イベントレポート

コア人材の不足とダイバーシティの壁を越える!メンバーの主体性・独自性を活かす、リーダー行動のアップデート ~最新の調査・研究とZOZOの実践から~(Think & Learn Day 2026夏)

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コンテンツ企画チーム

コア人材の不足とダイバーシティの壁を越える!メンバーの主体性・独自性を活かす、リーダー行動のアップデート ~最新の調査・研究とZOZOの実践から~(Think & Learn Day 2026夏)

昨今の職場では、人手不足が常態化すると同時に、働き方と価値観の多様化がもはや前提となっている。現場の管理職、そして人事部門には、こうした環境変化を前提とした思考と行動のアップデートが求められているが、管理職への支援や能力開発は必ずしも追いついていないのが現状だ。2026年6月30日(火)に開催されたイベント『Think & Learn Day 2026夏』では、「ダイバーシティ推進の葛藤」や「多様性を活かすリーダーシップ育成」をテーマに、研究・理論・実践の3つの観点からセッションが行われた。その聞きどころをダイジェストでお届けしよう。

調査で浮き彫りになった、ダイバーシティ推進の限界と冷めた職場

イベントの最初は、パーソル総合研究所研究員の中俣が、近年の労働市場の変化について調査結果をもとに解説した。労働市場の全体像としては、人口減少が進みつつも、近年はシニアや女性、外国人労働者といった多様な人材が市場に参入し、2025年の雇用者数は過去最高の5,800万人超となった。また直近10年は正社員も増加傾向にある。ただし内訳を見ると、女性正社員やシニア正社員は増加している一方で、40代以下の男性正社員は減少しており、労働力不足のトレンドは「量的な人手不足」から「コア人材の不足」へとシフトしている。

コア人材の不足に加え、働き方の多様化による一人あたりの労働時間の減少が重なることで、労働市場は、一人ひとりががむしゃらに働く「マラソン型」から、多様な人材一人ひとりが仕事をつないでいく「バケツリレー型」に変わっていく。それを念頭に置いて労働力不足に対応していくには、多様な人材を活かすダイバーシティへの適応が不可避だ。一方で、ダイバーシティ推進の大切さを頭では理解しているものの、考え方や価値観が異なる同僚と働くことへの抵抗感やストレスを感じる従業員が多いことが、調査では明らかとなっている(図1)。

図1:既存のダイバーシティ推進の「限界」

ダイバーシティ推進の「総論賛成・各論反対」の壁をどう乗り越えていくか、多様性が増すことによる摩擦や葛藤をどう和らげるかは、この先の企業にとっての課題。その解決の糸口のひとつが、「風通しの良い職場をどうつくるか」にある(図2)。「風通しの良い職場の条件は、タスクコンフリクト(仕事における意見の対立)は多く、関係性コンフリクト(対人関係の軋轢・摩擦)は少ない職場であることです。関係性コンフリクトは全般的に組織にネガティブに影響し、タスクコンフリクトはポジティブに影響しています。仕事ではしっかりバトル(タスクコンフリクト)しつつ、それを人間関係(関係性コンフリクト)に引きずらない組織をつくっていくことがポイントです」(中俣)

図2:風通しの良い職場の条件

ただし、風通しの良い職場をつくろうにも、「働くことを通じた成長を重要と思わない」「学びへの意識の低下」「目の前の仕事への没入や、新たな挑戦機会の減少」など、職場の熱が冷めてきている現状がある。また上司の悩みも、自身の業務量増加といった上司本人の悩みから、部下のメンタル対応やコンプラ対応、働き方改革への対応増加など、部下に対する悩みへとシフトしている。健全なコンフリクトを生み出す風通しの良い職場づくりには、冷めた職場の熱(≒主体性)をどう取り戻すかもセットで考えていく必要がある。それには「管理職頼み」の発想から抜け出し、全体を巻き込んだ施策を多角的に行っていくことが重要だ。

理論研究と検証から導き出した、主体性と独自性を活かすリーダー行動モデル

人手不足解消のために多様性を活かす。冷めた職場から風通しの良い職場にするためにメンバーから主体性を引き出す。この二つはどのように実現できるのだろうか。続くパートでは、早稲田大学教授の森永雄太氏が多様なメンバーの「主体性」と「独自性」を活かし、全員活躍を促進するリーダーシップ行動モデルについて語った。

求められるリーダーシップは時代によって変遷する。かつては「指示命令型」が当たり前だった。だが、複雑性が高まり正解が一つではない時代となり、メンバーから積極的に解決策を引き出していく「フォロワー重視型」がより求められるようになった。ただし、どちらがよいかという二元論では語り切れない。どちらも現場では必要であり、状況に応じてうまく使いこなしていかなくてはいけないからだ。

また、多様性が高まる中では、その多様性をうまく活かせるかどうかによって、「光の射す」職場となるか、「闇堕ち」職場となるかに分かれる(図3)。多様な意見が生じることが建設的なコンフリクトをもたらし、それによってクオリティの高い意思決定ができると創造性につながっていく。一方で、人間関係のコンフリクトに結びついていけば、職場の分断や静かな退職・離職の増加を招きかねない。

図3:「光の射す」職場と「闇堕ち」職場

そこでリーダーに求められるのは、多様性の持つ可能性とリスクの双方を理解した上で、多様性が生み出す価値を組織の成果につなげるよう積極的にマネジメントしていくこと。そのためのリーダーシップ行動をモデル化したのが「AUBE」だ(図4)。

図4:AUBEモデルの詳細

AUBEは、「Adaptive(適応的にふるまう)」「Uniqueness(独自性の発揮を支援する)」「Belongingness(帰属感を高める支援をする)」「Set an Example for the team(チームづくりの見本を示す)」の次元から構成される。

「多様性が活きるチームにしていくための第1のポイントは、独自性(U)と帰属感(B)の両方を、個々のメンバーの中でバランスよく満たしていくことです。メンバーの独自性を引き出し、尊重し、それぞれの強みを伸ばしつつ、声が小さい人や届きづらい人も意思決定に巻き込むなどして帰属感を高め、全員がチームの一員であると感じられるよう支援していく。このように「U」と「B」の2つの次元から個人レベルでインクルージョンしていくことが第一歩となります」(森永氏) 加えて、チームの目標やビジョンと多様性を活かす姿勢とを結びつけてメンバーに発信し、多様性の活用をチームで目指していく「E」も強化していく。ここが第2のポイントとなる。

このAUBEモデルの検証のために森永氏とパーソル総合研究所が共同で行った調査では、リーダーがAUBEの4つの次元をバランスよく実践していくことで、タスクコンフリクトが促進され、異論の出やすい職場がつくれるとの結果も得られている。一方、AUBE行動と関係性コンフリクトとの関連は弱く、その発生を促進しないとの検証結果も出ている(図5)。

図5:上司のAUBE行動とコンフリクトの関係

個性尊重のZOZOが取り組む、マネージャーのための多様性を活かす学び

この「AUBE」を取り入れてDE&I推進に取り組んでいる企業が、ファッションEC「ZOZOTOWN」をはじめ、様々な事業を展開する株式会社ZOZOだ。最後のパートでは、同社の組織・人材開発部でディレクターを務める細野美紀氏から、ZOZOの多様性への取り組みが紹介された。

個性やアイデンティティを大事にする「ファッション」が事業の軸であることから、同社では「Be unique. Be equal.(みんな違うけど、みんな一緒)」を体現したコーポレートロゴを採用。人的資本経営やサステナビリティステートメントにも、“多様な個性の尊重”“多様性を尊重し合える職場環境の推進”といった考え方が組み込まれ、DE&Iが普及する以前から多様性や個性を尊重する企業文化が根付いていた。一方で、同社がDE&I推進に本格的に取り組む中で、社内調査によって明らかとなったのが、女性管理職比率の低さだった。

「多様性を大切にしている企業なのに、なぜ女性管理職が少ないのか。要因分析をし、マネージャーたちにもヒアリングを行いました。そこで分かったのが、目に見えない無意識のバイアス、すなわちアンコンシャス・バイアスの存在でした。髪型、服装、ネイルといった個人のアイデンティティの表現など、目に見える形での多様性を認め合う文化は根付いていたのですが、それゆえに自分には多様性の視点がある、性別で判断していないと考えているマネージャーも多くいることがわかりました」(細野氏)

そこでZOZOは真の意味での多様性をより深く理解し、尊重できるマネージャーを増やす取り組みを開始する。自身のアンコンシャス・バイアスを自覚し、共通認識を深めながら、行動変容につなげていくための学びの場を設定した。2023年から2024年はアンコンシャス・バイアスやジェンダーギャップに気づき、多様性を活かすチームマネジメントの重要性を認識してもらうことを重視して学びを設計。2025年からは、「AUBE」を基本に多様な個の主体性を引き出すための行動や対話を主軸に据えて研修を進めている(図6)。

図6:取り組み実績

取り組みを開始して3年が経過し、「アンコンシャス・バイアスという言葉が共通語になり、見えないバイアスへの意識が高まった」「全マネージャー共通の研修を行ったことで、マネージャー同士で悩みを共有・相談しやすい環境がつくれた」など、目に見える変化も出てきている(図7)。

「いちばん大きな前進は、頭で理解するだけでなく実践して、その結果生じた悩みを具体的に語ってもらえるようになったことです。学びを設計するうえで人事担当として心がけたのは、人事が目指すことを一方的に伝えたり、研修を受けてもらうこと自体を目的としたりせずに、現場の声に寄り添い、行動変容につなげる具体的な支援を根気強く継続的に行うことでした。それによってこのような変化が生まれてきたと感じています。DE&I推進は、正解のない難しいテーマですが、継続して取り組むことで目に見える変化が生まれます。ぜひ小さなことから始めてみていただければと思います」(細野氏)

図7:取り組み後の変化

相手のことを考え過ぎず、自分の意見をしっかり主張できる環境づくりも

ここからは質疑応答で寄せられた質問のうち、いくつかを紹介していこう。

【Q1】 個人と組織の価値観が一致しない場合、双方を両立させるためにリーダーとしてどのような工夫ができるか?

細野氏:両者の価値観を合わせることは、なかなか難しいと私たちも感じています。まずは「個人が大切にしているものをないがしろにするわけではない」と丁寧に会話していくこと。そして会社や組織が目指したい方向性と、個人が大事にしたい価値観とが重なり合う部分を探すことですね。管理職には、そのような重なる部分を探すコミュニケーションに取り組んでもらいたい、と声をかけるようにしています。

中俣:確かに難しいですよね。私としては、相手のことを考え過ぎず、しっかり主張させることをまずは重視すべきだと思っています。今回ご紹介した調査では、風通しの良い職場をつくるうえでどのような対応が重要かを分析してみると、自分の主張を押し通す競争的な対話も、風通しの良い職場づくりにはプラスでした。最近は職場も冷めているので、そもそも自分の主張がない人も増えています。職位とか年代とかに関係なく、自分の意見をしっかり主張できる環境を整えること、そしてリーダーがメンバーの主張を引き出す工夫をすることも重要だと思います。

森永氏:個人と組織の重なり合う部分をしっかり握っていく、増やしていくことが必要だと思います。そのうえでAUBEの「E」の部分、組織の目標を実現するために多様性がなぜ大事なのかを理解してもらう取り組みを進めることで、両者のジレンマがうまく解消されていくのではないでしょうか。

【Q2】 個々の価値観を大切にしながらも、周囲への貢献や働きかけもして欲しい。そのような人や組織を育てるために、どのように環境づくりをすればよいか?

細野氏:環境づくりという意味では、周囲への貢献も必要不可欠であることを、評価制度の中にビルトインして明確化しています。弊社の評価軸の中には「ZOZOらしさ」という項目があり、具体的な行動指標として「日々進歩、愛、ソウゾウのナナメウエ」の3つがあります。この中の「愛」が、「自分の成果を周りにどう還元できたか」という行動指標です。またアワードという形で、具体的な行動で周囲に還元した人を年に一度表彰しています。

森永氏:個人の自律と職場での協働が両立し得るのか、以前研究したことがあります。ZOZOさんの取り組みは、組織のビジョンや評価制度の中に両者をうまく組み込むことで、ジレンマに対応して両立できるようになっている点が素晴らしいと思います。

中俣:これからは個人の多様性だけでなく、関係性そのものの多様性にも目を向けていく局面ではないかと感じています。関係性は社内だけでなく社外のネットワークもあれば、その中でのコミュニケーションの質や頻度といった観点もあります。調査レポートの中で「関係性のダイバーシティ」という概念を提案していますが、そういった関係性を多角的に強めていくという視点が重要になってくるのではないかと考えています。

【Q3】 働き方が多様化する中で、一部のメンバーに業務の負荷が偏ることも。公平性を保ちながらメンバーの成長やキャリア形成を支援するには?

森永氏:「大変さ」と「負担」を分けて考えることだと思います。大変さには、「何かにチャレンジする」「期待に応える」といった大変さもあります。そのような大変さに関しては、「これができると、成長やキャリア形成にどうつながるか」を上司が言語化してあげる。一方で、雑務による負担で偏りが出ているなら、その業務を思い切って捨てることも、これからの組織に求められることだと思います。

細野氏:弊社では、リモートワークを含む柔軟な働き方が定着しています。働き方が多様になる中で、「チームの中での自分の役割や貢献」が見えにくくなっています。そこでマネージャーには、「チーム内での見え方をフィードバックすること、チームで助け合うための対話を大事にしてください」と伝えています。また、周囲がやりたくない仕事を自ら引き受けている人に対しては、目に見える形で感謝を伝え、称賛する取り組みも行っています。

登壇者紹介

株式会社ZOZO 組織・人材開発部 ディレクター

細野 美紀

2008年、株式会社ZOZOに新卒採用で入社後、物流管理、ブランド営業を担当。その後、中国現地法人へ出向し、海外事業の推進に携わる。2018年に人事部門へ異動してから現在に至るまで、全社に向けた研修、制度設計・運用、人材・組織課題の解決支援に従事。スタッフ一人ひとりが主体的にキャリアを描き、チームや組織の中で力を発揮できる環境づくりを推進している。

早稲田大学 グローバル・エデュケーション・センター 教授 リーダーシップ開発プログラム統括責任者

森永 雄太

神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。専門は組織行動論、経営管理論。主著に『ジョブ・クラフティングのマネジメント』(2023年、第39回冲永賞、第41回組織学会高宮賞)、『ウェルビーイング経営の考え方と進め方:健康経営の新展開』(2019年)など。「職場のダイバーシティが協力志向的モチベーションを向上させるメカニズム」(共著)にて2019年度日本経営学会賞(論文部門)受賞。

株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 研究員

中俣 良太

大手市場調査会社にて、調査・分析業務に従事。従業員満足度調査をはじめとするさまざまな定量調査を担当。
その後、2022年8月よりパーソル総合研究所。主に、労働力不足や働き方の多様性(副業、スキマバイトなど)に関する調査・研究を行っている。
著書に『これからの人手不足にどう立ち向かえばよいのか』(阿部正浩との共著・一般社団法人金融財政事情研究会)。

  • 文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。

執筆者紹介

   コンテンツ企画チーム

コンテンツ企画チーム

パーソル総合研究所のコンテンツ企画チームです。人事・人材開発・組織マネジメントに関する調査研究やコンサルティング、研修サービスで培った知見をもとに、企業の人と組織に関する情報を発信しています。

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