公開日 2023/02/27
令和元年6月の法改正により、職場におけるハラスメントを防止するため、事業者には雇用管理上必要な措置を講じることが義務づけられた。すなわちハラスメント対策の強化は、いまや事業主の義務となっている。では実際に、自社内でハラスメントが起きてしまった場合、会社としてどのように対処すればよいのだろうか。ハラスメントは上司→部下の関係性の中で生じやすく、上司のポジションにいるミドル・シニア世代は少なくない。今回はハラスメントを起こしてしまった行為者(加害者)へのケアをテーマに、キャリアカウンセリングという技法を通じて、どのような対応ができるかを紹介していく。
パーソルキャリアコンサルティング株式会社
キャリアコンサルティング部 東京支社 キャリアカウンセラー
髙木 和宏氏
電気・電子回路設計会社(技術職)で14年、技術系派遣会社(営業・労務管理・キャリア開発)で14年の経験をそれぞれ経て、2008年よりキャリアカウンセラーとして再就職支援に従事。セミナー講師、キャリア相談、外部企業カウンセリングルーム相談員、スーパーバイザー、キャリアコンサルタント養成講座講師・実技指導員等キャリアに関する業務など、幅広く活躍。
ハラスメントには、セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメントなど、いくつかの分類がある。その中でも特に多いのがパワーハラスメント、通称パワハラだ。
令和2年度に行われた厚生労働省の調査によると、過去3年間でパワハラの相談件数が増加傾向にあった企業は約1割にのぼる。また加害者と被害者の関係においては、上司から部下へのハラスメントが最も多く、従業員規模別では従業員数1,000名以上の企業でパワハラが多く見られ、うち約3割が増加傾向にあった。
では、実際に加害者に対して措置を行っている企業はどのくらいあるのか。
同じく厚生労働省調査では、7割の企業が「行為者に対する適正な措置」を行っていると回答している。具体的には「謝罪」「配置転換」「処分」が主だったもので、パーソル総合研究所が行った「職場のハラスメントについての定量調査(PDF)」でも、加害者への対応に関しては「問題解決のための相談」「事実確認」「注意」「配置転換」となっている。
しかしながら、どちらの調査からも今回のテーマである「加害者へのケア」を行っている企業は見て取ることができず、ケアにまで踏み込んだ対応をはかっている企業は多くないと考えてよさそうだ。(図1)
図1.図表102 ハラスメントを受けていることを認識した後の勤務先の対応
出典:令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 報告書 https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000775817.pdf
一方、キャリアカウンセリングの視点で見てみると、「ハラスメントやメンタルヘルス」のケアを目的としてキャリアカウンセリングを実践している企業は約5割となっている。(図2)
キャリアカウンセリングは、社員のキャリア開発や育成といった側面で活用されるケースが多いものの、「ハラスメント/メンタルヘルスサポート」目的で導入している企業もあり、キャリアカウンセリングによるアプローチが重要視されていることが伺える。
図2.【実態】キャリカウンセリングによるサポートについて
では、キャリアカウンセリングを通じて、どのような対応が可能なのだろうか。また、パワハラ加害者の行動変容につながるものなのだろうか。
ハラスメント加害者の傾向として言えるのは、ハラスメント行為を行った意識がない、自分がハラスメントを起こしていることに気がついていない、むしろ指導だと思っているケースが多々あるということだ。また、ハラスメントの加害者は上司であることが多く、ハラスメントさえなければ仕事ができる有能な人材であり、会社をリードしてくれる貴重な存在である場合も少なくない。企業としても労働人口が減少する中、生産性向上という観点でも、本人がハラスメントを起こした事実を認識し、しっかりと更生することによって本来のパフォーマンスの発揮を望む企業も多いのではないだろうか。その上で、加害者への配置転換や指導だけでは、根本は解決されず再燃する可能性もあるため、再発防止の観点からも加害者のケアが必要と考える。
「カウンセリングを通しての行動変容のポイントは、自己内省による主体的な変容です。ありのままの自分を受け止め、これからどうしていきたいかを自分の言葉で語れることをゴールとしています」
スタンスは「直そうとするな、解ろうとせよ」。(図3)
信頼関係を構築して安心して話せる環境をつくり、自身の特性を客観的に理解して、ありのままの自分を受け入れてもらい、現在の自分を正しく認識した上で、ここからどうしたいかを言語化していく。それによって行動変容につながっていくケースは少なくないと言う。
図3.『直そうとするな、解ろうとせよ』
繰り返しになるが、加害者は自身がハラスメントを起こしていると気づかないことが多い。むしろ、自分としてはよかれと思った行為が相対するメンバーと合わなかったり、あるいは心理的なプレッシャーなどの外的圧力によってエスカレートしてしまったりして、ハラスメントにつながっていると想定される。
したがって会社の対応として、まずは加害者にしっかりと向き合い、さまざまなプレッシャーや複雑な悩みについて傾聴する。そこから、自身の仕事の価値観の再認識や将来のありたい姿を導くことで、更生につなげていくことが可能となる。さらに、しっかり向き合うことで会社に対するエンゲージメントの向上にもつながる、といった副次的効果も期待できる。
まとめると、大事なポイントは次のようになる。
図4.まとめ
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。
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