公開日 2015/09/02
ICTの進展、グローバル化、技術革新など企業を取り巻く様々な環境が劇的に変化しました。1970年以前はヒット商品の60%が5年を超えて消費されていました。しかし、2000年以降、ヒット商品の20%がその寿命1年未満となっています。商品サイクルが短命化した時代において、企業は生き残るために変化し続けることが求められるようになりました。「つくれば売れる」から「売れるモノをつくる」への発想の転換が求められています。
企業が勝ち続けるための競争力の源泉は「人」です。このような時代において必要な人材とは「独創的で、斬新で画期的なアイディアを考えて実現できる人」です。独創性や創造性、自ら問題を発見し解決策を導き出す能力があれば、たった1人の個人であっても、「年齢・性別・立場に関係なく」、グローバルで勝ち抜くことができる社会であると言われています。
ただし、これらの能力は受け身の態度や気持ちでは発揮されません。オーナーシップとリーダーシップを兼ね備えた働き方と、それらの能力を獲得・高めるために情熱を持って前へ進むことが必要となります。
上述した「組織の時代から個人の時代へのパラダイムシフト」は、組織のマネジメントのあり方にも変更を迫ることになりました。これまでは、社員を画一的・同質的な労働力として集団的に管理・統制するマネジメントモデルが効果を発揮する時代でした。
しかし、これからは、社員を競争力の源泉として個別的に捉え、リーダーシップによってその能力を引き出すモデルが競争優位を生み出す時代です。ハーバード・ビジネス・スクールのコッター教授は、組織運営や業務のコントロールを主体としたマネジメント機能を10~30%程度にとどめ、組織変革をなし遂げるリーダーシップ機能を70~90%にする必要があると述べています。システムの複雑性に対処することを主体としたマネジメント機能だけでは、組織や人を効果的に動かすことができません。昨今の不確実性の高い環境において変革を成し遂げるリーダーシップ機能は欠かせないのです。
それでは、リーダーシップはどのように養成されるのでしょうか。数多くのビジネス・リーダーの成長要因を丹念に調査した神戸大学大学院金井壽宏教授によれば、リーダーシップの養成には"良質な経験"が不可欠とのことです。良質な経験とは、大きな絵を描き、影響力を発揮して他者を巻き込む経験です。そうした経験を蓄積・連鎖していく過程の中ではじめてリーダーは育つことができるということです。ここで示唆されるのは、企業においてリーダーの戦略的な育成という観点からもキャリアマネジメントが非常に重要な役割を担うということです。
同じような戦略・組織・オペレーションのシステム構築・運用がなされていても、組織によって業績に大きな差が出ています。その差を生み出す要因は「組織力」にあります。組織力とは、「組織が自ら変革し、結果を出していくための遂行能力と戦略能力」です。マーケット・リーダーとなる卓越した企業の戦略経営について書かれた"The Discipline of Market Leaders"(邦題「ナンバーワン企業の法則」)では、価値基準は3つの類型があることが記されています。その価値基準とは「業務上の卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)」「製品リーダー(商品の優位性)」「顧客との親密性(カスタマー・インティマシー)」です。
品質、価格、購入の簡便性を含む総合力において市場で最高の水準を保っていること。
例:デル・コンピュータ、マクドナルド、ウォルマートなど
⇒ オペレーション人材
とにかくいい製品をマーケットに提供するために性能の限界をとことんまで追求すること。
例: スリーエム、ジョンソン・エンド・ジョンソン、小林製薬など
⇒ イノベーション人材
顧客と親密な関係を築き上げ、特定の顧客ニーズに応えるため、製品やサービスを継続的に提供すること。
例:IBM、ノードストーム、セブンイレブンなど
⇒ ソリューション人材
これらの3類型において求められるリーダーシップスタイルは異なります。
まず、「業務上の卓越性(オペレーショナル・エクセレンス)」を追求する組織であれば、「うまい、早い、安い」の実現のために合理化されたサービス・オペレーション・管理システムをフォーミュラ化するオペレーション人材が求められます。オペレーション・エクセレンス人材をどうリーダーに育成し、活用していくのかという点がキャリアマネジメント上の重要アジェンダになります。
次に、「製品リーダー(商品の優位性)」を追求する組織であれば、発明・製品開発・市場開拓に焦点を当て、顧客により広い範囲の製品やサービスを提供するイノベーション人材が求められます。したがって、イノベーション人材をどうリーダーに育成し、活用していくのかが求められるでしょう。
さらに、「顧客との親密性(カスタマー・インティマシー)」を追求する組織であれば、顧客に密着した社員に意志決定の多くを委ねて、顧客の問題解決に協力し、「解決策」を提示できるソリューション人材が不可欠です。ソリューション人材をどうリーダーに育成し、活用していくのかがキャリアマネジメントする上で重要な論点になることでしょう。
以上のように、企業競争力向上やリーダー育成の観点から、キャリアマネジメントの在り方を捉えなおすことができるのです。
※参考文献:
「日本のキャリア研究ー組織人のキャリア・ダイナミクス」(金井壽宏・鈴木竜太編著,2013,白桃書房)
「ナンバーワン企業の法則」(M・トレーシー&F・ウィアセーマ, 2003,日本経済新聞社)
※本記事は、機関誌「HITO」vol.06 『キャリアマネジメントの未来』からの抜粋記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。
本記事はお役に立ちましたか?
follow us
メルマガ登録&SNSフォローで最新情報をチェック!