イベントレポート

なぜ1on1は機能しないのか? ~部下の考える力を育てる対話の再設計〜

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なぜ1on1は機能しないのか? ~部下の考える力を育てる対話の再設計〜

現在、多くの企業で導入されている1on1ミーティング。しかし、本来の目的である「部下の成長ための時間」になっていないケースも多い。管理職に対し、傾聴やコーチングなど1on1に必要なスキルを学ぶ研修を実施しているにもかかわらず、1on1がうまく機能せず、形骸化してしまっているのはなぜなのか? 2025年7月30日(水)に開催されたセミナーでは、ヤフーで1on1が導入された当時、人事責任者として推進をリードしたパーソル総合研究所取締役会長の本間浩輔と、職場における対話やOJTに関する調査・研究を行ってきた執行役員シンクタンク本部長の小林祐児が登壇し、実践と研究の両面から1on1をめぐる現状と課題について語った。

上司への研修だけではうまくいかない? コモン・センスによる対話のデザインを

現在は1on1を含めた対話的な施策の全盛期となっている一方で、対話疲れと対話離れも出てきている。1on1に関しても「業務の話ばかりになってしまう「対話を積極的にしてくれない」「結局、ウチの組織に対話なんてムダだ」といった声がよく聞かれる。

こうした対話疲れ・対話離れが生じている背景のひとつが、上司・部下関係の変化だ。「会社への貢献よりも自分のキャリアが大事。何かあったらいつでも転職を考える」という脱組織化のキャリア観をもつ社員が増えていること。そしてもうひとつが、「人との対立を回避したい。叱られたくない」など、いわゆる正面衝突を避ける感覚が20代、30代を中心に広がっていることだ。対する上司の方も、仕事は忙しく部下とのコミュニケーションの時間も足りない、加えてハラスメントと捉えられることへの恐れ、コンプライアンスにがんじがらめになるなど、「管理職の罰ゲーム化」が進んでいる(図1)。

図1:最近の上司部下関係の変化

このような上司・部下の関係性の変化から生まれているのが、「具体的な指示を欲しがる正解待ちの部下」と「具体的な指示を渡すだけの上司」という組み合わせ。1on1でもこの関係が繰り返され、実質的に1on1が業務進捗会議と変わらないものになってしまうというわけだ。

二つ目の背景として、哲学で言うところの「相互知識」と「共通知識」の混在がある。相互知識とは「全員が同じ知識を知っている状態」のことで、共通知識とは「全員が同じ知識を知っているし、そのことも知っている状態」をいう。通常、この2つの知識は区別されていない。ただしスムーズなコミュニケーションには、「全員が同じ知識を知っているし、そのことも知っていると思える状態」、すなわちコモン・センス(図2)が不可欠だ。

図2:コモン・センス

「このコモン・センスをどうデザインするか、どんな事柄をコモン・センス化するか。これこそが1on1、もしくは対話を考えるときのポイントになる。職場の対話全体が難しくなっているのは、コモン・センスという天然資源が枯渇しているからだとも言えます。より良い1on1のためには、コモン・センスを構築し直す、デザインし直していく必要があるでしょう」(小林)

では、コモン・センスを構築し直すには何が重要になってくるのか。ひとつは「対話の個人競技化」を防ぐことだ。

「対話とは、そもそも聞き手と話し手が交互に交代しながら進んでいくものです。にもかかわらず、片方のみのコミュニケーションスキルを上げようとしているのが現状です。1on1導入後なかなか機能していないとなると、管理職の聴く力がないからだと考え、上司に研修しようとする。9割5分の会社がこの発想です。しかしコモン・センスはひとりのスキルでは構築できません。トレーニングをやるのであれば、コモン・センスを構築できるようなトレーニングをやるべきです」(小林)

小林はこう解説したうえで、管理職や上司への研修と同時に、1on1の狙いやポイント、フィードバックのやり方といった簡易的な研修をメンバーにも受けてもらうことを提案する(図3)。研修が難しい場合は、1on1の場で使えるシートやハンドブックを用意するのも有効な方法。何のために1on1をするのか、1on1はアジェンダ・フリーでいい、メンバーにとって1on1とはこういう場であるといったことを上司・メンバーの両方が知っている状態を、ツールで物理的につくるということだ。

図3:トレーニングによるコモン・センスの構築

重要なのは、上司と部下それぞれに何を教えているかを教え、研修同士をきちんとリンクさせること。それによって上司側は、メンバーがちゃんと1on1の目的などを教わったと知っている状態で1on1に入ることができる。上司のスキル・マインド頼みではなく、会社として訓練やツールを用いて仕掛けていくことが1on1を機能させるポイントといえるだろう。

自分の劣化版コピーを量産しないで! ヤフーに1on1が必要だった理由

ヤフー(現LINEヤフー)の人事担当役員だった本間が『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(ダイヤモンド社)を上梓したのは2017年。1on1ミーティングの手法を解説した本書は、日本に1on1ブームを広めるきっかけとなった。

ヤフーが1on1を始めたのは、2012年。社長が交代し、新体制がスタートしたときだった。「社員の才能と情熱を解き放つ方法で、毎年楽々と最高益を突破する会社になりたい」との経営戦略を実現していくために、約50の施策を実施した。そのひとつが1on1だった。経営層や人事の仲間と議論する中で出てきたのは、社員が自分の才能と情熱をどんどん活かすかたちで生き生きと働いてくれることの重要性。本間は管理職に対し「自分の劣化版コピーを量産しないで」と常々伝えていたという。

「何でもかんでも質問してくる部下に対して、上司が気持ちよく答えてしまうと、自分のコピーしかできない。ましてや、劣化版のコピーを量産していて、未来はあるのだろうか。ヤフーの場合は成長していかなければならなかったし、成長の方法として、自分を超えていくような部下を管理職がどんどん作っていく必要がありました。そのために1on1が必要でした」(本間)

図4:ヤフーが1on1に取り組んだ理由

経営に資する人事として考えたときに、ヤフーでは、それにアラインする施策が1on1だった。したがって、「ヤフーの1on1が必ずしも他の企業にも合致する形だとは思っていない。他社事例を知りながらオリジナルを作っていってもらいたい」と本間は指摘する。「それぞれの会社や組織には、それぞれの勝ち筋、経営に資する人事の考え方があると思います。そのうえで1on1をどう位置付けるかを考えていただくことが先だと思います」

セミナーの最後に、コモン・センスを組織内にデザインし、1on1を機能させていくためのポイントが3つ紹介された。

一つ目は、「期待を伝える」。上司の期待というのは、案外部下に正しく伝わっていないもの。「ありがとう。それは私の期待どおり」「個人的にはありがたいことなんだけれど、組織としてはこうして欲しいんだ」というように期待を伝え、互いに共有していることが重要だ。

二つ目が、「伝えたことが本当に伝わっているかどうかを確認する」こと。マネジメント上の大きなミスのほとんどは、情報不足か勘違いで起こる。とくに勘違いは起こりやすい。部下をよく観察し、伝わっているかを確認して、上司と部下とのコモン・センスをしっかり作っていくことも大事なポイントとなる。

そして最後が、「コミュニケーションの頻度を高める」こと。30分の1on1を1カ月に1回行うより、1週間に5分話したほうがコミュニケーションはよくなり、1週間で5分話すより1日1分でも話すほうがコミュニケーションは深まりやすい。

「1on1の頻度を高めることも大事ですし、同時にスモールトークも大切にしてほしいと思います。1on1を基軸にして、そこで話したテーマをもとに、翌日少し立ち話をするというのもいいと思います」(本間)

「職場全体のコミュニケーションを良くする施策」として捉える

ここからは質疑応答で寄せられた質問のうちのいくつかを紹介していこう。

【Q1】「アジェンダ・フリー」にしたとき、部下側が困ってしまう、結局業務報告や上司の考えを確認する場になってしまう場合、どう対応したらよいか?

本間:僕はいつも『今日は何話す?』で始めます。すると部下側も話すことを準備してくるんですよね。1回目は業務報告でいいけれど、毎回それでいいと思われるのは一番困るので、終わったときに『今回は業務の話を聞かせてくれてありがとう。でも次回はこのテーマで話さない?』というふうに、うまく持っていくといいのかなと思います。

小林:話すことがないと8割がたは業務報告になってしまいますよね。そのほうが時間を埋められますから。ただ確かに、毎回はキャリアの話ってできないので、私がよく勧めるのは、キャリア月間やキャリアウィークを活用して、会社の人事がキャリアの話をアジェンダにセットしてしまうやり方です。

本間:あとは上司のほうが沈黙を楽しめるくらいになるといいですね。沈黙って考えている時間なんです。だから、その時間を大切にしてほしいなと思います。

小林:沈黙を恐れないのはすごく重要ですよね。沈黙でもいいとか、ゆっくり自分のペースで話せれば全然問題はないということを両方が知っていることも大切だと思います。

【Q2】 1on1もしくは1on1の研修トレーニングの効果を定量的に測るにはどうしたらよいか?

小林:この質問も非常によく聞かれるのですが、上司と部下のコミュニケーションって、エンゲージメントへの影響度が相当高いですから、エンゲージメントサーベイで追っていくことができるのではないでしょうか。

本間:測らないとマネージできないので、エンゲージメントサーベイで測るのはひとつの方法です。ただ1on1については、それがちゃんと文化になっているかどうかも大事なんです。いいものであれば定着するし、いいものでなければ定着しないわけですから。定量的に測ることももちろん重要だけれど、まずはそれが本当に文化になっていくのかどうかを見るべきだと思っています。

【Q3】ヤフーでは、1on1の導入について経営幹部の賛同をどのように得たのですか?

本間:ヤフーの1on1は当初、メディア事業部だけで行っていたんです。要は勝手にやっていて。その後、メディア事業部にいた宮坂(宮坂学氏)が社長となり、社長交代時に全社に広げていったので、むしろ経営者が進めていった施策でした。

小林:組織内のコミュニケーションをより良いものにしていくことにNGを言う経営者はあまりいません。ただ単に「1on1を導入したい」だけだと、経営者には「小粒過ぎる話」と捉えられてしまうかもしれないですね。なので「職場のコミュニケーションを全体的に良くする施策」という位置づけで提案するといいのではないでしょうか。そもそも対話とかコミュニケーションが苦手な人も結構いるので、研修といった学びの機会を主食=白米にして、対話は副菜=おかずにするのもよいと思います。研修にグループディスカッションだったり、懇親会だったり、コミュニケーションをくっつけるやり方は無数にあります。研修という共通ネタを同時にみんな摂取できるので、コモン・センスがそこで溜まりやすく、コミュニケーションが苦手な人も喋りやすくなります。

登壇者紹介

株式会社パーソル総合研究所 取締役会長  朝日新聞社取締役(社外) 環太平洋大学教授ほか

本間 浩輔

1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフー傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌) 、Z ホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。

株式会社パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長

小林 祐児

上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『学びをやめない生き方入門』(テオリア)、『残業学』(光文社)など多数。

  • 文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。

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