【今求められる管理職の在り方を考える(全3回)】
リーダーシップの概念をバージョンアップせよ ~時代の変化とともに望まれるリーダー像は変わっている~

公開日 2021/11/08

執筆者: 滋賀大学経済学部教授 小野 善生

新任管理職はなぜつまずくのか


管理職であれば、リーダーシップを発揮して部門やチームをまとめ上げ、困難な状況も乗り越えて成果を上げたいと考える。気をつけなければならないのは、「リーダーシップ」と一言で言っても、時代の変遷とともに、必要とされる在り方が変わっていることだ。本コラムは、今求められる考え方や新しいリーダーシップについて、滋賀大学 経済学部 小野善生教授に寄稿いただいた全3回シリーズ「今求められる管理職の在り方を考える【全3回】」の第2回である。

  1. 変化するリーダーシップの捉え方
  2. リーダーシップは才能で決まる
  3. 決められたことをきちんとするように導くのがリーダーシップ
  4. 組織に変革をもたらすことこそリーダーシップ
  5. 総力型組織を構築するためのリーダーシップ
  6. 求められるリーダーシップのバージョンアップ

1. 変化するリーダーシップの捉え方

リーダーシップと言えば、どのような場面が思い浮かぶだろうか。ある人は「黙って俺についてこい」と言わんばかりに先頭に立って人々を引っ張っていくシーンを想像するだろう。またある人は、沈思黙考して冷静沈着に物事を進めていくシーンを想像するかもしれない。さらに、理想のリーダー像についても、親分肌や熱血漢といった熱い人、戦略家や野心家といった権謀術数に長けた人、あるいは聖人君子や慈善家といった慈愛に満ちた人といったように様々なリーダー像が存在する。

リーダーシップやリーダー像を語るとき、共通理解を得ることは難しい。しかしながら、一定の時期において支配的なものの見方、つまり、リーダーシップのパラダイムが存在するのも確かである。今回はリーダーシップの概念の変遷を振り返り、これから求められるリーダーシップにはどのようなバージョンアップが必要なのかについて考えてみたい。

2. リーダーシップは才能で決まる

リーダーシップの学術的な研究は、20世紀の初頭に始まったとされている。初期のリーダーシップ研究において注目されたのが、リーダーシップを発揮していると目されている人物の資質である。リーダーシップを発揮するには、凡人にはない特別な資質を有しているという前提に基づくアプローチである。つまり、リーダーシップは誰でも発揮できるものではなく、「何か持っている」特別な人に与えられた才能であると捉えられてきたのである。

リーダーシップを発揮できる人物が有する資質を特定するために様々な研究が進められてきたが、決定的な結論を得ることができないのが現状である。ただ言えることは、リーダーシップと才能の関係を否定することはできないが、才能だけでリーダーシップを説明することはできず、むしろ後天的な努力によって身につけた能力によるところが大きいと考えるのが現在のリーダーシップと才能の見方である。

3. 決められたことをきちんとするように導くのがリーダーシップ

一部の人間に与えられた才能としてリーダーシップを捉える考え方は、本格的な工業社会が到来すると共に変化する。工業社会において重要なことは、決められた手順で、決められた数量のものを決められた時間で仕上げることである。すなわち、決められたことをきちんとすることである。職場のメンバーが決められたことをきちんとこなせるように現場をうまく取り仕切れるかどうかが、リーダーシップにおける最大の関心事だったのである。つまり、リーダーシップは、フォロワーの立場にある職場のメンバーのモチベーションをいかに高め、生産性を向上させるようにするためにはどうすればいいかということであった。

フォロワーのモチベーションを高めて成果をあげるように促すために、リーダーはどのように振る舞えばいいのか。その行動特性を満たすことによって、リーダーシップは発揮できると考えられるようになったのである。そこで指摘されたポイントは、努力次第で魅力的な報酬を手にすることができると思わせることと良好な人間関係を築くことであった。

特定の才能を満たしている人間がリーダーシップを発揮できるのではなく、特定の行動特性を身に付けた人物がリーダーシップを発揮できるというようにリーダーシップの捉え方が変化したのである。ただ、リーダーシップ行動特性として指摘されたものの中には、的確な指示を出すとか、評価の基準を定めるとか、いわゆるマネジメントとして解釈できるものも存在する。つまり、リーダーシップ行動特性を明らかにする研究が盛んであった1950年代から70年代初頭にかけては、リーダーシップとマネジメントの概念が明確に区別がつけられていなかったのである。

4. 組織に変革をもたらすことこそリーダーシップ

1970年代に入ると産業社会をリードしてきたアメリカ経済の勢いが低下してきて、業績が振るわない企業も出てくるようになった。そのような中で、低迷する組織を変革してV字回復を成し遂げる経営者が登場する。また、ほぼ同じ時期にIT産業が勃興し、組織を立ち上げる起業家という存在が注目され始めた頃でもあった。こういった背景から産業社会に何らかの変化をもたらすようなリーダーが登場したのである。

リーダーシップに関しても、決められたことをきちんとするように組織を導くことから、カリスマ的リーダーシップや変革型リーダーシップに代表される組織に変革をもたらすことをリーダーシップと捉えるように関心がシフトしていったのである。リーダーシップの考え方が、フォロワーに目標達成を促す行為からフォロワーの意識を変える行為というように捉え方が変わったのである。組織を変革するリーダーシップの特徴は、リーダーが新たなビジョンを打ち出して変革を主導して、それにフォロワーは喜んでついていくということにある。

5. 総力型組織を構築するためのリーダーシップ

環境の不確実性あるいは複雑性が高まるにつれて、強いリーダーが組織をけん引するだけではなく、トップから現場に至るまで衆知を結集して環境の変化に柔軟に対応できる組織体制が求められるようになった。強いリーダーにやや受動的に喜んでついていくだけのフォロワーでは、リーダーに依存してしまう傾向がある。依存的なフォロワーばかりの組織では、リーダーが何らかのアクシデントによって交代せざるを得なくなった場合に右往左往して何もできなくなってしまう。そこで注目されるのが、フォロワーの主体性である。

リーダーシップは組織に変革をもたらすためにフォロワーの意識の変化を促すことから、フォロワーの前向きな意識の変化を促す行為というようにフォロワーの主体性を重視した視点に踏み込んでいるのが現在のリーダーシップの捉え方である。主体性を喚起され当事者意識を有するフォロワーと変革を主導するリーダーが一体となり、環境の変化に対して組織を積極的に適応させていく、言わば、総力型組織を構築することが現在におけるリーダーシップの中心的な捉え方になっているのである。

6. 求められるリーダーシップのバージョンアップ

リーダーシップはパラダイムシフトしていくという視点に立つと、1つの問題点が指摘できる。それは、リーダーシップの発揮が求められている人物がパラダイムシフトできていないということである。フォロワーが決められたことをきちんとできるように管理することをリーダーシップと考えたり、フォロワーを唯々諾々とついてこさせることをリーダーシップであると思っているのであれば、それは旧パラダイムに基づくリーダーシップ観を有していることになる。

それゆえに、現在求められている総力型組織を構築するリーダーシップの課題に対して、こういった旧パラダイムのリーダーシップ観で臨むと、フォロワーのポテンシャルを引き出すことができず組織が環境適応できなくなってしまう。そこで求められるのは、持ち場立場を問わず組織に参加する全ての人々が当事者意識を持って活動するように、フォロワーの積極的な意識の変化を促すことがリーダーシップであるという新たなパラダイムに、全ての管理職がシフトチェンジすることなのである。

執筆者紹介

小野 善生

滋賀大学経済学部教授

小野 善生

Yoshio Ono

1974年生まれ。滋賀大学経済学部卒業。神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。博士(経営学)。関西大学商学部准教授を経て、現在、滋賀大学経済学部教授。専門は経営学。専攻は経営管理論、組織行動論、リーダーシップ論。
フォロワーの視点からリーダーシップを明らかにする研究に取り組んでおり、「リーダーシップの役割分担とチーム活動活性化の関係についての考察‐エーザイ株式会社アルツハイマー型痴呆症治療薬「アリセプト」探索研究チームの事例より‐」にて、2005年度経営行動科学学会賞優秀事例賞受賞。
また、主要著書として『ライトワークス ビジネスベーシックシリーズ リーダーシップ』(ファーストプレス)、『まとめ役になれる! リーダーシップ入門講座』(中央経済社)、『最強のリーダーシップ論集中講義』(日本実業出版社)、『フォロワーが語るリーダーシップ』(有斐閣)、『リーダーシップ徹底講義-すぐれた管理者を目指す人のために-』(中央経済社)がある。ほか、論文多数。

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