【今求められる管理職の在り方を考える(全3回)】
最先端のリーダーシップ論の潮流 ~キーワードはフォロワーの主体性~

公開日 2021/11/30

執筆者: 滋賀大学経済学部教授 小野 善生

最先端のリーダーシップ論の潮流 ~キーワードはフォロワーの主体性~


管理職は組織のリーダーであるが、‘’リーダー‘’が存在するためには、後についてくるフォロワーの存在が不可欠である。では、リーダーの言うことに素直に従ってついてくるフォロワーがいれば、リーダーは、先行きが不透明なこの時代に、部門やチームをまとめ成果を上げ続けることができるのだろうか。本コラムは、今求められる新しいリーダーシップについて、滋賀大学 経済学部 小野善生教授に寄稿いただいた全3回シリーズ「今求められる管理職の在り方を考える【全3回】」の第3回である。

  1. リーダーシップはリーダーとフォロワーの共同作業
  2. リーダーシップ論においてフォロワーはどのように論じられてきたのか
  3. 積極的適応を促すリーダーシップ
  4. フォロワーの主体性が鍵を握る

1. リーダーシップはリーダーとフォロワーの共同作業

本コラムシリーズの第2回「リーダーシップの概念をバージョンアップせよ ~時代の変化とともに望まれるリーダー像は変わっている~」において、リーダーシップの考え方は時代とともに変化しており、現在求められているのは総力型組織を構築するリーダーシップであると主張した。総力型組織を構築するためのリーダーシップは、リーダー一人の努力だけでは不十分であり、フォロワーの積極的なコミットメントも求められる。言うなれば現在求められているリーダーシップは、リーダーとフォロワーの共同作業によって実現できるものなのである。

リーダーとフォロワーの共同作業によってリーダーシップが実現できるならば、リーダーとフォロワーにはどのような役割が求められるのであろうか。そもそもリーダーシップが社会的現象として生じる原点となるのは何かと言えば、ある人物が「これまでと違う、自分一人ではできない何か新しいことを始めたい」と思うことから始まる。その思いに共感を得た人々が、共有した思いを実現すべく積極的に貢献しようと意識して行動することによってリーダーシップは成り立つ。

「これまでと違う、自分一人ではできない何か新しいことを始めたい」という思いは、一般にビジョンと呼ばれる。このビジョンを構想した人が、リーダーになるわけである。ただし、構想しただけではリーダーにはなれない。ビジョンが他者に受け容れられて初めてリーダーとなるのである。

一方、ビジョンを構想した人物の思いに共感して貢献しようとする人々が、フォロワーとなる。ビジョンを受け容れるだけではなく、ビジョンを共有してリーダーと共に歩もうとする積極性がフォロワーには求められる。ここから言えるリーダーシップを実現するために必要なリーダーとフォロワーそれぞれの役割は何かと言えば、リーダーには、フォロワーから共感を得られるようなビジョンを構想し、それを共有するように促すことが求められる。それに対してフォロワーは、リーダーから打ち出されたビジョンを共有するに値すると思えば、それを積極的に受け容れて意識と行動を変えることが求められるのである。

しかしながら、リーダーシップにおいて、このようなリーダーとフォロワーの関係が当初からできていたわけではない。リーダーシップのパラダイムの変遷と同じように、フォロワーの存在についてもその位置づけが変化してきたのである。ならば、リーダーシップの発展においてフォロワーはどのような位置づけをされてきたのだろうか。

2. リーダーシップ論においてフォロワーはどのように論じられてきたのか

20世紀初頭リーダーシップ研究の始まりにおいては、「リーダーの資質」に注目したことは前回指摘した通りである。リーダーの資質によってリーダーシップが発揮できるという前提の議論ゆえに、フォロワーの存在は論じられることはなかった。

続いて訪れた工業社会における、「リーダーの行動特性」に注目するアプローチでは、フォロワーのモチベーションや職務満足をもたらたす行動特性がリーダーシップであると考えられていた。行動特性に注目するアプローチでは、リーダーとフォロワーは報酬を提供する代わりにリーダーシップを受け容れるという交換関係で成り立っている。つまり、然るべき報酬をフォロワーに与えることによってリーダーシップは成り立つという考え方がベースにあり、その点を鑑みるとフォロワーは受動的な存在であると位置づけられる。

受動的な存在として位置づけられてきたフォロワーの見方に転機が訪れるのは、変革型リーダーシップに代表される組織に変革を導くリーダーシップが登場したことによる。変革を導くリーダーシップでは、リーダーが打ち出した新たなビジョンをフォロワーも受け入れるように意識の変化を促すというものである。言うなれば、打ち出された新たなビジョンの実現に向けて、リーダーに喜んでついていくフォロワーが必要とされたのである。

変革を導くリーダーシップにおけるフォロワーは、その成否の鍵を握る存在と言っても過言ではない。なぜなら、フォロワーの意識が変わらなければ最終的に変革は実現しないからである。このように考えると、リーダーシップにおけるフォロワーの存在の重要度が増してきていると言える。

変革を導くリーダーシップにおけるフォロワーは重要な存在であることは間違いないのであるが、喜んでついていくフォロワーというのは一部で危うさが存在する。なぜなら、リーダーに喜んでついていくフォロワーはリーダーに従順に従う存在であるがゆえに、それが高じるとリーダーに対して過度に依存する。

喜んでついてくるが依存的であるフォロワーばかりであれば、何らかの理由でリーダーが退場せざるを得なくなった場合に組織は路頭に迷う。なぜなら、リーダーに依存するばかりのフォロワーから成る組織では、次のリーダーが登場する土壌が無い。仮に外部からリーダーを招いたとしても、そのリーダーが適切な意思決定を行う保証はどこにもない。

リーダーに喜んでついていくフォロワーは大事な存在であるが、もろ手を挙げてついてくるフォロワーではなく、その責任を有しているフォロワーが必要なのである。

3. 積極的適応を促すリーダーシップ

リーダーシップ論においてフォロワーの主体性を本格的に論じたのが、ハーバード・ケネディ・スクールのロナルド・A・ハイフェッツ上級講師である。ハイフェッツは、リーダーシップとはフォロワーに対して新たな状況に積極的に適応を促す行為であると考える。

環境が変化することで、これまで正しいと思っていたことや常識だと考えていたものを見直す、場合によっては、これまで共有されてきた価値観の抜本的な変化が求められた際に、リーダーはフォロワーが新たな環境に適応できるように変化の必要性を認識させて意識を変え、行動の変容を実現させる必要がある。ちなみに、ハイフェッツが主張するリーダーシップは、アダプティブ・リーダーシップと呼ばれている。

フォロワーが新たな環境に積極的に適応するにあたって、それを促すリーダーはそれ相応の責任を負うが、フォロワーについてもフォロワーとしての責任を全うし能動的にリーダーシップを受け入れ、前向きに意識および行動を変えていくことが求められるのである。

ハイフェッツのアダプティブ・リーダーシップが従来のリーダーシップ論といかなる点で違うのかについて、金井壽宏 立命館大学 食マネジメント学部教授/神戸大学名誉教授は以下のように整理している。

ハイフェッツが主張するリーダーシップの2つのモード

受動的なフォロワーを想定してしまう従来の支配的な定義
ビジョンやミッションにフォロワーをついてこさせるそのビジョンやミッションにやや無批判的に受動的についていってしまう
能動的なフォロワーに注目するハイフェッツ自身の定義
フォロワーがそれを自分のビジョンやミッションだと思うようにお膳立てする自分なりの考えで選び取り能動的にビジョンやミッションの実現の輪に加わる

出典:金井壽宏(2005),『リーダーシップ入門』日本経済新聞出版,330頁(一部著者改訂)

アダプティブ・リーダーシップにおいては、リーダーがビジョンやミッションをフォロワーに浸透させるというのではなく、フォロワーが自らの意思でビジョンやミッションの意義を理解し共有しようと決めるようにお膳立てするというところに従来のリーダーシップとは異なる視点がある。つまり、リーダーシップのポイントは、フォロワーが共感して自らの意思で動こうと決意させる環境を整えられるかどうかということに尽きるのである。

4. フォロワーの主体性が鍵を握る

現在は、VUCAと呼ばれる先が読めず予測しにくい状況である。定石を踏んだ手順で問題解決できることは限られ、カリスマ性を有した人物に組織の命運を託したとしてもうまくいく保障はない。組織の盛衰を決するのは、いかに衆知を結集するかに尽きる。衆知を結集するためには、組織に参加する全ての参加者が当事者意識を有する必要がある。

組織において衆知を結集させるためにはリーダーシップが必要不可欠なのであるが、従来のリーダーシップ論におけるフォロワーをやや受動的についてこさせるオーソドックスなアプローチはマッチしない。アダプティブ・リーダーシップが提唱したような、フォロワーの主体性を引き出すリーダーシップがVUCAの時代には求められるのである。そのためには、リーダーシップの責任をリーダーに求めるだけではなく、フォロワーにもフォロワーとしての責任が求められるのである。

執筆者紹介

小野 善生

滋賀大学経済学部教授

小野 善生

Yoshio Ono

1974年生まれ。滋賀大学経済学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。関西大学商学部准教授を経て、現在、滋賀大学経済学部教授。専門は経営学。専攻は経営管理論、組織行動論、リーダーシップ論。
フォロワーの視点からリーダーシップを明らかにする研究に取り組んでおり、「リーダーシップの役割分担とチーム活動活性化の関係についての考察‐エーザイ株式会社アルツハイマー型痴呆症治療薬「アリセプト」探索研究チームの事例より‐」にて、2005年度経営行動科学学会賞優秀事例賞受賞。
また、主要著書として『ライトワークス ビジネスベーシックシリーズ リーダーシップ』(ファーストプレス)、『まとめ役になれる! リーダーシップ入門講座』(中央経済社)、『最強のリーダーシップ論集中講義』(日本実業出版社)、『フォロワーが語るリーダーシップ』(有斐閣)、『リーダーシップ徹底講義-すぐれた管理者を目指す人のために-』(中央経済社)がある。ほか、論文多数。

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