正社員マネジメントの未来 ~正社員に求められる「価値」とは

公開日 2015/11/25

商品ライフサイクルの短命化や仕事の機械化が進む中、正社員には従来とは質の異なる「価値」を創り出す能力が求められている。それは具体的にどのような「価値」なのか、またその「価値」を生み出せるのはどのような人材なのか。

正社員マネジメントの在り方とは?」では、「これからの正社員の在り方を考える研究会」で議論してきた"これからの正社員とそのマネジメント"について法政大学大学院政策創造研究科の石山恒貴教授に寄稿いただいた。本コラムでは、今後正社員に求められる創造すべき「価値」そのものについて論考したい。

これからの正社員に求められるもの

pc_businessman-300x200.jpg人間が行う仕事の約半分が機械に奪われる――。 英オックスフード大学マイケル・A・オズボーン准教授『雇用の未来--コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文が今、世界中で話題となっている。10年で「消える職業」「なくなる仕事」として90%を超える確率でなくなる仕事の一覧を見ると、正社員として雇用されている職種も多く存在する。

また、オズボーン氏によると、最近の技術革新は非定型業務だと思われてきた仕事のルーチン化を可能にするとし、今現在付加価値の高い仕事も機械にとって代わられると予測している。機械化・コンピューター化された定型業務の処理や単純化された作業レベルの処理は、低賃金の非正規労働者や海外途上国の労働者に回されるのが世の常である。よって正社員はより高度なクリエイティブ能力を発揮することが求められる。

一方、企業において商品ライフサイクルの短命化が止まらない。1970年以前はヒット商品の60%が5年を超えて消費されたが、2000年以降は5年越えのヒット商品は5%未満で、1年未満しかヒットが続かない商品が20%となっている。例えば、太陽電池や半導体などで圧倒的なシェアを有していた産業が急速にシェアを落とし、市場を失うという事態が起こっている。「作れば売れる」時代から「売れるモノを創る」時代への対応ができていないのだ。

クリエイティブな能力を発揮することが求められる正社員は、「売れるモノを創る」ためにどう取り組んでいけばいいのか。また、そのような人を正社員の中から発掘・育成するにはどうすればいいのか。「正社員マネジメントの在り方とは?」では、正社員を「価値創造型人材」と「価値実現型人材」に区分し、それぞれ異なった人材マネジメントを行うべきとしている。

価値とは、価値創造型人材とは何か

では、そもそも「価値」とは何か。ここからは、その「価値」について、また「価値創造型人材」とは何かについて触れたい。「価値」とは「売れるモノ」であり、「価値創造」とは「売れるモノを創る」ことである。「売れるモノ」とは、従来売れていたモノの改良と新たな発想で生まれたモノを指し、広義でイノベーションと言える。イノベーションサイクルには3段階あると言われる。

第1ステップは理論を中心とした科学から具体的に使えるような技術に変換する「技術開発」。第2ステップは様々な技術を統合して具体的なハードやソフトウェアなどの商品にまとめ上げる「商品開発」。第3ステップは、商品という無機質な価値しかないものを企業の価値に変換し獲得する「事業開発」である(※1)。

図1-547x1024.png

日本企業が「売れるモノを創る」ことができない要因は第3ステップにある。日本企業の負けパターンを時系列で見ると、
(1)画期的な発明を基に画期的製品をつくり上げ、市場に導入する。
(2)市場導入期には圧倒的な力を見せて100%近いシェアを誇る。
(3)しばらくすると新興国諸国が追いつき始め、市場が拡大するとともに逆にシェアを落としていく(製品が成長期に入ると途端にダメになる)(※2)。

(3)のフェーズで「利益」が出ない場合の原因は、「価格が低い」か「コストが高い」かである。そこで日本企業はコストを抑える選択をしがちだ。なぜなら、「価格」を高くする・維持するための戦略を考えておらず、安易な方向に流れるためだ。そうならないためには、商品を届けたい顧客は誰か、そのための阻害要因として競合他社や技術はどうなっているのか、自社の抱える問題・課題は何かといった事業視点を持つこと。そして「商品開発」の段階でそれらを分析・把握し、事業化を見据えて商品コンセプトを作り、価値を考え、生み出すことが必要である。

第4ステップ「ブランド開発」

今日のように激変する市場で商品ライフサイクルの短命化が起こっている中、先述の3サイクルに加え、第4ステップとして「ブランド開発」を行う必要がある。それは顧客の共感を引き出し、商品・サービスを通じて長期間情緒的なつながりを維持できるようにすること。すなわち、人が生きていく上で自分にふさわしいと共感できることや気づきから意識を変え、行動を変えていきたいと思わせる商品・サービスを創ることだ。

しかし、市場は常に変化しており、そういった顧客にとって「個人的な意味を持つこと」も、その時々に応じて変化する。よって、顧客とのつながり(レレバンス)を失わないように、常に顧客とコミュニケーションを取ることが必要である。その際、注意すべき点は次のような反応を顧客から得ることである。「自分のニーズを満たしてくれる」「自分の暮らしを楽にしてくれる」「万人受けはしないが、自分向けである」「インスピレーションを与えてくれる」「これと関わっている自分が好きだ」「これと関わっていることをみんなに知ってほしい」「自分が大切にしている価値観と深い関係がある」「自分と同じものを支持している」(※3)。こうしたつながりを長期的に維持するために、現在の自社の在り方や目指していく方向に基づいて組織、人材、企業風土を変え続けられる。そんな人材こそ、価値創造型人材といえるだろう。

※1 古田健二著「イノベーション人材がリードする日本企業の「真」成長戦略」、2014年、中央経済社、12、13頁
※2 妹尾堅一郎著「技術力で勝てる日本が、なぜ事業で負けるのか」、2009年、ダイヤモンド社、133頁
※3 アンドレア・コーヴィル/ポール・B・ブラウン著「レレバンス・イノベーション」、2014年、マグロウヒル・エデュケーション

*本記事は、機関誌「HITO」vol.08『正社員マネジメントの未来』からの抜粋記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。


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