イベントレポート

東芝の新入社員オンボーディング ~上司・メンター1,500人の「手探りの育成」を支援する施策とは~

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東芝の新入社員オンボーディング ~上司・メンター1,500人の「手探りの育成」を支援する施策とは~

近年、人材の組織・職務への適応を支援する「オンボーディング」という考え方が広まっている。オンボーディングにおける課題として、新卒社員の早期離職に悩む企業も多いが、そもそも若い世代の就職や転職に対する考え方、仕事やキャリアについての価値観も変化している。そのような中で、オンボーディングを推進する人事部門だけでなく、現場での育成を担う上司・メンターの意識や行動にも変化が求められているのではないだろうか。2024年9月に実施されたセミナーでは、株式会社東芝がグループ各社の新入社員オンボーディングのために企画・実施した、上司・メンター1,500人対象を対象とする研修について、事例発表と質疑応答が行われた。その模様をレポートする。

「手探りの育成」に納得感を持たせたかった

東芝はグループ全体で行う新入社員の導入教育について、2022年の後半から見直しに着手した。同社はコロナ禍をきっかけに、研修のオンライン化などを急ピッチで進めてきた。その一方で、「新入社員の育成を現場に任せ過ぎてはいないか」という問題意識があった。

「グループ全体で約900人いる新入社員の育成について、職場の上司やメンターは“手探り”からは逃れられないとはいえ、“手探りさせ過ぎ”になってはいないか。もっと効率化できるのではないか。育成が機能する組織を作る、いわゆる組織開発の観点から見直すことはできないか。そのような問題意識から、2024年度から新たに上司・メンター約1,500人を対象としたオンボード研修を企画しました」(人材・組織開発企画グループ 渡辺 真亜知氏)

このようにして始まったオンボード研修の企画だが、コーポレートの人事部門で新入社員教育の企画を担う人材・組織開発企画グループには、いくつかの「こだわり」があったという。(図1)

図1:こだわりのポイント

「上司やメンターは、新入社員に対して、無意識に自分が育てられたときと同じように育ててしまうものだと思います。また新入社員のときのトレーニング機会も、人によってバラつきがあります。経営を取り巻く環境が大きく変化して、日々多忙な中で新入社員の育成を手探りで行っていく、その手探りに納得感を持たせたい。だからこそ単発の研修ではなく、現場で役立つ研修を作りたいと考えました」(渡辺氏) 

たとえば就職氷河期世代など、新入社員時代に会社からの教育機会が少なかった人が、今は上司として新入社員を育成する立場になっている、という企業も多いだろう。また東芝のように多くのグループ会社を擁する組織では、育成の基本的な考え方がグループ全体で共有されていることも重要だ。「武器も渡さずに戦わせたくない」――渡辺氏の言葉に、同社の新入社育成に対する強い意志を感じることができる。

オンボード研修では、そのような「こだわりポイント」を実現するための成果イメージを設定している。(図2) この成果イメージにおいては、「新入社員や若手社員は職場全員で育っていく、という雰囲気が醸成されている状態」を目指している点に注目したい。「このオンボード研修が当社のグループにうまくハマり、歯車が噛み合うことによってこのような状態を作り出したい、という想いで企画を進めてきた」という渡辺氏の言葉にもあるように、これは新入社員や上司・メンターという直接の当事者だけではなく、組織全体への波及効果、つまり上述の「組織開発の観点からの見直し」を強く意識したものであろう。

図2:プログラム全体の成果イメージ

1,500人の研修で成果を出すための仕組みをつくる

では、このオンボード研修はどのような形で実施されたのか。本施策は、研修本番とその前後の各工程で構成されている。(図3)

人事が企画・実施するあらゆる研修において言えることだが、「なぜこの研修に自分が呼ばれているのか?」「こんなに忙しいのに研修なんて…」といった受講者をどのように動機づけるかは、研修の成果を大きく左右する。本施策の前工程では、研修に対する納得感を得る、育成を使命だと思ってもらうことを目的としたeラーニングを実施し、研修本番では上司・メンターそれぞれの役割に応じた別のプログラムを準備した。加えて研修本番で特徴的なのが、若手社員2,000人を対象としたアンケート調査の結果を共有したことだ。

「若手社員の意識については様々な調査会社によるデータがありますが、そういったものではなく、ウチの会社の若手社員はこう考えています、こういう支援が欲しいと思っていますという、揺れ動かない生の声をぶつけることで、研修で学ぶことへの納得感を高められるのではないかと考えました」(渡辺氏)

施策の特徴としてもう一つ挙げたいのが、後工程における「ラーニングトリオ」だ。これはオンボード研修の受講者が3人一組となり、研修後にその3人で再び集まり、研修で作成した行動計画の実践のレビューを行うというもの。忙しい中で育成に取り組むこともあって、時には愚痴のような話も含めて共有し合える、相談し合える機会が設けられている。

図3:オンボーディング研修の構成

受講者に対する動機づけや研修後のフォローアップなど、様々な要素に配慮して企画したオンボード研修。とはいえ、受講者である上司・メンターは1,500人という大規模な研修だ。「オンボーディングという言葉をまだ知らない受講者が多い中で、それを共通言語化すること、そしてその目的を浸透させることから始めないと、このプログラムは成功しないと思いました」(東芝ビジネスエキスパート 河野 恭子氏)

実際にアンケートを取ったところ、受講者の4割弱しか目的を理解しておらず、研修へのモチベーションが決して高い状態ではないことが想定された。また昨今多くの企業が実施しているオンラインミーティングによる研修、eラーニング等の事前・事後課題も含む複合的なプログラムの場合、受講者は何か一つでもわからないことがあると、研修へのモチベーションが下がりがちだ。そのような想定のもと、本施策では特設のポータルサイトを開設し、前工程のeラーニングコンテンツ、研修本番で使用するオンラインミーティングのURLやテキスト、後工程の進め方など、研修に関するあらゆる情報を一元管理した。

「目的の浸透という意味では、企画側には年齢もキャリアも多様なメンバーがいて、色々な想いがあったので、この施策に込めた我々の想いを受講者へのメッセージとしてまとめ、このポータルサイトで発信しました。私たち自身の想いを基本とすることで、発信する情報や運営にもブレが出ない、という点でも良かったと思います」(河野氏)

上司・メンターの85.2%が行動の変化を実感

「部下を指導・育成したいとは思うが、よかれと思っての言動がハラスメントと思われそうで怖い」「年齢の離れた若手社員が、どんなことを考えているかわからない」――昨今、そのように感じている上司は多いのではないだろうか。東芝のオンボード研修に参加する上司たちからも、そのような声が多く寄せられた。そのような声に対応するために実施したのが、上述の若手社員2,000人を対象としたアンケート調査だ。若手社員の勤続意思や転職イメージの2点について、東芝グループの若手社員の声と、パーソル総合研究所による同様の調査、二つのデータを突合して、若手社員のリアルな声をプログラムに反映させた。

「やはり皆さん興味があるんですね。研修でデータの話が出てきた瞬間に、のぞき込むように前に乗り出してくるのが、オンラインミーティングの画面からも伝わってきました。若手社員の考えをリアルに感じることで、自分の部下に対しても何かしなければ、もっとコミュニケーションを取らなければ…といったように、危機感が芽生えるというか、自分事化されるのだと思います」(河野氏)

このように前後のしかけも含めて入念に設計されたオンボード研修。研修後に上司・メンターが学んだことを現場で実践できているかどうかが、成果を測る一つの指標になる。

「今回のプログラムの肝は、ラーニングトリオです。研修で一緒にワークをした3人が研修後に集まって、レビューの対話をしてもらわなければ、全てが動きません。なので、研修時間内で次に集まる日時を決める、オンラインミーティングを設定する、研修のアンケートにその日時も書いてもらうところまでやっていただきました。このように自然な流れで実践できるプロセスにしたこともあり、9割以上の受講者が研修後にラーニングトリオによる対話を実施しています」(河野氏)

実際、このオンボード研修を中心とする取り組み全体を通して、受講者の85.2%が「自分自身の行動変容があった」、61.9%が「新入社員の受け入れ部門のマインド・体制に変化があった」と回答している。(図4)また、「新入社員に自己成長を与えることの重要性を学び、仕事の必要性を説明するようになった」など、具体的なコメントも寄せられている。メンター向けのグループチャットを設ける、ラーニングトリオが定期的にオンラインで会うなど、メンター同志のつながりも生まれているようだ。

図4:CEP-ONBOARDの取り組み全体を通した変化

「今後は、上司・メンターの行動変容だけでなく、組織レベルでのオンボーディングのために、自由闊達な風土を醸成することを目指していきたい、とメンバーで話しています。縁があって東芝グループの仲間になった新入社員が、働きながら幸せを感じて欲しいですし、上司・メンターの指導を受けながら、試行錯誤を重ねて、グループの成長の原動力になって欲しい。そんな日を信じて、これからも新入社員や取り巻く皆さんのバックアップをしていけたらと考えています」(渡辺氏)

コーポレート施策への理解・協力を得る

ここからは、質疑応答で寄せられた質問から、いくつかを取り上げて紹介していこう。

Q1 「新入社員育成のHow to」をどのようにインプットしたのか?

3.5時間のオンライン研修では、いわゆる「How to」の部分は扱わず、アンケートによる新入社員の生の声をお伝えしながら、新入社員育成のためのマインドセットや、必要な行動の基本についてお伝えする、というプログラムにしました。新入社員への関わり方など、指導・育成に役立つより具体的なコンテンツは、eラーニングで提供し、各自が必要な項目をいつでも見ることができるようにしました。(河野氏)

Q2 コーポレートが企画した施策に対して、「現場は忙しい」「研修がなくても対応できている」など、様々な反応があったと思うが、グループ各社から理解や協力を得るためのポイントは?

まずは各社の人事担当者や教育担当者に対して、現場でどのようなニーズを抱えているのか、アンケートを実施しました。そこで得られた様々な意見を集約し、そのうえでコーポレートの企画部門として施策の意義や内容を丁寧に説明していくようにしました。現場の上司・メンターに向き合うのは各社の人事・教育担当の方々ですので、このようなステップを踏むことは非常に重要ですし、今回の施策を動かしていくにあたって大きな山場であったと感じています。(人材・組織開発企画グループ 関 清香氏)

Q3 新入社員に対する導入研修の日数を大幅に減らした理由は?

東芝に多くの異なる事業がある中で、「全ての新入社員に画一的な内容の教育を提供するのは、どうなんだろう?」という観点で見直しをして、「入社した直後のまっさらな状態にインプットすべきことは、あまりないのではないか」という結論に至り、日数を減らしていきました。3日間ですべてを覚えられるわけでもないですし、むしろ各事業に近いところでの教育に早期に移行して、成長実感を早く感じさせた方が有効なのではと考えました。新入社員が望んでいる「成長実感に応えるための短縮化」という意味合いが強いです。(渡辺氏)

登壇者の紹介

株式会社東芝 渡辺 真亜知氏

株式会社東芝 人事・総務部 人事企画第一室 人材・組織開発企画グループ 兼 人事・総務部 採用センター

渡辺 真亜知Maachi Watanabe

総合電機・ベンチャー企業での勤務を経て、2018年8月に東芝に入社。デジタル事業の子会社の人事としてカルチャー変革・コミュニケーション施策・副業などの働き方施策に従事したのち、2022年から本社人事部門へ異動。現在は人材・組織開発企画グループと採用センターを兼務し、グループ全体の人材開発・組織開発・多様性(DEIB)推進、採用企画の4領域について、「従業員体験(EX)向上」観点での新規企画を担当。昨年から、グループ横断での配信企画を立ち上げ・月2回の番組の生配信を行っている。


株式会社東芝 関 清香氏

株式会社東芝 人事・総務部 人事企画第一室 人材・組織開発企画グループ

関 清香Sayaka Seki

MICE*業界にて採用・研修業務に従事し、2006年に単身渡米、現地人材紹介会社に勤務。多種多様な人種、国籍、バックグラウンドをもつ人々との関わりを通して、多様性が見せる光と影、格差社会、マイノリティの苦悩を目の当たりにする。帰国後、東芝総合人材開発株式会社(現:東芝ビジネスエキスパート株式会社)に入社。外国籍社員向け研修、グローバル研修、語学研修の企画・実施を担当し、東芝グループの人材育成に従事。現在は株式会社東芝 人事・総務部にて、グループ全体のDEIB推進、エンゲージメントサーベイを活用した組織開発、及び人材育成を担当している。*Meeting, Incentive, Conferencing, Exhibitions


東芝ビジネスエキスパート株式会社 河野 恭子氏

東芝ビジネスエキスパート株式会社 人材開発事業部 芝大門塾

河野 恭子Kyoko Kouno

株式会社東芝OAコンサルタント(現・東芝ビジネスエキスパート株式会社)に入社後、技術者育成の企画・運営に携わった後、主に製造業の情報システム部門の人材育成コンサルティング、研修体系構築サービスに従事。2015年に芝大門塾の営業部門へ異動し、顧客のビジネスゴールを踏まえたアカウントプランの企画提案、人材育成のプランニング等を行う。現在は東芝グループのDX人材定義・育成、オンボーディングなど各種施策の企画や運営も担当している。

文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のものです。

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