「『管理職』とはどのような役割を担っている人ですか?」と問われれば、皆さんはどのように回答するでしょうか。もしかすると、組織によって異なる回答が存在するかもしれません。
経済産業省の定義では、「組織の中で部下を指導・管理しつつ、経営方針を現場に浸透させる役割を担う人材」と定義されています。つまり、経営方針に基づき、人的資産の活用を通して組織の業績向上、組織活性を期待されている人ということになります。
一方で、管理職は職場の中で数多くの役割を担っています。管理職がこの多くの役割を遂行し、組織を活性化していくためには、寝る間を惜しんでただ働き続けるしか方法がないのでしょうか。
皆さんもご存知のとおり、私たちが働く環境は日々変化しています。昨今では、BANI(Brittle:脆弱性、Anxious:不安、Non-Linear:非線形性、Incomprehensible:不可解)とも呼ばれ、変化し続ける時代といわれています。管理職がひたすら頑張り、旗を振れば何とかなる時代ではなくなったと考えるべきでしょう。
そこで、すべての労働者が主体的に考え、行動する「キャリア自律(キャリアオーナーシップ)」が求められるようになりました。
キャリア自律とは、個人がキャリアについて自分なりの考えをもち、自身の力でキャリアを切り拓くことにあたります。
パーソル総合研究所の「従業員のキャリア自律に関する定量調査」において、キャリア自律度が高い人材は、仕事のパフォーマンスやワーク・エンゲージメント、学習意欲、仕事充実感・人生満足度までもが高くなることがわかっています。
従業員のキャリア自律を高めることは、組織の活力を高めることにも直結し、組織活性化を実現します。では、従業員のキャリア自律度を高めるにはどのような環境が必要なのでしょうか。
同調査によると、従業員のキャリア自律を高めるためには、「企業風土」「人事管理」「上司のマネジメント行動」の3つが大きく影響していることがわかっています。特に影響が大きいのは、以下のようなものとなっています。
以上のような背景を踏まえると、変化し続ける現代において、管理職の役割である「人的資産の活用を通して組織の業績向上、組織活性」を実現するためには、部下のキャリア自律度を高めていくことが効果的であり、それらは上司のマネジメント行動という支援によって加速させることができるということです。
時々、「従業員のキャリア自律を促進すると、離職が増えるのではないか?」という質問をいただきます。皆さんはどうお考えですか?
調査結果によれば、確かに、割合としては、キャリア自律度が高く、市場価値が高い人材のほうが転職意向が高くなるようです。ただし、誤解してほしくないのは、キャリア自律=転職意向が高まるわけではないということです。
転職意向を高めるのは、「市場価値が高い人材」であり、所属組織において、このまま勤め続けても自身の成長は見込めないと感じる環境が、転職意向を高めるということです。つまり、キャリア自律度が高く、市場価値が高い人材にとって、「自身が成長できる環境がある」「挑戦できると感じられる」ことが継続意向につながるのです。上司のキャリア自律に対する支援がないことのほうが転職意向を高めることにつながるといえます。
以上のことを踏まえ、日々変化し続ける現代において、多くの役割を担う管理職が「経営方針に基づき、人的資産の活用を通して組織の業績向上、組織活性」を実現するためには、ただ部下のキャリア自律度向上を待つのではなく、部下のキャリア自律を支援し、キャリア自律人材を育成することが有効的であり、それらは組織のキャリア開発風土醸成の鍵になるといってもよいでしょう。
本連載では、次回から、そうした部下のキャリア自律を促す管理職の育成について述べていきたいと思います。

産労総合研究所 『企業と人材』2026年4月号より転載
CONTACT US
こちらのフォームからお問い合わせいただけます