ソリューションコラム

第2回 ATDアルムナイイベント “ATD Connect+”開催レポート ATD ICE 2026|変化の中で未来を主導するのは誰か

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執筆者

ATD運営事務局

第2回 ATDアルムナイイベント “ATD Connect+”開催レポート ATD ICE 2026|変化の中で未来を主導するのは誰か

パーソル総合研究所は2026年6月18日(木)、『ATD認定プログラム』の修了生が集うアルムナイイベント”ATD Connect+”を開催しました。今回は、2026年5月に米国ロサンゼルスで開催された世界最大級の人材開発カンファレンス「ATD ICE(International Conference & EXPO)2026」に現地参加したパーソル総合研究所のメンバーと中原 孝子氏が、会場の様子や注目セッション、実務への示唆を報告。さらに、ATD ICE 2026に登壇者として参加したパーソルキャリアの佐々木 絢海氏が実践事例を共有しました。

1. ATD ICE 2026のテーマに見る、人材開発の現在地

最初に登壇したのは、パーソル総合研究所 ATDグループ責任者の武富 達也です。ATD ICE 2026は5月17日から20日までの4日間、ロサンゼルスで開催されました。総参加者数は6,500名超、参加国は65カ国以上にのぼり、米国以外では日本が最大の187名でした。会期中は350を超えるセッションが展開され、300を超える企業・団体がエキスポに出展しました。

セッションのカテゴリーである「ラーニングトラック」(図1)は今年14に拡大し、個人の内面的スキルと対人影響力の強化を扱う「個人のリーダーシップ能力」が新設されました。最多のカテゴリーは従来と変わらずリーダーシップ開発で、全体の21%を占めています。

図1. 14のラーニングトラック

今年のカンファレンステーマは「Embrace Disruption. Direct the Future.」。破壊的な変化を受け入れ、未来を方向づけるという意味であり、その変化の中心にAIが位置づけられていました。武富は「AIがどんどん進んでいく中で、未来を主導していくのは人間、という強いメッセージが貫かれていました」と振り返りました。

毎日1つずつ開催された4つのキーノート(図2)も紹介されました。初日は即興と自己開放をテーマにしたパフォーマンス集団Freestyle+、2日目は元OpenAIでGo-to-Market(市場展開)責任者を務めたZack Kass氏、3日目は『世界のベストレストラン50』で1位に選ばれたイレブン・マディソン・パークの元共同オーナーWill Guidara氏、最終日は『Multipliers』などの著書で知られるリーダーシップ研究者Liz Wiseman氏です。Kass氏はAIのコストが劇的に低下してインフラになる中、人間は自らのミッション・ビジョン・バリューに基づいて行動すべきだと説き、Wiseman氏は雁のV字飛行で先頭が入れ替わるように、リーダーシップのスタイルを状況に応じて変えていく重要性を語りました。4つのキーノートに共通していたのは、正解のない世界で自分はどうあるのかという、人間としての在り方を問うメッセージでした。

図2.4つのキーノート

そして武富は報告の締めくくりに、次のように総括しました。「AI活用が進めば進むほど、人間にしか担えない価値が問われます。AIはすでに前提です。人間の価値は、判断や意味づけ、共感、行動変容を促すことに変わっていきます。そして学びは、単発の研修から成長プロセス全体の支援へと広がっています」

2. AIの浸透が変える、組織と学びのあり方

続いて、パーソル総合研究所 事業営業企画部の原口大典が、各セッションとエキスポから得た示唆を報告しました。

まず示したのは、AIが組織構造にもたらす変化です。議事録作成に代表される低難度業務をAIが担うようになると、人間はより中難度以上の業務にシフトし、組織はピラミッド型からひし形や逆三角形型へと変わっていきます。(図3)

図3.AI時代における組織構造の変化

一方でこの変化は、新人がこれまで登竜門としてきた業務、すなわち成長の機会を奪うことにもなります。「意図的に成長の機会を提供しなければ、育ちにくい環境になっている」と原口は指摘しました。

AIを使いこなす人材に必要な力として挙げたのは、ATDで繰り返し耳にしたという「メタ認知能力」、すなわち人間の思考プロセスをコントロールする力です。(図4)AIは自ら問題を認識できず、入力された(時に歪んだ)現実に対する「これまでのベストプラクティス」を返すことしかできません。だからこそ、思考プロセスをメタ的に捉えてAIに指示する人間側の力が重要になると強調しました。

図4.AIを使いこなすために必要な力とは何か?

さらに「正しい答えがあれば人は行動できるのか」という問いも投げかけました。「人間には感情があります。『これをやりなさい』ではなく、『自分でこれをやろう』という自己決定があって初めて行動に結びつく、そういう生き物です」。知識の習得はAIが得意とする一方、納得と自己決定を促すのは人間の役割であり、AI×人間のハイブリッドモデルこそがAI時代の人材育成の姿だとまとめました。

報告の最後には、ATD Global部門シニアディレクターのWei Wang氏から修了生に寄せられたビデオメッセージが紹介され、学びはコースの修了で終わるのではなく旅の始まりであること、アルムナイ同士のつながりが学びの旅を支えることが語られました。

3. 人とAIの役割をどう設計するか――パーソルキャリアの営業オンボーディング変革

続いて登壇したのは、パーソルキャリア 組織開発統括部 CA育成部 CAカレッジグループ・CA教育企画グループ マネジャーの佐々木 絢海です。今年のATD ICE 2026に公募で採択され、登壇者として「Human First, AI Smart: Transforming Sales Onboarding with Purposeful Design(人間中心設計とAI活用:目的あるデザインが変えるセールス・オンボーディング)」と題したセッションを行いました。現地のセッションには約80名の海外参加者が集まりました。アルムナイイベントでは、その内容のダイジェスト版が共有されました。

佐々木氏の話は、成功事例ではなく自身の失敗から始まります。「AIを人材育成に導入すれば、すべてが良くなるのではないか。そう考えていました。しかし結果として、それは幻想だったと気づいたのです」

約1,000名のキャリアアドバイザーを擁する同社の育成は、3つのフェーズを経てきました。(図5)フェーズ1(2024年頃まで)は30名ほどのトレーナーが研修・ロールプレイング・商談同席・フィードバックのすべてを担う「100%人による育成」。品質は高いもののスケールしないという課題がありました。そこでフェーズ2では、AIを大きく導入して人の関与を極限まで減らしました。ここで大きな失敗が起きます。

失敗は主に2つです。1つは難易度設計のないままAIロールプレイングを渡した結果、メンバーが混乱し、孤独で作業的な練習によりモチベーションが低下したこと。もう1つは、AIとトレーナーの役割が曖昧なまま、双方が同じような「平均的に正しい答え」を教えてしまい、問いによる気づきが消えて成長が止まったことです。

図5.ハイブリットモデルへの道のり

「どれだけAIを使うかを目的化するのではなく、何をAIに任せ、人が何を担うのか。この問いに変わったことで、設計が大きく変わりました」と語ります。人にしかできない価値として挙げたのは、対話によってモチベーションを生み出すこと、経験に基づいた判断とアドバイス、そして問いによる気づきの3つです。これらによって育成できるスキルを、同社ではEQ(感情知性)と位置づけています。

2025年に導入した現在のハイブリッドモデル(図6)は、商談前・商談・商談後のフローを6つのステップに分け、スキル定義や商談前後のフィードバック・1on1での問いかけは人が、反復練習や商談録画の分析・課題整理はAIが担う設計です。導入後は顧客のサービスエントリー率が向上し、トレーナーの生産性も高まったほか、目標を達成しているメンバーほどAIとの練習量が多いという結果も見られたといいます。ATD ICE 2026の会場でも、このモデルの全体像を示したスライドが最も多く撮影されたそうです。

図6.営業スキル向上のためのハイブリッドモデル

さらに同社では、問いに集中することになったトレーナー自身のスキル開発という次の壁に対し、緻密な計画に時間をかけるPDCAから、観察・状況判断・意思決定・行動を高速で回すOODAループへ(図7)の転換を進めていることも紹介されました。

図7.PDCAからOODAへの進化

セッション終了後には海外参加者から多くの質問が寄せられ、カナダからの参加者からは「これまで受けてきたセッションの中で一番良かった」という声もあったといいます。佐々木氏は「失敗を怖がらないこと、学びを得たらすぐに実践することの重要性を痛感しました。学びをまた実践し、シェアしていくこと自体が学びの旅だと思っています」と締めくくりました。

4. 未来を主導する学びをどうつくるか――中原 孝子氏が語るタレント・ディベロップメントの使命

『ATD認定プログラム』ファシリテーターの中原 孝子氏(株式会社インストラクショナルデザイン 代表/ATDメンバーネットワークジャパン理事)は、ATD ICE 2026全体を貫くメッセージを読み解きました。ATDの年次調査「State of the Industry Report」によれば、人材育成への投資額は大幅に減少する一方、学習の実践度や効果性の数値は上がっており、テクノロジーの浸透が学びの目的達成を支えている状況だと説明しました。

そのうえで、今年のテーマ「Embrace Disruption. Direct the Future.」を「私たちへのメッセージ」だと強調しました。「私たちタレント・ディベロップメントに関わる人間が未来を主導していかなければ、世の中は変わっていきません」(図8)

図8.Talent Developmentの再定義

再定義の視点として挙げたのは、AI×人間性、そしてフロントラインです。Kass氏のキーノートからは、批判的思考を持たずに情報を受け入れてしまう危うさや、AIとともに働くうえで自分の人間としての価値をどこに発揮するのかという「軸」を持つことの大切さを紹介し、同氏の著書『The Next RenAIssance: AI and the Expansion of Human Potential』も薦めました。Guidara氏のキーノートからは、現場を巻き込みながら顧客接点(タッチポイント)を洗い出し、心がつながる瞬間を仕組み化していくプロセスや、「ワンサイズ・フィット・オールのアプローチはもう通用しない」という指摘を、学習設計への示唆として共有しました。

またパネルディスカッションからは、労働者の多数を占めるフロントラインこそが人材開発の支援が最も届いていない領域であり、既存のテクノロジー環境を見直しながらフロントラインを含めたラーニングエコシステムを構築することが、組織に貢献するレバレッジポイントになるという議論を紹介。関連書籍としてJD Dillon氏の『The Frontline Enablement Playbook』にも触れました。あわせて、AI導入を目的化しないこと、実装の前に戦略や前提条件を整理するテンプレート(Megan Torrance氏による14項目)の存在も共有しました。

「変化に対してただ知識をつけるのではなく、どうやって学べばいいのかという『学び方を学ぶ』ことを支援するのが、私たちの重要な使命ではないでしょうか」と中原氏は語り、チェンジとチャンスをつくることこそがタレント・ディベロップメントの役割だと結びました。

5. 参加者との対話から見えた、実務への示唆

質疑応答では、参加者から実践に根ざした質問が相次ぎました。学び方を学ぶ力をどう再現性高く育てるのかという問いに対して、中原氏はパーソナライズがキーワードだとしたうえで、業務プロセスに沿ってつまずくポイントを特定し、短時間で学べるコンテンツを必要なタイミングで届ける設計の重要性を説明。その土台としてインストラクショナルデザインや学習の科学といった専門知識が不可欠だと述べました。

このほか、人が行うワークショップの今後、スキルの洗い出しとデータ環境の整備、eラーニング(SCORMコンテンツ)とAIの兼ね合いといったテーマでも意見が交わされ、現場のフロントラインを巻き込んだスキル分析の必要性や、ブルームのタキソノミーをはじめとする学習理論の活用可能性が議論されました。

6. 学び続けるアルムナイコミュニティへ

最後に、ATD認定プログラム責任者の田原 卓が、修了生コミュニティについて案内しました。LinkedInのアルムナイグループやFacebookの『ATD認定プログラム』アカウントでのつながり、有志による勉強会、実務家のボランティア組織であるATDメンバーネットワークジャパンのスタディグループなどを紹介しました。

また、2026年10月に台北で開催されるATDのアジアパシフィックサミットに、『ATDトレーニング&ファシリテーション認定コース』ファシリテーターの渡辺規和がスピーカーとして登壇することを発表し、同年11月20日にはその内容を含む報告イベントを開催することも予告しました。

田原はクロージングで「ここにお集まりの皆さんは、日本の人材開発のフロントランナーです。皆さん同士がつながることで、事業につながる人材開発を盛り上げていければと思います」と参加者に呼びかけました。

パーソル総合研究所は今後も、修了生の皆さんが学び続け、つながり続けられる場づくりを継続していきます。

※

文中の内容・肩書等はすべて取材当時のものです。

プロフィール

株式会社インストラクショナルデザイン 代表
ATDメンバーネットワークジャパン理事
ATD認定プログラムファシリテーター
中原 孝子

パーソルキャリア株式会社
組織開発統括部 CA育成部CAカレッジグループ・CA教育企画グループ
マネジャー
佐々木 絢海氏

株式会社パーソル総合研究所 
プロダクト&マーケティング本部 プロダクトマネジメント部
ATDグループ マネジャー
武富 達也

フォーラム事務局 部長
ATD認定プログラム Strategic Advisor
田原 卓

事業/営業企画部 マネジャー 
原口 大典

L&D本部ビジネスサポート部トレーナーマネジメントG
大林 玉青

執筆者紹介

   ATD運営事務局

ATD運営事務局

ATDプログラムの企画・運営を担当する事務局です。人材開発、組織開発、インストラクショナルデザイン、研修設計などの領域を中心に、ATDの知見や最新動向、学びに役立つ情報を発信しています。

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