公開日 2014/12/09
「プロフェッショナル」とは何か。企業に必要な4つのタイプの人材において、それぞれどのようなプロフェッショナリティが求められているのか。一橋大学大学院商学研究科の守島基博教授にお話を伺った。
プロフェッショナル人材と呼ぶ場合のプロフェッショナルとは何か。私は高い専門性に加えて「創造性と自律性を発揮できる人材」と定義している。企業には「エグゼクティブ人材(経営層)」「スペシャリスト人材(高度専門職)」「マネージャー人材(組織管理層)」「オペレーター人材(業務実行層)」――の4つのタイプの人材がある。プロフェッショナリティが求められるのは、何もエグゼクティブやスペシャリストに限らない。
一橋大学大学院商学研究科
守島基博 教授
今や高い創造性と自律性はマネージャーやオペレーターも含めてすべての人材に求められている要素だ。ただし、4つの人材のタイプに求められる創造性や自律性の中身はそれぞれ異なる。
経営層とは一言で言えば、事業戦略を描き、様々な経営資源を組み合わせて新しい事業を展開できる人だ。従来の経営者は前任者がやってきたことを引き継いで粛々と事業をやっていく、あるいは自社にある資源を組み合わせて次のビジネスを考えるのが主なミッションであった。
しかし今では、自社のコアコンピタンスと、自社にはないが世の中にある様々な資源を調達し、組み合わせてどのようにして新しい事業を創造していくかが経営の重要なテーマになっている。そして経営のプロとは世の中にある資源や人材、ビジネスチャンスを敏感に察知し、自社の枠を超えて戦略と資源の組み合わせが考えられる人である。さらに言えば、特定のA社やB社のみに通じる経営者ではなく、業種・業態を超えて力を発揮できるのがプロの経営者であり、今後そうした経営者がますます求められるようになるだろう。
同様にスペシャリストはもともと創造性も高く、自律性も高い存在である。しかし、日本企業の中にはそれほど多いとはいえない。その理由の一つは本当にすばらしいスペシャリストは内部の育成では育ちにくいからである。もちろん会社の事業に欠かせない特殊なスペシャリストは内部で育成するしかないが、基本的にはスペシャリストは「外部で専門性を磨いてきた人」だろう。あるいは内部で育成するにしても外部に開かれた育成でしか育たない。
例えば製薬会社がプロの研究開発者を育てようとすれば、自社にだけ役立つ育て方ではなく、製薬業の研究開発のプロとして育成する必要があるだろう。つまり、自社の強みだけを学ぶのではなく、外部の多様な情報や様々なタイプの思考に接し、それらを組み合わせることで新しいものを生み出すことができるのである。創造性とは自社の範囲内の情報や技術だけではなく、他社や業界あるいは国の知見を含めた多様な要素を吸収し、それらを組み合わせることで生まれる。自社を超えて業界なり専門分野で力を発揮することがスペシャリストのプロフェッショナルたるゆえんであり、内部で完全に育成するのは無理だろう。
マネージャー人材のプロフェッショナル化も重要な課題だ。部門長は上から指示された戦略を自部門で展開すること、もう一つは戦略遂行のために部下をマネージするという2つの重要な役割を担っている。しかし、最近は上からトップダウンで指示が降りてくることが非常に少なくなっている。同時に部下にはいろいろなタイプが存在する。また、部下にも自ら創造性を発揮し、目標に向かって自分の行動を律していく力がより求められている。その結果、会社の戦略的方向性を自分なりに理解し、自分がやりたいこと、やれることを加味した実行プランを練り上げて展開することが求められる。また、部下と一体となって事業を遂行するには、コミュニケーション力、モチベートする力が必要であると同時に日頃から部下を育成することも重要だ。彼ら、彼女らにとって必要なスキルや専門性をどこまで高められるのかというプロフェッショナリティが問われている。
だが実際は、日本企業で最もプロフェッショナル化しにくいのがマネージャーだ。現状はプロフェッショナル以前に、そもそも自部門をマネージすることがいろいろな意味で難しくなっている。今後は外国人を含めた様々な人材をマネージしていくことが求められているばかりか、場合によっては海外に出てマネージしなければいけない場面も増えてくる。しかし、現状ではそれができるマネジメント人材は育っていないし、そうした人材が非常に少ないという危うさを抱えている。
最後にオペレーター人材はものづくりや営業などの場面で顧客のニーズに合わせて作り込む、あるいは売り込んでいくという顧客接点の志向性が重要になっている。昔の営業のように供給者本位でとにかく売り込むスタイルではなく、顧客に商品やサービスを提供していく場面では、相手が持つニーズを考え、付加価値が組み込まれた商品やサービスを提供していくことが必要になっている。顧客のニーズが何かについてきちんと把握し、それを取り込んだ商品やサービスを提供できる力を備えたプロのオペレーター人材が求められている。
高い創造性と自律性に加えて4つの人材タイプに今、求められつつあるのがグローバル性だ。一般的に「グローバル人材」と一括りにされているが、4つの人材ごとに異なるグローバル要素が必要になる。例えば、今の世界がどういう方向に動いているのか、あるいは、ある事象が世界にどういう変化を与えるのかという見識を持つことがエグゼクティブのグローバル性だ。さらに、現地法人のメンバーをしっかりとマネージできるグローバルマネージヤーも必要であり、海外市場でネットワークを築きながらモノを売る営業も必要である。国内にあっても海外法人や海外取引先とのやりとりの実務が増えるなどオペレーター人材もグローバル化しなければならなくなってきている。同様に技術あるいは研究開発部門のスペシャリストも現地の工場やR&D部門でのグローバル性の発揮が求められる時代になっている。
人事の役割としては4つの人材タイプごとに求められる創造性や自律性を養成すると同時に、そうした能力を発揮できる環境を整備していくことがある。これまで日本企業はオペレーターからマネージャーに進み、マネージャーを経て経営層に進むというキャリアプランに基づいて人材を育成してきた。ビジネスのサイクルが比較的長かった時代はそれでもよかったが、今はそのサイクルが短くなり、ビジネスのスピード化が求められている。加えてグローバル化という新しいニーズに対応しなければならない。
いうまでもなく人事のクライアントは現場にあり、現場が必要とするベストな人材をベストなタイミングで確保する必要がある。だが、現状では人事が考える人材確保のフレームワークと経営企画などが考える事業戦略のフレームワークとがマッチしていない。例えば財務はある事業に資金が必要となれば、内部留保から捻出するのか、銀行から借りるのか、あるいは株式や社債を発行して調達するかをすぐに考えるが、人事は人材の確保においてはそういう思考になっていない。
オペレーターを経験させてマネージャーに育てるというフレームワークだけではビジネスのニーズに追いついてはいけないし、実はそのフレームワークで考えているためにプロフェッショナル人材を確保できないというジレンマに陥っているのではないか。マネージャーに要求されるプロフェッショナリティを身につけるには、単にCDP(キャリア・ディベロップメント・プログラム)の中で考えるのではなく、ある人材についてはオペレーターを経由しないでマネージャーとして育成する方法もあるのではないか。同様に技術者やマーケッターのようなスペシャリストに特化した集中的育成も必要になっている。さらに人材の確保が最終的な目的である以上、マネジメントのプロやエグゼクティブのプロを内部で育成していくことも大事であるが、場合によっては外から確保することも視野に入れる必要がある。
プロの経営者も状況によっては外から確保していくことも考えないといけない。内部で経営者を養成することはもちろん大事なことであるが、自社の枠組みを超えて経営を考えられる人は自社ではなかなか育ちにくい。ボードメンバーの一定割合を外から確保していくことも必要だろう。内部での育成が進まないプロのマネージャーも欧米企業のように外から採用することを考えてもよい。しかし、外からきた部門長が部下をマネージするための環境も整っていない現状では、相当の変革を必要とするのは間違いない。
求める人材ごとに内部で育成するのか、あるいは外から獲得するのか。いろいろな方法論を組み合わせて会社のビジネスニーズに合ったベストな方法を選択していくことが人事の重要なテーマになっている。
※本記事は、機関誌「HITO」vol.04 『プロフェッショナルの未来』からの抜粋記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。
■ 守島 基博
一橋大学大学院商学研究科 教授
経営行動科学学会 会長
1982年慶應義塾大学大学院社会学研究科社会学専攻修士課程修了。86年に米国イリノイ大学大学院産業労使関係研究所博士課程修了、組織行動論・労使関係論・人的資源管理論でPh.D.を取得し、カナダ・サイモン・フレーザー大学経営学部助教授。90年慶應義塾大学総合政策学部助教授、99年同大学大学院経営管理研究科教授を経て、現職。主な著書に『人材マネジメント入門』(日経文庫)『会社の元気は人事がつくる』(共著、日本経団連出版)などがある。
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