趣味について仲間と学ぶ「コミュニティ参加型」の学習は、仕事や収入への効果が高い傾向
株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、 産業能率大学・齊藤研究室と共同で実施した「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」(調査対象は35歳~64歳の就業者 N数=36,537)から「趣味(好きなことや興味・関心のあること) の学習の実態、効果」の結果を発表いたします。
本調査では、35~54歳をミドル、55~64歳をシニアと定義し、主に下記3項目についての定量的な分析結果を報告いたします。
※1 学び直す意欲はあるが、趣味の学習だけしている層
2023年8月に発表した日本の就業者(ミドル・シニア層)の報告書※2では、仕事に関する学び直し※3を実行しているミドル・シニアは就業者全体の14.4%であり、約8割が学び直しを行っていないことがわかりました。ミドル・シニア従業員の活性化は、組織にとって重要な経営課題です。一方、曖昧で不確かな将来へ備えることは多くの従業員にとっても重要な課題となっています。
本調査では、仕事に関連はしないものの学びを行動化している「趣味学習層」※4に着目し、その実態を確認するとともに、趣味の学習は仕事やキャリアにどの程度効果があるのか、どうすれば学習対象を仕事や自身のキャリアにも向けることができるのかを把握することを目的に実施しました。
※2 「ミドル・シニアの学びと職業生活に関する定量調査【PART1】」(2023年8月)
※3 学び直し:業務の時間外に、仕事やキャリアに関して、継続して学習すること。
※4 趣味学習層:仕事やキャリアに関連する学習には積極的ではないが、業務外の時間を使って、仕事やキャリアとは無関係の趣味に関する学習を継続している層
【学び直しのタイプ】 本調査では、学び直す意欲と学習実施状況に基づき、以下の3タイプ(詳細6タイプ)に分類。
※5 キャリアのセルフアウェアネス:自分のキャリア全体がどういった方向に向かっているか理解できているなど内面的な自己認知
以降は、趣味学習層(8.2%)に焦点をあて、分析した。
大人になるにつれ、「学び」と聞くと資格取得や昇格試験のための机上の勉強が想起され、本来の楽しさから遠ざかってしまう人も少なくない。現在、ミドル・シニア層においても「リ・スキリング(学び直し)」が重要な課題となっているが、「学び」とは本来的に広く、多様であったことを思い返せば、職業的側面に限定されるものではない。本調査では、楽しみながら行っている趣味的領域の学習を通じ、仕事や収入への波及効果が確認された。趣味の学習は、熟練せずとも楽しみや喜びを感じられる傾向もあるため、自身のキャリアと結び付けることができれば、職業生活をより豊かにする機会ともなり得る。
もし、仕事に関連した学び直しに二の足を踏むのならば、まずは興味・関心を向けられる趣味的領域の学びに踏みだしてみてはどうか。学ぶ内容や個人の学習観によって学び方も様々あるが、時に他者と関わり、教え・学び合う機会を持つことは、新たな人的ネットワークを築く事にもつながる。興味・関心を共にする仲間ができれば、そのコミュニティは職場でも家でもない、新たな居場所ともなり得る。ミドル・シニア層にとっては、趣味的学習を通じて多様な居場所を持つことが、将来のより豊かな生活につながるかもしれない。
日本の就業者は加齢とともに「学び」から遠ざかる傾向がある。刻々と変化するビジネス環境に適応していくためにも、従業員の学び直しを促進したいと考える組織は多い。しかし、その気のない者に対して組織側が一方的に手厚く教育訓練を課したところで、その効果は限定的なものとなろう。
趣味的領域に「学び」を見出している「趣味学習層」は、学びのレディネス(学習への前向きな態度・習慣)を有しているため、個人のキャリア意識を高める施策などを通じて仕事領域との接合を見いだせれば、学び直しへの移行が期待できる。学習の内容も大事だが、いかに従業員側の能動性を引き出し、学習への前向きな態度や習慣を促すかが重要なポイントとなる。
これまでの企業の人材育成において、「実務に直結する学び」には教育予算を充てるが、趣味的領域は福利厚生の位置づけとしていた組織は少なくない。変化の激しい今日、どのような学びが実務に直結し、何がしないのかの線引きは益々難しい。だとすれば、「何を学ぶか」ではなく、従業員の学ぶ姿勢(意欲)や学び得た有形・無形の資産を社内にいかに往還する(周囲に共有し、活かす)ことができているかを評価してはどうか。これは単に趣味活動を補助するのではなく、その活動の中に仕事にも活かしうる「学び」を見出すことのできる人財を育む施策と位置付けたい。
趣味の学習の学び方については「コミュニティ参加型(38.9%)」が最も多かった。興味・関心を共にする仲間と集って学び合う情景が目に浮かぶ。このような学び方は、社内外での多様な人脈形成につながり、仕事の成果や創造性が高まる傾向が確認された。従業員が自身の興味・関心に基づいた学びを行い、周囲と共有する機会を設けることは、非学習層の学習意欲を刺激することにもつながる可能性がある。このような試みとして、企業内の部活動など、趣味的活動や学習イベントを組織として開催する事例もあるが、自社らしい教育施策や組織開発施策としての工夫の余地も多分にあると考える。
※6 越境学習:法政大学大学院の石山 恒貴教授は、越境学習を「自分にとってのホームとアウェイを行き来することによる学び」と定義している。
※本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所」と明記してください。
※調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/middle-senior-learning2.html
※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。
調査名称 |
パーソル総合研究所 「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」[PART2 趣味の学習の実態・効果] |
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調査内容 |
・ミドル・シニアの業務外の学び(学び直し、趣味)の実態と効果を明らかにする。 ・学び直す意欲があるのに学び直せないミドル・シニアの学び直し行動を促進する個人・企業要因を明らかにする。 |
調査手法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査時期 | 2023年 3月24日 - 3月28日 |
調査対象者 |
■スクリーニング対象者:全国の就業者 35~64歳男女 最終学歴高卒以上 n=36,537 ※令和2年国勢調査の雇用形態・学歴別の構成比に合わせてウェイトバック処理 ■本調査対象者:業務外学習の実施状況・学び直し意欲により割付 ① 仕事関連学習層 n=1,800 ② 非仕事関連学習層 n=2,700 ③ 学び直し意欲あり・非学習層 n=2,700 ④ 学び直し意欲なし・非学習層 n=1,800 ①~④の合計 n=9,000 ※回答の早い上位10%のデータを削除 ※一部の分析では、ウェイトバック処理後のスクリーニング対象者の①~④の区分・学歴の構成比に合わせてウェイトバック処理 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
共同研究 | 産業能率大学 齊藤弘通研究室 |
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
専門は人材育成論、質的調査法。慶應義塾大学文学部卒業、法政大学大学院政策創造研究科博士課程修了。博士(政策学)。専門社会調査士。産業能率大学総合研究所を経て現職。主に、高等教育機関における社会人教育の実態や学修効果、ビジネスパーソンの継続的な学び直しのあり方などを調査・研究。
パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、BPOや設計・開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開するほか、新領域における事業の探索・創造にも取り組み、アセスメントリクルーティングプラットフォーム「ミイダス」や、スキマバイトアプリ「シェアフル」などのサービスも提供しています。
はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」 を実感できる社会を創造します。
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