ヤフーのダイバーシティ&インクルージョン「多様性は、可能性だ。」~手探りで積み上げてきた10年と、全管理職2,000人との研修を実現するまで~

公開日 2023/10/24

【イベントレポート】ヤフーのダイバーシティ&インクルージョン「多様性は、可能性だ。」~手探りで積み上げてきた10年と、全管理職2,000人との研修を実現するまで~

「UPDATE JAPAN」を企業ミッションに掲げ、約100ものインターネットサービスを提供しているヤフー株式会社。同社では現在「多様性は可能性だ」をキーフレーズにDE&Iを推進している。2023年9月22日に開催されたセミナーでは、人事企画部D.E. & I. 推進事務局の山田玲恵氏と秋橋仁美氏に、10年以上にわたる同社のDE&Iへの取り組みについて紹介していただいた。

※取材時点。同社は2023年10月1日にLINEヤフー株式会社に商号変更

  1. 社員たちの理解と納得に向け、DE&I推進の「WHY(なぜやるのか?)」を発信
  2. ヤフーの社員は世の中一般よりも意識が高い? ――データで可視化された自社の課題
  3. キー層の管理職には「DE&Iマネジメント研修」受講を必須に
  4. 自社の特性を踏まえ、どんな組織にしたいかまで考えることが大切

社員たちの理解と納得に向け、DE&I推進の「WHY(なぜやるのか?)」を発信

ヤフー株式会社は、変化の激しい業界特性を受け、柔軟に変化に対応していく姿勢を良しとする自由闊達で風通しのよい社風が特徴だ。上下の意識が薄く、アイデアや意見をフラットに取り入れるなど、トップダウンや同調圧力も希薄。課題を常に見出して提供サービスをアップデートしていく課題解決思考型の社員が多いのも強みである。それだけに議論や話し合いでは、必ず「なぜそうなのか=WHY」が問われる傾向があるという。

「なぜの部分が不明瞭な説明だと、社員たちの理解も納得も得られない。DE&Iについても、育児や介護中の社員、女性社員、LGBTQ等性的マイノリティの当事者など、さまざまな属性カットでダイバーシティ施策を議論しているうちは、社員が理解・納得できるWHYをなかなか構築できませんでした」(山田氏)

議論に議論を重ねて行き着いたのは「属性に関わらず、社員一人ひとりが安心安全に、心置きなく仕事をして、パフォーマンスが発揮できる環境を作りたい」というシンプルな姿。ヤフーでは、DE&Iを「社内の誰もが受け入れられ、認められていると実感でき、社員自身の力を最大限発揮できる土壌を、互いに整える」ことと位置づけ、「それがヤフーの成長のために欠かせない。だから推進するのだ」と社内メッセージを発信している。(図1)

「このメッセージが大前提にあることで、何で女性なのか、何でパパママなのかといった問いかけにも納得してもらいやすい説明ができるようになりました」(山田氏)

図1.ヤフーにおけるDE&Iの位置づけ

ヤフーにおけるDE&Iの位置づけ

ヤフーの社員は世の中一般よりも意識が高い?
――データで可視化された自社の課題

同社のDE&Iへの取り組みは、社長交代を機に人事施策の大幅なアップデートが行われた2012年から始動した。社員有志による社内ボランティア活動が促進され、その流れでDE&I関連の当事者グループが発足。2016年には活動していた有志グループを「女性活躍」「育児・子育て両立」「性的マイノリティ」「障がい」等の各領域毎の推進プロジェクトとし、各プロジェクトには役員が活動スポンサーとして就任する体制とした。

さらに2021年度にはDE&I推進体制のアップデートを図り、エンゲージメントサーベイや全社向け研修などを担う人事企画部内にDE&I推進事務局を設置。全社でのDE&I意識調査もこの年からスタートさせた。

「これまではヤフーの社風から漠然と、『差別も男女の意識差もあまりない』という印象を持たれていて、私もそう感じていました。しかし、その印象が本当にそうなのか、これまで実態をデータで可視化したことがなかったため、DE&I意識調査を実施することにしました」(山田氏)。全社調査を行ったことで、確かにDE&I推進に賛同している社員は多く、世の中一般よりも意識は進んでいるものの、差別や偏見、アンコンシャス・バイアスを感じている社員が一定割合いるなど、社内の様々な課題が可視化された。

それを受け、DE&I推進は全社施策との連携が図れるように「面」で打ち、多様性理解促進の注力領域とした女性活躍は「点」で打つ、二面アプローチでの取り組みを2022年度から実施。(図2)

「全社施策に関しては、対象を経営層、管理職層、メンバー層にカテゴライズしたうえで、本部長・部長・リーダー層などの管理職をキーカテゴリーに設定し、管理職がDE&Iマネジメントを自信をもって推進できるよう、経営層とメンバー層に働きかける『サンドイッチ作戦』を展開しています。経営層には、社員への発信や社内外のイベントやセミナーへの登壇などを通じて取り組みの本気度を発信し続けてもらい、メンバー層にはアンコンシャス・バイアスに関するeラーニングの受講を必須にして、DE&Iマネジメントが機能する土壌づくりを行っていきました」(山田氏)

図2.全社施策の全体像

全社施策の全体像

一方、女性活躍推進に関しては、表現そのものの見直しから余儀なくされたという。理由は、「女性活躍」という言葉への社内からの抵抗が大きかったことだ。

「研修名に女性活躍の言葉が入っていたことが気になり、研修内容があまり頭に入ってこなかったといった声があったり、女性だから管理職に登用されたと思われたくないなどの反発があったりして、女性活躍の代わりとなる言葉を使おうということになりました。推進事務局で話し合った末、決まったのがジェンダーエクイティ推進です」(秋橋氏)

ジェンダーエクイティの表現のもと、2022年から女性管理職向けのメンタープログラム、ヘルプシーキング研修、ターゲットを絞ってのワークショップなどを開催している。

キー層の管理職には「DE&Iマネジメント研修」受講を必須に

また、DE&I推進のキーカテゴリーとして位置づけた約1,800名の管理職には、1回90分のオンライン集合研修「DE&Iマネジメント研修」の受講を必須とした。

研修実施前の課題として見えていたのは、「領域が膨大でどこから手をつけていいのかわからない」「知らないうちにハラスメントになってしまったら?」といった管理職層の不安、管理職層のスタート年代が20代中盤から後半と若く、ライフステージの変化やキャリアの多様性に触れていないリスクを自覚している人たちも多かったこと。

自信をもってDE&Iマネジメントに取り組んでもらうというゴールを実現するには、広大なDE&I領域の全体像がざっくりと把握でき、今日から何をすればいいのか、何ができるのかまで具体的に落とし込める研修内容であることが求められた。

研修は「DE&I領域全般のインプット」「具体的シーンを切り取ったケーススタディ」「DE&Iマネジメントにおける対話(1on1)の重要性」「部下との現状を把握するための個人ワーク」「行動アップデート宣言」の5つの内容で実施されたが、構築と導入に向けては次のような課題もあった。

・ヤフー社内の文化や特性をふまえ、ヤフー社員に響く内容にすること
・「Why」と思う気持ちに応えられるデータや理論が用意されていること
・忙しい管理職に必須で受講してもらうには90分が限界であること
 などだ。(図3)

図3.DE&Iマネジメント研修 工夫のポイント

DE&Iマネジメント研修 工夫のポイント

「パーソル総研様には研修構築から相談させていただいたのですが、研修のゴール設定に照らすと、インプットもやりたいし、充実したワークは外せないということで、まず知識のインプットは根拠となる理論やデータをふんだんに盛り込んだうえで、日常でも使えるハンディな資料に集約することにしました。また、すでに定着している1on1の有効性を伝えていただき、ほめて励まし勇気づけてもらうことで、90分という制約のなかで自信をもってもらえるようにしていただきました」(山田氏)

自社の特性を踏まえ、どんな組織にしたいかまで考えることが大切

受講後のアンケートでは「どう考えて行動すべきかヒントがわかった」「1on1がDE&Iマネジメントに活かせることがわかった」といったポジティブな声が寄せられ、結果は上々。半期に一度実施している多面評価でも、「上司は異なる考えや価値観を受け止め、理解尊重しているか」の数値項目が向上するなどの効果が徐々に現れているという。

「全管理職に必ず受講してもらうDE&Iマネジメント研修を実施してよかったことは、事業に直結した相談がD&I推進事務局や推進プロジェクトに上がってくるようになった点です。相談先があるとわかったことで、自分たちが提供しているサービスにおいてDE&Iを念頭に考えてもらえるようになったことは大きな変化だと思います」と山田氏。

秋橋氏も、「最近、私たちの中で『やっててよかった、DE&I』とよく言っているのですが、合併という大きな変化を目前に控え、異文化コミュニケーションに直面せざるを得ない管理職層に心の拠りどころのひとつを提供できたことは大きいですね」と話す。

苦労を重ねながらも推進への取り組みが成功した秘訣については、人事企画部の中に推進事務局を置いたことで、「面」での施策や全社施策を展開しやすくなった点、全役員が「女性の健康検定」を受検し合格するなど、強いコミットを社内外に発してくれた点をあげる。またどんどん変化していくのがDE&Iの領域。豊富なデータやソースの提供、理論の裏付けの面で、パーソル総研がサポートできたことも大きいと語る。

DE&Iマネジメントは、「誰のため、何のためにやるのか」、「それをやることでどういう組織になっていきたいか」をしっかり考えることが重要となる。それには自社のカルチャー、社員の特性まで踏まえてのカスタマイズやチューンナップが不可欠だ。

会社ごとに考え方も違えば、目指す方向も異なる。「それだけに悩んでいらっしゃる担当者はたくさんいると思います」と秋橋氏。「私たちもイベントなどで接点ができた他社のDE&I担当の方たちと情報を共有したり、相談したり、励まし合ったり、他社さんの事例から気づきをもらったりしてきました。ですので、少しずつでもDE&Iに取り組む他社の仲間を増やしていくことも大切だと思います」

登壇者紹介

ヤフー株式会社 山田 玲恵氏

ヤフー株式会社 ピープルデベロップメント統括本部 人事企画部 D.E. & I. 推進事務局
山田 玲恵氏

Akie Yamada

情報誌編集部、広報企画会社勤務等を経て、2005年ヤフー入社。企業広報に従事する傍ら、社内広報の立ち上げ、自社主催スポーツイベントの立ち上げ等に参画。2016年に人事部門へ異動。ER担当として人事施策のコミュニケーションデザインを担うと共に、2019年より D.E. & I. 推進を担当している。

ヤフー株式会社 山田 玲恵氏

ヤフー株式会社 ピープルデベロップメント統括本部 人事企画部 D.E. & I. 推進事務局
秋橋 仁美氏

Hitomi Akihashi

情報誌制作会社で広告制作業務やマネジメントに携わった後、2015年ヤフー入社。インターネット広告主のサポート職を経て、人事部門に異動。採用や労務などの人事業務を担当し、現在は組織・人財開発チームで D.E. & I. や well-being の推進を担当。ジェンダーエクイティ推進の文脈で社内メンター制度をはじめ各種施策の企画や運営を行っている。

株式会社パーソル総合研究所 組織力強化事業本部 組織力強化コンサルティング部 コンサルグループ
秋山 久美子

Kumiko Akiyama

人物インタビューを得意とする雑誌記者を経て、アメリカの大学院に留学。帰国後はグローバル人財育成に従事。6年間で延べ2,000人のビジネスパーソンにカウンセリングを実施。グローバル経験やダイバーシティ目線を活かし、違いを価値に変えるインクルーシブ活動を社内外で推進中。DEIコンサルタントとして、若手/管理職/役員の人財育成や風土づくりを通じ、人と組織の開発支援を行っている。同時に実践者として、パーソルグループのDI&E推進に取り組み、多様性を活かせる環境づくりにも情熱を注いでいる。

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
(ヤフー株式会社は2023年10月1日にLINEヤフー株式会社に商号変更)

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