キャリア自律度も市場価値も高い人材について、転職リスクを低減するための施策を採るべき
株式会社パーソル総合研究所(本社:東京都港区、代表取締役社長:渋谷和久)は、自分自身のキャリア形成を組織に委ねずに、働く人自らが形成していく「キャリア自律」に関する調査を実施し、結果を取りまとめましたのでお知らせします。本調査は、キャリア自律が本人や組織にもたらすメリットや、キャリア自律を促す要因を定量化し、経営・人事に資する提言を行うことを目的に実施しました。
本調査結果では、キャリア自律の度合いの強弱を数値化した「キャリア自律度」という概念を用いている。「キャリア自律度」は以下の心理面・行動面の各設問について、5件法の回答を基に得点化(あてはまる=5点~あてはまらない=1点)し、平均値を算出したものである。
① キャリア自律がもたらすメリット
キャリア自律度が高い層は低い層※に比べて、「個人パフォーマンス(自己評価)」で1.20倍、仕事への貢献意欲である「ワーク・エンゲイジメント」で1.27倍、「学習意欲」で1.28倍高く、キャリア自律の向上は組織にメリットをもたらしている。キャリア自律度が高い方が仕事の充実感や人生満足度も高く、働く本人にとってもメリットがあることがうかがえる。
※キャリア自律度が高い層/低い層は、回答分布に合わせて中央値でおおよそ均等になるように区分。
図表1について、「人生満足度」以外のそれぞれの数値は、関連する3~5項目を5件法で回答した平均値を用いている(例:「個人パフォーマンス」の場合、「任された役割を果たしている」「担当業務の責任を果たしている」など)。「人生満足度」については、「私の人生は、とてもすばらしい状態だ」といった5項目を7件法で回答した合計点数を使用している。
図表1.キャリア自律がもたらすメリット
② 人事管理の方法とキャリア自律の関係性
人事管理の方法に着目すると、「組織目標と個人目標の関連性」「処遇の透明性」「社内の職務ポジションの透明性」「キャリア意思の表明機会」による従業員のキャリア自律へのプラスの影響がみられた。
図表2.人事管理の方法とキャリア自律度の関係性
➂ 上司のマネジメントとキャリア自律の関係性
上司のマネジメントに着目すると、部下への「期待感の伝達」、「ビジョン共有」、「従業員に対する理解とフィードバック」といった行動による、部下のキャリア自律へのプラスの影響がみられた。
図表3.上司のマネジメントとキャリア自律度の関係性
④ 業務経験とキャリア自律への影響
過去の業務経験に着目すると、「新規プロジェクトの起案」「部門横断的なプロジェクトへの参加」「新規事業・新規プロジェクトの立ち上げ」などによるキャリア自律へのプラスの影響がみられた。一方、「不採算事業撤退」は抑制効果がみられた。
図表4.業務経験とキャリア自律への影響
➄ 異動・転職・社外活動とキャリア自律への影響
異動・転職・社外活動に着目すると、「社内公募での異動」「転職」「地域のコミュニティ活動」「副業・兼業」によるキャリア自律へのプラスの影響がみられた。
図表5.異動・転職・社外活動とキャリア自律への影響
⑥ キャリア自律度の実態
年齢別にみると、キャリア自律度は20代をピークとし、40代にかけて低下し、その後横ばいとなっている(図表6)。
職種別にみると、キャリア自律度はサービス職や商品開発・研究職、間接部門職、営業・販売職、専門・技術職で高い傾向になる(図表7)。
業種別にみると、キャリア自律度は金融・保険業が最も高く、電気・ガス・熱供給・水道業、宿泊・飲食サービス業が続く(図表8)。
従業員規模別にみると、キャリア自律度は従業員規模が大きいほど高い傾向がある(図表9)。
図表6.年齢別のキャリア自律度
図表7.職種別のキャリア自律度
図表8.業種別のキャリア自律度
図表9.従業員規模別のキャリア自律度
本調査では、キャリア自律による組織や働く本人に対する様々なプラスの影響がみられた。しかし、企業の立場からは、働く人自らがキャリアを形成していくと、転職につながるのではないかという懸念がつきものだ。実際、本調査では、主観的な市場価値が高い人材の場合、キャリア自律度が高いと転職意向も高くなる傾向が明らかとなった(図表10)。
そうしたキャリア自律度も市場価値も高い人材に対しては、その会社の中で、「やりたい仕事」ができる見込みを向上させることによって、転職リスクは軽減されていた。重要なのは、組織が求めているポジション(職務・職位)を開示し、キャリア意思の表明機会を設け、組織目標と個人目標を関連付けることだ(図表11)。しかし、例えば社内公募での異動経験があるのは全年代の平均で2.9%にとどまっており、異動配置の主導権は企業の側であり続けている(図表12)。大手企業では社内公募の制度を持っているものの形骸化している場合も多く、改善の余地は大きい。
また、留意すべきは、主観的な市場価値が低い人材の場合は(高い人材とは逆に)、キャリア自律度が高いと転職意向が低くなる(現在の会社にとどまろうとする)傾向がみられたことだ。中高年の流動性を高めるためにキャリア自律が提議されることがあるが、中高年を育成対象から除外し続け、市場価値が低いままにキャリア自律だけ求めても逆効果になるリスクがある。個人の意識変革といった啓蒙的施策だけではなく、人材育成との総合的な仕掛けが必要となる。
図表10.市場価値別にみるキャリア自律度と転職意向の関係性
図表11.やりたい仕事ができる見込みへの影響
図表12.社内公募での異動経験(%)
※本調査を引用いただく際は、出所として「パーソル総合研究所」と明記してください。
※調査結果の詳細については、下記URLをご覧ください。
URL:https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/research/activity/data/career_self-reliance.html
調査名称 | パーソル総合研究所 「従業員のキャリア自律に関する定量調査」 |
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調査内容 | ・キャリア自律が本人・組織へもたらすメリットおよびキャリア自律を促すための要因を明らかにする。 ・キャリア自律と離職との関係、就活や学生時代の活動との関係など、その他の関連要素の実態を把握する。 |
調査手法 | 調査会社モニターを用いたインターネット定量調査 |
調査時期 | 2021年4月26日~5月6日 |
調査対象者 | [共通条件] 全国 男女(年齢20-59歳)正規雇用の就業者 企業規模不問(除外業種:第一次産業) ①一般正社員層[n=10000] ※ 労働力調査における正規従業員の性別・年代割合に合わせて割付 ②新卒層[n=1000] 新卒で正社員採用された企業で現在も正社員として働いている20代 就業期間5年以内の一般従業員(非役職者)※男女均等割付 |
実施主体 | 株式会社パーソル総合研究所 |
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行っています。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしています。
パーソルグループは、「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンに、人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、ITアウトソーシングや設計開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開しています。グループの経営理念・サステナビリティ方針に沿って事業活動を推進することで、持続可能な社会の実現とSDGsの達成に貢献していきます。また、人材サービスとテクノロジーの融合による、次世代のイノベーション開発にも積極的に取り組み、市場価値を見いだす転職サービス「ミイダス」、テクノロジー人材のエンパワーメントと企業のDX組織構築支援を行う「TECH PLAY」、クラウド型モバイルPOSレジ「POS+(ポスタス)」などのサービスも展開しています。
株式会社パーソル総合研究所 広報室
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