ソリューションコラム

「従業員主導型の人事施策」への転換で突き付けられた問い ~キャリア自律を重視した人材マネジメントの再設計~

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 コンサルティング本部 コンサルティング部 コンサルティンググループ

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砂原 健一

「従業員主導型の人事施策」への転換で突き付けられた問い ~キャリア自律を重視した人材マネジメントの再設計~

近年、社内公募制度や勤務地限定制度など、従業員がキャリアや働き方を選択できる「従業員主導型の人事施策」に注目が集まっている。日経サステナブル総合調査※1によれば、社内公募もしくは社内フリーエージェント制度を導入している企業は約65%にのぼる。

これまでも、従業員主導型の人事施策自体は多くの企業で導入されてきたと思われる。しかし、人手不足が顕在化し始めた2020年前後、さらに人的資本経営の推進が本格化したここ数年間において導入が加速している。

その背景には、転職市場の活況やスキルアップを目的としたキャリアチェンジなど、働く個人の価値観の多様化があげられる。企業にとっては、自社で育成した人材が外部に流出するリスクが高まる一方で、従業員の成長実感や働きがいをいかに高めるかが、経営上の重要なテーマとなっている。

本コラムでは、従業員のキャリア実現や働き方の選択を重視する「従業員主導型の人事施策」に焦点をあて、今後の人材マネジメントのあり方を考えていく。

従業員主導型の人事施策のねらい

従来の日本企業における人材マネジメントは、新卒一括採用が中心であり、企業主導でキャリアパスを設計し、OJTを通じて育成するスタイルが主流であった。従業員は、企業が提示した枠組みに沿って経験を積み、成長することが期待されてきたといえる。

しかし、事業環境の変化のスピードが速くなるにつれて、より高度な専門性や変革推進力 が従業員に求められるようになった。こうした状況下では、従業員が自らのキャリアを主体的に考え、必要なスキルや経験を自らが磨いて成長することが不可欠となる。加えて、個人のキャリア観や働き方の価値観が多様化する中で、企業があらかじめ準備したキャリアパスや成長ルートにすべての従業員を当てはめること自体が難しくなってきた。

筆者自身も企業の人事部門に在籍していた際、人事主導による配置と従業員のキャリアイメージとの間にミスマッチが生じている場面を目にしてきた。こうした経験からも、企業主導による一律のキャリア設計には限界がきていると感じる。

なお、従業員主導型の人事施策は、広く捉えると以下の3つに分類される(図1)。

  1. 社内公募制度、社内フリーエージェント、複線型キャリアなど、従業員にキャリア選択の機会を提供する「キャリア自律」に関する施策
  2. テレワーク、フレックスタイム制度、短時間勤務制度といった、働き方の志向やライフイベントに応じた「柔軟な働き方」を可能にする施策
  3. カフェテリアプランや確定拠出年金制度など、従業員のライフスタイルや将来の生活設計を支援する「福利厚生・生活設計」に関する施策

図1:従業員主導型の人事施策の分類

これらの施策の目的は、単に従業員の選択肢を増やすことではない。従業員が将来のキャリアを見据えて自ら意思を表明し、その実現プロセスを企業が支援する仕組みへと、人材マネジメントの重心を移していくことが本質的なねらいである。

小売業の事例…事業成長にむけた人材育成の仕組みと複線型キャリア制度の設計

こうした「従業員主導型の人事施策」のねらいは、弊社が支援した小売業の企業事例 にも表れている。同社における問題意識は、事業の急成長とビジネスモデルの進化に伴い、従来の単線型キャリアパスでは多様な人材の育成が難しい状況にあった。また、これまでの仕組みでは、個人の志向や専門性を十分に活かしきれず、事業成長を牽引する人材を継続的に育成 することに限界が生じていた。

そこで同社は、4つの人材タイプを定め、キャリアパスを複線化する人材マネジメント改革に着手した。この取組みの特徴は、「会社が目指す方向性」と「個人の成長・キャリアの方向性」を整理したうえで、会社は事業成長に必要な人材の枠組みを示し、その中で従業員が複数のキャリアを選択できる制度を意図的に設計した点にある。

制度設計にあたっては、「従業員が自らキャリアを考え、上司との対話から気づきを得て、意思表示し、挑戦機会を獲得する」という成長サイクルを明確に設定した。そして、このサイクルを回すために、キャリア面談(1on1ミーティング)、自己申告制度、社内公募制度などを組み合わせて導入している。これらの施策は個別に実施するのではなく、従業員の行動変容につながる一連のプロセスとして設計された(図2)。

この事例からもわかるように、従業員主導型の人事施策は「企業が関与しない状態」を意味するものではない。重要なポイントは、制度や施策を有効に活用しながら、従業員の成長サイクルを具体的に設計できるかという点にある。

図2:自律的なキャリア形成と成長サイクルを促進する人材マネジメント改革
(小売業の事例から)

目指す方向性の実現に向けて創りたい世界観

出所: 自律的なキャリア形成と成長サイクルを促進する人材マネジメント改革支援

従業員のキャリア自律を支援する環境をいかに整えるか

弊社の支援事例が示しているのは、「企業が主導して育てる人材マネジメント」から「従業員が自ら成長するプロセスを支える人材マネジメント」への転換である。この転換を実現するためには、人事制度の整備にとどまらず、経営層や管理職を含めた意識変革が不可欠となる。そして、人事部門は制度の管理者ではなく、従業員がキャリアを考え、挑戦し、学び続けることができる環境を設計する役割が求められる。

また、人的資本経営の観点から、主要なステークホルダーを「従業員」と捉えると、人事部門の役割はより明確になる。従業員主導型の人事施策をはじめ、キャリア自律を支援する環境を設計することで、従業員の成長実感や働きがいが高まり、組織内で従業員の能力が発揮される。その結果、個人の成長と組織の成果が実現され、顧客に対する価値提供の質が高まり、最終的には企業価値の向上や株主・投資家への還元につながる。従業員主導型の人事施策は、この循環を生み出す重要な要素と捉えることができ、人事部門はこの循環が回り続けるための環境を設計する役割を担っている(図3)。

図3: 人事部門の役割と従業員主導型の人事施策の位置づけ

本コラムでは、キャリア自律を軸とした「従業員主導型の人事施策」について考察した。人手不足や働き方の多様化、個人のキャリア観の変化をふまえると、人事部門にはこれまで以上に柔軟で戦略的な対応が求められる。

しかし、従業員主導型の人事施策は、単に従業員の自由度を高めるものではない。企業と従業員が対等な関係で成長を目指し、変化に強い組織を育てていくための人材マネジメントといえる。企業が「従業員にどのように働いてもらうか」を一方的に設計するのではなく、従業員が自律的に考えて行動できる環境をいかに整えるか。この問いに向き合うことが、これからの人事部門に求められる重要な役割になりつつある。

弊社では、従業員の自律的なキャリア形成支援をはじめ、複線型キャリアやジョブ型の導入など、人事制度設計から運用まで幅広いコンサルティングサービスを提供している。人的資本経営の深化や人材マネジメント改革に課題をお持ちの際は、ぜひご相談いただきたい。

※1

2025年11月14日付 日本経済新聞朝刊より引用

文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

執筆者紹介

 コンサルティング本部 コンサルティング部 コンサルティンググループ  砂原 健一

コンサルティング本部 コンサルティング部 コンサルティンググループ

砂原 健一 Kenichi Sunahara

大手私鉄の人事部門において人事戦略策定・人事制度設計・人財育成・採用業務等を担当後、人事・ガバナンスコンサルティングファームを経て、パーソル総合研究所に入社。現在は、人的資本経営推進、人事戦略策定、人事制度設計、サクセッションプラン策定などのコンサルティングに従事。東京都立大学大学院経営学研究科修了(MBA)、共著「戦略的人的資源管理と人的資本経営:論点整理と今後の研究課題」など。

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