昨今、人事制度として「キャリア面談」を導入する企業が増えている。導入時においては、キャリア面談を受けた経験がない上司が部下の想いや悩みを傾聴して理解することも課題の一つであった。一方今は、キャリアビジョンの明確化や面談後の行動につなげていくための、より効果的な支援のあり方を考える段階に差し掛かっているようだ。2025年11月25日(火)に開催された第2回キャリア自律セミナーでは、部下を対象とした量的調査の結果と分析から、キャリア面談の直近の現状と課題を明らかにしたうえで、キャリア面談によって部下のキャリア支援をより効果的にしていくためのポイントを考察した。
「キャリア面談」について、今回のセミナーでは「部下の今後のキャリアについて、上司と部下で年に1回程度話し合う面談」と定義している。面談の目的は、部下の今後のキャリアに関する思いを聴き、その実現に向けて本人が行動することや、上司(組織)が支援できることを話し合うことだ。いわゆるMBO(Management by Objectives:目標管理制度)における面談とは違い、あくまで部下のキャリア支援にフォーカスしている。
このキャリア面談、実際どのくらいの企業で実施されているのだろうか。21世紀職業財団が実施した2022年の調査によると、従業員数10,001人以上の大企業の約7割がキャリア面談を導入している。本セミナー参加者(305名)へのリアルタイムアンケートでも、同じく約7割が「実施している」と回答した。
キャリア面談を実施する企業は増えている一方で、上司には「異動や昇進の希望を確認する面談」といった誤解、あるいは「部下は本当は面談をやりたくないと思っている」「キャリアは本人の自己責任」といった思い込みが存在するのではないだろうか。またその背景には、「自分がキャリア面談を受けたことがなく、やり方がわからない」「人事権がなく部下の希望を叶えてあげられないのに、やる意味はあるのか?」といった上司のモヤモヤとした思いもあるのかもしれない。そこでパーソル総合研究所では、2023年に続き2025年もキャリア面談に関する定量調査を行った。
本調査の結果と分析を理解することで、キャリア面談の現況と課題が見えてくる。まずは、キャリア面談とはどのような機会であると部下は思っているのか。2025年の調査では、「自分の考えが整理できる」「上司と関係構築できる」「自身の成長に役立つ」といった、ポジティブな意見が上位となった(図1)。また性別で見ていくと、全体的にポジティブな意見の割合は女性のほうが高く、女性がキャリア面談に対して比較的好意的に捉えていることもわかった。
「キャリア面談をする意味があるのか? 部下はやりたくないのでは?…と思っている上司の方もいるかもしれませんが、調査結果を見ると、部下はそうは思っていないことがわかります。」(小室氏)
本調査のレポートでは、部下として回答した人の内、「キャリア面談を通して、中期的なキャリアビジョンが明確になった」とした39%、および「キャリア面談を通して、半年から1年間の短期の取り組みが明確になった」とした42%の人に着目。そのうえで、部下の行動、上司の行動、そして会社の支援環境において、「何がキャリアビジョンの明確化にプラスに影響したか」を分析している。また、キャリア形成においては中長期のキャリアビジョンを考えることが重要だが、長いスパンでのビジョンを描くことはなかなか難しい。そのような場合、短期的な目標を設定して行動することで視野が広がり、キャリアに関する不安や焦りが緩和され、今後のキャリアの展望にもつながっていく。本調査ではこのような考えから、短期的な目標設定につながった要因についても分析を行った。
まずは部下の行動について。「キャリア面談に向けて部下が行ったこと」の中で、中期のキャリアビジョンにプラスだったのは、「社外の先輩や知り合いとのキャリアの対話」。短期の取り組みにプラスに影響したのは、「面談シートの入力」「キャリアの棚卸し」「社内の先輩や知り合いとのキャリアの対話」だった(図2)。また、「自分と組織が目指す方向性を重ね合わせることができている」場合、中期と短期の両方にプラスに影響することもわかった。「自分のキャリアビジョンを明確にするだけではなく、組織のパーパスやビジョンと自分とのつながりを考えるといったことに取り組む企業も増えてきています。この点について面談で話し合うのも有効だと思います」(小室氏)
一方、上司の行動としては、「キャリア面談の目的や意義を伝えていた」「今後のキャリアに役立つ情報提供やアドバイスがあった」が中期と短期の両方にプラスに影響している(図3)。「今の上司の方々は、傾聴することは結構できています。それに加えて、上司だからこそ提供できる社内の情報や、社内のネットワークづくりのためのアドバイスを意識するとよいと思います。また、上司自身がスキルや能力を高めるための自己投資をしていたら、それを部下と共有するのもよいでしょう」(小室氏)
会社の支援環境について、中期・短期の両方にプラスだったのは、「自分の実力や成果は正当に評価されている」「希望する役割や仕事に自ら手を挙げる仕組みを活用できる」だった(図4)。「この会社は自分がキャリアを積んでいくのにふさわしいか?」で選ばれる時代を反映した結果といえるのではないか。
本セミナーのまとめとして、キャリア面談を自社の制度として設計するポイントが示された。最も重要なのが、目的や方針を明確化すること。自社のキャリア面談は何のためにやるのか。MBO面談との違いは何か。面談をもとにタレントマネジメントシステムなどで定量・定性の情報を蓄積していく場合には、何に活用するのかを明確にする。制度の目的に対する共通認識を浸透させるための施策、そして効果測定についても併せて設計しておきたい(図5)。
「キャリア面談がうまくいかない原因は、たとえば 『今後こういう経験ができるといいね』 『こういう学びの場があるよ』 『○○さんを紹介しようか?』といったように、行動につながるような話ができていない。あるいは話し足りなかったことを面談後にフォローアップしていないことです。そういった面談が続くと、部下はどんどん本音を話さなくなってしまいます」(小室氏)
キャリア面談は、上司と部下の関係構築のチャンスだ。部下がどう思っていて、どうしていきたいのか、何に悩んでいるのかを知ることができる。その際に上司に求められるのは、部下に対して興味・関心を持ち、伴走者として一緒に考えていくことだ。「それができると、キャリア面談は部下のモチベーション、パフォーマンス、そしてワークエンゲージメントの向上につながります」(小室氏)
一方で、今は変化が非常に速い時代。従来であれば自社の中で想定できていたキャリアパスが、その通りにいかないこともある。上司も部下も、「キャリアパスは自分で創っていくもの」と柔軟に考えることが求められる。「上司だけでなく部下の側も、面談で何を話したら自分のキャリアに有効に働くのか、キャリア面談の受け方を学ぶことが大事になってきます。上司と部下の両者が、キャリア面談に対する正しい理解と情報を持っていること。そのような状態をつくることが、効果的なキャリア面談につながっていきます」(小室氏)
ここからは質疑応答で寄せられた質問のうちのいくつかを紹介していこう。
【Q1】 「中長期のキャリア目標が描けなくても、短期の目標が設定できたら視野が広がる」という調査結果について。短期のキャリア目標はどのように作ればよいのか? MBOにおける目標とはどう違うのか?
MBOの目標は、目の前の仕事の目標です。一方、MBOの目標に取り組む意欲があれば、それもひとつの短期のキャリア目標となります。短期のキャリア目標の作り方としては、今すぐの仕事でなくても、たとえば社内外の誰かと話してみる。次回の面談までに取り組んでみたいことを見つける。これまでの経験の棚卸しをして、今の仕事とのつながりを考えてみる。仕事のやりがいを言語化してみる。そのように、自分のキャリアに何かしらプラスになるようなことを考えて取り組んでいくとよいと思います。
【Q2】 部下による「面談の受け方」について、どのようなことを伝えるとよいか?
キャリア面談の目的をまずはしっかりと伝えます。またたとえば「このキャリアシートに書いておくと、新規事業の立ち上げとか、アサインの参考情報として使われるよ」といったように面談の記録がどのように使われるのかも併せて伝えるとよいでしょう。「面談で上司に何を伝えると、自分のキャリアにとってプラスになるか」という視点で考え、そのうえで面談の準備をしていただくとよいと思います。
【Q3】 「年上の部下」とキャリア面談をする際のアドバイスは? また定年間際の社員や、定年後再雇用になった社員の支援につながる面談にするには何が必要か?
まずは「年上部下を恐れない」ということが大事です。仕事のことに限定せず、やりがいを感じていること、今後やってみたいと思っていることについて、年下上司が興味を持って率直に聴いていくことがポイントです。人生100年時代で定年後も人生は長いです。定年間際や定年後再雇用になった方とは、「組織を卒業した後のキャリア」についても話したいところです。組織の中にいる間は、卒業後に何かをやるときに、「こんな成果を上げた」「こんな取り組みをした」と示せるものをつくるチャンスなので、そういう観点で話をするのもよいと思います。
【Q4】 上司によるキャリア面談と、外部のキャリアコンサルタントによるキャリア面談、どのようにすみ分けるのが効果的か?
上司によるキャリア面談は、部下の普段の仕事ぶりや本人の強みなどを、上司がよくわかったうえでフィードバックできる、今後のキャリアに繋がる仕事をアサインできるというメリットがあると思います。対して外部のキャリアコンサルタントによる面談は、社内ではなかなか言いにくいことを話せるのがメリットです。また最近では「社内のキャリアコンサルタント」と面談ができる環境を整えている会社もあります。社内のキャリアコンサルタントは、キャリアに関する社内制度についてより具体的なアドバイスができる、あるいは「今の上司とはどうしても合わない」といった場合にも有効です。社内外のリソースそれぞれの強みを活かして組み合わせていただくとよいと思います。

株式会社パーソル総合研究所 組織力強化コンサルティング部 キャリアコンサルティンググループ シニアコンサルタント
小室 銘子
大学卒業後、証券会社の営業、商社での企画職、人材派遣会社にて広告、営業、コーディネーター、スタッフ教育、企業向け研修など、人材ビジネスの幅広い分野を経験。管理職として27年間にわたり、マネジメントと人材育成に従事。働く人の成長支援をライフワークとし、アカデミック領域と実務を結び付けたキャリア開発・人材育成の研究に取り組む。2020年4月、キャリア開発支援を担当する部署を新設。キャリアデザイン学修士。
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