イベントレポート

ジョブ型人材マネジメントの「次の一手」を考える ~NECビジネスインテリジェンスの取り組み事例から~

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ジョブ型人材マネジメントの「次の一手」を考える ~NECビジネスインテリジェンスの取り組み事例から~

近年、ジョブ型人事制度をきっかけに、ジョブを軸とした人材マネジメントへの移行が進んでいる。一方で、その運用においては、ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)やスキル要件の定義、そして現場のアサインにおいて、経験則や主観による判断がなされ、導入の目的が十分に達成されていない、という声も少なくない。2025年11月19日(水)に開催されたセミナーでは、ジョブ型人事制度の課題、形骸化を防ぐポイント、そして客観的なデータ活用によるアプローチの事例として、NECビジネスインテリジェンスによる「ジョブ型データモデル」の構築に向けた取り組みが紹介された。本レポートでは、セミナーの聞きどころを、ダイジェストでお伝えする。

人件費の整合性だけではない、日本企業のジョブ型人事制度への期待

現在、どのくらいの企業でジョブ型人事制度が導入されているのか。パーソル総研の2021年の調査では、導入済み・導入検討の企業が6割弱、日本能率協会の2023年の調査では6割超という結果が示されている。導入の理由としては、「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」、「役割・職務・成果を明確にし、それらに応じた処遇を実現するため」といったように、まずは「人件費の整合性を高めたい」と考える企業が多い。

パーソル総合研究所 上席主任研究員の藤井は、「人件費の合理性だけではなく、タレントマネジメントの観点からも、ジョブ型人事制度の導入が進んでいる」と解説する。(図1)

図1:日本企業は、なぜジョブ型に関心を持っているのか?

確かに、職能給では、職能等級が同じであれば業績に責任を負う営業課長であっても、バックオフィス関連部署の担当者であっても、同じような給料になってしまうため、この矛盾を解消したいところだ。年金受給開始年齢の引き上げによって、65歳、70歳と雇用が長期化する中、それに対応できる給与制度を考えなければならない。さらに、タレントマネジメントの観点では、人材獲得競争の激化による影響が大きい。新卒の初任給が30万円超えたという事例も珍しくない状況だ。またAIなどのテクノロジーが進化して仕事も大きく様変わりしていく中で、優秀な若手社員をしかるべき職務に抜擢したいと考える企業も増えている。

では、企業がジョブ型人事制度を導入すると、何がどう変わるのか。藤井は「評価・処遇の基本軸が人から仕事に移る、というのが一番大きな変化だが、見落としてはならないのが、評価・処遇の時間軸が、累積貢献度を加味していたところから、リアルタイムに変わるということだ」と説明する。(図2)

図2:ジョブ型になると、評価や処遇の「時間軸」が変わる

「評価・処遇の時間軸がリアルタイムになるというのは、たとえば、従来課長へ昇進させる候補として、『第一選抜、第二選抜、第三選抜…』と候補者をグルーピングしていた企業が、ジョブ型に移行すると、『今、第一選抜クラスにいる人』だけがどんどん登用されていく。これまでなら第二・第三選抜クラスの人でも、順番待ちをしていればいずれ昇格できる可能性もあったが、今後はそうではない、ということだ。勤続年数の長さによる貢献は、ここでは加味されない。これは若手社員や優秀な人材にとってはメリットがある一方で、大多数の人にとっては昇格・昇級の厳しさが増す、ということでもある」

ジョブ型人事制度によって、厳しさを増すのは企業側も同様だ。企業が競争力と成長力を維持・強化するためには優秀な人材から働く場として選ばれる必要があり、ジョブに応じた明確な給与水準とキャリア開発機会の提供がこれまで以上に求められるようになるだろう。

単に制度の導入では実現できない。あらゆる人事施策の見直しと変革が必要

実際にジョブ型人事制度を導入する、あるいはジョブを起点として人材マネジメントを変革するには、どのようなアプローチを取ればよいのか。パーソル総合研究所のコンサルタントの中島は、従来の人材マネジメントにおける経営・人事の構造の変化を、2つの図を用いて解説した。

図3は、従来の人材マネジメントを軸に人材領域の全体像を示したもの。企業のミッションやビジョン、そして経営戦略・事業戦略をもとに組織を設計し、人材ポートフォリオと要員計画を策定し、人事戦略に落とし込む。その人事戦略をもとに、等級・評価・報酬という人事制度を設計する。この流れを「縦軸」だとすれば、「横軸」は人材マネジメント、つまり採用、配置、評価、育成、代謝という人の動きだ。

図3:従来の人材マネジメント

従来の人材マネジメントでは、策定された人事戦略をもとに、どういう人材が必要なのか、そのためにどういう格付けを行うべきか…といった考え方で、縦軸ではあくまで“人材像”に紐づける形で等級制度やキャリアパスに反映される。また横軸では採用が起点になっているのが大きな特徴である。例としてわかりやすいのが新卒一括採用だ。新卒社員にどんなジョブに就いてもらうかは決めずに採用し、配置、評価、育成をしていく。一方、これがジョブ型人材マネジメントに変わると、この構造はどう変化するか。それを示したのが図4だ。

図4:ジョブ型人材マネジメントに移行するとは?

「ジョブ型人材マネジメントに移行すると、ミッション・ビジョンからの縦軸の流れを経て最終的に落とし込まれるのがジョブとなります。そのジョブを起点として採用がなされ、配置、育成される。このように、ジョブ型人事制度を導入すると、人材マネジメントにおける全体像とそれぞれの要素の関係性が大きく変わります」(中島)

ここまで理解できると、単に「自社も時流に合わせてジョブ型人事制度を導入したい」というだけでは、その実現は難しく、形式的に導入はできてもいずれ形骸化してしまうであろうことは想像に難くない。ジョブ型人事制度を導入することは、経営・事業の視点で自社に本当に必要なジョブを再定義すること、そしてそのジョブを起点として従来の採用、配置、評価、育成など、あらゆる人事施策を見直すことが求められる。これはつまり、人材マネジメント全体を変革していくことに他ならない。

データドリブンなジョブ設計と検証のモデルを構築!NECビジネスインテリジェンスの取り組み

本セミナーの後半では、ジョブ型人事制度を導入した後の取り組みとして、NECビジネスインテリジェンスの木本氏による事例発表が行われた。同社はNECグループの業務効率化やDX推進などのシェアードサービスを提供している。NECグループでは2025年の4月よりジョブ型人事制度を導入しているが、同社は現在、その運用の適正化、高度化に向けた取り組みを展開している。

この取り組みの概要について、同社を支援しているパーソル総合研究所のコンサルタントの山木は、「この事例は、図4の左側の部分、つまり事業戦略や組織改編に連動してジョブを設計・更新していくためのプロセスの構築を目指したものです。その中で、事業や組織に関するデータと、ジョブ設計に関するデータ、2つのデータのつながりを可視化することで、データを基盤とするプロセスを構築したのが、この取り組みの特徴です」と解説した(図5)。

図5:プロジェクト概要

木本氏は今回の取り組みに至った背景をこう語る。
「事業に必要なジョブを考え、ジョブ・ディスクリプションを定義し、そのジョブに必要なスキルを定義し、さらにそのスキルを身につけるための学習を計画する…といったことがジョブ型人事制度のための取り組みであると思いますが、その取り組みが本当にうまくいっているのか、恥ずかしながらほとんど検証できていませんでした。設計したジョブが正しく機能したのか。そのジョブを遂行するためにそのスキルは本当に必要だったのか。そのスキルを身に付けるための学習がスキルにつながり、スキルが業績評価につながり、そして最終的に事業評価に結びついたのか。このような検証を定量的に行える基盤を作ろうというのが、 今回の取り組みです」

こうしてスタートした同社とパーソル総合研究所との協働プロジェクト。その成果として、「ジョブ型データモデル」のプロトタイプが構築された(図6)。このモデルでは、「事業戦略」「組織機能」「ジョブ」「タスク」「スキル」「学習設計」の6階層における各種データのつながりが体系化されている。また「組織機能」から「学習設計」までのジョブ設計における各階層においては、勘と経験だけに頼らないための「教師データ」(より成果につながりやすい設計案)が策定されている。これにより、今後事業戦略に変化があった際も、その変化をジョブ設計の見直しに反映させるためのデータのフローが可視化された。さらに、今回のプロジェクトの背景にあった、「取り組みの評価・検証」については、「会社アクション(人事プロセス)」と「社員アクション」の結果を、ローデータ・評価データとして蓄積し、それをもとに教師データが自動的に更新されていくモデルとしている。

図6:ジョブ型データモデルv1.0

「今後については、まずはデータを蓄積し、検証モデルを構築していきながら、自社のすべてのジョブの検証とモデル化を進めていきたいです。最終的にはNECグループの中だけでなく、グループ以外の企業、そして社会に対して一つの価値として提供していければいいなと思っています」(木本氏)

やみくもにデータを集めるのではなく、自社にとっての羅針盤を持つ

木本氏による事例紹介の後、参加者からは多数の質問が寄せられた。レポートの最後に質疑応答のいくつかを紹介しよう。

【Q1】 自社でジョブ型人事制度を導入して約5年。ジョブ・ディスクリプションが形骸化していると感じています。勘や経験ではなくデータ活用によって見直し・軌道修正を図りたいときに、何から始めたらよいか?

やはりまずはデータをしっかりと集める、ということですね。ただ、むやみやたらに集めるのではなく、今回ご紹介したデータモデルのようなものがあると、それが羅針盤になって、自社にとってキーとなるデータをわかったうえで集めることができるので、取り組みやすいのではないでしょうか。

データの管理も重要です。従来弊社では標準のジョブ・ディスクリプションを全社で定めていたのですが、そのファイルをサーバーからPCにダウンロードして、最終的な個人のジョブ・ディスクリプションは上司・部下の間だけで共有された状態になってしまうと、データとして追えなくなってしまいます。ジョブ型人材マネジメントにおいて、ジョブ、タスク、スキルをメンテナンスしていくためには、データが拡散しない仕組みの設計も併せて検討するとよいと思います。

【Q2】 データモデルの構築に取り組むことによって得られた気づき・学びは?

大きな気づきとしては、「人のデータ」と「ジョブのデータ」とを分けるのが重要、ということでした。ジョブやスキルの定義を見直すために、たとえばあるジョブに実際に就いたAさんやBさんという個人の評価歴やスキルアセスメントの結果といった「人のデータ」を集めます。AさんやBさんの育成を考える上では、こうした「人のデータ」は必要ですが、ジョブやスキルの定義を見直すにあたっては、Aさん、Bさんというバイネームの情報は本来必要ないんですね。個人情報に紐付けをせず、統計化されたデータでジョブやスキルの定義を見直していく。人事にとってはまさにカルチャーシフトだと思うのですが、このようなことを今後実行していけるとよいなと考えています。

Q3】 今回構築したデータモデルを、今後どのように活用していきたいか?

生成AIをはじめとしたテクノロジーの活用は、是非進めたいと思っています。そもそもデータを蓄積しないことには始まらないのですが、ある程度のデータが溜まれば、たとえば従来はジョブの評価とスキルを手作業でぶつけて業績評価のキーを定めているところを、AIに情報を与えることでこれを自動化していけるのではないか。そのようなことを可能とする基盤を用意していきたいです。あとは先ほどお伝えした個人情報の部分を、いかに早い段階で統計データ化していくか。これができれば、究極的には弊社だけに閉じなくてもよくて、社会全体でデータシェアすることもできるのではないかと考えています。

登壇者紹介

NECビジネスインテリジェンス株式会社 経営企画部門 ピープルディベロップメント統括部 シニアプロフェッショナル

木本 将徳 氏

2019年キャリア入社。AI・アナリティクスチームのマネジメント、ピープルアナリティクスの実践を経て、2023年より現職。人事・人材開発機能の責任者として、NECグループにて推進するジョブ型人材マネジメントの社内実現に注力するとともに、中長期での事業実現・社員のキャリア形成促進に向けたデジタルリスキリングに取り組む。

株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員

藤井薫

電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、ソフトウェア開発企業にて取締役タレントマネジメント事業部長を務める。 2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。新聞、雑誌、Webメディアなどへの寄稿、コメント多数。著書に『ジョブ型人事の道しるべ キャリア迷子にならないために知っておくべきこと』(中央公論新社)、『人事ガチャの秘密 配属・異動・昇進のからくり』(中央公論新社)。

株式会社パーソル総合研究所 コンサルティング本部 マネジャー

中島 夏耶

東京都立大学大学院経営学研究科修了。大手調査会社において、見えざる資産の顕在化、それを活用した経営に関する調査・研究に多数参画。2018年3月より現職にて人事制度改革やキャリア自律支援等数々の組織・人事コンサルティングプロジェクトに従事。共著書『ミドル・シニアの脱年功マネジメント』(労務行政,2020) 、『経営戦略としての人的資本開示』(日本能率協会マネジメントセンター,2022)、研究レポート「人的資本の開示 調査研究レポート」(一般社団法人HRテクノロジーコンソーシアム,2021)

株式会社パーソル総合研究所 コンサルティング本部 シニアコンサルタント

山木 のぞみ

コロンビア大学教育大学院・社会組織心理学修士。外資系コンサルティングファームにてシステム刷新プロジェクトに参画。その後、組織・人事系コンサルティングファームにて、人事制度改革、人材アセスメント、エンゲージメント調査、教育体系構築等のプロジェクトに従事。また、国内大手企業などで、人事企画担当者やHRBPという立場で人事実務を経験。2023年5月より現職。

  • 文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。

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