ミドル・シニア人材のキャリアの停滞~「キャリア・プラトー現象」の観点から

公開日 2022/10/31

パーソル総合研究所では、ミドル・シニアの働き方や就業意識に関する実態の調査・研修、およびミドルからの躍進を支援しています。

1.ミドル・シニア人材のキャリアの停滞とは

組織のミドル人材、シニア人材とはどんなイメージでしょうか。課長として強いリーダーシップを発揮し、課員をぐいぐい引っ張っているというイメージでしょうか。何となくマンネリ化して、周りからもあまり頼りにされなくなっている姿でしょうか。もちろん、色々なイメージが浮かぶことと思います。しかし、多くの人々が後者のようにみられる可能性があるというのも、また事実といえます。他方、企業トップのミドル・シニア人材への期待は大きいものがあります。そして、それに必ずしも応えられていないという声も多く聞かれるのです。現在、人的資本の価値の向上や、学び直しやリスキリングの必要性が叫ばれています。そうした中、その主要な対象であるミドル・シニア人材を考える切り口の1つがキャリアの停滞なのです。

これまで、キャリアの停滞は「キャリア・プラトー現象」として検討されてきました。プラトー(plateau)とは、直訳すると「高原状態」を指します。高原と呼ばれる地形は、インドのデカン高原も日本の乗鞍高原もいずれも標高が数百~数千メートルあり、到達するまでは上に登る必要があります。しかし、到達してしまうと平坦な形状が続くことから、plateauは「停滞」と意訳されるようになりました。これまで働く人のキャリアの停滞、すなわち「キャリア・プラトー現象」として、昇進の停滞と仕事上の停滞の2つが主に検討されてきました。

昇進の停滞、言い換えると「階層プラトー現象」は、「従業員が現在以上の職位に昇進する可能性が将来的に非常に低下すること」を示します。また、仕事上の停滞、言い換えると「内容プラトー現象」は、「仕事をしていて新たな挑戦や学ぶべきことが欠けていたり、ワクワク感や成長実感がない状態」をいいます。

それでは、特にミドル・シニア人材に注目して、キャリアの停滞をみていきましょう。

2.ミドル・シニア人材の昇進の停滞とは

まずは、昇進の停滞です。図表1は、50代前半の大卒男性における役職者比率の推移を示しています。年齢的に、これまで企業のなかで最も上位まで昇進した層です。

図表1 男性大卒50~54歳役職者比率(産業計100人以上規模)

図表1 男性大卒50~54歳役職者比率(産業計100人以上規模)

出所:日本労働組合総連合会(2021) *1

1990年代までは(部長+課長)の比率が概ね50%を超えていましたが、2000年代以降減少を続け、近年では40%程度です。これに対し、非役職者の割合が年々増加傾向にあることがわかります。同時に、管理職の平均年齢も上昇し、昇進面の停滞状態にある人は増えています。これこそ、ミドル・シニア人材の昇進の停滞です。

キャリアの停滞が本人の問題にとどまっていれば、企業には直接の影響はないかもしれません。しかし、キャリアの停滞は企業の業績への影響が考えられます(図表2)。

図表2 昇進の停滞の程度による社員の分類

図表2 昇進の停滞の程度による社員の分類

出所:フェレンスら(1977) *2

これは、将来の昇進可能性が低く停滞している社員を、業績の高い「堅実な人々」と低い「無用な人々」に分け、昇進可能性が高く停滞していない社員を、業績の高い「スター」と低い「新人」に分けたものです。「堅実な人々」に多くのミドル・シニア人材が含まれると考えられます。この層は多数の組織で最も人数が多く仕事のかなりの部分を担っていますが、彼らへの対策はほとんど行われてきませんでした。そうなると、モチベーションが高く業績もあげていながら、管理職位不足のために昇進可能性が低いミドル・シニア人材のモチベーションや業績が低下してしまう可能性が大きいのです。そうした状況、つまり、無用な人々に移行することをいかに防止していくかは、組織の重要な課題といえます。

3.ミドル・シニア人材の仕事上の停滞とは

働く人の仕事上の停滞には、大きく分けて2つの原因があります。第1は、長く同じ仕事を担当することでその仕事をマスターしてしまう、つまり、同じ仕事を繰り返し続けることによるマンネリ感が原因となるものです。仕事のルーティン化ともいえます。一部の高い専門性を要する仕事を除くと、多くの仕事は3年でマスターできるといわれているからです。ミドル・シニア人材は、これまで多くの仕事を担当し、そのため、何度かマンネリ感を感じたことがあると思います。しかし、マンネリ感自体は「解消」することも多いのです。例えば、異動によって仕事や人間関係が変わる、研修などで刺激を受けることがそのきっかけとなります。つまり、マンネリ化→解消→マンネリ化→解消→…。このように、働く人の多くが、このサイクルを繰り返すのです。

しかし、ミドル・シニア人材でこの停滞が特に深刻なのは、人はキャリアを重ねるにつれ、異動や研修などの「変化」によるプラスの影響を受けにくくなるからです。そして、マンネリ状態が解消されても、20代のように、ワクワク感や成長実感がなくなるからです。その結果、企業が求めるような高い業績を挙げられなくなる可能性があります。例えば、産業能率大学によるある調査結果*3に、ミドル・シニア人材の停滞が浮き彫りにされています。この調査では、働く人が仕事で「幸せな感情」を表すと考えられる35の擬音語・擬声語(オノマトペ)のうち、自分の幸せな感情とぴったりくるものを5つまで選んでもらいました。その結果、もっとも回答比率が高かったのが「ワクワク」(39.8%)で、続いて「ほんわか」、「ニコニコ」、「ウキウキ」、「ルンルン」、「ほのぼの」の順でした。そして、仕事をしていてワクワクすることがある人に、どんなときにワクワクするかきいた結果、「新しいことに挑戦するとき」、「重要な仕事を任されたとき」、「仕事が順調に進んでいるとき」など、何かに挑戦するときや前向きな見通しがみられるときが多くあげられました。その上で年代別に、直近の1年間で仕事をしていてワクワクする感情を抱いた度合をきくと、男女とも、40代で「ない」が5割を超え、それより若い世代を上回っていたのです。

第2は、職場で与えられた仕事が量的・質的に過大で、社員の能力を明らかに超えている場合です。当然、目の前の仕事をこなすことに忙殺されてしまい、新しい仕事のやり方を工夫したり、仕事に喜びを見出せないことにつながります。この状況は、管理職、特に課長になりたてのミドル人材にも当てはまります。現在、多くの組織では、課長の多くがプレイングマネジャーといわれています。その結果、本来、管理職として、リーダーシップの発揮や部下の指導・育成に注力しなければならないのに、これまで同様1人のプレーヤーとしての仕事にかなり時間をとられることになります。その他、事務量が多く手間もかかる目標管理業務や会議への出席が増え、自分の課の将来を戦略的に考えること、自分が異動した時に備え後継者を育てていくサクセッション・プランを考える余裕などがなくなるでしょう。

これら以外にも、仕事上の停滞と関連するキャリアの停滞として、配置転換の停滞があります。これは、今の部署(部や課)に配属されてからの年数が他の社員に比べ特に長くなる(「塩漬け人材」と呼ばれます)、いつまでも企業の重要な部署に配属されないなどをいいます。例えば、塩漬け人材になれば、マンネリ化して仕事上の停滞に陥るでしょう。現在多くの組織で、さまざまな仕事を経験することで多様な能力を開発してもらうため、計画的に社員を異動させるという方針(ジョブローテーション)がその通りにいかず、滞っているという声が聞かれます。さらに、ジョブローテーションの運用自体、30代止まりであり、それ以降は将来の経営層候補に限られるという傾向もみられます。これらによって多くのミドル・シニア人材が仕事上の停滞に陥っていると考えられます。

4.ミドル・シニア人材でより危険なキャリアの停滞~昇進と仕事両方の停滞

昇進の停滞と仕事上の停滞の2つが重なった場合を「ダブルプラトー(現象)」といいます。この場合、本人への影響はどうなるのでしょうか。

いくつかの調査の結果、両者が重なるとマイナスの影響が大きくなることがわかってきました。例えば、仕事上の停滞が仕事への満足感や組織への帰属意識を低下させる関係は、昇進が停滞しているほど強まります。同じく、2つの停滞が重なった人の仕事への満足感や組織への帰属意識は、それぞれ単独の停滞の場合より低く、逆に、憂鬱感や転職したいという意思は昇進の停滞(単独)より高いという結果もみられました。ミドル・シニア人材の場合、一部の人が順調に昇進する一方、多くの人が昇進の停滞に陥っているとすれば、さらに仕事上の停滞が重なるとそのマイナスの影響はより大きくなるといえそうです。ここにも、組織による何らかの対策が必要なのです。

【文献】
*1 日本労働組合総連合会 2021 『連合・賃金レポート2021』
*2 Ference,T.P., Stoner,J.A.F., & Warren, E.K. 1977 Managing the career plateau. Academy of Management Review, 2, 602-612.
*3 産業能率大学 2012 『ビジネスパーソンの「ワクワク感」調査~オノマトペで探る仕事・職場に対する主観的感情~』

執筆者紹介

山本 寛 氏

青山学院大学経営学部 教授

山本 寛 氏

Hiroshi Yamamoto

人的資源管理論・キャリアデザイン論担当。博士(経営学)。メルボルン大学客員研究員歴任。働く人のキャリアとそれに関わる組織のマネジメントが専門。著書(単著)に、『連鎖退職』、『なぜ、御社は若手が辞めるのか』、『「中だるみ社員」の罠』(以上日経BP社)、『人材定着のマネジメント』(中央経済社)、『自分のキャリアを磨く方法』、『転職とキャリアの研究[改訂版]』、『働く人のためのエンプロイアビリティ』、『昇進の研究[増補改訂版]』(以上創成社)がある。著書(編著)に『働く人のキャリアの停滞』(創成社)がある。
研究室ホームページ http://yamamoto-lab.jp/

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