そのリーダーは本当に適任か?~リーダー選びの着眼点と組織パフォーマンスへの影響~

公開日 2018/11/30

日時:2018年11月15日(木)15:40~16:40
場所:大手町サンケイプラザ3階
(日本の人事部主催「HRカンファレンス2018-秋-」より採録・構成)

加部 雅之

講師プロフィール

グローバル・アライアンス部 部長
エグゼクティブ・コンサルタント
加部 雅之

IT企業の人事部を経て、2003年より富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)。100社を超える企業で、人事制度、人材育成体系の構築やリーダー育成を支援。近年はHogan Assessmentsを活用したタレントマネジメントで、数多くの企業を支援し現在に至る。

1. 望ましいリーダー、望ましくないリーダー

 組織にとって、リーダーは重要な存在です。誰をリーダーに選ぶかという判断は、組織の業績に大きな影響を与えます。では、望ましいリーダーとは何か。リーダーには、政治的、社会的なリーダーもいますが、ここでは、企業のリーダーに、焦点を当てます。企業組織では、組織のパフォーマンスを継続的に出すことができるリーダーが、良いリーダーであると、私たちは考えています。

 この定義は、2つの重要な意味を含んでいます。まず、パフォーマンスを出すことは、リーダーにとって必須の要件であるように思われます。あの人は良いリーダーだが、パフォーマンスは出さない、という話は、聞いたことがありません。但しもう1点、パフォーマンスが継続的であることが重要です。瞬間風速ではなく、継続的にパフォーマンスを生むからには、人々をうまく組織し、生かしていかなければなりません。チームメンバーのエンゲージメントが高く、組織として効果的な戦略を持っており、PDCAが機能している、こうした状況を実現してこそ、パフォーマンスが継続すると考えられます。

 リーダーシップにおいてはパフォーマンスも大切ですが、メンバーのエンゲージメントも大切であるということは、何も今に始まった話ではありません。東洋思想における理想のリーダー像として、中国の「書経」に「放勳欽明、文思安安」という言葉があります。パフォーマンスが優れていることが誰の目にも明らかで、周囲が心安らかでいられることが良いリーダーであるという意味です。パフォーマンスとエンゲージメントは、普遍的なリーダーの条件なのかもしれません。

2. リーダーシップ研究から見えたこと

 パフォーマンスの高い組織にするためのリーダーシップとはどのようなものか。以下の6つの観点から考えます。(図1)

リーダーシップとは何か

1) リーダーのコンピテンシーモデル

 良い組織はリーダーとして期待される行動、すなわちコンピテシーモデルを定義しています。たとえば誠実であるかどうかという個人スキル、人とうまくやれるかという対人スキル、データ分析やリソース配分ができるかというビジネススキル、ビジョンが示せるかというリーダーシップスキルです。ただしここで疑問となるのが、良いリーダーのモデルは1つしかないのかということです。これについては後で触れます。

2) 暗黙のリーダーシップのテーマ

 リーダーシップを見るときは2つの視点があります。1つはアイデンティティ、つまり自分から見た自分です。それに対して他者から見た自分の評価がレピュテーションです。一般論として人はリーダーを誠実さ、判断力、有能さ、ビジョンの4つの基準で評価するといわれています。重要なのは、リーダーは人からリーダーだと認められて初めてリーダーになるということです。

3) 「十分」と「一流」の差を生む要素

15年間にわたり優れた業績を維持するフォーチュン1000企業のCEOを対象にその特徴を分析したところ、「一流」のリーダーと「十分」なリーダーを分ける要素が2つ見つかりました。それは、驚くほどの粘り強さと謙虚さです。ただし、ここで言う謙虚さとは日本人が示す謙譲の美ではなく、他者の意見に対してオープンであることを意味します。

4) パーソナリティからリーダーシップが予測できる

 現在、パーソナリティ分析は情緒安定性、外向性、協調性、良識性、開放性の5つの軸で評価するのが一般的です。この5因子モデルによって、組織や職種に関わらずリーダーの行動傾向がある程度予測できます。

5) リーダーシップから組織のパフォーマンスが予測できる

 マネジャーのパフォーマンスは、従業員のエンゲージメントに直接影響を与えます。エンゲージメントの高い組織は良い業績をもたらしますが、低い組織は悪い業績をもたらします。つまり、良くないリーダーを据えておくと、優秀なメンバーが揃っていても組織のパフォーマンスが下がるリスクがあります。人は組織を去るのではなく、直属の上司から去るのです。

 リーダーシップは、リーダーのパーソナリティに影響を受けます。パーソナリティは行動、価値観、意思決定の3つの要素に分けることができ、それぞれが従業員の士気、組織文化、戦略に影響を及ぼします。結論としてリーダーのパーソナリティはチームのパフォーマンスを左右するのです。(図2)

リーダーシップから組織のパフォーマンスが予測できる

6) リーダー選びの現状

 現在のマネジャーの50〜70%は資質に欠けると推定されています。なぜなら、専門性やビジネス知識が採用の基準とされ、リーダーシップ能力についてはあまり考慮されないからです。

 悪いマネジャーの特徴は主に3つあります。一つ目は問題が起こるとコミュニケーションが減ったり、疑い深くなったり、他者との距離を広げたりする「阻害的」なタイプです。二つ目は急に威張り出すというような「攻撃的」なタイプ、三つ目が上司へのご機嫌取りをしたり、過度に同調したりする「迎合的」なタイプです。

 以上をまとめると、リーダーに対する考え方として、今までは上位者が下を管理するというモデルでしたが、これからはメンバーから信頼された上で組織を活性化させていくリーダー像が求められているといえます。

3. HOGAN ASSESSMENTによるパーソナリティ分析

 私たちのパートナーであるHOGAN ASSESSMENT SYSTEMS社は、欧米を中心に、パーソナリティアセスメントと人材コンサルタントの分野で、高い評価を得ています。フォーチュン500のうち300社以上が採用し、広範囲な職種・業種・階層におけるパフォーマンス予測の実績があります。

 HOGAN ASSESSMENTは3つの視点からパーソナリティテストを行います。一つ目は「ブライトサイド」で、通常時にどのような強みを発揮するかを予測します(HPI)。二つ目は「ダークサイト」で、自分をコントロールしていないときの行動傾向を特定します(HDS)。三つ目は「インサイド」で、個人の価値観を評価します(MVPI)。(図3)

HOGAN ASSESMENT 全体構成

 このHOGAN ASSESSMENTを使ってリーダーのパーソナリティ分析を行うと、何が見えてくるか。いくつか特徴的な傾向を説明します。

1) HPI

 まず、HPIで測定する7項目のうち、大望野心において日本人は低く出る傾向があります。あまり軋轢を好まず、メンバーを活かしていこう、というのは良いことですが、リーダーとしてビジョンを示せるかという面で、不安があります。

2) HDS

 HDSの11項目は、リーダー選びにおいて注意が必要です。先ほど「阻害的」なマネジャーの例を挙げましたが、パフォーマンスに対する阻害要因となりうるものです。特に日本の中間管理職の場合、ストレスやプレッシャーがかかると、自分が抱え込んだり、忙しいというサインを周囲にまき散らしたりするケースが多く見られます。結果的に適切なタイミングで適切な意思決定ができないために、ビジネスに悪影響を与えてしまいます。

3) MVPI

 MVPIは、組織のカルチャーに影響を与えます。たとえば快楽志向が強いリーダーであれば、組織も和気藹々とした楽しい組織となります。ただし、リーダーの価値観と異なる価値観を持つ人にとっては、ネガティブなバイアスがかかる可能性があります。また、リーダーの価値観はブライトサイドやダークサイドに示される行動にも大きな影響を与えます。効果的なリーダーのプロファイルをいくつか示します。(図4)

効果的リーダーのいくつかのプロファイル

 状況と場面によって、求められるリーダーには、様々なタイプがあります。つまり、企業のコンピテシーモデルは有効ですが、状況に応じて使い分けることが必要です。たとえば、新しいことを生み出したいときは「起業家的」なリーダー、安定的な組織を維持したいときは「やりがい提供型」という具合に適所適材を意識することが重要になります。

4. リーダーの発掘・育成

 では、効果的なリーダーをどう育てるか。発掘・育成の対象となるリーダーにはいくつかの段階がありますが、特に重要なトランジションポイントの1つが、いかに個人の専門性から脱皮して、目標を効果的に達成できるマネジャーになれるか、というところだと思います。しかし、最近の研究によると、若手がリーダーになりたがらない傾向があります。そこでまずは、リーダーに求められる野心や利他の特性を持つ若手社員を見極めることが重要です。そのときに先ほどのパーソナリティテストを使います。

 リーダーとして潜在性の高い若手を見つけたら、彼らを育てるために何をするか。最も有効なのは経験から学ばせることです。わずかでも予算と権限を持たせ、何か1つでも重要な決定をさせるなど、小さなタスクや成功体験を積ませる。そして振り返りの機会を通じて、次はもう少し大きな経験をさせて、また振り返りを行う……というサイクルを通じて、野心や利他の精神を強化していくことが重要です。(図5)

若手(担当者)からリーダーへの育成サイクル

 一方、経営を担うような上位リーダーの育成はどうするか。上位クラスは一直線で育つわけではなく、乗りこえるべき断絶があります。そこで求められるのは積極的依存(「自分で頑張るのではなく他者を頼る」、選択的対応(関与すべきことを見極める)、新たな人脈形成(幅を広げてくれる助言者を求める)という3つの行動変化です。(図6)

経営リーダーに特徴的な行動変化

 いずれにしてもリーダーは経験を通じて成長します。優秀さとは行動ではなく習慣である、と説いたのはアリストテレスですが、リーダーを育てるにはそれが経験できるポジションを与え、訓練を繰り返し行うことが何よりも必要であるということです。リーダーが先天的な才能である、という考え方は、少なくとも企業組織においては、最近では、あまり聞かれなくなりました。生まれながらのリーダーはおらず、リーダーとは、潜在力を発掘し、育てるものである。私たちは、このように考えています。リーダー開発を自然に任せるというやり方は、リーダーが組織に与える影響の大きさを考えれば、あまりにもリスクが大きすぎます。

 求められるリーダー像は、組織の状況や目指す姿によって様々です。ですから、どの組織にもあてはまる、一律なリーダー開発のやり方を見つけることは、現実的ではありません。とはいえ、これまで述べてきたように、ある程度、科学的で、言語化されたリーダー開発のアプローチというものは存在します。今こそ、意図をもったリーダー開発に、それぞれの企業や組織が挑戦していくべきではないでしょうか。

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