ソリューションコラム

不確実な時代に求められる経営リーダーの育成とは ~「経営の本質モデル」で読み解く、育成の設計ポイント~

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 ラ ーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング1グループ  エグゼクティブコンサルタント

ラ ーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング1グループ エグゼクティブコンサルタント

朴 キソク

不確実な時代に求められる経営リーダーの育成とは ~「経営の本質モデル」で読み解く、育成の設計ポイント~

AIの進化や地政学リスクの高まり、人材流動化、価値観の多様化など、企業を取り巻く環境はこれまで以上に不確実性を増しています。こうした時代において、企業の持続的成長を左右するのは、変化の中でも本質を見極め、全社視点で意思決定し、組織を前に進めることのできる経営リーダーの存在です。

一方で、多くの企業では、次世代経営リーダーの育成に悩みを抱えています。優秀な部門責任者が必ずしも経営リーダーになるとは限らず、知識やスキルを学ばせても、経営者としての視座転換にまではつながりにくい。こうした課題の背景には、部門マネジメントと経営とでは、求められる役割の質が大きく異なるという現実があります。では、これからの経営リーダーは、どのような観点で育成すべきなのでしょうか。本稿では、パーソル総合研究所が独自に体系化した「経営の本質モデル」 を手がかりに、経営リーダーを育成するための考え方の軸と育成を設計するポイントを整理します。

経営リーダーの育成が難しい理由

部門マネジメントでは、自部門の成果最大化が中心課題です。しかし経営では、短期と中長期、収益性と社会性、競争力と持続可能性、合理性と倫理性など、複数の要素を同時に見ながら意思決定しなければなりません。しかも、その意思決定は十分な情報がそろわない中で方向を示すことも求められます。つまり必要なのは、管理能力の延長ではなく、経営者としての視点への転換です。多くの企業で候補者がいても「経営を任せるにはまだ早い」と感じられるのは、この転換が容易ではないからです。

求められるのは「経営の見方」の転換

財務、戦略、人材、組織などの知識は重要です。ただし、それらを個別に学ぶだけでは、経営リーダーとしての実践力にはつながりません。経営とは、環境変化を捉え、戦略を描き、組織を整え、人を動かし、組織が健全に機能しているかを見極める一連の営みだからです。重要なのは、知識を増やすこと以上に、経営を全体で捉える見方を身につけることです。ここで求められるのは、「知る」だけで終わらず、「気づき、変わり、行動する」ための学びです。自らの判断軸を問い直し、現実の複雑さの中で考え抜く経験があってこそ、学びは実践につながります。

「経営の本質モデル」とは?

このように、「経営の見方」を転換するための考え方を整理したものが、「経営の本質モデル」です。このモデルでは、経営を個別知識の寄せ集めではなく、一連のつながったプロセスとして捉えます。そして、その出発点に「経営者としてのマインドセット」を置いている点が、このモデルの大きな特徴です。経営を学ぶことは、単に知識を得ることではなく、経営者としての自覚を持ち、ものの見方や判断軸を変え、行動につなげていくことを前提としているのです。経営に求められる様々な要素をばらばらに理解するのではなく、全体の流れの中で位置づけられるように体系化したことが、このモデルの価値です。

図1:経営の本質モデル

「経営の本質モデル」を構成する6つの視点

「経営の本質モデル」は全部で6つの視点で構成されています。それぞれの視点について解説します。

① 経営者としてのマインドセット

経営者になるということは、単に役職が上がることではなく、これまで以上に社会的責任を伴う立場になることであり、自らの視座と責任を捉え直すことが求められます。過去の成功体験を再現するのではなく、正解のない状況で考え、決め、責任を引き受ける覚悟が土台になります。経営リーダー育成の出発点は、知識の付与ではなく、このマインドセットの転換にあります。

② 外部・内部環境変化

経営リーダーは、市場、顧客、競争、技術、制度などの外部環境だけでなく、自社の強み・弱み、人材、文化、組織構造といった内部環境も含めてその現状と変化を認識しなければなりません。重要なのは、環境の変化を単に情報として知るのではなく、「それが自社の未来にどのような意味を持つのか?」を読み解くことです。外と内の両方を見ることが、経営判断の出発点になります。外部変化への感度と、内部、つまり自社の現状を見立てる力の両方があってはじめて、次の一手が見えてきます。

③ 戦略立案

経営リーダーは、社会に必要とされ、競争力のあるポジションを築くために、どこで勝つのか、何を強みにするのか、何をやるのか、何をやめるのかについて、戦略を定める必要があります。戦略とは、目標を掲げることではなく、限られた資源の中で何を選び、何を選ばないかを決めることです。不確実な時代だからこそ、未来を構想し、意思を持って方向を示す力が問われます。総花的な方針ではなく、選択と集中を伴う意思決定こそが戦略の核心です。

④ 組織化

優れた戦略を定めても、それを実行できる組織がなければ成果にはつながりません。役割分担、権限設計、意思決定プロセス、部門間連携、人材配置、価値観の共有まで含めて、戦略を実装できる状態を整えることが必要です。経営リーダーは、戦略の立案者であると同時に、組織の設計者でもあります。戦略と組織を切り離して考えるのではなく、一体のものとして捉える視点が欠かせません。

⑤ 実行促進

戦略と組織を整えただけでは、人は動きません。社員が納得感を持ち、活き活きと働き、経営倫理に基づいて行動できる状態をつくることが必要です。ここで問われるのは、制度や管理だけではなく、パーパス、倫理、信頼、対話、文化といった要素です。実行促進とは、単に「やらせる」ことではなく、「人が正しい方向に向かって動きたくなる状態をつくる」ことだといえます。ここには、経営リーダーの価値観や人間観が色濃く表れます。

⑥ 組織の健康診断

経営は、一度仕組みを整えれば終わるものではありません。戦略と現場の間にズレはないか、部門間連携は機能しているか、意思決定は滞っていないか、組織に疲弊や不信感は生じていないか。こうした状態を継続的に見立て、必要な修正を加えていくことも、経営リーダーの重要な役割です。問題が表面化してから動くのではなく、兆しの段階で捉え、手を打てるかどうかが経営の質を左右します。

これからの経営リーダー育成に必要なこと

では、これらの視点で考え行動できる経営リーダーを育成するには、どのようなことが必要でしょうか。

経営リーダー育成で重要なのは、個別の知識を増やすことではありません。環境変化を捉え、戦略を描き、組織を整え、人を動かし、組織の状態を見立てる。この全体を理解し、必要に応じて行き来しながら判断できる人を育てることが本質です。

そのためには、研修を単発の知識習得で終わらせず、自己認識を深める機会、現場での実践、周囲との対話、振り返りの場まで含めて、一体的に設計していく必要があります。経営リーダー育成では、「何を学ばせるか」だけでなく、「どのような場面で、何を基準に判断できる人に育てるか」を考えることが重要です。

また、育成の設計においては、6つの視点を単発のテーマとして並べるのではなく、互いのつながりを意識して学ばせることが重要です。環境変化が戦略にどう結びつくのか、戦略がどのような組織設計を要請するのか、組織と実行の状態をどう診断し次の打ち手につなげるのか。こうした往復が理解できてはじめて、受講者は経営を「自分ごと」として捉えられるようになります。

まとめ

不確実性が常態化する時代にあって、経営に求められるのは、既知の正解をなぞる力ではなく、変化の中に本質を見いだし、自ら問いを立て、決断を引き受ける力です。ゆえに、経営リーダー育成もまた、知識の付与にとどまらず、視座を高め、判断の軸を鍛え、組織と社会に対する責任を自覚した人材を育む営みとして設計されなければなりません。「経営の本質モデル」は、その営みを支える一つの指針であり、経営を全体として捉え直すための確かな座標軸となります。次世代の経営を担う人材を育てることは、個々のスキルを磨くことに先立ち、未来を構想し、その実現に責任を持つ人の見方そのものを育てることにほかなりません。

執筆者紹介

 ラ ーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング1グループ  エグゼクティブコンサルタント 朴 キソク

ラ ーニング&ディベロップメント本部 L&Dコンサル部 コンサルティング1グループ エグゼクティブコンサルタント

朴 キソク Park Kiseok

1973年 韓国・釜山(プサン)生まれ。大学院修了(博士前期課程・産業経済学専攻)後、組織開発・人材育成専門コンサル会社入社。海外関連事業に従事した後、営業マネジャー・コンサルタントを経て海外現地法人(韓国ソウル)の代表取締役社長。その後、同社をMBOし、株主として事業参加。現在は、パーソル総合研究所にて、マネージャー変革プログラム、上級管理職育成プログラム、エシカルマネジメント、パーパス経営、組織文化醸成等を中心に様々なプロジェクトをリード。これまでに300社以上の支援実績を持つ。

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