このコラムでわかること
2026年6月、ボストン コンサルティング グループ(BCG)が興味深いレポートを発表しました。世界のC-suite・シニアエグゼクティブ70名を対象にした調査で、半数がすでに自社内で「 de-skilling (脱スキル化)」の兆候を観測していると回答。さらに6割以上が、今後3〜5年以内にこれが組織にとって重大な脅威になると答えています。
AIの活用が進み、業務は速く、楽になった。にもかかわらず、経営層の多くが「何かを失いつつある」という違和感を抱えている——この矛盾こそが、いま多くの企業で静かに進行している問題の入り口です。
BCGはこの現象を、個人の能力低下としてではなく、組織全体で同時多発する構造的リスクとして捉えています。
AIに日常的に頼ることで、判断力、課題を見極める力、独創的に考える力といった、いわば「考えるための筋力」が徐々に衰えていく。これが個人単位で起きているうちは、大きな問題には見えません。しかしこれが数百人、数千人規模の組織で同時に進行したとき、経営が最も頼りにしたいはずの能力——判断力、問題を見極める力、創造的思考——が、静かに、しかし確実に失われていきます。BCGは「経営にとって最も重要な能力ほど、最もリスクにさらされている」と指摘しています。
これは決して大げさな話ではありません。私たちReskilling Campにも、こうした兆候についてのご相談が、企業の人事・DX推進ご担当者から増えています。「AIが出したアウトプットを、なぜそうなるのか説明できないまま使い続けている」——多くの場合、これは私たちが研修という形で支援に入る“以前”から、すでに現場に存在していた状態です。私たちはこれを「理解負債」と呼んでいます。この理解負債が個人の中に積み上がると、やがて自分で問いを立てる力、構造化する力そのものが弱っていく「認知負債」に発展します。BCGが世界規模の調査によって指摘した「 de-skilling (脱スキル化)」は、私たちがご相談を通じて見てきた理解負債・認知負債の構造と、驚くほど重なります。
矛盾しているように聞こえるかもしれません。AIで生産性が上がっているのに、なぜ組織は弱くなるのか。
答えはシンプルです。AIに「考える部分」まで任せてしまうと、考える機会そのものが失われるからです。ドラフトを作る、選択肢を洗い出す、初期分析をする——こうした一次的な思考のプロセスをAIに委ねる場面が増えるほど、人間はその思考を鍛える機会を失います。使えば使うほど便利になる一方で、使えば使うほど鍛えられなくなる——この二律背反が、 de-skilling (脱スキル化)の正体です。
実際、Reskilling Campの研修コンテンツにおいても、「人とAIのマネジメントの共通点」「Human in the Loop」「AIアウトプットに対する理解負債」は、直近3ヶ月で最も引き合いの多いテーマのひとつになっています。管理職研修の現場では、“AIに何を任せ、どこは人間が担うべきか”という役割分担の設計こそが焦点になりつつあります。
BCGのレポートが強調するもう一つの論点は、この問題を個人の自己研鑽任せにしてはいけないということです。
半数の経営層が兆候に気づいていながら、実際に対策を打てているのはごく一部です。BCGが推奨するのは、①AIの使い方そのものを組織として設計し直すこと、②業務フロー・評価制度を見直すこと、③日常業務の中に「スキルの補充」を組み込むことの3つです。いずれも、個人任せの学習ではなく、組織としての設計課題として扱っています。
裏を返せば、「誰が、どのスキルを、どれくらい失いつつあるか」を可視化できていない組織は、対策の打ちようがないということです。感覚や印象では、静かに進行するアンチスキリングには気づけません。
「AI活用は進んでいるはずなのに、最近判断のスピードや質が落ちている気がする」——そう感じたことがあれば、それは個人の問題ではなく、組織としての de-skilling (脱スキル化)のサインかもしれません。
Reskilling Campでは、こうした課題に応えるため、社員のAI活用実態を可視化する「AIパフォーマンス診断」を提供しています。約30の設問から、AIを使って実際にどう成果を出しているかを、全国データ・同属性・ハイパフォーマー像と比較しながら数値化します。「使っているか」ではなく「使いながら、考える力を保てているか」を測る診断です。
まずは自社の現在地を知ることから、 de-skilling (脱スキル化)対策は始まります。
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本コラムで紹介している調査データは、BCG “When Everyone Uses AI, Companies Risk Losing Critical Skills”(2026年6月)に基づいています。
Reskilling Camp プロダクト&学習プログラム開発責任者
原田 一樹 harada kazuki
伊藤忠テクノソリューションズでは、Cloud・AI・IoTなどの先進技術導入を推進し、AWSやIBM Cloudの技術コミュニティを牽引。IBM Bluemix ChallengeやWatsonハッカソンで最優秀賞を受賞。
日本マイクロソフトでは、クラウドアーキテクト兼テクニカルトレーナーとして多様なプロジェクトをリード。Azureの全資格を取得しエンジニア育成とカリキュラム開発を担当。
DATAFLUCTでは執行役員CTOとしてノーコード機械学習プラットフォームの開発をリードし、HONGO AI 2021 Awardを受賞。10以上の新規事業でテクニカルアドバイザーを務めた。
現在は創業CEOとしてAI駆動開発支援事業や複数社の技術顧問を担いながら、パーソル総合研究所でReskilling Campのプロダクト開発や学習プログラム開発、講師・コーチ業務を兼務。「AX」と「学び」の最前線で日々奮闘しながら、デジタル・AI人材の継続的な成長を支援するラーニングプラットフォームを開発している。
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