デンソーの目指す自立・自律のキャリア

公開日 2023/03/01

【イベントレポート】デンソーの目指す自立・自律のキャリアデザイン

株式会社デンソーは、先進的な自動車技術、システム・製品を提供する自動車部品メーカー。2030年に「環境」と「安心」という大義を実現するべく目指すのは、個・キャリアをポイントとして、産業構造の転換期を乗り越え社会に貢献する「実現力のプロフェッショナル集団」。これを“人と組織のありたい姿”として据え、2021年から人財・組織改革を進めている。同社が掲げる「自立と自律」を重視したキャリアデザインと、ミドル・シニアのための「45キャリアデザイン研修」について人事部人財・組織開発室の新藤 幸(しんどう みゆき)氏に伺った。

新藤 幸氏

株式会社デンソー
人事部 人財・組織開発室 人財・組織開発2課

新藤 幸氏

2015年株式会社デンソーへ入社。電子部品の調達業務に従事し、その後人事部へ異動。人財開発担当として、年代別キャリアデザイン研修企画、海外トレーニーや越境関連施策の企画、社内キャリアコンサルタントとしての相談業務等に従事し、自立・自律のキャリア施策の実現に向け貢献をしている。

  1. デンソーの人財・組織改革「PROGRESS」の全体像
  2. デンソーが目指す「正しいキャリア自律」とは?
  3. 現在・3年後・将来の3フェーズに合わせた制度・運用
  4. 「実践的キャリア研修」「自学・自走の学び」に向けた施策

デンソーの人財・組織改革「PROGRESS」の全体像

電動化や自動運転、スマートシティ、カーボンニュートラルといったパラダイムシフトに直面する中で、デンソーでは2017年に、2030年に向けて「環境」と「安心」の2つの軸で、社会に貢献し、共感される企業を目指すという長期方針を策定した。

2020年、新型コロナ蔓延や品質問題といった経営危機をバネに、質の高いデンソーに生まれ変わるべく、デンソー変革プラン「Reborn21」をスタート。大義(パーパス)にもとづく意識・行動変革を、人と組織に浸透させ、「実現力のプロフェッショナル集団」を目指すのが、「PROGRESS」と名付けられた人財・組織改革だ。

この「PROGRESS」という名称には、「PROfessional(実現力のプロ)」と 「PROgress(進化・挑戦)」双方の意味合いと想いが込められている。同社が目指す人と組織のありたい姿(ビジョン)を示し、「人と社会の幸せのために新しい“できる”を実現する」という提供価値の創出に向かって、制度・施策の見直しが、現在進行形で進められている。(図1)

図1.「PROGRESS

デンソーの人材組織改革「PROGRESS」

PROGRESS」は4つの施策群から構成されている。自分発でつかんでキャリア自律を図るための「PROGRESS Design」、自ら学ぶ・社会から学ぶ意欲を後押しする「PROGRESS Develop」、透明性のある評価・処遇で挑戦への活力を高める「PROGRESS Drive」、そして、情報や組織のバリアをなくし、グローバルでインパクトを生むための「PROGRESS Diversity & Digital」だ。今回フォーカスするキャリア自律は、このうちの「PROGRESS Design」の領域となる。(図2)

図2.「PROGRESS」を支える4つの柱

PROGRESSを支える4つの柱

デンソーが目指す「正しいキャリア自律」とは?

比較的、成長が右肩上がりの時代は、海外赴任をはじめとして、キャリアパスが明確でイメージしやすく、かつ多くの社員に挑戦の機会が回ってきた。しかし、これからは変化のスピードが速くなり、事業ポートフォリオの転換や人財の流動化がますます求められる。

「リスキリングやリカレントの動きも活発になる中で、事技系・技能系問わず、変化のスピードに戸惑う社員が増える可能性があります。そこで“キャリア”というものを捉え直し社員と会社の関係性についても、かつての親子のような与え・与えられる関係性から、大義で結びついたうえで選び・選ばれる関係性へ変わっていく必要があると考えました」

社員の自立・自律を後押しするために、まずは自社における“キャリア”の定義に着手。同社におけるキャリアを「過去・現在・未来にわたる自分自身の働き方・生き方全体」と定め(図3)、さらにWILL-CAN-MUSTの視点で、実現したいことを具体化していくことで、エンゲージメントの向上、そして大義の実現につながるとしている点が特徴的だ。

「WILL-CAN-MUSTは個人にも会社にもあります。その両者をいかに重ね合わせ・共感を生むことができるかが、弊社のキャリア実現のポイントです」

図3.デンソーが目指す「正しいキャリア自律」とは

デンソーが目指す「正しいキャリア自律」とは

現在・3年後・将来の3フェーズに合わせた制度・運用

ありたい姿を示すとともに、実現を後押しする制度や施策、そして職場での運用強化にも力を入れている。

部下と上司間の対話機会は、年に3回の節目の面談と2週に1回を目途に行う「よりそいトーク」(デンソー版1on1)を設けているが、同社が特に課題と捉えているのが、これらの「質」だ。

国内全社員4万人対象のキャリア実現行動に関するアンケートでは、「上司と部下の対話の「量」は満たされているが、“キャリアに関する対話ができていない”、“キャリアの実現につながる行動が取れていない”と感じる社員が多い」という実態が見えてきたのだ。

そこで改善に取り組んだのが、面談のあり方と運用の仕組み。「現在、3年後、将来」という節目で、どのようなWILL-CAN-MUSTを目指すのかをじっくり考え・対話できるよう、目標管理・評価の面談とキャリアデザイン面談を切り分ける仕組みに刷新した。
加えて、部下のキャリア実現の鍵となる管理職の意識と行動を高めるべく、全管理職約3,000名に対し、マネジメントの考え方やスキルをアップデートする研修を行っている。

「実践的キャリア研修」「自学・自走の学び」に向けた施策

デンソーのキャリアデザイン研修のポイントは3つある。1つは、制度、自学、職場の実践の場と研修を接続して、研修を研修だけで終わらせず行動変容の定着につなげていく。2つ目は、年代や昇格時などの“点”での研修にとどまらず、対象を拡大し、どの年代でも必要な年にキャリア研修やeラーニングが受けられる“面”での機会を提供している。3つ目は、上司に対する「部下のキャリア実現支援研修」の提供だ。

キャリアデザイン研修自体は20代、30代、40代、50代と10年ごとの世代別に実施し、それぞれにテーマを設けている。

たとえばミドル・シニアとなっていく45歳前後の社員を対象にした「45キャリアデザイン研修」は、この世代にありがちなキャリアプラトーからの脱却を目指し、会社人生の中間地点としてキャリアを捉え直し、自身の志を再定義して、実現に向けて再加速してもらうことが狙い。パーソル総合研究所が研修の企画運営を支援し、パーソルが実施してきたミドル・シニア関連の調査データなども活用しながら、キャリア自律の重要性を理解してもらっている。

また自学・自走で学べる仕組みとして、「Udemy Business」を活用。キャリア研修受講後にUdemy Businessの受講希望者を募集し、希望者にはUdemy Businessの利用権を配布して、グループ単位で学習を進めてもらうかたちにしている。スタート時には人事主催で学びのキックオフ会を開催し、学習期間中は、人事からグループ別・個人別の学習状況ランキングや、人気のコースリストなどを月次レポートとして配信し、モチベーションを高めている。

「研修もUdemy Businessも、いずれも募集制としています。手挙げ参加にすることで自己決定意識を醸成していくことができて、内発的動機からの学びにもつながっていくからです。実際に、『45キャリアデザイン研修』と『Udemy Business』を受けた受講者からは、上司とのキャリア対話が深まった、同年代他部署の人たちと話す機会が生まれてよかった、他の人との意見交換で大いに刺激されたなど、ポジティブな反応が多く寄せられました」

2021年に策定され3ヶ年計画で進められてきた「PROGRESS」。最終年となる2023年は、目に見える成果を具体的に創出し、全員に浸透させていくことが目標。全社的にコミュニケーションを進めていきながら、「PROGRESS」をカルチャーとして定着させ、なおかつ進化させて、「実現力のプロフェッショナル集団」を目指していきたいと語る。

Udemyは、米国法人Udemy, Inc.が運営する世界5,700万人以上が学ぶオンライン学習プラットフォームで、世界中の「教えたい人(講師)」と「学びたい人(受講生)」をオンラインでつなげています。また、法人向けの「Udemy Business」は、Udemyで公開されている世界21.3万以上の講座の中から、日本の利用者向けに厳選した日本語及び英語約9,500講座を、サブスクリプション(定額制)で利用することができるオンライン学習サービスです。(株)ベネッセコーポレーションは、一生涯の学びを通して社会と人々の人生が豊かになるよう、社会人の学びを支援しており、Udemy社とは日本における独占的業務提携を2015年より行っています。(2022年11月時点)

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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