『50歳からの〇〇戦略』シリーズを通して思うこと

公開日 2022/12/01

パーソル総合研究所では、ミドル・シニアの働き方や就業意識に関する実態の調査・研修、およびミドルからの躍進を支援しています。

シリーズ累計発行部数4万部を突破した『50歳からの逆転キャリア戦略』の著者前川孝雄氏にシリーズ執筆の想いやミドル・シニアの支援についてなどお話を伺いました。

前川 孝雄 氏

株式会社FeelWorks 代表取締役/青山学院大学兼任講師 前川 孝雄 氏

人を育て組織を活かす「上司力®」提唱の第一人者。リクルートで「リクナビ」「ケイコとマナブ」などの編集長を経て、2008年に(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、研修事業・出版事業を営む。「上司力®研修」、「50代からの働き方研修」などで400社以上を支援。2017年に(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員サポーター、(一社)ウーマンエンパワー協会理事なども兼職。『本物の「上司力」』(大和出版)、『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『50歳からの人生が変わる 痛快!「学び」戦略』(PHP研究所)など著書は35冊。

  1. 『50歳からの〇〇戦略』シリーズ執筆の想い
  2. 雇用を守るのではなく、プロを育てる
  3. 学ぶことが目的ではない、その先を想像しよう

『50歳からの〇〇戦略』シリーズ執筆の想い

――『50歳からの〇〇』戦略シリーズを書き始めるきっかけは何だったのでしょうか。

前川氏インタビュー風景

「上司力®研修」を15年くらい開講してきて、ダイバーシティマネジメントや管理者として部下をどう育てるか、どうチームをつくるかという研修をずっとやってきました。その中で、個の尊重やキャリア自律支援を企業が取り組み始め、上司に1on1やコーチングのスキルを学んでもらって、部下のキャリア自律支援をしましょうという動きが強まってきました。

また、大学でキャリアの授業をやっていると分かるのですが、若い人たちのキャリア意識がどんどん強くなってきて、キャリア自律を意識できる状況になってきているのです。

一方で、大企業では就職ではなく就社という意識がこれまで強く、自分でキャリアを考えなくてよかった。それで20年30年経った40代後半から50歳過ぎくらいの課長層・部長層の方が、キャリア意識の芽生えてきた若手のキャリア自律支援をするということは、いかに技術があってもうまく嚙み合わないと感じたのがきっかけの一つです。

もう一つは、年功賃金体系のもとで高騰する人件費の抑制、組織の新陳代謝と若手人材への抜擢機会の提供などが主な目的でポストオフ制度を大企業が取り入れていたのですが、今までは50代半ばでポストオフして数年我慢すればリタイアだったのが、就業年齢が65歳や70歳まで延びはじめました。いわゆる課長層・部長層の中で役員に上がれる人はわずかなので、多くの人が自分のキャリアにモヤモヤを感じている。自分の将来のキャリアもモヤモヤしているし、部下のキャリア自律支援もうまくできない。

僕の会社では「日本の上司を元気にする」というビジョンを掲げていますから、上司の部下指導育成のスキルも大事だけど、まず自分自身が将来に対してワクワクして、キャリアビジョンを描くことを応援しないといけないと思いました。管理職の方々にそれを伝えようと思ったのが2015~2017年で、本を書こうと思ってから1年以上かけて2019年に『50歳からの逆転キャリア戦略』が出ました。

――『50歳からの逆転キャリア戦略』の“逆転”にはどのような意味を込めたのですか。

実は、ダブルミーニングなんです。一つ目は、形勢が逆転する、逆転勝ちという意味です。多くの大企業の中高年の方々は、会社の中の出世イコール自分のキャリアと考えてしまっています。バブル世代が中心になってきていると、ポストにつけない人や部下なし管理職の人も多くて、やっぱり悔しい思いをしている人が多いので逆転という言葉は琴線に触れると思いました。ただ、僕の本意は、会社の閉じた中で逆転しましょうという意味ではないのです。

その二つ目は、自分が勝てるように働くルールを変えちゃいましょうという意味を込めています。逆転の発想で、人がどう言おうが世間体とかも関係なくて、自分自身が働きがいを感じて、ハッピーであれば、それは勝ちじゃないかという意味ですね。

雇用を守るのではなく、プロを育てる

――ミドル・シニアご本人が自分の意識を変えていくことは必要だと思うのですが、企業はミドル・シニアに対してどのように働きかけたらいいでしょうか。

ミドル・シニアの支援はかなり盛り上がっていますが、まだ手探りですよね。支援の設計をしようとする人事の方自身がまだミドル・シニアより若い場合が多いということと、ミドル・シニアのキャリアを考えると定年後まで視野に入れないと本当の意味での支援にはならないのですが、そこまでは人事として責任を負いにくいですよね。当たり前ですが、会社として投資するからには社員として活躍して欲しい。そうすると噛み合わないですよね。ここがまだ模索している段階かなと思います。

ただ、その中で抜けてきている企業は、定年後まで視野に入れての活躍を考えていますね。ミドル・シニアだけではなくて、若い人も含めて価値観が変わってきていますよね。会社の中で出世というよりも労働市場の中で価値を上げたいという価値観に変わってきていますから。プロフェッショナル人材育成とか、アルムナイ・ネットワークで、卒業した人たちとネットワークをつくりながらビジネスをしていくという視野に立つ企業が出始めていますので、これから明暗が分かれていくのではないかと見ています。

――自分たちの企業の中だけの視野で考えているとなかなか上手くいかないと考えていらっしゃるのですね。

かなり偏った議論かもしれませんが、そう考えています。

僕は、「人を大切にすることは、終身雇用で雇用を守ることではなくて、社外でも通用するプロに育てることである」と定義しています。

でも、日本企業は雇用を守ることを必死にやってきて、雇用を守ることが正義であるし、社員のためにも経営のためにもなると、昭和の時代にできたモデルをずっと引きずってきたわけです。しかし、変化が激しい現代には、負の面が今強くなっていると感じます。

雇用を守ることにこだわって、社員は会社にしがみついてキャリア自律できない、かつ会社全体としてはイノベーションが起きない。オープンネットワークでイノベーションが求められる今の時代に合わないですよね。雇用の枠組みに収めるのではなくて、もっと自由に個人がキャリアの行き来をできるようにして、個と組織は選び選ばれる関係になっていくべきです。理想論かもしれないですが、そうしないと本当に優秀な人材は集まらないと思います。あと、兼業副業も解禁されてきているので、自分のキャリアを活かしながら、会社の外ではこれをやる、会社ではこれをやるというのが自律意識に繋がるはずです。

学ぶことが目的ではない、その先を想像しよう

――『50歳からの〇〇戦略』シリーズ3冊目に、『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』を執筆されていますね。日本人は学ばないと言われています。最近はリスキリングとよく言われますが、学ばない日本人はどうしたら学ぶと思いますか。

前川氏インタビュー風景

僕はずっとそのテーマと戦っているんですよね。25年前、リクルート時代に『ケイコとマナブ』の編集長をしていて、『仕事の教室』という雑誌をビジネスパーソン向けに出して挫折した経験もあります。

学ぶ楽しさを伝える、学ぶことを目的化せずにその先にあるキャリアのワクワク感を伝える、あとは啓発を受けるために社内外で学んでいる人との交流。この3つが同時にセットできないとなかなか重い腰が上がらないと考えています。

――危機感では学ばないのでしょうか。

危機感で学びます。

昇格試験でも、「試験に通らないと課長になれない」となったら必死になりますよね。でも、僕はできるだけそれをやりたくないんです。

学ぶことの楽しさを伝えたり、その先にある明るい未来を想像してもらったりして心に火をつけたい。健全な危機感は大切ですが、強迫観念で学ぶと、学ぶこと自体が目的化してしまうし、一回学んでクリアしたら終わってしまう。

――また学びたいと思ってもらいたいのですね。前川さんにとってもずっと課題なのですね。

いやぁ、難しいですね。『50歳からの人生が変わる痛快!「学び」戦略』も結局よく本を読む人が読者の中心だと思うんですよね。本当に読んで欲しい人になんとか届けたいです。

――自分のキャリアに向けて、学んでいる人で印象的な人はいますか。

本の中でも紹介した方がいまだに印象に残っています。

その方はメーカーに勤めていらっしゃって、50歳の時にキャリアプラトーの状況に陥って、社内の同期と飲んでいるとどんどん暗くなってしまうので社外に目を向けるようになったそうです。

外に目が向いて、いろいろアンテナを張りはじめて、これからの人生どうしていきたいのか考えていた頃に、たまたま施設に入っている高齢のお母さんが美容師さんに髪の毛をきれいに整えてもらって、すごく笑顔になって幸せそうな顔をしているのを見て感動したわけです。メーカーでグローバルも含めた営業をやっていた方が美容師になりたいと思われたのです。

当時は美容室を開こうと思ったら、美容専門学校に行って、インターンに行かないといけないという制度があったらしいのですが、インターンも有給休暇を使って行って、美容師になったそうです。

これまでの経験も実は活かせていて、ずっと営業やマーケティングの仕事をされてきたから、ビジネスモデル作りとかマーケティングとか営業は分かっているわけです。

普通に町にサロンの店舗を構えて、先行する多くのサロンと競争したら勝てないのは分かっているから、独自のコンセプト、ポジショニングを作らないといけない。しかも、初期費用や固定費を抑えることも考えて。そもそも美容師になりたいと思ったのは「高齢の方のすごく幸せそうな顔に感動したこと」だったので、ターゲットもシニアに絞って、店舗を持たない出張美容サロンというコンセプトを考え、施設に出張して髪をきれいにするビジネスをやりはじめました。

営業も経験されているので、とにかく自分でDMを作ってあちこちのポストに投函するということもやって。これは資格が目的化してないですよね。資格を活かしてちゃんと事業をしている。経験値も活きているんですよね。

50歳から8年間準備して、58歳で早期退職して美容室をつくった。インタビューをした当時は70代半ばでなんと50人の会社になっていたんですよ。しかも当時、また次の夢を語っていらっしゃって、今までは施設にいる体が不自由になってきた方の髪をきれいにしてきたけど、次はエンディングカットをやりたいと。亡くなられた方の髪をきれいにすると、遺族の方もすごく幸せそうな顔をする、それを次の事業にしたいと夢を語っていらっしゃいました。本当に素敵だなと思いました。

――最後にミドル・シニアの皆さまにメッセージをお願いします。

50歳以降の第二、第三の職業人生について考えるとき、土台となるのは今までのキャリアです。自分の経験を棚卸しし、やりたいことや強みを整理し、新たにブラッシュアップしていくことで、未経験の領域までを含めて自分の可能性を拡げていくことができます。自分にはまだまだ可能性があると考えると、ワクワクしませんか?

※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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