセスを明らかにし、信頼のらせん動態モデルとして整理した。

信頼の形成過程では信頼と被信頼感が相互に強化される。ただし関係の途上では信頼の揺らぎが不可避に生じる。信頼が揺らいだ後の反応行動と修復プロセスによって、正のらせんにも負のらせんにも向かう。よって、信頼のらせん関係とは、信頼・被信頼感の形成・強化、揺らぎ、修復、信頼・被信頼感の再形成と衰退を繰り返して発展する動態プロセスだといえる。

上司と部下の信頼関係に関する研究~被信頼感に着目した「信頼のらせん関係」の検証~

図表14.信頼のらせん動態モデル

信頼のらせん動態モデル

[分析コメント]信頼の貯金を増やすことが、揺らぎへの重要な備えになる

組織・人事部門への提言

管理職教育においては、「信頼を築く方法」を伝えるだけでは不十分である。信頼は形成されるだけでなく、日常的に揺らぎ、修復されながら維持・強化される動的な関係である。ゆえに、信頼形成のみならず、信頼低下のメカニズムや修復プロセスについても学ぶ機会を提供することが重要である。また、メンバーに対しても、信頼の揺らぎへの向き合い方や、対話による関係再構築について学ぶ機会を設けることが有効と考えられる。

リーダーへの提言

1.事前の信頼は、揺らぎによる信頼低下を和らげる緩衝材となる

日頃から信頼関係を築いていることは、揺らぎによる信頼低下を和らげる緩衝効果があることが確認された。メンバーを尊重し、傾聴・支援し、一貫した行動を積み重ねることが、「信頼の貯金」として機能する。

2.信頼低下を左右するのは「出来事」より「受け止め方」

リーダーであっても、怒りや動揺を覚えるのは自然な反応である。しかし、相手への信頼低下を左右するのは出来事そのものではなく、感情と原因帰属である。相手の悪意を前提とせず、背景や状況を理解しようとする姿勢が信頼回復の起点となる。

3.信頼の修復は「謝罪」して終わりではなく「プロセス」

メンバーから自分への信頼が揺らいだと自覚した際は、まず何が起きたのかを説明し(認知的修復)、自らの責任を受け止め、謝罪と行動変容を示す(情動的・行動的修復)。その上で継続的な関与と傾聴(関係的修復)へと進むことが鍵となる。特にリーダーは、関係修復を図ろうとする傾向が見られる一方で、実際の修復行動(謝罪等)は必ずしも多くない。信頼が揺らいだ際には、相手からの働きかけを待つのではなく、自ら修復のプロセスを進めることが求められる。

メンバーへの提言

1.違和感や不満を放置しない

信頼が揺らいだ際、メンバーは距離をとる、相手を監視する、沈黙といった反応を取りやすい。しかし、何も伝えないことは現状を追認することにもつながる。違和感や不信感を覚えたときこそ、そのまま放置せず向き合おうとする姿勢が重要となる。

ただし、ハラスメントや安全に関わる事案については、相談窓口・人事などの第三者を通じた適切な対応が求められる。

2.事実と解釈を切り分ける

信頼低下は出来事そのものだけでなく、その出来事をどう解釈したかによって増幅される。

相手の意図や性格、能力を一方的に決めつけず、「なぜそうなったのか」「別の見方はできないか」といった背景や状況にも目を向けたい。

3.沈黙ではなく対話を選ぶ

信頼修復の出発点は対話である。期待していること、困っていること、不満に感じていることを率直に伝えることで、リーダーも状況を理解し、関係を修復する機会を持つことができる。信頼の揺らぎは関係の終わりではなく、関係を見直し、再構築する契機にもなり得る。


※本調査を引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所・九州大学「信頼の揺らぎと修復のメカニズムに関する研究」

調査報告書 全文

研究の背景と目的、位置づけ

本調査におけるリサーチクエスチョン

調査概要

調査結果サマリ・提言

信頼の揺らぎの実態

信頼低下のメカニズム

信頼の揺らぎが職場に与える影響

信頼修復のメカニズム

本研究のまとめ

Appendix (調査項目、回答者属性)

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