誰かを苦手と感じたら実践してみたい、3つの方法

公開日 2016/05/18

執筆者:ラーニング事業本部 加藤 利恵

目次

はじめに

今回お伝えしたいのは「苦手な人を好きなる方法」ではありません。「誰かを苦手だと感じた時に上手に接する方法」についてです。

私達は、家庭や職場、あるいは地域など様々なコミュニティに属して生活をしており、朝起きてから寝るまでの間に大勢の人と接しています。好きな人や楽しい人と接すると楽しい気分になりますが、中には苦手な人もいます。そういう人と接すると気分が悪くなってしまいます。若い頃の私は、苦手な人との人間関係に悩むと、学校や会社に行くのがとても苦痛でした。少しでも人と合う時間が減るようにわざわざ遠回りをして会社に通っていたこともあります。

しかし年齢を重ねてくると、苦手と感じる人がいなくなってきました。若い頃は絶対に嫌と感じていたタイプの人とも今は自然に付き合えるようになっているのです。決して好きになったわけではないのですが、苦手と感じることはなくなったのです。自分自身を振り返りながら調べた結果、3つのことを実践していたらしいことがわかりました。

苦手と感じた人が多いと気分が悪くなるだけではなく、様々な悪影響があります。もし、苦手な人が目の前に現れたら、この3つの方法を実践してみてください。

苦手があなたに及ぼす悪影響

人間には8つの基本情動があるとされています。好きな人や何となく好ましく感じる人と接する時には、「喜び」「共感」「期待」というポジティブな情動が強まります。逆に嫌いな人や何となく苦手に感じる人と接する時は、「悲しみ」「怒り」「嫌悪」「恐怖」「驚き」というネガティブな情動が強まります。

ネガティブな情動は、私達生物にとって危険を回避するために重要です。しかし、激しい「怒り」や「嫌悪」は血圧を高めるなど、身体に悪影響をもたらします。それだけでなく、攻撃的な言動や態度によって周囲との軋轢を招き、親しい人を傷つける原因にもなりかねません。ネガティブな情動を回避することは、健康で素晴らしい時間を過ごすために大切なのです

苦手と感じなくなるための3つの方法

苦手であることを苦手にしない

 小学校2年生になる息子の友人A君の話です。先日、A君の家へ学校から電話があり、「B君をA君が仲間外れにしている」と先生に言われたというのです。息子に事情を聞くと、B君はいつも遊びのルールを守らないですぐに暴力を振るうから、A君だけじゃなくてみんな遊びたくないのだと言っていました。しかし、後日、先生は「クラスの仲間なのだからみんなで仲良くしましょう。遊びに混ざりたい子は必ず仲間に入れてあげましょう。」と話したそうです。いじめや仲間外れを肯定するつもりは全くありません。しかし、私達は子供の頃ころから「みんな仲良く」と親や周囲から言われて育ち、人と仲良くできないのはいけないことだと言い聞かされてきました。こうした経験が積み重なるうちに、「苦手意識を持つことは悪いことだ」と思うようになっているのでしょう。

しかし、そうした考えが一層、事態を悪化させます。苦手=悪と思っているために、苦手である自分をなかなか認めないという状態を引き起こしてしまうのです。その結果、誰かを苦手に思う自分が嫌になり、一層イライラしてしまいます。苦手を無理に克服しようとして、逆に関係を悪化させてしまうのです。

まずは、自分が今苦手と感じている状態を認めてみてください。常に全ての人を好きでいることは到底不可能なのですから、誰かを苦手と感じるのは悪いことではないのです。苦手な自分を受け入れることで自分の気持ちが安定し、自らの行動や感情をコントロールできるようになるのです。

相手を受け入れるかどうかを自分で決める

 あなたの身近に双子の方はいらっしゃいますか。ほぼ同じ遺伝子をもち、同じ環境で育ち、似た容姿の双子です。そのような双子は喧嘩をしないものなのでしょうか。いいえ、双子も喧嘩をします。どんなに似ていても別の人格で、別の考えを持っているからです。あなたに似ている人がいたとしても、あなたと全く同じ人は世の中にいないのです。

私達は、常に異なる考えの人と接しています。自分と異なる意見に対しては、相手の考えを押しつけられたと感じたり、命令されたと感じたりすることもあるでしょう。そしてその結果、その人のことを苦手だと感じてしまうこともあるのです。

そういうときには、「自分とは異なる考え方もあるのだ」と考えてみてはいかがでしょうか。自分と異なる意見があることを認められれば、相手の意見にしっかり耳を傾けることができるようになります。そしてここからが重要なのですが、異なる意見を認めた上で、その異なる意見を受け入れるかどうかを、自分で選択するのです。自己決定理論という動機づけの考え方があるのですが、その理論によると人は自分で選択した方が動機づけられるといいます。

例えば、子供が勉強をする時のこんな光景を想像してみてください。ちょうど勉強を始めようと思っていた子供に母親が「勉強をやりなさい」と言ってしまうと、「今やろうと思っていたのに」と子供が怒り出してしまい、結局勉強をしない、というものです。あるいは、勉強を始めようと思っていない子供が母親に言われてからしぶしぶと勉強する、という光景です。逆に、子供が自らの意思で勉強をする場合には、驚くほど勉強がはかどっていて親がびっくりしてしまうことがあります。このように、私たちは、自分で選択した行動には前向きに取り組めるために良い結果がでます。そして、他人から言われた(強制)時には、前向きに取り組むことが難しくなってしまうのです。つまり、相手の考えを受け入れるかどうかを自分で決めた場合は、結果的に相手の考えを受け入れたとしても相手への苦手意識は起こらなくなるといえます。相手の考えを受け入れるかどうかを、自らが選択するようにしてみてください。

「人」から「部分」へ焦点を移そう

 春は出会いの季節です。新たな会社、新たな学校、新たな住居など、これまで知らなかった人々と知り合う機会が増えます。これまでの出会いを思い出してください。出会った瞬間に「嫌い」と思うことはあまりないでしょうが、「なんとなく合わないかも」と感じた人はいるのではないでしょうか。私達はそれまでの経験をもとに「自分と合う人はこういう人」「自分と合わない人はこういう人」と判断しているのです。

その判断基準の1つが、価値観です。自分と価値観が大きく異なる人や自分が常識だと思っていることが通用しない相手には、苦手だと感じる傾向にあります。例えば、金銭感覚です。出会った瞬間に、相手が身につけているものを見ただけで、合わないという印象を受けたりします。私達は価値観を大切にしています。だからこそ、自分の価値観が侵されないように価値観が異なる人を異物として扱い、「合わない人だから気をつけよう」という防御姿勢をとっているのです。

そのような場合は、「合わない人」ではなく、「金銭感覚が合わない人」と考えてみたらどうでしょう。「合わない人」としてしまうと、その人のすべてが合わないのだと思い込んでしまいます。しかし、合わない部分にだけ注目することで、それ以外の多くの部分とはもしかしたら合うかもしれない、という可能性を残すことになります。他の部分で尊敬や共感できる部分を見つけてみてください。

最後に

苦手と感じる人が多い生活と、苦手と感じる人が少ない生活。あなたにとっての理想は、どちらでしょうか。私達が抱く不安やストレスの多くは、人間関係に起因するといわれています(注1)。昨今は、苦手な人との関係に悩むあまり病気になってしまうケースが多々あります。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎いだなんていう恐ろしいことわざがありますが、苦手な人を好きなる魔法の方法は、残念ながらなさそうです。しかし、今回お伝えしたように苦手という感情をコントロールする方法はあります。今回ご紹介した方法に取り組むには、準備は必要ありません。少し視点を変えることで、苦手だと感じた人が苦手でなくなるかもしれないのです。ぜひ試してみてください。

 

注1:マクロミル(2015)「働く男女1000人ストレス実態調査」。同調査によれば、ストレスを抱えている人の58.5%がその原因として「職場の人間関係」を上げており、「家族関係」を上げる人は30%にのぼる。

(2016.05.18)

執筆者紹介

加藤 利恵

ラーニング事業本部

加藤 利恵

Rie Kato

資格の総合スクールで司法試験やFP講座の企画・運営に従事したのち、2001年より富士ゼロックス総合教育研究所(現 パーソル総合研究所)の経営企画部で経理、経営管理、内部監査、内部統制などの業務を経験。現在は、事業推進部でパートナー企業との連携や業務効率化、IT/オンライン化の促進など幅広い業務に取り組んでいる。

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