ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査を発表
ミドル・シニア層の70.1%は学び直しの重要性を認識しているが実践者は14.4%にとどまる

学び直しを3年以上※1続けることで年収が平均30万円(推計)高くなることが判明

 株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、産業能率大学・齊藤研究室と共同で実施した「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」(調査対象は35歳~64歳の有職者 N数=36,537)の結果を発表いたします。

 政府は6月下旬に「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太の方針)を閣議決定。三位一体の労働市場改革※2を打ち出し、その具体的な施策の一つとして「リスキリング」が掲げられました。一方、パーソル総合研究所の先行調査※3では、日本の就業者の学習投資が諸外国と比較して著しく低く、加齢とともに新たな学習行動をとらなくなる傾向が明らかになっています。本調査では、高齢化が進む日本の労働市場において、就業人口のボリュームゾーンでもあるミドル・シニア層に着目し、学び直しの実態について多角的に把握することで、リスキリングの推進に寄与することを目的に実施いたしました。

 本調査では、35~54歳をミドル、55~64歳をシニアと定義し、主に下記3項目についての定量的な分析結果を報告いたします。

① 就業者(ミドル・シニア層)の学び直しの実態

② 就業者(ミドル・シニア層)の学び直しの効用

③ 就業者(ミドル・シニア層)の学び直しの促進・抑制要因

※1 推計には3年よりも長い学習期間を含む
※2 三位一体の労働市場改革:リスキリングによる能力向上、職務に応じた適正なスキルの評価、自らの選択による労働移動の円滑化
※3 先行調査:「グローバル就業実態・成長意識調査 -はたらくWell-beingの国際比較」

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主なトピックス

学び直しの実態

  1. 70歳以降も働きたいミドル・シニア就業者では、「学び直し層」が19.3%と多い。
  2. アップスキリング(現業務に関する内容)が約7割と多く、リスキリング(現業務から離れた内容)は5割ほど。
  3. 学び直しに許容できる支出額は、正社員:年間平均10.6万円まで、有期雇用社員:年間平均8.9万円まで。
  4. 学び直しに投じる支出額(自費)は、年間平均3.5万円。勤務先からの費用補助を受けているのは10人に1人。
  5. ミドル・シニア就業者の70.1%が、「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」と考えている。

学び直しの効用

  1. 学び直すミドル・シニア就業者の60.7%は、「仕事のパフォーマンスを高められた」と、仕事上の効果を実感。
  2. 過去の転機(転職や結婚など)において自主的に学習していた就業者ほど、個人年収が高く、要職に就いている。
  3. 正社員では、20代に業務外の学習・自己啓発に取り組んだ経験があるほど、個人年収が高い。学生時代の学習経験よりも、20代における学習経験のほうが個人年収との関連が強い。
  4. 学び直すミドル・シニア就業者の60.2%が、はたらくことを通じて幸せを感じており、学び直していない就業者より多い 。

学び直しの促進・抑制要因

  1. 上司の仕事関連の学びへの熱心さが、学び直す意欲のある部下の学習行動(「口だけ層」からの脱却)を促進する。
  2. 職務特性の「クリエイティビティ」「成果の明確さ」「技能の高度さ」「仕事の負荷の低さ」は、学び直し行動を促進。
  3. 正社員では、「キャリアの透明性※4」は、学び直し行動を促進。また、「職務範囲の無限定性」「育成の手厚さ」も促進。
  4. キャリアのセルフアウェアネス※5が高いほど、学び直す意欲が高く、かつ行動に移せている。
  5. 「技能の高度さ」「成果の明確さ」「仕事の負荷の低さ」などの職務特性や、「キャリアの透明性」の高い人事管理、「キャリアプランニング研修」があると、キャリアのセルフアウェアネスが高くなる。
  6. キャリアのセルフアウェアネスが高い人は、学び直しによる仕事の成果向上や学びの楽しさを感じている。
  7. キャリア不安が強いほど、学び直す意欲は高くなる一方、「口だけ層」が増加する。「学び直し層」には変化は見られない。キャリア不安は学び直しの実行につながらず、学び直しの機会や心理的資本※6といった要素がより重要となる。
  8. 「口だけ層」が、「学び直し積極層」に移行するための要因分析の結果、「好奇心」「いけ図々しさ」「エンジョイメント」「自己効力感」といったマインドが、学び直し行動を促す効果がみられた。

※4 「社内にどんな職務があるのかが明らか」「社内公募による異動がある」「社内のキャリア・パスが明確」といった要素。
※5 キャリアのセルフアウェアネス:過去のキャリアで得た経験・スキルや未来の目標を意識化できている度合い
※6 働く人が将来や仕事に対してポジティブな感情を持ち、前進しようとする心の力

調査結果からの提言

パーソル総合研究所
上席主任研究員 井上 亮太郎

はたらく個人へ向けて

学び直ししない(できない)理由を問い直してみる

 学び直しをしない理由では、まず「金銭的・時間的余裕」があがる。しかし、学び直しへの投資許容額よりも実際の投資額は少なく、労働時間が長い人ほど学び直している傾向も確認された。この背後には「心の余裕のなさ」や「振り返り機会の乏しさ」がありそうだ。何をどう学ぶかと考える前に、時に仕事から距離を取って、自分は「何のために働くのか?どう働きたいのか?」と問い直してみてはどうか。本調査結果では、キャリアのセルフアウェアネスを高めることが学び直しの実行につながっていたが、内省するにしても「心の余裕」は欠かせない。

学び直しは労力に見合う

 また、学び直しは中長期的に年収が高まるなど「労力に見合う」ことが確認された。自分の興味・関心(好奇心)や仲間との語らいなど、学びを楽しむ自分なりのポイントを見出し、継続することが大切だ。いくつになっても、新しいことに挑戦することを恐れず一歩踏み出し、まずは粘ってやり続けることで得られる喜びもあろう。

経営層・人事部門へ向けて

① 人事制度と育成施策の再評価

 大人の学びには実利的な側面もある。ミドル・シニア層には学び直し意欲を行動に移せていない人たちも多く確認された。学び直す意欲を行動に向かわせるためのインセンティブシステムを機能させることが重要だ。人事諸制度の内容や運用状況は就業者の学びを抑制してはいないか、育成施策は学びを促進するものとなっているかなど、社内アンケート等を通じ確認してみてはどうか。

② キャリアのセルフアウェアネス(自己認知)の強化

 本調査では、学び直しをしないことのデメリットを喧伝し、将来の不安を煽るだけでは行動が伴わない「口だけ層」が 増えることが確認された。危機感は学び直す意欲は高めるかもしれないが、合わせてキャリアのセルフアウェアネスを 高めることが肝要となる。この点においては、自身のキャリアについて振り返るような教育機会を設けることなどは有効 な施策となるだろう。

③ 学び直しを促す管理職の言動と組織風土の醸成

 職場上司の言動は、部下の学び直し行動に影響していた。管理者自らが学び直しを実践するとともに、学 び直しに対する上司の積極的な言動は、学び直しに対してオープンな組織風土を醸成していくことにもつなが るだろう。

④ ミドル・シニアの硬直した学習観の転換

 ミドル・シニア層は、現在の仕事ですぐに役立つ学びを志向しており、資格取得や研修参加など硬直的な学習 観を持つ傾向も見られた。体系化された知識をインプットする学びも大事だが、自身の経験の内省・概念化を 通じ、経験から気づきを得ていく「経験学習」、職場で気の合う仲間や問題・関心を同じくする仲間との活動を 通じて学ぶ「状況的学習」といった学び方の方が仕事上の効果を高めることが確認された。

⑤ 4つの学び直しマインドの育成:「好奇心」「いけ図々しさ」「エンジョイメント」「自己効力感」

 生成AIなどの技術が急速に進化・普及する中、組織が提供する学びにも常に進化と変化が求められる。学習という行為を狭く捉えすぎず、就業者が働くことを通じて自らを更新し続ける意欲(4つの学び直しマインド)を育むことを重んじ、提供する教育施策を再構築していく必要があるだろう。

主なトピックス(詳細)

学び直しの実態

1. 希望する就業終了年齢(働くことを終えたい年齢)が高いほど、「学び直し層」が増加。「70歳以上」まで働きたいミドル・シニア就業者の19.3%が、学び直しを実行する一方、「口だけ層」も増加。

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2. 学び直し層のうち、「本業に関する学習」(アップスキリング)は71.1%が、「本業以外の仕事やキャリアに関する学習」(リスキリング)は47.0%が実行。ミドル・シニア就業者の学び直しは、現在の仕事に関する「アップスキリング」が多い傾向。

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3. 学び直しに許容できる支出額は、正社員(10.6万円/年)に比べ、有期雇用社員の平均許容投資額(8.9万円/年)はやや低い傾向。

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4. 学び直しに投じる支出額(自費)は、年間平均3.5万円。

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勤務先からの費用補助を受けているのは10人に1人。(正社員:13.7%)有期雇用社員は正社員に比べ、勤務先、国・自治体からの補助を受けていない傾向。

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5. ミドル・シニア就業者の70.1%が、「何歳になっても学び続ける必要がある時代だ」に対して肯定的に回答。過半数を超えるミドル・シニア就業者が、学び直しの「必要性」や「意義」そのものは肯定的にとらえている。

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学び直しの効用

6. 学び直し層の60.7%が「仕事のパフォーマンスを高められた」と回答。「学びが将来のキャリアに活かされると思う」との回答は68.1%と、多くが仕事やキャリアへの効果を実感している。

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7. 正社員では、いずれの年代においても、過去の転機において学習していた度合いが高い人のほうが、個人年収が高い。一方、有期雇用社員では、転機における学習度合いと個人年収の間に関連がみられない。

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8. 正社員の男女ともに、「20代に業務外の学習・自己啓発に取り組んだ経験」があるほうが、現在の個人年収が高い傾向。学生時代の学習態度よりも、20代の学習・自己啓発経験のほうが年収を高めていた。

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9. 「学び直し層」は、はたらく幸せ実感がある就業者が60.2%と多い傾向。いずれの年代でも同様の傾向。一方、「学び直し層」は、はたらく不幸せ実感がある就業者もやや多い。

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学び直しの促進・抑制要因

10. 「上司が仕事関連の学びに熱心」な場合、学び直す意欲のある部下は積極的に学び直すようになる傾向。管理職の学び直しを促進することで、その部下の学び直しも促進されることが示唆される。

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11. 職務特性の「クリエイティビティ」「成果の明確さ」「技能の高度さ」「仕事の負荷の低さ」が高いと、学び直す意欲がある就業者は積極的に学び直しを行う傾向。

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12. 「キャリアの透明性」「職務範囲の無限定性」「育成の手厚さ」が高い企業に属していると、学び直す意欲のある就業者は、積極的に学び直しを行う傾向。

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13. 「キャリアのセルフアウェアネス(内面的自己認識)」が高い就業者は、学び直す意欲がある割合が高い。学び直す意欲がある就業者の中で、 「キャリアのセルフアウェアネス」が高い群は、積極的に学び直している傾向。

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14. 学び直し意欲の行動化を促す人材マネジメント要因の一部は、「キャリアのセルフアウェアネス(内面的自己認識)」を高めることを通じて、学び直し行動を促進。特に、職務特性の「技能の高度さ」「成果の明確さ」「仕事の負荷の低さ」の影響が顕著。

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15. 「学び直し層」の中でも、「キャリアのセルフアウェアネス(内面的自己認識)」が高い場合、 「学びによる仕事の成果向上」や「学びの楽しさ」をより実感している傾向。

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16. キャリア不安が強いほど、学び直す意欲は高くなる。特に、専門性の低い群でその傾向が顕著。

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一方、キャリア不安が高いほど「口だけ層」の割合が多く、「学び直し層」の割合はあまり変わらない。ミドル・シニアの専門性の低さはキャリア不安を高めるが、キャリア不安が高くなっても学び直す行動は起きていない。

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17. 「口だけ層」が、「学び直し積極層」に移行するための要因分析の結果、「好奇心」「いけ図々しさ」「エンジョイメント」「自己効力感」といったマインドが、学び直し行動を促す効果がみられた。

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※本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所+産業能率大学 齊藤研究室」と明記してください。

※調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
 URL:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/middle-senior-learning.html

※報告書内の構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。

調査概要

調査名称

パーソル総合研究所 「ミドル・シニアの学びと職業生活についての定量調査」

調査内容
  • ミドル・シニアの業務外の学び(学び直し、趣味)の実態と効果を明らかにする。
  • 学び直す意欲があるのに学び直せないミドル・シニアの学び直し行動を促進する個人・企業要因を明らかにする。
調査手法 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査
調査時期 2023年3月24日 - 3月28日
調査対象者

■スクリーニング対象者:全国の就業者 35~64歳男女 最終学歴高卒以上 n=36,537

※令和2年国勢調査の雇用形態・学歴別の構成比に合わせてウェイトバック処理

■本調査対象者:業務外学習の実施状況・学び直し意欲により割付

① 仕事関連学習層 n=1,800

② 非仕事関連学習層 n=2,700

③ 学び直し意欲あり・非学習層 n=2,700

④ 学び直し意欲なし・非学習層 n=1,800   ①~④の合計 n=9,000

※回答の早い上位10%のデータを削除
※一部の分析では、ウェイトバック処理後のスクリーニング対象者の①~④の区分・学歴の構成比に合わせてウェイトバック処理

実施主体 株式会社パーソル総合研究所
共同研究 産業能率大学 齊藤弘通研究室

【株式会社パーソル総合研究所】<https://rc.persol-group.co.jp/について

 パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。

【産業能率大学 経営学部 経営学科 齊藤弘通 教授】
 <https://www.sanno.ac.jp/undergraduate/about/faculty/ba/saito_hiromichi.htmlについて

 専門は人材育成論、質的調査法。慶應義塾大学文学部卒業、法政大学大学院政策創造研究科博士課程修了。博士(政策学)。専門社会調査士。産業能率大学総合研究所を経て現職。主に、高等教育機関における社会人教育の実態や学修効果、ビジネスパーソンの継続的な学び直しのあり方などを調査・研究。

【PERSOL(パーソル)】<https://www.persol-group.co.jp/>について

 パーソルグループは、「“はたらくWell-being”創造カンパニー」として、2030年には「人の可能性を広げることで、100万人のより良い“はたらく機会”を創出する」ことを目指しています。
 人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、BPOや設計・開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開するほか、新領域における事業の探索・創造にも取り組み、アセスメントリクルーティングプラットフォーム「ミイダス」や、スキマバイトアプリ「シェアフル」などのサービスも提供しています。
 はたらく人々の多様なニーズに応え、可能性を広げることで、世界中の誰もが「はたらいて、笑おう。」 を実感できる社会を創造します。

問い合わせ先

株式会社パーソル総合研究所 広報
TEL:03-6385-6888 Mail:

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