黎明期から先駆的にタレントマネジメントを実施。新たな経営人材育成策『Asahi ChangeAgent Program』もスタート
アサヒビール株式会社は、『The War For Talent』が上梓され、世間にタレントマネジメントという言葉が出始めたころから、先駆的に経営人材育成策を展開してきた企業だ。
2000年に役員候補のビジネスリーダー養成のための『アサヒスーパー塾・経営者養成塾』をスタートさせたのを皮切りに、2010年には直近の役員候補を対象にした社内大学『Asahi Executive Institute』とグローバル人材育成のための『Global Challengers Program』を開講。
2011年、持株会社制に移行しアサヒグループホールディングス株式会社の発足にともない、アサヒグループ横断的なタレントマネジメント施策はホールディングスに引き継がれた。以降、2012年に次世代リーダー育成のための『Asahi Next Leaders Program』、翌2013年には執行役員候補を対象として経営トップ自らが指導する『Asahi Executive Leaders Program』と、経営人材育成策を熱心に進めてきた。
「アサヒビール独自のタレントマネジメント施策としては、今年(2019年)から国内主要事業の次世代、次々世代の経営人材育成に向けた『Asahi Change Agent Program』をスタートさせました。これは、MBA科目の修得とアクションラーニングを組み合わせたもので、30歳前後の若手を対象にしたBasicと35~45歳の中堅を対象にしたAdvancedの二つのコースを設定しています。アサヒビールは本人の気概を重視する社風で、この『Asahi Change Agent Program』も手挙げした社員の中から選抜しており、それぞれ20名ほどが受講しています」
そう語るのは、タレントマネジメントシステムHITO-Talentの活用を担当する人事総務部担当副部長の岡田昌也氏だ。
アサヒビールは経営人材育成とともに、社員との対話を重視し、一人ひとりを丁寧にサポートすることでも有名だ。日本経済新聞社が働き方改革などを通じて組織のパフォーマンスを最大化させる取り組みを実践し効果を上げている企業をランキングする日経「スマートワーク経営」調査でも、人材育成力、イノベーション力などの総合評価で3年連続して偏差値70以上、最高の5つ星評価を受けている。また、長年にわたり、社員の離職率は1%未満で推移しているとのことだ。
「当社は伝統的に後輩の面倒見がいい会社です。ブラザー・シスター制度は30年近く運用しており、ブラザー・シスターも手挙げ制ですが、なかには何度も担当する方もいるくらいです。先輩にいろいろと指導していただいた恩を後輩に返すかたちで、面倒見のよさが連綿と受け継がれています。一方で、現状の居心地のよさに安住することなく自発的に自分のキャリアと向き合い、社員に新たなチャレンジを促す施策が重要だと考えており、『キャリアデザインシート』、『ダイレクトアピール制度』を中心に全社員を対象にしたタレントマネジメントを進めています。両方とも長い間運用し続けていますが、2016年のHITO-Talent導入以降は人材データが一元的に管理されており、異動検討の効率と効果がかなり上がってきていると感じています」
そう語るのは、社員のキャリアデザインや異動配置を担当する人事総務部担当副部長の矢垣和哉氏だ。
「キャリアデザインシート」は、年1回、社員各人が中長期(5~10年)のキャリア形成に向けて異動希望先や職種、勤務地などを自己申告し上司と面談するものだ。そのうち本人が強く希望する異動先については、上司意向によらず人事総務部に自分のキャリアデザインシートを直送し、「ダイレクトアピール」できる。2007年から10年以上、運用されており、毎年、ダイレクトアピールによる希望部署への異動が約2割の確度で成立、周辺部署への異動を含めるとかなりの高確率になるそうだ。
もちろん、人事総務部はダイレクトアピールの内容を精査しており、そのベースデータになっているものが人事総務部担当者のヒアリング情報だ。内容は、社員一人ひとりの詳細な異動構想、個別事情、人物像、上司から見た適性などを、部長・支店長など約200名に担当部門の部下全員について個別にヒアリングを行い、データをHITO-Talentに蓄積している。同じくHITO-Talentに格納されたキャリアデザイン情報と組み合わせて異動検討を行っている。
毎年の定期異動では全社員約4,000人のうち約500名、おおよそ8人に1人が異動発令を受ける。HITO-Talentで一元管理された人材データを自在に検索し、各種異動ニーズに応じた人材プールをHITOタグ機能で作成できることが異動検討に役立っているという。
アサヒビールでは人材データの蓄積が進んでおり、データ活用に向けた取り組みも本格化してきた。タレントマネジメントでは異動配置を「OLD 3K(記憶、経験、勘)」ではなく「NEW 3K(記録、傾向、客観性)」で行いたいとのニーズが強い。アサヒビールにおいてもこの課題にチャレンジすべく、2019年、パーソル総合研究所のピープルアナリティクスラボとのプロジェクトを実施した。ピープルアナリティクスラボは人材データ分析を通じて経営課題解決をおこなうデータサイエンティストのチームである。
今回のテーマは、業務用営業、量販営業、マーケティング、管理の4つの職種についてアセスメントを実施して人材データを分析し、それぞれの職種のハイパフォーマ―モデルを構築しようというものだ。アサヒビールの営業職は料飲店向けの業務用営業とスーパーマーケット、コンビニなどの量販営業に大別される。二つの営業職の売上高と人員数のバランスが変化してきており、人事総務部では人員配置の見直しが議論されていた。また、新入社員は正式配属の際に多くが営業職になっているが、その妥当性についても検討俎上に上がっていた。
このプロジェクトは、予定通り3カ月で完了した。4職種のハイパフォーマ―モデルを構築し、次年度以降の新入社員配属での活用を検討していくとのことだ。
「アサヒビールはかなり早い時期からタレントマネジメントに取り組んできており、社員の人材データについては、おそらくある程度のデータを蓄積している方ではないかと思います。ただ、たとえば今回パーソル総合研究所さんとの分析で使ったアセスメントにしても、社員全員が受けているわけではないとか、人事評価の精度はどうなのかとか、データ蓄積についてもまだ課題が多いと思っています」と岡田氏。
「人材データ活用は、さらにまだまだこれからとの感が強いですが、データが揃うのを待ってから始めるということでは、それこそいつ始められるのか分かりません。異動配置にしても、それが成功だったのかそうでなかったのか、半年や1年ではなかなか判断できないわけですから、データ蓄積にしても、データ分析にしても、できるだけ早いタイミングで『始めて』『続ける』ことが大事なのではないでしょうか」と矢垣氏。
お二人ともかなり謙遜気味であるが、アサヒビールは2000年初頭から本格的な経営人材育成に取り組んできた。HITO-Talentに登録しているデータ項目数も数百に上り、タレントマネジメントシステムの人材配置への活用経験も積んでいる。アサヒビールがタレントマネジメントの先進企業のひとつであることは間違いなく、これからタレントマネジメントの本格展開をお考えの企業には、「できるだけ早いタイミングで『始めて』『続ける』こと」が最大のアドバイスになることだろう。
アサヒビール株式会社
業種:製造・販売/設立:1889年/事業内容:酒類事業、飲料事業、食品事業、国際事業、その他付帯事業
アサヒビール株式会社は「お客様の最高の満足のために お酒ならではの価値と魅力を創造し続ける」を長期ビジョンに制定し、ビール類市場の活性化に取り組んでいます。
https://www.asahibeer.co.jp/タレントマネジメント事業本部は情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格であるISO27001を取得しています。
(登録番号:IC20J0508)