NTTドコモでは、「個人の強みを活かしていきいきと働くこと」と「会社の成長」の両方の観点から、社員のキャリア開発を支援している。2021年から力を入れて取り組んでいるキャリア支援施策によって、社員のキャリア自律度が上がり、キャリア研修への応募も増加しているなど、一定の効果も得られている。本セミナーでは、株式会社NTTドコモ 総務人事部の江﨑裕太氏をお迎えし、同社におけるキャリア施策の考え方、様々な施策を通した試行錯誤、独自の効果測定、自分らしさと会社の成長をつなぐポイントなどについて紹介いただいた。
携帯電話を中心とするコンシューマ通信事業、決済サービスや映像配信サービスに代表されるスマートライフ事業、法人通信など、通信を軸にして様々な事業を展開しているNTTドコモ。グループ全体で約5万人と多くの社員を有し、様々な領域へ事業を拡大させている同社では、“つなぐ”をキーワードに、「テクノロジーと人間力で新しいつながりを生み、心躍る価値創造で世界を豊かに、幸せに」というグループビジョン、「つなごう。驚きを。幸せを。」のブランドスローガンを掲げている。
ビジョン実現のための重要方針として積極的に取り組んでいるのが、人材の成長により、新たな顧客・社会への持続的な価値提供が可能となり、その結果として事業の持続的成長を実現するという、同社独自の人的資本経営だ(図1)。
人的資本経営の中でも特に力を入れているのが、社員一人ひとりの自己実現・自己成長に向けた挑戦を推進すること。環境の変化に対応しながら幅広い事業領域で持続的な成長をめざす同社では、会社主導の育成だけでなく、個々が主体性を持って自律的にキャリア開発し続ける必要性がより高まっていることが、こうした取り組みの背景にある。
「自律的なキャリア開発は、方針、制度、施策が三位一体となっていることが重要であると考えています」と江﨑氏。方針としてキャリア自律の必要性を謳ったとして、それを実現できる環境、すなわち制度や施策がなければ、かえって社員の不満を招くことになりかねないからだ。三位一体のうちのひとつである「施策」では、「目標を定める」、「自分を磨く」、「キャリアに挑戦」の3つのステップに分けた段階的な施策を展開している。なかでも特に重視しているのが、ステップ1の「目標を定める施策」だ(図2)。
「以前は主に会社主導で行ってきたことから、自らキャリアを決める機会が少なかった社員が多く、自律的なキャリア形成に取り組むにあたっては、キャリア自律に対して不安を抱く社員や何から手をつけていいかわからないと言う社員が少なくありませんでした。そのためステップ1の支援が特に重要と考え、2021年から支援体制を整えて強化してきました」(江﨑氏)
具体的には、年に最低一度は必ず上司と行う「キャリア面談」、同世代の社員とキャリアを考える「キャリアデザイン研修」、キャリアコンサルタントといつでも自由に面談ができる「キャリアコンサルタント相談」、部署を超えて気軽に対話する「ふらっと1on1」といった施策を行っている。
また、自己実現・自己成長に向けて自分を磨き、挑戦や発揮といった行動につなげていく社員を増やすためには、その前提である「キャリアを知る」ことや「会社から求められる役割やスキルを知る」こと、自己のキャリアを棚卸した上で「自分自身について考える」、「目標の設定」など、キャリアへの知識を深め、内省して考える機会がまずは重要となる。そこで同社では、大きく「研修」「対話」「イベント」の3つに分け、様々な形でキャリアに触れる機会を提供し、社員がキャリアについて考え、内省を深めていけるよう支援している(図3)。
同社による様々なキャリア支援施策の内、本セミナーでは特に「希望制によるキャリア研修」についてより詳しい解説がなされた。このキャリア研修は、オンラインによる1日研修で、世代による課題感の違いを考慮して20~30代向けと40~50代向けの2コースで実施されている。プログラムはキャリア理論を踏まえた実践のためのTipsを豊富に盛り込みながらも、グループワークを中心に設計されており、参加者が自分自身の仕事やキャリアについて深く内省し言語化していくことに重きを置いている点が特徴だ。
「研修で工夫した点はグルーピングです。たとえば20~30代コースであっても、20代前半の方と30代後半の方ではキャリア課題が異なってきます。ですので、できる限り年齢層が近くなるようにグルーピングをして、キャリアに関する対話がよりしやすいように環境を整えました」(江﨑氏)
キャリアプランシートの設計も、アウトプットをそのまま上司と共有できるような形式に工夫した。シートの上段はグループワークによって深まった自己理解を、中段は短期・中長期でやりたいことを、そして下段で明日から何を取り組むかを具体的に書き出していく。行動を明確にして上司に宣言することで、研修後の行動に着実につなげてもらうためだ。
このキャリア研修の施策では、同社が独自に設計した計3回のアンケートによる効果測定が行われている。受講前には自身のキャリア自律度を、研修直後はキャリア自律度と併せて研修自体の評価も聴取する。さらに3カ月後のアンケートでは研修後の行動変化の可視化をねらいとして、この3カ月で具体的に何に取り組んだかについての定性コメントも収集している(図4)。
「効果測定の結果、研修を受けたことで自己理解に対しての数値が高くなっており、主体的な仕事行動の項目も向上しています。研修直後よりは下がりますが、3カ月経ってもある程度の研修効果が持続していることも見て取れました。また、受講者のおよそ8割が研修後から3カ月の間に何かしらの行動を取ったとの回答を得ています。3カ月経った頃に事務局からアンケートの依頼をすることがリマインドとなって、研修のことを思い出したり、あらためて行動への意識が高まったり、といった効果も副次的にあったのではないかと考えています」(江﨑氏)
一連の施策の成果として、キャリア研修への応募者数も年々増えており(図5)、毎年定員を大きく超える数の応募があるという。応募者数の増加は、同社のキャリア意識の高まりをそのまま反映しているといってよいだろう。
一人ひとりのキャリア自律に向けて、様々な施策と試行錯誤を行っている同社では、「個人のキャリア自律と会社方針との接続」も強く意識しており、幹部からの動画メッセージ、人的資本経営に関するメッセージ、キャリアフェスなどのイベント情報、キャリア形成に関するメッセージなど、会社方針とキャリア自律をつなぐ様々なメッセージ発信も行っている。
「会社からの発信を受けて、会社が何を求めているのかを社員一人ひとりがしっかりと考え、自身のWILLと求められるMUSTをすり合わせることが、個人・会社の両方にとって重要です。個人のキャリア自律は会社が求めることと対立するものではなく、自分らしさと会社の成長は共にある。この点をしっかり理解してもらえるよう伝えていくことを大事にしたいと考えています。まだまだ模索中ではありますが、今後も試行錯誤しながら取り組んでいきたいです」(江﨑氏)
ここからは質疑応答で寄せられた質問のうちいくつかを紹介していこう。
【Q1】キャリア自律を推進するうえで苦労されたことは何ですか?
最初にぶつかったハードルは、当事者意識を持ってもらうことでした。自分でキャリアを考える意義を知ってもらう、キャリアに対する意識を醸成するという部分は、とても苦労しました。自分が何かしなければキャリア形成はできない、ということにまず気づいてもらう。そのためにいろいろなアプローチが必要になると考えて、とにかくキャリアに触れる機会を数多く提供することを意識して取り組みました。
【Q2】アンケート3回実施した背景と工夫した点について教えてください。
「キャリア研修を受講して、キャリア自律度が高まると何がいいのか?」を見える化したい、と思ったのがきっかけです。キャリア自律度は、「このスキルを身につけました」では語れないものなので、受講者のキャリア解像度が研修前と研修直後、そして3カ月後にどう変わるかを、時系列で見ていこうと考えました。また、キャリア自律が仕事にどうつながるのか、行動にどうつながるのも測定したいと考え、実際の現場で仕事に向かう態度や行動変化も併せて聴取したところが、アンケート設計のポイントだと思います。
【Q3】「自分らしさ」と会社の成長をつなぐポイントはどのようなところにあると考えますか?
前提として、幹部からのメッセージやイベントの場などで、自律的なキャリアの必要性や、会社側もそれを支援しているんだというメッセージをしっかり明確に発信し、なおかつ継続して伝え続けることが重要だと思っています。ただそれだけでは会社側からの一方的な押し付けのようになってしまうので、自分のキャリアにおいてやりたいこと=WILLをいろいろ考えて、それを会社が発信しているMUST的なところに一人ひとり考えてすり合わせていく作業も必要だと思います。

株式会社NTTドコモ 総務人事部 キャリアデザイン室 キャリア開発担当主査
江﨑 裕太氏
2011年株式会社NTTドコモ入社。モバイル通信事業の営業、企画業務に従事した後、シェアサイクル事業・金融事業等スマートライフ事業のマーケティングを担当。人材育成への興味から2022年キャリアコンサルタントの資格を取得し、人事部門にキャリアチェンジ。現在は、キャリア研修の企画運営、キャリアコンサルティングの拡大、キャリアイベントの開催など、社員のキャリア自律支援に力を注ぐ。

株式会社パーソル総合研究所 ラーニング&ディベロップメント本部 アカウントセールス1部 2グループ マネジャー
親松 健太
人材サービス会社での求人広告営業、マネジメントに従事した後、人材育成への興味から人材育成・組織開発のコンサル会社にてコンサルタント、講師業にキャリアチェンジ。その後、組織人事コンサルファームを経て現職。現在は、大手企業の経営層や人事部門が抱える課題解決のために、シンクタンクの調査研究データ等を活用し、企画提案からソリューション提供まで全てのプロセスのマネジメントを行う。
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