社員一人ひとりに目を向け、そのタレントを最大限に活かす
あらためて考える配置・異動・昇進のあり方

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会社全体のパフォーマンス向上を目的として、配属・異動・昇進のあり方を見直そうとする企業が増えています。そのような状況下、パーソル総合研究所では、2020年から3年間にわたり、人事異動をテーマに大手企業の人事部にヒアリング調査を実施。延べ86社に及ぶ貴重な調査結果を基に、上席主任研究員の藤井 薫が書籍『人事ガチャの秘密-配属・異動・昇進のからくり』を書き上げました。現在、日本企業の異動・配置にはどのような課題があり、どういった対応が必要なのかについて、藤井がインタビューに答えました。

  1. 属性によって異なる「配属・異動・昇進」に関する課題
  2. どうすれば社員一人ひとりに着目することができるのか
  3. 配置・異動・昇進はタレントマネジメントそのものである

属性によって異なる「配属・異動・昇進」に関する課題

――日本企業における配属・異動・昇進の現状をどのようにご覧になっていますか。

最近は「配属ガチャ」「上司ガチャ」などとよく言われますが、新卒に限らず、ミドル・シニアや中堅も会社主導のブラックボックスで決まる異動配置に不条理を感じているのではないでしょうか。

キャリア自律の重要性が叫ばれ、自分のキャリアは自分で作ることが当然だという時代になってきています。確かに若年層を中心として自分で仕事を選びたいという志向は強くなっていますし、社内公募などの手挙げの異動の拡充も必要です。しかし、本当にそれだけでいいのか、疑問もあります。そもそも新卒をはじめとする若い人が仕事を選ぼうとしても、自分がいま思いつく範囲は限られていますよね。

また現在、従業員の働き方は多様化していて、例えば共働きや介護など、生活面で個人的な事情を抱えている人が増えています。人事部はそういったことも含めて、これまで以上に配属・異動・昇進において社員一人ひとりの意向に気を遣わなければいけなくなっています。

もちろん、会社側にも戦略的配置や要員確保、要員の適正化といったニーズがあるわけですが、それらが社員の意向と合致するとは限りません。完全一致はあり得ないので、どうするかです。

私は2020年から3年間にわたり、大企業の人事部にヒアリング調査を行ってきました。その結果、人事異動案を人事部門が作る企業は全体の約3割で、人事部は異動配置の重要性は十分認識しているものの、実際の運用にはあまり主体的に関わっていないことがわかりました(図1)。特に一般社員に関しては、目立った問題がない限り事業部門に任せている企業が多く見られます。その場合、事業部門は個人のニーズが叶うように異動や配置を考えているのか。また、人事部は必要な支援や介入をしているのか。「社員一人ひとりを見ることが重要」と言っても、それほど実現できていないことに問題意識を感じています。

図1:人事異動案の作成主体

図1:人事異動案の作成主体

出所:パーソル総合研究所「非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)」

※割合は全31社に対する値
※人事部門が規定上の人事権を持っていても原則として部門案をそのまま承認するという運用になっている場合は「各部門」とカウント


――配属・異動・昇進について、どのような傾向や課題があるとお考えですか。管理職、非管理職、ハイパフォーマー、女性などの属性ごとにお聞かせください。

管理職に関する課題は三つあります。一つ目は、課長として20年を過ごす間に専門性をどう維持・向上させていくのか。調査によると、多くの管理職は40歳ぐらいで課長になり、役職定年や定年まで約20年間、課長をやり続けるというのが平均的な姿です。最近はリタイアまでの期間が長くなっているので、管理職ポストを離れた後の5年、10年においてもプレーヤーとして通用する専門性が重要です。

二つ目は、どのようにポストオフを行い、新陳代謝を進めるのか。現在は特に部長などの上級管理職ポストは数が絞られているので、新陳代謝の仕組みが必要です。エイジフリーの要請もある中、役職定年制度の是非には議論があります。どのようにして新陳代謝を行えばいいのかに悩む企業は多いようです。

三つ目は、マネジメント人材をどう作っていくか。最近の若い人は管理職になりたがらない傾向もあり、ファーストラインである課長が足りず、上席者による兼務が常態化している企業も少なくありません。

次に非管理職ですが、企業は30歳ぐらいまでの若手に対しては比較的手厚くフォローしています。新卒は何もスキルがない状態で入社するので、計画的に仕事の経験を積ませて育成する必要があります。企業によって「10年間3部署・ジェネラリスト育成型」や「幅出しローテーション個別対応型」など、代表的なもので6パターンあります。

しかし30代半ばになってくると、人事部の関心は管理職候補を見つけて管理職を作ることに移っていきます。管理職候補ではない人たちは、各部署の中核戦力です。標準的・平均的な人事評価成績の人が多いはずです。つまり、「ほぼ期待に応えてくれている人」ということです。私は「目配りされないミドルパフォーマー」と呼んでいますが、特に問題がないがゆえに、異動対象になることは少なくなり、放置されて塩漬けになるリスクがあります。私が注視しているのは、30~40代前半のそういう人たちです。そのまま同じことを続けていて、専門性を深めたり広げたりできるのかという問題意識を持っています。

多くの場合、新卒から10年も経てば一人前になり、管理職にならなくてもプレーヤーとして活躍する人が大勢います。しかし、そういう人たちが40代半ばくらいで、ローパフォーマー化するリスクも非常に大きいのです。それには二つのパターンがあります。一つは年齢を重ねるにつれてパフォーマンスが落ちてくるパターン。もう一つは、年功序列を引きずっている日本の人事管理の問題です。昇格・昇給することによって評価のハードルが上がり、パフォーマンスは昔と同じでも評価成績が下がるパターンです。すると、少しずつ行き場所がなくなっていくのです。

次にハイパフォーマ―ですが、方向性は二つあります。次世代経営人材という観点でいろいろな部署で幅広い経験を積んでいくのか、今携わっている職種や事業に専門特化していくのかを考えなければなりません。後者は必ずしも専門職という意味ではありません。ある職種や事業に関する高度な専門性を持つ管理職も含まれます。

最後に女性ですが、傾向は大きく二つにわかれます。一つは、昇進昇格志向がある女性。現在、多くの企業が女性活躍推進を経営課題として掲げています。昇進昇格志向がある人にとっては、チャンスが大きくなっていると言えるでしょう。もう一つは、ワークライフバランス派の女性。必ずしも女性に限った話ではありませんが、徐々に働き方の選択肢が広がってきたとはいえ、まだ十分とは言えません。

どうすれば社員一人ひとりに着目することができるのか

――それらの課題は、どのように解決すればいいのでしょうか。

個人の選択肢を増やしていくとともに、人事の目が行き届く範囲を広げていくことがポイントです。現状では、人事に目配りされている人たちとそうではない人たちがいます。問題は、マジョリティーと言われる人たちに目が届いていないことです。

例えば、経営人材の発掘・育成はタレントマネジメントにおける最大の関心事です。経営も人事も力を入れています。管理職や管理職候補といったマネジメント人材、そして、各部署のハイパフォーマーも同様です。一方で、ローパフォーマーも目配りされています。会社としてもずっとローパフォーマーのままでは困るので、現在の職場がミスマッチなら新たな活躍先を見つける必要があるわけです。

しかし、このような人たちは一握りです。それ以外の大多数の人たちの異動・配置・昇格の権限は、多くの場合、各事業部門が握っていて、必ずしもきちんと目配りされているとは言えません。

異動や配置のプロセスは大きく二つに分けられます。「適材適所」と「適所適材」です。両者は検討プロセスが全く異なります。

「適所適材」は、あるポジションに誰かを充てなければいけないので適した人を探す、というやり方です。事業部門に人事の権限がある場合、ミドルパフォーマーの異動配置は、ほとんどが適所適材パターンになります。ポジションニーズがなければ、基本的にミドルパフォーマーが異動対象者としてクローズアップされることはありません。

一方の「適材適所」は、ポジションを想定する前に異動候補者のリストを作ります。あるポジションに誰かを持って行くのではなく、最初に異動する人たちを決めてから、それぞれの人に相応しいポジションを考えていくやり方です(図2)。近頃は適所適材が強調されることが多くなっていますが、適材適所にもメリットが多く、再評価しなければいけないでしょう。適材適所型のアプローチには、後回しにされがちなミドルパフォーマーも含めて、まずは人に着目するという良さがあります。

図2:適材適所型人事異動フロー

図2:適材適所型人事異動フロー

出所:パーソル総合研究所「非管理職層の異動配置に関する実態調査(2021)」


――社員一人ひとりに目配りができていることが重要なのですね。

その通りです。人事として当たり前のことをどうやるのかが重要です。とは言え、複数事業と多くの社員を抱えている企業では、本社の人事部が全社員を直接目配りすることは難しいのも事実です。そのため、事業部門人事やHRBPの役割が重要になってきます。

また、手挙げ制度の拡充も有効です。例えば、社内公募制度やフリーエージェント(FA)制度などです。ただ、うまく機能していない企業が多いのも事実です。たとえば社内公募であれば、既存事業の営業職のような一般的ポジションの公募数を増やすなどの施策が必要です。これまでと全く違う仕事にチャレンジできることも社内公募のメリットですが、自分の専門分野の軸の幅を広げるための「幅出し」の異動の受け皿をしっかりと用意することです。

――配属・異動・昇進などが行われる際には、従業員から不満の声があがることがあります。このような状況を防ぐために、人事ができることは何でしょうか。

まずは、なぜあなたがそこに異動するのか、その目的や理由をしっかりと本人に説明してあげることです。もちろん、できるだけ不平不満を減らすことも大事ですが、それ以上に人事は、成長しない社員を減らすことを考えるべきです。短期的には不平不満を感じることがあっても中長期的に見れば、その人にとってプラスになることもあります。そのことをきちんと説明できなくてはいけません。

配置・異動・昇進はタレントマネジメントそのものである

――配属・異動・昇進における、タレントマネジメントの活用方法について教えてください。

タレントマネジメントでは、経営戦略推進上のキーポジションに最適なタレントを配置することが重視されます。パーソル総合研究所は、それに加えて「全員型タレントマネジメント」の重要性を強調しています。社員一人ひとりに活躍できる場所、「はまりどころ」を見つける、ということです。

誰しも自分に合った仕事や環境のほうがパフォーマンスは上がります。より多くの人に「はまりどころ」を提供できれば、企業全体のパフォーマンスも大きく変わるはずです。長期雇用の社員を多く抱える企業にとって、配置や異動とはタレントマネジメントそのものなのです。

タレントマネジメントシステムについて言うと、「このポジションの要件に合う人を見つける」適所適材型の使い方がひとつです。もう一つは、アセスメントやパルスサーベイなどの情報も取り込んで「異動検討対象とすべき人を探す」適所適材型の使い方です。さらに、社内公募などの手挙げの異動のプラットフォームとして活用する企業も増えてくるかもしれません。

――先日(2023年2月10日)、著者『人事ガチャの秘密』が発刊されました。本作に込めた思いや、アピールしたいポイントなどについてお聞かせください。

「人事ガチャ」は、いま流行語となりつつある「配属ガチャ」や「上司ガチャ」から連想した造語です。ガチャはブラックボックスに対する一種の不条理感のようなもので、新入社員だけでなく、会社に勤めていたら誰もが感じることがあるはずです。そのブラックボックスの一端を解き明かすことが、読者の方々のキャリア形成の参考にならないか。それが執筆の動機です。

2020年から3年間にわたり実施した大手企業へのヒアリング調査結果を基に書きました。基本的な想定読者は若手ビジネスパーソンですが、人事の方々にとっても読みごたえのあるものになったと思っています。この本が、自社の人事異動配置のあり方を振り返るきっかけになることを願っています。

――最後に、企業の人事部の方々にメッセージをいただけますか。

人事の方々には、とにかく、社員一人ひとりに目を向けてほしいですね。最近は人的資本経営が注目されていて経営陣からのプレッシャーも相当なものでしょうし、その時々のトレンドになっているトピックスやテーマに追いかけられて、人事部はさらに忙しくなっています。ただ、どんな人事施策であっても、その成否は「誰をどこに配置するか」に大きく依存します。やはり、「個別把握なくして人事なし」ではないかと思います。

※このページは「日本の人事部」に掲載された内容を転載しています。

執筆者紹介

藤井 薫

シンクタンク本部
上席主任研究員

藤井 薫

Kaoru Fujii

電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。人事専門誌などへの寄稿も多数。
2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。


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