株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:萱野博行)は、「男性育休に関する定量調査」の結果を発表いたします。2023年4月に従業員1,000名を超える企業において男性育休取得率の開示が義務化されましたが、男性育休の取得率は企業間格差が大きく、取得率50%以上の企業が約2割ある一方で、取得率5%未満の企業が約半数であることが分かりました。また、男性育休の取得期間を見ると、1か月未満の取得者の割合が約6割を占めており、取得期間は数日の休暇レベルにとどまっていることが明らかになりました。
本調査は、下記3項目について定量的に明らかにすることにより、企業における男性育休推進の検討に資することを目的に実施いたしました。
本調査の目的
- 企業が男性の育休取得を促進することにメリットはあるのか
- どうすれば男性の育休取得率が上がるのか
- 男性が中長期で育休を取得するためには何が必要なのか
【本調査における「育休」の定義について】
育児・介護休業法に基づく産前・産後休業や育児休業に加えて、企業独自の特別休暇や有給休暇もあわせて出産前後の実質的な休業・休暇を「育休」として調査しました。
なお、調査票内では上記の休業・休暇を「産休・育休」の表記で質問していますが、「育休」と略して記載しています。
主なトピックス
【実態】(企業)
- 男性育休の取得率が20~50%未満の企業で1か月以上の取得者がいる割合が約6割で最も高い。取得率80%以上の企業で1か月以上の取得者がいる割合は4割未満に留まり、逆U字カーブを描く。取得率が高くとも、中長期の取得ができているわけではないことがわかる。
- 男性の育休に関する施策の実施状況をみると、取得率5%未満の企業では、男性育休に関する「全社方針の発信」や「対象者への取得勧奨」の実施率が低い。
- 男性の育休に関する企業の課題をみると、「不在時の対応」が上位にあがる。また、男女の育休を比較すると、男性の育休は女性の育休よりも、特に、事例や取得希望者の少なさ、周囲のメンバーの理解不足が課題であると感じられている。
【要因】(従業員)
- 男性が今後育休をとる上で懸念していることの上位は、同僚への迷惑や育休中の収入の減少、仕事能力の低下やポジションなどの中長期的キャリアへの影響。男女の差が大きい項目をみると、男性は特に、自社の制度の有無や上司・顧客のことを気にしている。
- 本人が感じている育休のとりやすさと同様に、部下や同僚に育休を 「とってほしい」と考える上司・同僚は、期間が長くなるほど少なくなる。
- 男性本人が感じる中長期の育休のとりやすさに影響する組織要因を見ると、男性が優遇されていること、短時間での成果創出のプレッシャーがかかる職場であること、定期異動が多いことが中長期の育休のとりにくさに特に強く影響している。
【育休取得による効果】(企業)
- 中長期(※1か月以上)の取得者がいる企業は、短期(※1か月未満)の取得者のみの企業よりも「従業員の自主的な行動促進」「業務の見直しや属人化解消」「従業員の視野拡大」の効果を実感している割合が10ポイント以上高い。
- 男性が育休を取得したことによる効果について企業の実感をみると、取得率が5%になるまでは中長期の取得者がいなくても取得率が上がるほど効果を実感している企業の割合が高くなる。その後、取得率が5%から80%の企業では、中長期(※1か月以上)の取得者がいると効果を実感している割合が高い。
【育休取得による効果】(従業員)
- 育休取得による本人の変化実感を見ると、中期(2週間以上3か月未満)の育休を取得した男性で、モチベーションや継続就業意向の向上、業務の見直しや属人化解消につながったと感じている割合が高い。
- 育休を取得した男性の3~5割が、多様な人材への理解や時間管理といった「対人力」や「タスク力」が向上したと実感している。これらの対人力やタスク力の高さといったビジネススキルはジョブ・パフォーマンスや周囲支援行動、職場改善提案行動といった組織貢献にプラスに影響している。
- 対人力やタスク力の向上には、育休中の生活環境構築や職場とのコミュニケーション、自己学習、復職後の両立体制検討といった育休中の過ごし方がプラスに影響しているが、数日程度(2週間未満)の育休ではそれらの経験が乏しい。
調査結果からの提言
パーソル総合研究所
研究員 砂川 和泉
男性が育休を取得することにより、本人のモチベーション向上だけでなく、優秀な人材の採用や属人化の解消、女性の活躍推進などのメリットがあり、組織力の強化を見込めることが明らかになりました。男性の育休取得の推進は、自社の持続的発展に不可欠な戦略投資であり、いまだ及び腰の企業は、より積極的に男性の育休取得を推進するべきでしょう。
男性の育休取得を推進するには
男性の育休推進のためには、育休取得率が5%未満の企業は、まず自社の方針を示し、制度を従業員に周知することが重要です。その際、人事部門が経営層のコミットメントを得るためには、経営層と積極的にコミュニケーションを取り、社会の変化や経営戦略を踏まえた新しい人事施策を考案し、経営層に働きかける「攻めの姿勢」が大切です。
中長期の育休取得を促進するには
また、育休を取得するだけではなく、取得期間を長くするためには何が必要になるでしょうか。今回の調査結果からは、働き方の柔軟化や役割の明確化が中長期の育休取得を促進する一方で、男性にプレッシャーのかかる昇進構造や定期異動が中長期の育休取得を妨げることが明らかになりました。男性にプレッシャーのかかる昇進構造では、重要な仕事を手放しにくくなり、育休を取得すると昇進において不利になる可能性があります。育休を取得したことで昇進や昇格の査定で不利益が生じないようにすることが重要です。
また、定期的な異動が多い職場では、上司やチームメンバーとの関係性が浅いことで中長期の育休の取得が難しくなっているものと推察されます。個別の人間関係に頼らずに、仕事をカバーするメンバーの負担を軽減するマネジメントも重要です。育休中の職場の負担増加は、どの企業にとっても悩みの種です。不在時のマネジメントにおいては、前向きに仕事をカバーできるように、カバーを担当するメンバーへの評価や処遇の改善、育成目的での仕事の割り当てなどに工夫の余地があります。
取得率と取得期間別の課題(まとめ)
主なトピックス(詳細)
【実態】
【1】
男性の育休取得率ごとに1か月以上の中長期取得者がいる企業の割合をみると、取得率が20~50%未満の企業の60.6%を頂点とする逆U字カーブを描く一方、「取得率80%以上の企業で長期取得者がいる割合は36.8%に留まる。
【2】
男性の育休に関する施策の実施状況を見ると、取得率5%未満の企業では、男性育休に関する「全社方針の発信」や「対象者への取得勧奨」の実施率が低い。
【3】
男性育休を推進する上での企業の課題は、「仕事の穴埋め方法」「取得者が出た職場の負担増大」「仕事をカバーした社員の評価・処遇」といった不在時の対応が上位。女性の育休と比べると、男性の育休は、特に、取得事例や取得希望者の少なさ、周囲のメンバーの理解不足が課題。
【要因】(従業員)
【4】
男性が今後育休をとる上で懸念していることの上位は、同僚への迷惑や育休中の収入の減少、仕事能力やポジションといった中長期的キャリアへの影響。男女の差が大きい項目をみると、男性は特に、自社の制度の有無や上司・顧客のことを気にしている。
【5】
本人が感じている育休のとりやすさと同様に、部下や同僚に育休を 「とってほしい」と考える上司・同僚は、期間が長くなるほど少なくなる。
【6】
男性本人が感じる中長期の育休のとりやすさに影響する組織要因を見ると、男性が優遇されていること、短時間での成果創出のプレッシャーがかかる職場であること、定期異動が多いことが中長期の育休のとりにくさに特に強く影響している。
【育休取得による効果】(企業)
【7】
中長期(※1か月以上)の取得者がいる企業は、短期(※1か月未満)の取得者のみの企業よりも「従業員の自主的な行動促進」「業務の見直しや属人化解消」「従業員の視野拡大」の効果を実感している割合が10ポイント以上高い。
【8】
取得率が5%になるまでは、中長期(※1か月以上)の取得者がいなくても取得率が上がるほど効果が上がる。取得率が5%から80%の企業では、中長期の取得者がいると効果を感じている割合が高い。
※12項目の効果は下記について集計:
「法的要請への対応」「女性活躍推進」「従業員のモチベーション向上」「企業イメージの向上」「多様な人材についての理解促進」「優秀な人材の定着(離職率の低下)」「優秀な人材の確保(採用活動)」「従業員の時間意識(生産性)の向上」「従業員の視野拡大」「業務の見直しや属人化解消」「従業員の自主的な行動促進(周囲支援、アイディアの発案など)」「従業員の人材育成力の向上」
【育休取得による効果】(従業員)
【9】
育休取得による本人の変化実感を見ると、中期(2週間以上3か月未満)の育休を取得した男性で、モチベーションや継続就業意向の向上、業務の見直しや属人化解消につながったと感じている割合が高い。
【10】
育休を取得した男性の3~5割が「ヘルプシーキング力」「多様な人材への理解力」「関係調整力」「ネットワーク構築力」といった対人力や、「時間管理力」「タスク管理力」「俯瞰力」「不確実性への対応力」といったタスク力の向上を実感している。中期(2週間以上3か月未満)の育休を取得した男性で向上実感が高く、4~5割が実感している。これらの対人力やタスク力の高さといったビジネススキルはジョブ・パフォーマンスや周囲支援行動、職場改善提案行動といった組織貢献にプラスに影響している。
【11】
対人力やタスク力の向上には、育休中の「生活環境構築」や「職場とのコミュニケーション」、「自己学習」、「復職後の両立体制検討」といった過ごし方がプラスに影響している。しかし、数日程度(2週間未満)の育休ではそれらの実施率が低い。
※本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所」と明記してください。
※調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/paternity-leave.pdf
※構成比の数値は、小数点以下第2位を四捨五入しているため、個々の集計値の合計は必ずしも100%とならない場合があります。
調査概要
調査名称 |
パーソル総合研究所 「男性育休に関する定量調査」
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調査内容 |
①企業が男性の育休取得を促進することにメリットはあるのか。②どうすれば男性の育休取得率が上がるのか。③男性が中長期で育休を取得するためには何が必要なのか。 これらについて定量的に明らかにすることにより、企業における男性育休推進の検討に資することを目的とした。
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調査手法 |
調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査時期 |
①企業調査 2023年 1月17日 – 1月20日 ②従業員調査 2023年 1月20日 – 2月6日 |
調査対象者 |
①企業調査
全国 男女 20-60代 正社員・会社経営/会社役員 経営・経営企画、総務・人事の主任・係長相当以上 従業員規模 51人以上の日本企業 第一次産業・国家/地方公務除く 自社の人事戦略や人事施策全体、もしくは、ダイバーシティ・女性活躍推進施策について把握している人
・スクリーニング調査 n=1162(上記条件該当者) ・本調査 n=800:スクリーニングにおける男性育休取得状況に応じて割付
②従業員調査
全国 男女 20-50代 正社員(代表取締役・社長を除く) 従業員規模 51人以上の日本企業 第一次産業・国家/地方公務除く
・男性育休取得者 n=500(取得期間別に各100s) ・女性育休取得者 n=500(取得期間別に各100s) ・上司 n=550 (男性上司 n=400,女性上司 n=150s) ・同僚 n=1600(性別×年代別に各200s)10年以内に育休を取得していない20-50代(部下なし)
※上記サンプルより子どもがいない20-40代男性を「本人」の分析に使用
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実施主体 |
株式会社パーソル総合研究所 |
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
パーソルグループは、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに、人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、ITアウトソーシングや設計開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開しています。グループの経営理念・サステナビリティ方針に沿って事業活動を推進することで、持続可能な社会の実現とSDGsの達成に貢献していきます。また、人材サービスとテクノロジーの融合による、次世代のイノベーション開発にも積極的に取り組み、市場価値を見いだす転職サービス「ミイダス」、テクノロジー人材のエンパワーメントと企業のDX組織構築支援を行う「TECH PLAY」、クラウド型モバイルPOSレジ「POS+(ポスタス)」などのサービスも展開しています。
問い合わせ先
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