ミドルマネジメント再考

公開日 2014/12/16

これまでのミドルマネジメントに関する議論の多くは、ミドルマネジャー像を一様にとらえ、主に期待論と失望論の二元論によって展開されてきた。しかし、変わりゆく時代の中で、決してミドルマネジャー像も一様にとらえられるものではなく、期待される役割もそれぞれに応じて異なるのではないだろうか。それでは、そもそも実際の現場に「実在する」ミドルマネジャーとはどのような人たちなのか。また、ミドルマネジャーに期待される役割とは何なのか。
本稿では、オリジナルのタイプ分類によってミドルマネジャーを多面的にとらえ、それぞれに期待される役割や育成のあり方を論考する。

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一様なミドルマネジャー像の限界、ミドルマネジャーの類型化

須東:2012年5月、日本経済団体連合会から「ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応」という報告書が発表されました。報告書では、ミドルマネジャーに求められる役割のうち、「新規事業等の企画立案」や「部下のキャリアを見据えた育成」等の重要度が高くなっています。人事の現場にいる皆様は、これからのミドルマネジャー(年齢は45~55歳、役職は課長・部長クラス)はどうあるべきとお考えでしょうか。

牛島:ミドルマネジャーに期待する役割は変化しつつありますよね。昔は、社内の情報や業務を交通整理することがメインでした。しかし、今では、ITの進歩によって、社内情報が自由に流れる仕組みができあがり、ミドルマネジャーによる交通整理の必要性が薄れています。

工代:そうですね。これからは単なる情報の交通整理ではなく、リーダーシップを発揮して、組織をうまく方向づけていく役割が期待されています。

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株式会社HRファーブラ 山本 紳也 氏

山本:以前は、ミドルマネジャーがやるべきことは決まっていたけれど、今は、あらゆる状況に対応して、自分で物事を判断することが求められています。一方で、求められる専門性の水準も上がっていますよね。例えば、財務経理の担当は、昔は簿記の知識で十分だったが、今は連結決算、移転価格税制、財務戦略等、幅広い知識を求められます。

牛島:とはいっても、ミドルマネジャーがすべての特定分野の専門を極めることは不可能ですよね。むしろ、マネジャーに必要なのは、専門家の仕事のクオリティを見極められるリテラシーを持っていることではないでしょうか。

山本:ミドルマネジャーと一口に言っても、現場できちんと仕事をまわすオペレーション人材もいれば、経営幹部候補もいます。日本では、それらを一緒に取り扱って、議論が混乱することがしばしばあります。少なくとも、経営幹部候補は分けて議論した方がよいですね。

工代:あと、新しいものを創ることができるイノベーターも別に取り扱ったほうが良いですね。既存の事業を運営するマネジャーと、新しいものを創ることをミッションとしている人とはまったく別ですから。

須東:これまでの議論を整理しますと、ミドルマネジャーに期待されている役割は多様であり、それを1つの像でとらえることに限界があると言えそうですね。

ミドルマネジャーへの期待という観点から、(1)経営幹部候補、(2)イノベーター、(3)オペレーション人材というキーワードが出てきました。今後の議論を深めるために、ミドルマネジャーを2つの軸で整理したいと思います。1つの軸は、課題解決型と課題設定型、もう1つの軸は、業務継続型と業務変革型。つまり、ミドルマネジャーを2つの軸を設定し、4つのタイプに分類してはどうでしょう。課題解決/継続型(以下、タイプⅢ)はオペレーション人材、課題設定/変革型(以下、タイプⅠ)はイノベーターのイメージでしょうか。

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本業の大黒柱タイプⅢは再評価、新しい価値を創るタイプⅠ・Ⅱ・Ⅳを確保

須東:ここからは4タイプに分類されたミドルマネジャーの役割について見ていきたいと思います。まず組織において最も多い割合を占めるタイプⅢから見ていくことにしましょう。

牛島:近年、ミドルマネジャーに対して、イノベーターとしての役割を求める声が強まっています。しかし、その一方でオペレーショナルなタイプⅢが組織において果たす役割とその価値が軽視されているのではないでしょうか。そもそも、既存事業をきちんとまわしているのは、実はタイプⅢですよね。

須東:組織風土を守る役割もタイプⅢに期待されています。その意味でも重要な存在だと思います。

牛島:一方、タイプⅢに関しては、いろいろな問題が起こっているのも事実です。自分の仕事に枠を作ってしまうとか、モチベーションが下がり、周囲に悪影響を与えるとか。タイプⅢの管理・処遇・育成が重要な課題になっています。

須東:つまり、タイプⅢは、ビジネスと組織の中核として機能しているけれど、中には、自分の仕事の範囲を狭めてしまう「タコツボ化」が起きているということでしょうか。では、他のタイプはいかがでしょうか。

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GE クロトンビル 牛島 仁 氏

牛島:まったく新しいニーズをとらえて、既存にはない考え方を作り出すのが、タイプⅠですよね。

工代:課題設定/継続型(以下、タイプⅣ)は、大きなイノベーションを起こすわけではないけど、既存の事業を改善していく。こういう人材にはすごく価値があります。陳腐化のスピードが速くなっているので、日々、チューニングを図る必要がある。事業価値や収益を担保しているのはそうした存在のマネジャーだと思います。

須東:一方、サムスン等の一部の製造業では、従来の製品の技術を他の領域に水平展開するときに課題解決/変革型(以下、タイプⅡ)が求められています。

タイプⅠは放任、タイプⅢの底上げでタイプⅡとタイプⅣへ

須東:タイプⅢのタコツボ化という問題を回避するために、どのような成長支援が考えられるか話し合いたいと思います。まずは、タイプⅢからタイプⅠへの育成。これは可能なのでしょうか。

牛島:最近、タイプⅠの人材を育てる試みが増えていますが、これは育てようとして育てられるものではないと思います。タイプⅠは、管理しすぎないことが肝心です。例えば、Googleは会社主導の人材開発にそれほど力を入れていない。勝手に伸びていくための場を多く提供し、育つのを邪魔しない。むしろ、人材開発よりもそういった素地を持った人材の採用のほうが大事だということです。

須東:では、タイプⅢからタイプⅣへいかに成長させるかについてご意見ありますか。

牛島:タイプⅢからタイプⅣへ成長させるためには、認識を変えさせることが大切です。自分たちの仕事は、課題解決だけではなく、どんな課題にアプローチするのかを決めることも含まれるということを気付かせてあげることが重要です。

山本:タイプⅢのレベルを底上げすれば、タイプⅣは出てくるはずです。過去、日本企業の成功要因のひとつであった製造業のQCサークルはその代表例かもしれませんね。タイプⅢが集まり、議論を重ねることで、新しい問題に気付き、自ら課題設定するタイプⅣが生まれてきたわけです。

牛島:シャドーイングも効果的ですよね。優秀な人の仕事の進め方を真似ることで、これまでは気づかなかった視点に目が留まり、引き出しが増えていきます。結果として、課題設定の仕方を習得し、タイプⅣへ成長できる。

須東:次に、タイプⅢからタイプⅡへ、いかに成長させるかについていかがでしょうか。

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株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 工代 将章 氏

工代:異なるマインドセットを持った人と関わることで、自分自身のマインドセットに変化が起きて、タイプⅡへ成長する可能性はあると思います。

山本:同じ会社で20 年間、継続型の仕事をしてきた人に、直接的に働きかけても効果は薄いでしょう。それより、中途採用で異なるマインドセットの人を採用して、元々いる社員と化学反応させる。その刺激によって元々いる社員のマインドセットに変化が生まれることを期待したいです。

須東:現場のマネジャーの力量だけで継続型から変革型へ成長させることは難しい。そこには人事のプロフェッショナルである人事部の組織開発が必要になってくるということですね。他に、個人のマインドセットを変えるためにはどんな方法が考えられますか。

工代:機会を与えることでしょうか。新規事業開発のように継続が通用しない仕事を任せるとか。

山本:経営責任を負わせて関連会社を任せたり、今ある関連会社の閉鎖業務を担当させたり。とにかく、これまでの常識が通用しないような場を用意する。ただ、この方法の問題点は、大企業でもそんなに場をたくさん作れるわけじゃないので、ごく一部の人にしか機会を与えることはできないことです。

牛島:個人のマインドセットを大きく揺さぶるには、これまでの仕事の進め方とは全く異なるような場を与えないと難しいですよね。ただし、その場合には、同時にしっかりしたメンターをつけて、フォローすることも必要だと思います。

須東:4タイプの育成としては、タイプⅠはとにかく邪魔せず放任する。やるべきことは、タイプⅢの底上げ。例えば、気付きを与えたり、場を与えたりすることにより、タイプⅡやタイプⅣへ成長させられる可能性が見えてきました。皆様、長時間、ありがとうございました。

※本記事は、機関誌「HITO」vol.03 『ミドルの未来』からの転載記事です。
※文中の内容・肩書等はすべてWEB転載時点のもの。


■ 牛島 仁(うしじま・じん)
GE クロトンビル リージョナルラーニングリーダー
コロンビア大学にて国際教育開発学修士。米国金融グループに入社し、人事全般に携わる。その後、2006年に人材・組織開発の責任者としてDHLジャパン株式会社に入社。2010年よりドイツ本社で勤務した後、2014年11月よりGEに入社し現職につく。各種人事団体や心理学会にて事例発表や講演を数多く行ない、人事専門誌に寄稿をしている。また、各種アセスメントツール(EQ検査、ストレス耐性検査、行動特性検査)開発のアドバイザーも行なっている。

■ 工代 将章(くだい・まさあき)
株式会社テイクアンドギヴ・ニーズ 執行役員 人事部長
1988年 株式会社リクルート入社。以後17年人事部にて要員設計、雇用形態開発、人事制度設計などに携わる。2005 ~ 2007年 同社ワークス研究所にて「Works」誌
編集長兼主幹研究員。2007 ~ 2011年 株式会社経営共創基盤ディレクター。新規事業創造や人事系のコンサルテーションなど。2012年より現職。

■ 山本 紳也(やまもと・しんや)
株式会社HRファーブラ 代表取締役
(前プライスウォーターハウスクーパース・パートナー)
筑波大学大学院客員教授
組織・人事戦略に関わるコンサルティングに20年以上従事。人事戦略、人事制度設計構築、組織再編(M&A)に伴う人事関連コンサルティング業務、組織風土改革、マネジメント研修、日本企業の海外進出・グローバル化に伴う人事問題に関する調査・コンサルティング、組織人事に関わる調査研究業務等に携わり、論文・公演も多数。慶應義塾大学工学部管理工学科卒、イリノイ大学経営学修士課程終了(MBA)


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