公開日 2019/02/20
開催日:2019年1月30日
若手中堅社員が「指示待ち」「言われたことしかやらない」状態から、「主体性を発揮する」ようになるためには、何が必要なのでしょうか?成人発達理論の観点から、若手中堅社員のエネルギーを引き出し、組織の変化を創りだすための手がかりを探求しました。
知性発達科学者 加藤 洋平氏(オランダ在住:当日はオンライン参加)
経営コンサルタントとしての経験と発達科学の最新の方法論によって、企業経営者、次世代リーダーの人財育成を支援する人財開発コンサルタント。現在、オランダのフローニンゲン大学に在籍し、複雑性科学と発達科学の枠組みを活用した成人発達と成人学習の研究に従事。著書「なぜ部下とうまくいかないのか: 「自他変革」の発達心理学組織も人も変わることができる!」「成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法」。当社の若手中堅向けリーダーシップ開発プログラム「Lead My Challenge」監修。
大企業若手有志によるコミュニティ「ONE JAPAN」 共同発起人 大川 陽介氏
1980年生まれ。2005年富士ゼロックス入社。SE、営業、コンサル、新規事業開発、人事でのキャリアを積むとともに、有志活動として富士ゼロックス社内の「秘密結社わるだ組」、大企業50社が参画する有志団体「ONE JAPAN」の発起人となるなど、大企業の組織活性/イノベーション創出に取り組む。現在は、「日本的な人材の流動化」を目指し、株式会社ローンディール最高顧客責任者(CCO)として活躍。
株式会社野村総合研究所 瀬戸島 敏宏氏
1986年生まれ。2010年野村総合研究所入社。先端技術開発部などを経て、現在システムコンサルティング、設計、構築に従事。2016年1月に社内の若手有志団「Arumon」を立ち上げ、同年9月よりONEJAPANに参加。「自ら動けば会社で夢を実現できる」ことを体現する活動を推進する。
貴社では若手中堅社員のリーダーシップ開発にどのように取り組まれていますか?
「若手社員にこそ、既存の枠組みを壊して組織に新しい風を吹き込んでほしい」「もっと主体的な挑戦をして成長してほしい」と考えていても、有効な手立てを講じることができていないという企業の声をお聴きすることがあります。
「第1回 成人発達理論で解き明かす 若手の挑戦と成長」は、企業で働く若手中堅社員が自らの殻を破り動きはじめる成長・発達のメカニズムを探求することを目的に開催しました。
本イベントは、大企業の若手有志コミュニティONE JAPAN(注1)から二人のゲストを迎えました。
ONE JAPAN共同発起人として活動の幅を広げる大川陽介氏と、「自ら動けば会社で夢を実現できる」ことを体現する瀬戸島敏宏氏です。知性発達科学者 加藤洋平氏との対話を通じて、二人のエピソードを紐解き、自らの境界を一歩越えるためには何が必要なのか、その成長メカニズムについて探求しました。
ここで着目する成長とは、「知識やスキルを増やす」ことではなく「ものの見方や考え方の枠組みが広がる」ことを指します。(図1)
知識やスキルをたくさん持っているだけではなく、それらを活かす器が大きく深くなるイメージを想像してください。
そして、「ものの見方や考え方の枠組みの成長」に照らし合わせたときの若手中堅社員の課題は、所属する集団や組織の意思に依存して受身的・指示待ちになる「他者依存段階」から、自己の価値基軸を持つ「自己主導段階」に移行するための一歩を踏み出すことです。(図2)
ここでは、本イベントでのパネルディスカッションの話題を中心に、若手中堅社員が成人発達段階のステージを上がろうとするときの現象を整理していきます。
大川 僕は入社したときには給料と休みを重視しているようなダメな社員でした。とはいえ、お金を稼ぐためだけに働くというのは嫌になってきました。また、それまでは30歳くらいになれば自然と会社のことがわかってくると思っていましたが、実際には自分から動かなければ何も始まらないことに気づきました。それで経営を勉強しようと思って、中小企業診断士の資格を目指したことが、成長しようとした最初のきっかけでした。
瀬戸島 私が大学2年の時にiPhoneが発売され、キラキラしたITの世界に憧れていました。ところが実際にはそのような仕事ができるわけではなく、違和感からモチベーションをうまく保てずにいました。そのような頃に、たまたま上司にハッカソン(注2)の支援の機会を与えられて、そこでいろんな気づきを得たのが始まりです。はじめのきっかけは、自分から動いたものではありませんでした。
加藤 二人の話に共通するのは、何かしらモヤモヤしたものを抱えていたということです。そうしたモヤモヤを抱えるのは、私たちが成長・発達をしていくときに見られる健全な現象です。ただ、そのモヤモヤをいかに解消し、新たな自己にどうやって辿り着くかというプロセスのところで二人に違いがあるのは興味深いです。大川さんは自分からモヤモヤに気づき、内発的動機によってアクションを起こした。これは発達理論で言えば、自力による成長です。一方、瀬戸島さんのケースは、上司という外側の支援があった。成長・発達をするときに自発的な力だけではどうしても限界がある。だから、そうした他者の力を借りることも大切です。
瀬戸島 ハッカソンに参加したとき、実はモチベーションが下がったんです。というのも、ハッカソンは、調整や事務的な仕事も多かったからです。でも、やっていくうちに目的や価値を自分なりに理解し始めて見方が変わっていきました。加えて、他部門や他社との接点が急速に増えたことや、役員クラスの人たちから物事を動かすときの方法やスピード感を学べたことにも大きな影響を受けました。そこから一気にモチベーションが上がったと感じます。
大川 僕らの世代にとっては、「意味づけ」がすごく大事です。特に3.11東日本大震災以降、「何のために働くのか、何のために生きるのか」を自分に問いながら活動している若い人たちが多いと感じます。僕自身も同じような葛藤を抱えながら突破するための仮説を立てた上で行動を起こしました。結果、仮説とは違う結果であっても、新たな意味づけへの遷移が起こったと感じました。
加藤 発達心理学者のロバート・キーガンの理論によれば、私たちは絶えず意味づけをする生き物であり、そして、意味づけの質がより高度なものになっていくことが人間の成長だと述べています。大川さんの発言にあったように、個人の成長を実現させていく場合においては、「意味づけ」の実践をいかに行っていくか、他者の成長を支援していく場合においては、その人の意味づけを促していくことが鍵になります。一方、瀬戸島さんのケースでは、異質な他者と出会う体験が成長を促したと解釈できます。企業組織という密室に閉じこもっていたら、成長しようと思っても成長することは難しいです。外の世界に出て、いろんな他者と出会い協働すること、いわゆる越境が大切だということです。お二人は、いい越境体験のポイントは何だと思いますか?
大川 自分の足で一歩を踏み出したかどうかだと思います。自分の意思で行く場合と行かされた場合とでは、やはり学びの質や深さが違います。僕らが有志という言葉を使っているのも、意思や志を持った人たちに参加してもらいたいからです。One Japanへの加入条件を「有志で活動する団体」つまり仲間を集めたチームとしているのは、まず身近な仲間に声をかけて行動を起こしてほしいという考えがあります。
瀬戸島 遠くの人とつながることも一種の越境体験だと思います。誰かと知り合うとそのコミュニティとつながって勉強会が生まれたり、新しいことに興味を持ったりすることがあります。今はフェイスブックでさらにつながりが広がっていく感じです。
瀬戸島 たくさんありますね。そういう時は無理にはいきません。でもここは乗り越えないといけないというフェーズであれば、踏ん張ることもあります。
加藤 私たちは絶えず前進しているわけではありません。人間の成長は、人生と同じで山あり谷あり、ときには停滞することや退行することもあります。たとえば富士山に登る時、立ち止まって富士山の全景を眺めることによって、はじめてその美しさを感じることがあります。成長・発達の過程においては、時間を置いて立ち止まる機会も必要であり、絶えず前進することが良いことではないという意識を持っておくことが大切です。
大川 富士ゼロックスの有志団体「秘密結社わるだ組」は、行動指針として「楽しかったらやる、楽しくなくなったらやめる」という設定でやっています。会社ではゴールを決めたら突っ走り、止まることはない。だから、あえて逆の設計にすることで若い人たちを巻き込もうと考えました。
瀬戸島 社内の若手メンバーの技術とエネルギーを発揮して面白いことをやろうとつくった団体が「Arumon」です。仕事とプライベートの中間の部活動のような感じでやっています。みんなモチベーションが高くて、業務終了後に部屋に集まってはキラキラしながら活動しています。そして、そこで得た知識や情報が現場に生きるような体験を促しています。
加藤 まずは「自分の意思に基づいて小さな一歩を踏み出す」、その上で「他者からの支援や挑戦の機会を得る」、成長・発達においては、この両輪が必要です。そして見知らぬ言語空間(自分の専門性とは異なる専門性の言葉が使われる空間)に飛び込み、異なる世界観や価値観を学ぶことの重要性を二人の話から感じました。
ディスカッションでは、若手中堅社員の成長・発達を促す重要なポイントがいくつかありました。大きなポイントは、3つです。
このような機会を意図的につくり、多くの若手中堅社員の成長を促進するプログラムが、
Lead My Challenge(リードマイチャレンジ)です。
このプログラムのポイントは、人材開発白書をはじめとする調査研究を通して、若手中堅社員の意識や状況を理解した上で、効果的な方法論を提供していることです。気持ちの葛藤を乗り越えて、自分の枠を超えた行動を起こすことができるように支援していきます。そして、3週間の実践活動を通して、他者を巻き込む小さな実践とふり返りを定着化する工夫を盛り込んでいます。
成人発達理論に照らし合わせると、現代の企業や社会の中では、組織の規律や規範に従う「他者依存段階」に到達することを支援する仕組みはあっても、そこからさらに「自己主導段階」への成長を支援する仕組みはほとんどありません。
若手中堅の成長を現場任せ、本人任せにすることなく、意図的な成長を支援する機会を提供することで、本人が持つ成長の可能性を発揮することができるようになります。
「ものの見方や考え方の枠組みの成長」は、個人・組織がさまざまな変化を乗り越えながら持続的な成長を遂げる上で、非常に重要な事柄です。パーソルラーニングでは、成人発達理論を現場での人材開発・組織開発にどのように適用できるのか、今後も対話や実践による場を提供していきます。
ラーニング事業本部 人材・組織力強化ソリューション部
高城 明子
Akiko Takagi
富士ゼロックスに入社後、法人営業、商品マーケティング、人材開発に従事。2007年から富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)にて、リーダーシップ開発および組織開発分野で、個と組織の自律的な成長・変革を促進するためのプログラム企画と実行支援を行っている。知性発達科学および成人発達理論の活用、チームの関係性開発、エスノグラフィーの活用に強みがある。CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ(Organization & Relationship Systems Certified Coach)
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