ソリューションコラム

1on1という「旅」を始める~なぜ私たちは、それでも1on1をあきらめないのか?①~

公開日:

執筆者

 プロダクト&マーケティング本部 マーケティング開発部 商品企画グループ

プロダクト&マーケティング本部 マーケティング開発部 商品企画グループ

木村 保絵

1on1という「旅」を始める~なぜ私たちは、それでも1on1をあきらめないのか?①~

「うちの会社も1on1をやっているんですけど、どうもうまくいかなくて…」
1on1に関する商品を開発してから、そのようなご相談をいただく機会が増えました。エンゲージメントの向上、リモート環境下での関係性構築、キャリア自律促進など。職場の多様な問題解決や「上司と部下との対話」を促進するために「1on1」を導入したものの、現場では「忙しくて時間がとれない」「効果が見えない」といった不満が強まり、思うような成果を得られていない状況が見えてきます。

上司と部下とが定期的に1対1で話をする「1on1」が日本企業に広まり10数年。
パーソル総合研究所の調査 でも、すでに6割以上の部下が成長を目的とした1on1を経験し、多くの職場で浸透しつつあります。しかし現状では、「雑談や業務進捗で終わる」「上司が話す場になっている」といった「1on1の形骸化」が指摘され、悩みが尽きません。上司と部下の定期的な時間を投資するのだから、企業としては成果を出してもらわないと困る。だけど、うまくいかない。

「1on1は、もうやらなくていい」
そう決断することも、ひとつの道でしょう。ですが、「本当にやめる道しかないのだろうか」と、決めきれない現状があることも事実です。それは、なぜでしょうか。私たちは1on1という小さな対話に、組織のどんな未来を期待し、何を手放すことができずにいるのでしょうか。「1on1」を通して、私たちが何を求めようとしているのか、シリーズを通じて一緒に考えていきましょう。

第1回目の本コラムでは、「1on1という「旅」をどう始めるのか」を考えます。

旅の始まりは、WHYが書かれた招待状を届けることから

「実は、1on1を始めるにあたっての明確なメッセージは出せていないんです…」
現状の1on1について人事の方とお話をする際に、こんな話題が出てくることがあります。「まずはやってみよう」ということで、推奨はしているものの、会社としてどんな未来を目指し、そのためになぜ1on1が必要で、どうやるのか、は方針としては出せていない。それぞれの現場で事情にあわせてやってもらっているようです。何も始めないよりは、まずは手探りでもやってもらう、ということが優先されています。

ところがやはり、それだと戸惑ってしまうのが現場です。
パーソル総合研究所の調査 でも、1on1に関する上司の困りごととしては「面談について学ぶ仕組みがない」ことが1位として挙げられ、「どうしたらいいの?」と困っている様子が伝わってきます。いきなり船に乗せられ、あとは天候や状況にあわせてと言われても「どこに向かって?どうやって?そもそもなんで?しかも同乗者もいるの?」と困惑しているような状況です。

図表① 1on1に関して困っていること

やはりまずは、どんな未来に向かって一緒に旅をしようとしているのか、搭乗者へは「招待状」を通じて、しっかりとメッセージを届けることが必要です。

「「部下の成長を支援する1on1」再設計のススメ」~形骸化を防ぐための視点とアプローチ~」と題したセミナーの中で、「ヤフーの1on1」の著者であり、弊社本間浩輔会長は、1on1を形骸化させないために、まずは、正しく管理職を選ぶこと、それが難しければ「1on1のWHY」を伝え続けることと、強調しました。

例えば1on1を始めた当時のヤフーの場合、社員の才能と情熱を解き放つ方法で、最高益を更新するというスローガンのもと、①社員は自分の強みを生かして企業価値の向上に寄与する②上長は、部下の成長を支援する、そのために、上長と部下とが定期的にコミュニケーションをとり、部下の仕事に関する言語化をする。それらを実現するために、上司と部下とが週1回1対1で話しをする「1on1」を導入することとなりました。特に印象的なのは、上司は自分を超える部下を育てることが役割であり、上司の「劣化版コピーを量産」しても、他社には勝てない、というメッセージです。

私たちはこれからどんな未来に向かっているのか、そのためになぜこの旅が必要なのか、なぜあなたに一緒に歩んでほしいのか。そのメッセージをしっかり手渡し、あらゆる方法で伝えていきます。実際に旅が始まると、想定外のことが起こり、上司と部下とで乗り越えなければいけない困難が待ち受けているかもしれません。それらを乗り越えるために、人事からのメッセージは、共通で立ち戻れる道標になります。

旅した先の未来を具体的に描き切ることは最初からはできません。それでも、どこに向かっていきたいのか、そのために、あなたと一緒に旅に行きたいと、招待状を出すことは、大切なはじめの一歩となります。

旅路で迷わないための地図と道具を手渡す

 「やり始めたものの、どうしたらいいものか…」
1on1のやり方や進め方に唯一の正解はありません。マニュアルの作成や、アジェンダを決めることでスムーズにいくケースもあれば、部下にとっては「決まりきった話でやる意味がない」と思われてしまうケースもあります。

パーソル総合研究所の調査 によると、上司の聴く姿勢と、部下の主体性が、1on1を効果的に実施するためのカギであるということが見えてきます。上司が話したり、アドバイスをしたりするのではなく、部下が話すテーマから選び、主体的に参加し、上司はしっかりと話しを聴くことが重要です。

図表② [部下回答]1on1における部下の話す割合・テーマ設定と部下の成長

ところが、イメージはつきそうなものの、実際にやってみると「できる」までには程遠いことがわかります。私自身も、実際に聴き手として1on1をやってみると、まったくうまくいきませんでした。「聴いているつもりで、次の質問やコメントを考えてしまう」「こうしたら?とアドバイスが浮かび、早く伝えたくて、話の切れ目を待ってしまう」相手のための時間と思いながらも、聴き切ることができず、常に頭の中で邪魔をする「自分」を押さえることに必死になるばかりです。当社の1on1のプログラムを受講された方からも「聴いているつもりが我流だったと反省をした」「よかれと思って答えを伝えることが、部下の思考を止めてしまっていることに気付いた」という声が、多く聞かれます。

 「部下が主役の時間」で上司は話を聴く、と言われても、意外とできない、というのが現状です。特に管理職のみなさんは、いかに効率よく業務を進め、より質の高い成果を上げていくかについて、常日頃から対峙し、そのために部下の悩みをどう解決し、どうアドバイスするか、に頭を悩ませています。そうすると、部下の話を聴こうとしても、自動的に頭の中で現状の整理をし、問題の仮説を立て、解決策を導こうと考え始めてしまいます。気づくと、自分の知りたい質問ばかりをしてしまい、「つまりこうだよね」と意見を述べてしまう。部下の悩みを解決したいと思えば思うほど、これはどうか、あれはどうかと、解決策の提案をしてしまう。部下からすると「自分が主役の時間と言われるけど、結局聴いてもらえないんだよな…」という気持ちがつのり、むしろ上司の意見が知りたい仕事の話しかしなくなってしまう。噛み合わない歯車が回り始めてしまいます。

やはり、旅路を進めていく上司と部下には、どんな道を進んでいくのかを示し、必要になる道具を渡すことが必要です。例えば、上司には、「聴く」ということがどんなことかを理解してもらう。特に「自分は聴けていない」と痛感し、「聴いてもらうとこんな効果がある」と実感する体験が必要です。これまでの職場は「いかに伝えるか」に重きが置かれていたため、「聴けているか」は横に置かれているケースもありました。そのため、「傾聴はみんな勉強している」「話は聴けていそう」と流さず「本当に成長を支援できるまで聴けているか」ということを、組織の中でお互いに確認していくことが必要です。

そして、主役である部下に対しても、主役としてどうあるべきか、どんな準備が必要か、基礎的な情報を共有しましょう。例えば、自らが主体的に話し、上司に聴いてもらうことで、自分自身へのどんな効果が想定されるのか。そのためには、どんな話題を選ぶとよいのか。時間の過ごし方のイメージなどです。何も知らされていないと、つい「上司が進めてくれる」と受け身の姿勢になってしまいます。旅に出るのに、「お客様」気分で参加されては、上司の負荷が増えるばかりです。お互いに共有された情報がなければ「これでいいかな?」と相談をすることも難しくなってしまうでしょう、とはいっても、ツアー旅行のように細かく、順番を指定しまっては、失敗は回避しやすくとも、新しい発見や学びは制限されてしまうかもしれません。

1on1の主役である部下が主体的に参加し、そしてその部下を支える上司が聴く力を身に着ける。目指すゴールに近づくために、どんな地図と道具を渡すと良いか、そのことについて議論を尽くすことも、目指すゴールを明らかにするための重要なヒントとなります。

人事の役割は1on1という「旅」のガイド役

「これだけ忙しいのに、1on1なんてやる意味あるの?」そんな風に、現場の管理職の方から、時には問い詰められるように強い口調で聞かれ、どう答えていいか困ってしまうというお声も耳にします。現場の大変さがわかるからこそ、現状を少しでも良くしたい。そんな気持ちが強いほど、苦しくなってしまうこともあるでしょう。

1on1は、上司と部下の貴重な時間を使う上に、正解が見えない不安を抱えて進まなければなりません。このような不確実な状態では、具体的でイメージしやすいストーリーが人に影響を与えやすいと言われます。新たな挑戦には、誰よりも失敗し、危険を察知し、少しでも歩きやすい道を整え、自らの経験を語り継いでいくガイド役の存在が必要です。

実際、1on1の効果は、経験していない人には伝わりにくいことも事実です。「聴くことが大事」「自分で考えることが成長につながる」ということは頭では理解しても、限られた時間で仕事を進め、成果を上げ続けなければならない状況では、「それどころではない」と思ってしまうこともあるでしょう。

特に私たちは、常日頃から、人と話しを聞き合っていますが、「聴いてもらうことで成長につながる経験」は少ないのではないでしょうか。それよりも、自分の知らなかった新しい方法を教えてもらうほうが、断然できる気になるし、成長した気になりやすいものです。ところが実際は、キャリアや業務についても、話すことで自分の考えが整理され、言葉が精緻になり、話す言葉と気持ちが一致するようになっていきます。自分で話し、気づき、意識が変わるからこそ行動が変わり、話を聴いてもらうことが成長につながっていくのです。

「きく」にも複数の種類があります。1on1で求められるのは、積極的に聴くことです。聴き手が積極的に聴くことで、話し手はスッキリすることに加え、自分を客観視できると言われています。こうした時間が定期的にあると、何に悩み、何に気づき、何をしようとしているかを上司が知っている安心感から、自信を持って行動しやすくなります。

1on1のプログラムの受講者も、演習の中で話し始めると、「こうするべき」「こうしなければいけない」と最初は普段の考えが言葉として出てきます。しかし、聴き手がしっかりと話しを聴き、うなずきや相槌を打ち、一つずつ丁寧に応答していくと、フタをしていた自分の本音に気が付き始めます。「無理だと思ってやらなかったのは自分だ」「できていないと思い込んでいたけど、できていることもあったんだ」つまずきの要因を他人や環境ではなく、自分の中に見つけ、「それならまずはこれをやらなきゃ」と、自然と行動を決められることがあります。誰かに言われたからそうするのではなく、自分で気づいたからこそ意味を感じ、当事者意識を持って行動しやすくなるのです。

こうした事例が集まると、少しずつ「1on1なんて意味があるのか」という空気が和らぎ、「まずはやってみようか」という人も出てくるようになります。マーケティングでよく使われるイノベーター理論では、約16%に普及をすると後に続く大多数に広がりやすくなると言われています。流れを変えるには「私は部下としてこんないいことがあった」「聴き手として、こんな工夫をして乗り越えた」という、あなたにしか語れない経験談のストーリーを語り、仲間を集めることです。特に聴き手となる上司は、これまで解決策を明示していたのが、部下に話の主導権を渡し、自分で考えて決めてもらうようになるため、手ごたえを感じにくい場合もあります。そんなとき、人事として、同僚として「自分もこんな失敗をしたけど、この時はうまくいった」「自分はこうしてもらえて、こんな効果を感じた」という成長物語を、熱を持って話すことで、「そうか、それならやってみようか」と、一度点いた火を消さずに、一緒に灯し続けることができるでしょう。

部下を主役に、成長を支援するために1対1で話す時間には、唯一の正解もなく、どんなに回を重ねても、大失敗するときもあるかもしれません。それでも、新しい挑戦をするときは、目指す世界にこの道が繋がっていると信じ、誰よりも前を歩き、一緒に迷い、時に立ち止まり、見つめ直し、また新たな道を見つけていく人の存在が必要です。そうすることで、唯一無二の地図ができあがり、旅に出る仲間が増え、それぞれのノウハウが集まり、組織の生きた知見となっていきます。

今回のコラムでは、まずは、社内で1on1を実施・見直していくために、人事として、検討することや取り組むことについて取り上げてまいりました。
前述のとおり、1on1には唯一の正解はありません。この中ではお伝えしきれないことや、実施していく中で見つかっていくことも様々にあるでしょう。ぜひ情報を交換し、お互いにアップデートしていけると幸いです。

次回は、実際に1on1を導入した際に、現場のお悩みとどう対峙していくかを考えていきます。

執筆者紹介

 プロダクト&マーケティング本部 マーケティング開発部 商品企画グループ  木村 保絵

プロダクト&マーケティング本部 マーケティング開発部 商品企画グループ

木村 保絵 Yasue Kimura

大学卒業後、フィリピンでNGO団体に所属。その後、国際交流事業やラジオ局での活動等を経て、2019年より現職。ブレンディッド・ラーニングの講座運営や案件支援に従事した後、研修の企画・開発を担当。新入社員・中途採用者向けオンボーディング支援プログラムや上司と部下のコミュニケーションをテーマとした研修の開発に携わっている。WIAL-Japan(日本アクションラーニング協会)認定シニア・アクションラーニングコーチ

オンライン相談のイメージ

CONSULTATION

オンライン個別相談

サービスについて詳しく知りたい、課題解決のヒントが欲しい、
思考整理したい、客観的視点が欲しいなどお気軽にご相談ください。

オンライン個別相談(30分)をする

CONTACT US

お問い合わせ

こちらのフォームからお問い合わせいただけます

お問い合わせフォーム

FOLLOW US

最新情報をチェック!

メルマガ登録・公式SNSフォローで最新情報をお届けします。