公開日 2014/06/23
【HRサミット2014 登壇報告 vol.3】
ビジネスリーダーを輩出し続けるタレントの見える化と活用
~ビジネスパートナーからタレントマスターへ~
vo.1、vol.2に続き、HRプロ主催HRサミット2014にて、当研究所主席研究員の須東がモデレータを務めたシリーズ講演「経営に資する人事キャリアのつくり方」の様子をご報告します。
今回お伝えするのは、日本GE株式会社 人事部長の木下達夫氏による講演「ビジネスリーダーを輩出し続けるタレントの見える化と活用~ビジネスパートナーからタレントマスターへ~」です。
現在、世界171カ国で展開している米GE(ゼネラル・エレクトリック)社。近年では、中近東やアフリカでのビジネスを急拡大させており、それに伴い、当該国拠点への人材の配置も急ピッチで進めています。また、人材輩出企業としても名高い同社ですが、その人材の育成・活用の思想を表すエピソードとして、木下氏は前CEOのジャック・ウェルチの言葉を紹介しました。
「彼が人事の大事さを語るとき、よく好きな野球に例えてこう言っていました。"野球で勝ちたければ、選手の補強が何より大事だ"と。(ビジネスで勝つためには)、今の組織の姿と本来あるべき姿との間にギャップがあれば、人をどう補強していくかを考えなければならない。それがGEの戦略人事の重要なミッションなのです」。
日本GE株式会社 人事部長
木下達夫氏
優れた人材を適材適所に登用するには、まず、どの部署のどの人材がどのような能力を持っているのかを十分に把握する必要があります。
そこで木下氏は、タレントの見える化をする上で重要な機能を果たしている人事の仕組み「セッションC」を紹介しました。
「セッションC」とは、個人の評価はもちろん、該当組織が必要としている人材はどんな人材か、またそれは今在籍する人材とギャップがあるのか、あればどう埋めていくのかを明らかにする仕組みです。さらに、次にリーダーとなりそうな人は誰なのかを見出し、会社全体としてどう育てていくかのプランニングもします。
「セッションC」で活用されているのが、業績とバリューの2軸のレベルをそれぞれ3段階ずつに分けた9マスの中に社員名をプロットしていく「9(ナイン)ブロック」です。同社では、業績だけでは人事評価をしません。「目標と権限には必ずギャップがある。それを乗り越える影響力、我々はインフルエンス・リーダーシップと呼んでいますが、それがある人はバリューが高い人だと評価します。このバリュー評価をとても重視しています」(木下氏)。バリューは、「GEバリュー」として同社のホームページでも紹介されています。
では、どのように9ブロック内で、社員の位置を決めていくのでしょうか。
「他社ではスコアリングするところもあるようですが、GEでは点数化はしません。ずばり、『どうなの、この人?』と当該組織のリーダーに尋ね、『パフォーマンスは可もなく不可もなくですが、どんなことも率先して挑戦するし、組織のロールモデルになっています。部下や他部署からの信頼も厚いです』などと返ってくる答えを元に位置付けていきます」。
ある社員とある社員のほんの少しの差に関しても、「AさんのほうがBさんよりも、ほんの少しバリューが高い」などと同様の方法で位置付けしていきます。非常にアナログな方法ですが、結果的には相対的に納得感のあるものになると、木下氏は言います。
さらに、その位置付け作業を、国や事業部を越え、セグメントの仕方を変えた形でいくつも行います。例えば営業部の人材を見る場合、ファイナンスの人材を見る場合...といった具合です。
【図表】業績とバリュー(価値観)の2軸で評価するGEの人事評価
9ブロックの右上の「ベスト」エリアには、本部長クラスの人材のなかでも5%ほどしか該当しないような非常に優秀な人材が位置づけられます。同社では、この優秀層から重要なリーダーシップポジションに就く次世代のリーダーを選びます。こうした優秀な人材は、往々にして在籍部署で囲い込みたくなってしまうものですが、同社では決して囲い込みはしません。それどころか、人は経験によって成長するという考えの下、国や部署を越えて、新たにチャレンジングで面白い仕事を経験できるチャンスを与えています。
「優秀な人材を抱える部署の現リーダーに対して、私たちは、その人材のためにこの1~2年でどんなアクションをするか、つまり、どこへ異動させるかを考えるよう伝えます」。このチャレンジングな人事方針は、優秀人材のリテンションにも効果があると木下氏は言います。
一方、先のアクションプランを立てることは、現リーダーにとって、1~2年後には優秀な人材が一人、今の組織からいなくなるものと覚悟し、次のリーダー候補の育成を始めることでもあります。同社では、後継者候補となるような人材が部下に存在する状態でなければ、部下を育成できていないとして、現リーダーの評価が下がることにもなるため、トップ層含めリーダーは、1年の1/3を人材育成にかけているといいます。
「正直、『GEだからできるんですよね』と言われることがあります」と、木下氏は言います。「しかし、それは違います。私たちは特別なことはしていません。ただ、タレントを見える化し、リーダー候補の人材を本気で登用し、チャンスを与える。そして、それを徹底的にやる。優秀な人材はどの企業にも必ずいます。それを活かすかどうかは企業次第なのです」。
ビジネスの成長を可能にする組織文化や組織能力をつくっていくために、しっかり人材を把握して、その人材の成長を促していく。そして、リーダーが次のリーダーを創っていけるよう、人事の立場からコーチしていく。そのようにして根付いてきた育成の風土が、GEを世界有数の人材輩出企業たらしめているのでしょう。
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