女性の管理職昇進意欲を高める鍵は「管理職への両立支援」

公開日 2023/02/27

執筆者:シンクタンク本部 研究員 砂川 和泉

女性活躍コラムイメージ画像

1986年の男女雇用機会均等法施行以降、企業の女性活躍推進の取り組みは、女性の採用から結婚・出産時の継続就労促進、仕事と家庭の両立支援、そしてキャリア形成支援へと進んできた。しかし、大手企業中心に両立環境は整ってきたものの、未だに多くの企業で女性管理職比率は低い水準に留まっている。

なぜ女性管理職は少ないのか。本コラムでは、パーソル総合研究所がおこなった「女性活躍推進に関する定量調査」の結果を基に、女性管理職を増やすための人事施策について考える。

  1. 女性活躍推進の一番の問題は「女性の昇進意欲の無さ」
  2. 管理職への昇進意欲が向上する「女性ならではの施策」が必要
  3. 管理職への両立支援で管理職の働き方の見直しを
  4. 「評価・処遇」と「時間的拘束を減らす手段」の工夫で時短管理職の導入を
  5. まとめ

女性活躍推進の一番の問題は「女性の昇進意欲の無さ」

女性の活躍を推進する上で、企業が最も問題視しているのが「女性の昇進意欲の無さ」である(図1)。各企業における女性管理職の比率ごとに見ても、女性管理職比率の高低にかかわらず、「女性の昇進意欲の無さ」が問題となっていた。

図1:女性活躍のための課題感

図1:女性活躍のための課題感

出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」


女性本人の意識を見ても、自社の女性管理職が多いか少ないかにかかわらず、管理職になりたいと思っている女性の割合は男性よりも低い水準に留まっている(図2)。

図2:管理職への昇進意欲がある人の割合(女性管理職比率のフェーズ*別)

図2:管理職への昇進意欲がある人の割合(女性管理職比率のフェーズ*別)

各企業における女性管理職の比率ごとに、0%:フェーズ【Ⅰ】/1%以上10%未満:【Ⅱ】/10%以上20%未満:【Ⅲ】/20%以上:【Ⅳ】、の4フェーズに分類

出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」

管理職への昇進意欲が向上する「女性ならではの施策」が必要

では、どうしたら女性の管理職への昇進意欲が高まるのか。これまでも、企業は女性活躍推進を目的としたさまざまな施策を実施してきた。ところが、統計的に分析すると、それらの施策の多くは、女性ではなく「男性の」意欲を向上させていた。具体的には、「育児サポート」や「女性ロールモデルの公開」、「新卒女性採用数の目標設定」などの施策を実施している企業では、「男性の」管理職への昇進意欲が高くなっている(図3)。

図3:従来の女性活躍推進施策と管理職への昇進意欲との関係

図3:従来の女性活躍推進施策と管理職への昇進意欲との関係

出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」


なぜこれらの施策は、女性ではなく「男性の」意欲と関連しているのか。それは、女性の管理職への昇進意欲を低下させる構造を温存した施策にすぎないからだと筆者は考える。従来の男性にあわせた人事制度や風土を変えずに表層的な対応で女性活躍を推進しようとしても、かえって男性の優位性を助長しかねない。

例えば、子育て中の女性が仕事との両立のために昇進・昇格から遠ざかる「マミートラック」に乗りがちな現状では、従来型の両立支援は、女性の昇進意欲を冷却させ、男性の昇進・昇格を後押しするものになりえる。また、長時間働く、いわゆる「スーパーウーマン」の事例をロールモデルとして公開したところで、多くの女性にとっては魅力に映らず、仕事と家庭の両立を望む女性はその働き方を真似したいと思わないだろう。

一方で、女性が管理職になると、男性は管理職の多様性が増したと捉えるかもしれない。そうすると、これまでの画一的な管理職像に抵抗があった男性にとっては、管理職になるハードルが下がると考えられる。したがって、男女格差を是正するためには、女性の管理職への昇進意欲の低下を防ぐ、より踏み込んだ施策が必要になる。

管理職への両立支援で管理職の働き方の見直しを

そこで、女性ならではの管理職になりたくない理由に目を向けると、「子育てとの両立困難」や「マネジメントを行う自信のなさ」が特徴となっている。女性は結婚や出産後に給与の重視度が下がる一方で、勤務時間の重視度が高まる(図4)。「自信がない」背景にも両立への不安があると考えられることから、女性が管理職になりたいと思うためには、管理職に対する両立支援が肝要だ。従来の両立支援策は一般社員向けのものに留まってきたが、管理職の働き方こそを変えなくてはならない。

図4:ライフステージ別の仕事の重視度

図4:ライフステージ別の仕事の重視度

出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」


管理職になると、一般社員よりも労働時間が長くなる傾向がある。今回の調査結果では、一般社員層では月平均残業時間が13.7時間であるのに対して、課長層では25.0時間。一般社員層よりも課長層の方がより長く働いていた。こうした状況を踏まえると、長い労働時間を前提としない管理職の枠組みがあれば、女性の昇進意欲向上にプラスに働くと考えられる。

例えば、労働時間を短縮する観点から管理職の在り方を見直す場合、象徴的な施策として、「時短管理職」、すなわち、管理職の短時間勤務が挙げられる。実際の分析でも、管理職の短時間勤務制度がある企業では、制度がない企業と比べて、管理職への昇進意欲がある女性の割合が2.6倍の水準で高くなっている。

図5:管理職の短時間勤務制度と女性の管理職への昇進意欲との関係

図5:管理職の短時間勤務制度と女性の管理職への昇進意欲との関係

出所:パーソル総合研究所「女性活躍推進に関する定量調査」


これまで多くの企業が一般社員のみを短時間勤務の対象としていたが、近年は管理職にも短時間勤務を導入する企業を目にするようになってきた。課長クラスだけでなく、短時間勤務の女性執行役員や女性工場長が誕生している企業もある。

「評価・処遇」と「時間的拘束を減らす手段」の工夫で時短管理職の導入を

そうはいっても、時短管理職を導入しようとすると、いくつかの課題が浮上する。代表的なものは「評価・処遇」と「時間的拘束を減らす手段」だ。

まず、「評価・処遇」については、時短管理職の給与を下げるべきか、どのくらい下げるべきか、ということが問題となる。実際には所定労働時間に対する申請勤務時間の割合で給与額を決定しているケースが多く見られるが、企業は「長時間働いている人が不公平感を感じるのではないか」という懸念、短時間勤務者本人は「効率的に働いているのに損をしている」という意識を感じていることがある。本来であれば、労働時間の規定が適用されない労働基準法上の管理監督者の場合、管理職としての職責をしっかり果たす限り、一般社員のような時短分の賃金控除はされなくともよいとも考えられる。しかし、職務・職責が曖昧な中、長時間のコミットを評価の拠り所としている慣習が時短管理職の評価を難しくしている。時短管理職に対して適切な評価・処遇を行うには、職務・職責を明確にして切り分けるとともに、その内容と評価・処遇を結びつけることが必要である。

次いで、「時間的拘束を減らす手段」には、不要な仕事の削減に加えて、仕事の分かち合いや権限委譲がある。管理職の仕事の一部を同僚や部下が担うと、職場全体の仕事の見直しや効率化、任された部下や同僚自身の成長につながる。時短管理職をしている女性へのインタビューでは、自身の時間管理や結果にこだわる姿勢とあわせて、夕方以降の仕事は権限委譲して部下に任せている話が語られることが多い。

一方で、信頼して任せられるようなメンバーがいない場合、権限委譲は難しいこともある。そうした場合、事業の知識やマネジメント経験があるシニア人材の活用も一案だ。その際、ニーズがある部署にシニア人材を無理やり異動させるのではなく、フリーエージェント制度のような仕組みを活用して主体的に仕事を引き受けてもらえるような工夫も一考に値する。

管理職への両立支援で管理職の働き方を見直すには、上記のような工夫で長時間労働と評価・処遇の見直しというハードルを乗り越えていく必要がある。

まとめ

近年では、働き方改革等のしわ寄せが管理職にいき、管理職の負担は年々高まるばかりだ。仕事と家庭の両立が困難な働き方を管理職が求められる限り、両立のためには一般社員に留まらざるを得ない。そのような中、管理職でも「時間の確保ができること」が女性の昇進意欲を後押しすると考えられる。管理職が時間の確保をするための象徴的な施策のひとつが「管理職の短時間勤務制度」だ。時短管理職は、仕事の上で「時間」を重視する女性のニーズに合致しているとともに、年々高まる管理職の負荷を軽減するための打開策であるともいえる。

女性管理職を増やすには、既存の制度や仕組みを前提とした従来型の一般社員向け両立支援や女性登用から駒を進め、女性が管理職になりたいと思えるように、抜本的に管理職の働き方を見直していくことが必要である。

執筆者紹介

砂川 和泉

シンクタンク本部
研究員

砂川 和泉

Izumi Sunakawa

大手市場調査会社にて10年以上にわたり調査・分析業務に従事。定量・定性調査や顧客企業のID付きPOSデータ分析を担当した他、自社内の社員意識調査と社員データの統合分析や働き方改革プロジェクトにも参画。2018年より現職。現在の主な調査・研究領域は、女性の就労、キャリアなど。


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