若手中堅人材の「挑戦の発芽」に必要なことは何か?
ー企業に勤める25~34歳の意識調査結果に基づく考察ー

はじめに 若手中堅人材の「挑戦の発芽」が組織の変化と成長につながる

皆さまの組織では、若手中堅と位置づけられる25-34歳の人材が活き活きとリーダーシップを発揮することができているでしょうか?本レポートでは、若手中堅人材の意識や行動をさらに理解し、個人と組織の成長支援の方向性を探ります。

アンケート調査の背景

当社が発行した人材開発白書2017「リーダーシップの発芽」では、25-34歳の企業人(以降、若手中堅人材)がリーダー志向(周りを巻き込んでより大きなことを成し遂げる役割を好む)を持つようになるには、「野心(今より大きな成果をあげ、自分の次のステップにつなげたい)」を感じる意識の変化が関係することがわかりました。また、リーダー志向は35歳を過ぎると急速に減退する傾向があり、それまでの対処が重要であるという示唆が得られています。
では彼らは、仕事や職場ではどのようなことを感じ、どのようにふるまっているのでしょうか?そして、挑戦する心意気を育むためには何が必要なのでしょうか?
このような問題意識をもとに、弊社では25-34歳の企業人が仕事や職場で感じる気持ちや行動について尋ねるインターネット調査を行いました。本レポートでは、アンケート調査結果を一部抜粋して紹介します。30歳前後の企業人の現状を整理し、自らの意志で挑戦する人材を育成するためには、どのような成長支援が必要であるのかを探りました。

若手中堅人材の挑戦を発芽させるための要素

今回のアンケート調査から示唆されることは、以下の点です。

1. 25-34歳の企業人の約半数は、成長志向と自信を持っている。一方で、仕事場面では周囲との調和を乱すことなく、着実な成果を見込めることを手堅く実行する傾向が強い。このような傾向が、自らの意志を打ち出す気持ちや行動力を抑えてしまう可能性がある。

2. 周囲からの賛同や確実性が得られないことを恐れて行動を止めるストッパーを克服するためには、「仕事を通して実現したいこと(ビジョン)を持つこと」「ビジョンを実現するために実践すること」、さらに「経験から得た学びをふり返ること」が重要である。

3. 仕事を通して実現したいこと(ビジョン)を持ち、そのための実践行動をとることは、多様な価値観や視点に触れる「外部からの刺激」と、自分自身の行動や考えをふり返る「内省」と関係がある。また、職場で自分が認められ受け入れられているという安心感も、ビジョンと実践行動を後押しする。

 

調査概要

調査対象 上場企業および関連会社に勤務する25-34歳の社員
調査方法 インターネット調査
(調査委託先:株式会社マクロミル)
回答期間 2017年9月22日~23日
有効回答数 310人
回答内訳 25-29歳:155人
30-34歳:155人
回答者性別 男性:196人(63.2%)
女性:114人(36.8%)
※労働力調査結果(総務局統計局)の「正規の社員・従業員」データをもとに、年代別に割り付け
所属企業属性 100人未満:21人
100人以上~300人未満:32人
300人以上~500人未満:29人
500人以上~1,000人未満:41人
1,000人以上~3,000人未満:56人
3,000人以上~5,000人未満:34人
5,000人以上~10,000人未満:34人
10,000人以上:63人
設問 ・仕事特性、上司との関係性、職場環境、社内外のネットワーク
・成長意識と仕事観
・仕事場面での気持ち
・仕事上の取り組み
・自分の意志による挑戦行動
・仕事経験のふり返り状況
・重要だと考える能力

調査からの示唆1 成長志向・自信を活かしきれない現状

25-34歳の企業人の約半数は、「今の限界を超えてもっと自分を大きくしたい」「仕事の実力がついてきた」という成長志向と自信を持っています。一方で、職場の調和を乱すことなく、着実な成果を見込めることを手堅く実行しようとする傾向もあります。このような傾向が、自らの意志を打ち出す気持ちや行動力を抑えてしまう可能性があります。

若手中堅人材は、これからの自分についてどのような希望を持っているでしょうか。ここでは、成長意識や仕事観に対する回答から、その傾向を探ります。(【図1】 若手中堅人材の成長意識と仕事観)

各質問に対する回答傾向を、肯定的回答(あてはまる、ややあてはまる)と、否定的回答(あまりあてはまらない、あてはまらない)の割合に着目してみると、「今の自分の限界を超えてもっと自分自身を大きくしたい」「チャンスをものにして次のステップに進みたい」という問いに対しては、5割以上の人が肯定的回答で、否定的回答は約2割でした。半数以上の人は、現状に満足することなくさらなる成長を目指す意欲を持っているといえます。

そして仕事観については、「世の中にインパクトを与えられる仕事の成果を出したい」「今よりも、もっと大きな仕事をしたい」「社内での地位を高めて会社の経営を動かしたい」という問いに対する肯定的な回答は約3割~4割弱、否定的な回答は3割前後と、肯定的・否定的回答が分かれました。一方で、「周囲の人の役に立てるように自分の力を活かしたい」「自分らしさや価値観を大切にして自分にしかできない仕事を成し遂げたい」に対しては、5割前後の人が肯定的な回答でした。
仕事のインパクトや成果の大きさ、社内の地位を目指す上昇志向については考え方が分かれる一方で、全体としては他者への貢献や自分らしさを大切にする志向があると推察されます。

【図1】若手中堅人材の成長意識と仕事観(n=310)

若手中堅人材の成長意識と仕事観

 

次に、自分の仕事ぶりや成果に対する自信についてみていきます。(【図2】仕事場面での気持ち1)
「自分は、周囲の人から頼りにされている」「自分には、仕事の実力がついてきた」という問いに対しては、5割前後が肯定的回答でした。ただし「自分の意見を主張することによって、周囲に良い影響力を与えられる」という問いに対しては、先の2つの問いよりも肯定的な回答が1割以上少ないという結果になりました。自分の仕事ぶりに自信を持つようになりながらも、周囲に働きかけることに対しては躊躇を感じていることがうかがえます。

そしてこのような躊躇がどのような気持ちから生まれているのかのヒントは、仕事場面での気持ちについての回答にあらわれています。(【図3】仕事場面での気持ち2)

【図2】仕事場面での気持ち1(n=310)

仕事場面での気持ち1

【図3】仕事場面での気持ち2(n=310)

仕事場面での気持ち2

「場の雰囲気を乱すような発言や行動はしたくない」「他者から批判されたり反発されたりしないようにふるまいたい」という問いに対する肯定的回答は、5割以上となりました。場の雰囲気を読んでその場に適したふるまい方をすること、周囲との衝突を避けて調和をとることに敏感であるといえます。

また「何かに挑戦するならば、周囲が賛同してくれることに取り組みたい」「成功の見込みが立たないことは確実性を高めてから実施したい」という問いに対する回答も5割以上が肯定的な回答でした。「得られそうな見返りと、そのための労力が見合わないことはしたくない」に対しては4割以上が肯定的回答であることも合わせて考察すると、周囲からも賛同されること、確実性が高く労力に見合う見返りが見込めることなど、着実な成果を見込めることを手堅く実施しようとする傾向があります。

つまり、他者の基準や外的な成功基準に見合うことを重視しようとする気持ちが、自分の意志で周囲に働きかける行動を止める「ストッパー」になり、成長志向や自信を活かしきれなくなってしまっていることが示唆されます。絶えず変革が求められる時代にこのような傾向が強く出てしまうと、不確実な状況でも主体的な意志のもとに行動を起こすエネルギーを阻害してしまうことが危惧されます。

調査からの示唆2 ストッパーを克服するビジョンと実践行動

周囲からの賛同や確実性を得られないことを恐れて行動を止めるストッパーを克服するには、どのような意識と行動が必要なのでしょうか?「仕事を通して実現したいこと(ビジョン)を持つこと」「ビジョンを実現するために実践すること」、さらに「経験から得た学びをふり返ること」が、行動を起こす上で役立つようです。

周囲との調和や確実性を重視する若手中堅人材が、変化と不確実性に満ちた状況でもリーダーシップを発揮できるようになるためには、どのようなことが必要なのでしょうか?
私たちは、「何かを実現したい、こうなりたいという強い思い(ビジョン)」と「思いだけではなく実践すること」が、行動を止めるストッパーを克服することに影響するのではないかという仮説を持ちました。

ここでは、ビジョンと実践に関わる2つの問い(「仕事を通して自分が目指す姿や実現したいことのイメージがある(ビジョン)」「自分が目指す姿や実現したいことに向かって、これまで取り組んだことがなかったことに挑戦している(実践)」)に対する回答を用いて、傾向を分析しました。(【図4】仕事で実現したいこと(ビジョン)と実践)

【図4】仕事で実現したいこと(ビジョン)と実践(n=310)

仕事で実現したいこと(ビジョン)と実践

まず、ビジョンの有無・実践行動の有無に対する回答を「あり(あてはまる・ややあてはまる)」「なし(どちらともいえない・あまりあてはまらない・あてはまらない)」に分類し、回答者を4つのグループとして取り扱いました。
その結果、「ビジョンあり×実践あり(A)」が26.1%、「ビジョンあり×実践なし(B)」が14.2%「ビジョンなし×実践あり(C)」)が10.2%、「ビジョンなし×実践なし(D)」が49.5%、となりました。(【図5】ビジョンと実践のグループ分け)

【図5】ビジョンと実践のグループ分け(n=303)

ビジョンと実践のグループ分け

これら4つのグループについて、不確実性が高い2つの場面での行動傾向に違いがあるのかを分析しました。(【図6】ビジョン×実践グループ別回答「リスクがあるときでも、新しいことを積極的に実践している」、【図7】ビジョン×実践グループ別回答「自分の今までの限界を超えることに意図的に取り組んでいる」)

「ビジョンあり×実践あり(A)」のグループは、それ以外のグループと比較して、「リスクがあるときでも、新しいことを積極的に実践している」「自分の今までの限界を超えることに意図的に取り組んでいる」、どちらの問いに対しても肯定的回答が多い傾向がありました。ここでとくに注目すべきことは、「ビジョンあり×実践なし(B)」と「ビジョンなし×実践あり(C)」の肯定的回答には大きな違いがないことです。ビジョンを持つこと、さらにその実現のために実践していること両方が揃って、不確実な状況でも一歩踏み出す違いにつながることが示唆されます。

【図6】ビジョン×実践グループ別回答「リスクがあるときでも、新しいことを積極的に実践している」(n=303)

ビジョン×実践グループ別回答「リスクがあるときでも、新しいことを積極的に実践している」

【図7】ビジョン×実践グループ別回答「自分の今までの限界を超えることに意図的に取り組んでいる」(n=303)

ビジョン×実践グループ別回答「自分の今までの限界を超えることに意図的に取り組んでいる」

また、「ビジョンあり×実践あり(A)」のグループは上記の場面での行動の違いだけではなく、仕事経験のふり返りの状況にも違いがありました。(【図8】ビジョン×実践グループ別回答 仕事を通した経験のふり返り状況)

【図8】ビジョン×実践グループ別回答 「仕事を通した経験のふり返り状況」(n=303)

ビジョン×実践グループ別回答 仕事を通した経験のふり返り状況

「ビジョンあり×実践あり(A)」のグループは、「仕事経験をふり返る機会はとくにない」とする回答が5.1%と、他のグループと比較すると最も少ない結果となりました。このことは、ビジョンを持ち実践する人たちは、何らかの形で仕事のふり返りを行っている人がほとんどであることを意味します。かつ、「いくつかの仕事経験を関連づけながら、得られた学びの共通点や違いを深めている」「いくつかの仕事経験から得られた教訓や学びを、自分の言葉で他の人に伝えることができる」など、経験を活かして次の行動の質を高める、高次のふり返りをしている割合が高いことがわかりました。
経験で得られた学びをふり返ることは、目指す姿を確かなものにしてさらに実践の質を高める上での好影響を与えることが示唆されます。

調査からの示唆3 ビジョンと実践行動を促進する刺激と内省

仕事を通して実現したいこと(ビジョン)を持ち、そのための実践行動をとることは、多様な価値観や新たな視点に触れる「外部からの刺激」、考えや行動をふり返る「内省」の機会を多く持つことと関係があるようです。また、職場で自分が認められ受け入れられているという安心感も、ビジョンと実践行動を後押しします。

ビジョンを持ち実践している人の職場や仕事環境には、どのような特徴があるのでしょうか? 先ほど分析したグループを用いて、職場での関係性や仕事の特性、社外でのネットワークについてどのように感じているかを分析しました。

「ビジョンあり×実践あり(A)」と「ビジョンなし×実践なし(D)」を比較して、スコアに有意な差があり、かつ差が大きい項目は、「色々な価値観を持つ人と合意形成しながら進める仕事が多い」「社外に、自分に新たな視点を与えてくれる人がいる」「社内に、自分の考えや行動のふり返りを支援してくれる人がいる」でした。
多様な価値観や新たな視点に触れる「外部からの刺激」、他者の力を借りながら考えや行動をふり返る「内省」の機会が、仕事上の主体的な目的意識と実践を促進させていると考えられます。

またその他では、「職場では、他の人と違う意見を言っても受け止めてもらえる」「社内に、自分を認めて応援してくれる人がいる」も、「ビジョンあり×実践あり(A)」と「ビジョンなし×実践なし(D)」とのスコアの差が大きい項目でした。職場で自分が認められて応援されている実感、受け入れられているという安心感も、ビジョンと実践を後押しする要素になると考えられます。

【図9】ビジョン×実践グループ別回答「仕事・職場・社内外の関係性」(n=303)

ビジョン×実践グループ別回答「仕事・職場・社内外の関係性」

提言 全ての若手中堅人材がリーダーシップを発揮する可能性を持っている

若手中堅人材がリーダーシップを発揮するための課題は、自らの意志で周囲を巻き込む行動を起こすことです。不確実な状況で行動を起こすために必要なことは、「何かを実現したい、こうなりたいという強い思い(ビジョン)」と、変化を恐れる心のストッパーを少しずつ乗りこえる小さな行動です。それらを促進するためには、多様な価値観に触れる機会と内省を通して自分なりの価値観を築く環境づくりが欠かせません。

若手中堅人材のリーダーシップ開発の重要性

今回のアンケート結果からは、若手中堅人材が「周囲の人の役に立てるような仕事をしたい」「自分らしさを大切にする仕事をしたい」という価値観をベースにしながら、自分の次のステップを目指す成長志向を持っていることがわかりました。そして、仕事を通して着実に実力がついてきた実感を持っています。
そのような若手中堅人材にとっての次の成長課題は、周囲を巻き込むことへの自信が不足していることです。これまでの経験では、分業化された業務を全うする場面が多かったのかもしれませんし、他者をリードする機会は少なかったのかもしれません。
若手中堅社員は、組織の調和を乱さないことや、確実な成果を出すことを気にしていて、その枠をこえる行動は躊躇する傾向がありました。何か新しいアイデアに気づいたり、既存のやり方に違和感を感じることがあったとしても、組織での賛同や後押しがなければ一歩を踏み出すことができない気持ちがあるようです。このままでは、実行に移すことがないまま情熱が薄れ、挑戦しようとする意欲にも「気枯れ」が生じてしまいます。

変化や不確実性の高い時代に、組織が変革を遂げるためには、主体的な意志のもとに他者をリードし、変革に挑戦する人材をできるだけ多く保有することが必要です。
全ての若手中堅人材は、さらに成長する可能性を持っています。他者を巻き込み大きな成果を成し遂げるリーダーシップの開発には長い時間がかかります。そのために、若手中堅の年代から主体的な意志に基づき他者をリードする経験を少しずつ重ねることは、組織の成長にとって大きな意義があることです。

挑戦のドライバーとストッパー

周囲との調和や確実性を重視する若手中堅人材が、仕事において安全な領域から一歩踏み出すドライバーになるものは、仕事を通して何かを実現したいという思い(ビジョン)を持ち、実践を通して学ぶ循環するサイクルです。何を目指したいのかを自分の言葉で考え、さらに考えるだけではなく実践することを通して、一つずつ学びが増えていきます。

しかし、新たな挑戦には期待とともに不安もつきものです。変化を恐れる気持ちが、無意識のうちに実行を止めようとするストッパーとなってしまいます。若手中堅人材の特徴からいえば、「他の人は賛成してくれるのだろうか?」「成果が出ないで無駄な時間になるくらいなら他のことをした方がいいのではないだろうかか」などのストッパーが働くと、行動を起こさない方がいいという選択をしてしまいます。
若手中堅人材が主体的な行動を取るために必要なことは、仕事を通して叶えたい自分のビジョンを持つこと、そして変化を止めるストッパーに気づき、それを少しずつ緩めることができるような小さい行動を積み重ねることです。ビジョンと実行のサイクルである「挑戦のセットモデル」がやがて大きな変化につながります。

外部の刺激と内省を促進する機会づくり

ビジョンに基づく実践行動を促進するには、個人の業務や役割に閉じずにさまざまな価値観に触れる「外部からの力」、そして自分の考えや行動をふり返ることから生まれる「内側から成長する力」が鍵となります。
さらに、絶えず組織の境界を越えた多様性に触れる機会が、自分の考えや行動を問い直し、自分の価値観をつくることを促進します。若手中堅人材の成長発達を促進するためには、これらを意図した機会づくりが今後さらに重要であると考えます。

寄稿 知性発達の観点からみる若手中堅人材の成長・発達

加藤 洋平
知性発達科学者 加藤 洋平


前職の経営コンサルタントとしての経験と発達科学の最新の方法論によって企業経営者、次世代リーダーの人財育成を支援する人財開発コンサルタント。現在、オランダのフローニンゲン大学に在籍し、複雑性科学と発達科学の枠組みを活用した成人発達と成人学習の研究に従事。


若手中堅人材に見られる「他者依存段階」の特性

近年、日本の企業社会の中で注目を集めている学問領域として「成人発達理論」と呼ばれるものがあります。この理論の根幹には、私たち成人は一生涯を通じて成長を遂げていくという考え方があります。成人発達理論の研究者の中でも、特にハーバード大学教育大学院のロバート・キーガン教授の発達理論は徐々に日本の企業社会の中で認知され始めています。今回の調査結果には、若手中堅人材のさらなる成長および組織の成長に関する重要な発見事項が数多く盛り込まれています。

今回の調査から明らかになったことの一つは、25-34歳の若手中堅の半数近くが、キーガン教授の理論で提唱されている「他者依存段階」の特徴を持っているということです。この段階では、まだ自分独自の価値体系が構築されておらず、自らの意志決定基準に基づいて主体的に行動することが難しいという特徴があります。まさに、今回の調査結果が指摘するように、周りの目や他者からの評価を気にしすぎるあまり、自らの限界を乗りこえていく形で様々な仕事に主体的に取り組み、さらなる成長を実現させていくことは、半数近くの若手中堅人材にとっては難しいことが見て取れます。


「他者依存段階」からの脱却方法の示唆

そこから一歩踏み込み、今回の調査はそうした課題に対する解決策の糸口を提示しています。重要な発見事項の二つ目は、他者依存段階からさらなる成長に向けて一歩を踏み出している人材の特徴として、自らが実現しようと思っているビジョンを具現化させる実践を日々行い、それを振り返る習慣を持っているということです。私たちの成長の本質には、「内側から開いていく」という特性があります。つまり、自らが主体的な目標を持ち、主体的な行動を行い、その行動結果を省察し、新たな気づきを内側から獲得していくことは、さらなる成長の実現に不可欠となります。

一方で、今回の調査結果が明らかにしているように、主体的な行動と絶え間ない内省を行うことを通じて継続的な成長を実現させている若手中堅人材の数は多くありません。その要因として、さらなる成長や挑戦を阻害するストッパーが存在しています。私たち人間は、現状維持をする生き物であり、そうしたストッパーの存在自体は否定的なものではありません。ただし、さらなる成長や挑戦を継続的に実現させていくためには、自らがどのようなストッパーを持っているのかを特定し、それと向き合っていくことが大切になります。

今回の調査結果の重要な発見事項の三つ目として、継続的な成長や挑戦を実現できている若手中堅人材には、ビジョンの具現化に向けた実践の結果に対する内省を促す対話の場が社内外に存在するということです。上述の通り、私たちの成長は内側から開いていくという特徴を持っています。しかし、これは成長というものが自分だけの力で成し遂げられることを意味していません。私たちの成長は、内側から育まれていくのと同時に、外側からの刺激と支援が重要になります。とりわけ、社内においては自らの考えや行動の振り返りを支援してくれる人の存在が大切となり、様々な価値観を持つ人たちとの協働は自分独自の価値観を作り上げていく上で重要になります。そして、社内のみならず、社外において今の自分にはない視点を提供してくれる人との関わりは、自己の価値観を形成することやさらなる挑戦の刺激となっていくでしょう。
今回の調査結果を踏まえると、若手中堅人材がさらなる成長を遂げていくためには、自らの成長や挑戦を妨げているストッパーを特定し、それと向き合うための機会が存在するかどうかが重要になります。また、ビジョンの実現に向けた行動と内省を促す支援者が社内外にいるかどうかも鍵を握ります。企業の将来を担い、成長の可能性を多く残した若手中堅人材の成長支援に関する多くの示唆と洞察が今回の調査結果にはあると言えるでしょう。

執筆者紹介

高城 明子

ラーニング事業本部 人材・組織力強化ソリューション部

高城 明子

Akiko Takagi

富士ゼロックスに入社後、法人営業、商品マーケティング、人材開発に従事。2007年から富士ゼロックス総合教育研究所(現パーソル総合研究所)にて、リーダーシップ開発および組織開発分野で、個と組織の自律的な成長・変革を促進するためのプログラム企画と実行支援を行っている。知性発達科学および成人発達理論の活用、チームの関係性開発、エスノグラフィーの活用に強みがある。CRRグローバル認定 組織と関係性のためのシステムコーチ(Organization & Relationship Systems Certified Coach)

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