公開日 2013/11/11
本委員会では過去2回にわたり、キャリアを描くために必要不可欠な学びについて議論を行った。第3回目の今回は、学びを阻害する根本原因を探った上で、キャリアマネジメントを行うにあたり学びはどうあるべきなのか?学びの位置付けについて議論を行った。
どういった要素が学びを阻害するのだろうか?本委員会では個人・組織双方の根本的な阻害要因について議論を行った。結果、「職務の不明瞭さ」が問題の温床になっている点が示唆された。
第2回は時間展望やキャリアモチベーションの存在を挙げたが、それらに強く関連しているのが「職務や職責に対するコミットメントの低さ」だと考えられる。本来、職務や職責にコミットしていれば、自ずと学びの必要性に気付くはずであろう。例えば営業職において「顧客と長期的な信頼関係を構築し、継続的に売り上げを拡大する」という職責にコミットしていれば、顧客の本質的な課題を見つけるために経営を学んだり、付加価値を高める武器となる専門性を養おうとする動機が生まれるであろう。多くの日本企業において自発的な学びが妨げられている原因には、こうした職務や職責に対する意識が希薄であり短期的な成果目標のみに目が向いていることが影響しているのではないだろうか。
また、本委員会では「今のままでいたい」というように、変化や学びそのものを拒む層の存在も指摘された。IT化・グローバル化・市場の競争激化が進む中において現状維持のみを志向することは、いずれはコストの対象に成り得ることを意味する。本委員会では欧米企業のUp or Out(昇進するか、さもなくば辞めるか)になぞらえて、Learn or Outという覚悟を持つ必要性が指摘された。
上述した個人の問題の一端は組織にもある。それはそもそもパフォーマンス目標を意識した人事施策になっていないということである。研修を例にとると、まずは明確な事業目標や事業課題があり、それに基づいて短期的・中長期的な人材開発課題が明確にされる。研修はそうした課題の解決や目標達成のために用意されるべきものである。必然的に、自社にリソースがない場合、外部ベンダーに依頼することになるし、外部ベンダーに依頼する際にも自社の課題解決のためにカスタマイズされた研修が用意されることになる。実際グローバル企業においてはこうした事前の設計や準備にこそ重点を置かれている。
しかし、日本企業においては事業目標や事業課題との結びつき(成果・目的)が見えないような研修が用意されているだけといった状況も珍しくない。また過度に自社リソースだけで実行しようとしたり、逆に外部ベンダーに依頼しても内容が"丸投げ"状態になっているといった問題点が指摘される。組織、もしくは人事部自体がパフォーマンス目標を意識出来ていないことが個人の学びを阻害しているのではないだろうか。
上記のようなOff-JTに加えて、OJTにおける周囲のサポートも個人が学びを志向する上で重要な役割を担っている。特に上司においては、環境を認識させることや、危機意識を醸成しLearn or Outの覚悟を持たせるなど個人に気づきを与える役割が求められる。本委員会では学びを促す上司の特徴として、(短期目標ではなく)長期的なパフォーマンス目標に焦点を当てていること、部下のキャリアについて日頃から会話をしていること、部下の承認欲求を満たすことなどが挙げられた。
上記のような個人・組織双方の問題の背景には職務の不明瞭さという問題が共通している。一般的に日本企業は職務が曖昧であり、開発された能力にふさわしい業務を各人が遂行すると言われている。こうした職務の不明瞭さは、社員に対しては養うべき専門性が明確に定まらないことにつながる。短期的な成果目標だけに目が向いてしまうことにつながる。他方、組織においても前述したような職務に基づいたパフォーマンス目標の設定や職務に応じた能力開発機会の提供が出来ないといったことに影響している。
本来、職務やパフォーマンス目標とは(決して短期的・硬直的なものではなく)中長期的で且つより本質的なものである。例えば前述した「顧客と長期的な信頼関係を構築し、継続的に売り上げを拡大する」がその例として挙げられる。こうしたパフォーマンス目標実現のために、上述した人材開発機会の提供やマネジメントが行われる。しかし、そもそも中長期的なグランドデザインを描けていないことにより短期的な成果目標のみに目が向かいがちであること。また、パフォーマンスマネジメントが徹底されていないことによって適切なPDCAが運営されないことなどが学びを阻害する温床になっていると言える。
上述したように学びの阻害要因について議論を行ってきた。しかし、学んでさえいれば必ずしも変化に対応でき良いキャリアを歩めるとは限らない。例えば前回(第二回)議論されたように、学びを行うこと自体が目的になってしまい、なかなか活かされないような層も存在する。
では、どういった状況が理想的な学びの姿なのだろうか?本委員会で試みた学びの整理が下図である。縦軸に「能力開発行動の有無」を、横軸に「未来成果重視の有無」を取っている。「能力開発行動の有無」とは、学びを行っているかどうかである。厳密な「学び」の定義では目標そのものを作る行為も含まれるため、ここでは能力開発と表記している。また、ここでいう「未来成果」とは、短期的な成果との対義語であり、前述した職務に基づいた職責や顧客にとっての付加価値などを示す。
図: 学びマトリクス(仮説)
【(1)自己革新型】未来成果を重視し、且つ能力開発を行っている層。まさに本委員会で理想的だと定義する層である。
【(2)ラーニングロマンチスト型】能力開発は行っているものの、成果を意識できていない若しくは成果につながっていない層を指す。能力開発そのものが目的になっていたり、能力開発していても自身や組織に対する目的や成果に還元できていない状態となっている。
【(3)評論家型】未来成果は重視するものの能力開発行動は起こさない層を指す。評論家という名の通り、口だけを動かし自身ではなかなか行動を起こさない状態となっている。
【(4)危機欠如・現状維持型】能力開発行動をせず、また未来成果に対する意識も希薄である層を指す。前述したような変化を拒む層もここに当てはまる。IT化・グローバル化・市場の競争激化が進む中ではコストの対象にしかなり得ず、適切に本人に指摘しLearn or Outという覚悟をもって臨むようガイドすることが求められる。
【(5)指示待ち型】能力開発行動はあまり見られず、未来成果についてもあまり意識していない層を指す。(4)危機欠如・現状維持型との違いは、気付きを与えたり適切なガイドを行えば、能力開発を起こすという点にある。日本企業にはこの(5)タイプが多いことが想定される。まさにこの(5)の層を(1)に移すかということがポイントになろう。
取り巻く環境変化が激しさを増す中にあって、本委員会では、この5つのタイプのうち(1)自己革新型を理想としている。しかし、本委員会では、常に自己革新型で居続けるのではなく、推移・状況変化に応じて、他のタイプから変化し、また、他のタイプに変化する可能性があることも指摘された。こうした5つの状態は、同じ個人であっても時間とともに移動することが想定され、その移動そのものがキャリアの重要な側面を示すものといえよう。では、どのように、他のタイプから(1)に移っていくのだろうか?そして、どのように自己革新型であり続けるのであろうか。また、その移動と維持のためには何が必要なのだろうか?第4回・第5回でその要素について探っていきたい。
(※本マトリクスについては、あくまで仮説であるため、今後第4・5回の議論を通し、ネーミング等が変更する可能性もございます。)
※参考文献:
石山恒貴「経営戦略と人材開発を結ぶ(第1・2回)」 『企業と人材』2013年10月号・11月号、産労総合研究所
日時:2013年11月11日(月)18:30~21:00
場所:株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 会議室
参加者:
石山恒貴氏(法政大学大学院 政策創造研究科 准教授)
亀島哲氏(厚生労働省 人道調査室 ハローワークサービス推進室 室長)
酒井之子氏(コニカミノルタビジネスソリューションズ株式会社 マーケティ
ング本部教育研修部 部長)
福井泰光氏(MHDモエ ヘネシー ディアジオ株式会社 常務取締役 人事総務
部長)
須東朋広 (株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 主席研究員)
事務局:
株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 研究員 田中 聡
株式会社インテリジェンスHITO総合研究所 研究員 森安 亮介
※肩書きは当時のものです
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