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2016.07.12

「戦略人事」となるために(1)

副社長  櫻井 功

現代の人事に求められていること

飛躍昔から、また現代においてはなおさら、企業の成功がひとえに「人材」にかかっているということに異を唱える人は少ないだろう。センシング技術や演算処理能力の向上、生産技術の驚異的革新や、AIの進化、流通や情報伝播の加速によるイノベーションスピードの飛躍的上昇、お客様の志向の多様化に伴うプロダクトの短命化などから、企業には「過去の成功体験に基づかないクオンタムリープ(量子的飛躍、非連続の飛躍)」が常に求められるようになってきている。そして、その飛躍を作り出すのは常に「人材」である。企業が抱える人材の総和が、どれだけ多能で変化に素早く対応できるかが問われているのである。長年企業において人事リーダーをしてきた私が、「現代の人事の仕事とは何か」と問われれば、それはまさに「組織・従業員に『クオンタムリープ』を起こすこと、起こりやすい土壌を作ること」だと答えるだろう。

私が最初に「クオンタムリープ」を、身をもって経験したのは新入社員の時であった。
当時勤務していた会社の店舗が浅草にあったため、三社祭で町会神輿を担ぐことになった。町会神輿は宮神輿に比べればはるかに小さいがそれとて数百キロはあり、30人ぐらいで担いでも揺れる神輿が肩に食い込む重さは尋常ではない。しかし、数万人の観衆が見守る中、仲見世通りにある宝蔵門の下まで来たとき、今まで経験したことのない高揚感を感じ、皆が指先で支えているだけなのに神輿が“高く跳ねた”のだった。誰しも団体スポーツやグループ作業で、多かれ少なかれ似たような経験をしたことがあるのではないだろうか。

もちろんこの例は非連続の飛躍が継続的ではなかった(そのあとへとへとで雷門を出たところでへたり込んだ)点で、組織の「クオンタムリープ」とは少し違い、「一過性の火事場の馬鹿力」といった説明のほうが正しいのかもしれない。しかし、つい先ほどまで支えきれないほど重く感じていた神輿が、ある瞬間に突然、皆の心・タイミングが合い、さらに高揚感の中で皆の力の総和がその重さを大きく超えて楽々と支えることができた、という意味で、一種の「クオンタムリープ」だったといってもよいのではないか。つまり、シナジーが働いた瞬間に、個の力の総和よりも組織の力の方が大きくなり、それがある点を超えると非連続の飛躍が起こったと考えられるのである。

このような「非連続の飛躍」の実現など、人事に求められる機能が高度化してきている中で、特に最近注目を浴びているのが「戦略人事」という言葉である。

ちょうど私が企業人事でリーダーシップポジションに就いた20年ぐらい前から、特にGEなどの外資系企業で使われ始めた言葉のように思う。また最近、「ハーバード・ビジネス・レビュー」でも「戦略人事」をテーマとした号が刊行され、人事界においてバズワード化しているといってよいだろう。しかし、「戦略人事」について正しく理解している人は少なく、たとえ理解していてもなかなか戦略人事的行動をとるまでには至らない人事の方が多いのではないだろうか。

そこで本稿では、2回にわたり、「戦略人事」とは何か、なぜ現代の日本の企業人事は戦略人事的行動がとりづらいのか、そしてそれを解決するにはどうしたらよいのかを考えてみたいと思う。

>>次ページは 戦略人事とは何か

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