現在の就活生・データから見る5つのタイプ

現在の就活生・データから見る5つのタイプ

「今どきの就活生論」はなぜ繰り返されるのか

就活生について調査・研究をしていると、「今どきの若者は○○だ」とする大雑把な「若者論」が、就活生に対しても向けられるシーンを多く目にします。企業の合同説明会に群れをなして並ぶ学生、リクルートスーツに身を包んだ学生を一瞥しながら、多くの人は「今どきの学生は真面目だ」「挑戦心が無い」などと、一括りに見ていきます(多くの場合、そこから「自分たちの頃は...」と昔話が始まります)。

社会心理学の知見を参照すれば、こうした就活生へのステレオタイプな見方には、ある程度の説明がつきます。一つは、人は自分の「外」にいる集団のことを均質なものだと見なす、外集団同質性バイアス(out-group homogeneity bias)の働きです。人は「仲間」ではない他人のことを、大雑把にしか見ようとしないということ。90年代以降、リクルートスーツのデザインが男女ともに均一化したこともこれに拍車をかけます。さらに、地位や権力を持っていると、相手を正確に見る動機づけが起こらず、ステレオタイプで判断する傾向が強いことも、心理学では明らかになっています。

つまり「就活生」が大雑把に括られがちなのは、多くの社会人にとって就活生とは①すでに自分とは関係のない「他者」のグループであり、かつ②仕事人生の「後輩」という下位のカテゴリーに属す集団だからです。こうして一旦持たれたステレオタイプは既存の思考フレームになり、それに当てはまる情報ばかり得ようとしてしまう、確証バイアスと呼ばれる傾向によって強化されていきます。いわゆる「人は自分の見たいものしか見ない」というバイアスです。就活生という社会集団は、マイノリティでは無いにも関わらず、こうした視線にさらされやすい特殊な集団だと言えるでしょう。

「最近の学生は真面目だ」「元気が無い」といった一面的で大雑把な理解は、就活生が対峙する企業の採用活動にも影響していきます。学生の見る目の肥えた人事担当者ならまだしも、採用には現場の社員、つまり上述したような「普通の」社会人も多く関わります。とは言え、「一人ひとりの多様性に向き合う」を徹底できるほど、人の認知能力は高くありません。

そこで本コラムでは、こうした「今どきの就活生」像をより明晰にするために、独自の調査データ(※)を分析し、就活生のタイプをデータから以下の5つに大別しました。
(※パーソル総合研究所とパーソルキャリアのキャリア教育支援プログラムCAMPとの共同調査。全国の大学1-4年,社会人1-3年生合計1700人を対象としたインターネット定量調査)

現代の就活生・5つのタイプ

図1.5つの就活生タイプの構成比図1.5つの就活生タイプの構成比

さっそく、それぞれのタイプの概要を説明していきましょう。

就活に積極的な2タイプ

まず、【就活積極層】と呼べるタイプが2つ浮かび上がりました。それぞれ、「じっくり計画、就活必勝タイプ」と「仕事のやりがい貫徹タイプ」と名付けています。

1.じっくり計画 就活必勝タイプ

「じっくり計画 就活必勝タイプ」は、将来を見据えしっかり計画・準備する、安定と成功を勝ち取りたい意欲も強い、いわばエリート就活生です。大学の偏差値も高めで、学内での成績も良いタイプ。公務員も視野にいれつつ資格勉強している者も多数いますし、このうちの1割程度は、大学1年生やそれ以前から何らかの就活に動き出しています。採用現場でも目立つタイプでしょうし、他の学生からは、「就活意識高い系」と揶揄されがちなのもおそらくこのタイプです。

図2.じっくり計画就活必勝タイプの傾向
図2.じっくり計画就活必勝タイプの傾向

2.仕事のやりがい貫徹タイプ

次の「仕事のやりがい貫徹タイプ」は、やりたい仕事が明確にあり、時間をかけても希望の就職先を見つけていく妥協を知らないタイプです。 安定よりもやりたい仕事ができることが重要なタイプです。働きやすさよりも自分が成長できるか、を重視します。やりたい仕事が明確にあり、地元から離れることも厭わず、時間をかけても希望の就職先を見つける傾向にあります。

このタイプはアルバイトの経験種類が多く、事務系、インストラクター、軽作業まで広く経験しています。それゆえに就活時期が特に早いわけではなく、三年生になってから一気に動き出すのが特徴です。

図3.仕事のやりがい貫徹タイプ
図3.仕事のやりがい貫徹タイプ

図4.希望する職種(特徴的に高い職種)
図4.希望する職種(特徴的に高い職種)

また、それぞれのタイプが希望する業種として、特徴的なものをまとめてみました。左図の就活必勝タイプに多い職種は、経営・医療・教育・財務など、ジャンルはバラバラですが、専門性の高さが共通項です。計画的に学習する志向性の高さが垣間見えます。
【仕事のやりがい貫徹タイプ】は、やりがい貫徹タイプ、コンサルタントや経営企画、商品企画・マーケティングなど、企業の中でも花形と呼ばれるような部署や派手な仕事を好む傾向にあります。希望の職種への執着心は最も強いグループでしたので、こうした職種しか受けない傾向がみられます。

就活はほどほど、中間のタイプ

3.真面目にコツコツ安定就職タイプ

全体の35.7%と、5つのタイプの中で最も多い割合を占めたのが、定年まで働ける安定した企業を見つけたい、堅実な就活生。この中間層と呼べるタイプは、「真面目にコツコツ安定就職タイプ」と名付けました。偏差値や成績は並程度で、多くの意識が平均的ですが、親の顔色もうかがいながらの就職活動をします。安定して長く働けることが最も大切で、周りの動きに合わせて、必要なことはきちんとやるタイプです。多くの大人は、こうした就活生を見て「最近の学生は真面目だ」という印象を強めているのだと思われますが、全体としては3分の1程度です。

TwitterやFacebookなども積極的にはやらず、アルバイトも、事務系、ティッシュ配り、チラシ配りなど、やや地道に一人で行うアルバイトが多いようです。ボランティア系のサークルに入っている学生も多いので、企業の中では縁の下の力持ちとして働きたがるタイプとも言えそうです。

図5.真面目にコツコツ安定就職タイプ
図5.真面目にコツコツ安定就職タイプ

希望する職種の特徴としても福祉系専門職、医療系、総務・人事など、営業活動の中心というよりも、人に直接関わる仕事を希望する傾向がやや強く出ています。フロントよりもバックオフィスを希望する学生です。

図6.希望する職種(特徴的に高い職種)
図6.希望する職種(特徴的に高い職種)

就活に消極的な2つのタイプ

これまでは、就活に対してある程度は前向きに取り組むタイプでした。しかし、やはり消極的な層もいます。 それが、地元就職志向の強いタイプと、そもそも就活自体に興味が薄いタイプです。それぞれ、「働きやすさ優先のローカル就職タイプ」「今を生きる省エネ就活タイプ」と名付けています。

4.働きやすさ優先のローカル就職タイプ

「働きやすさ優先のローカル就職タイプ」とは、仕事にやりがいはほとんど求めず、とにかく実家・地元に近い場所で働きたい学生です。偏差値が低めな、非都市部の文系学生に多く、ハードに働くよりもワーク・ライフ・バランスの充実をさせるため、働き方が柔軟に選択できることを求めています。

学生時代の過ごし方も「アルバイト・貯金第一」で過ごしてしまっている学生も多く、決してアクティブとは言えないタイプの学生生活を送っています。また、女子学生に多いことも特徴です。

図7.働きやすさ優先のローカル就職タイプの特徴
図7.働きやすさ優先のローカル就職タイプの特徴

5.今を生きる省エネ就活タイプ

最後に紹介する、「今を生きる省エネ就活タイプ」とは、とにかく仕事への意欲は低く、就活も「できるだけ早く終わらせたい」という意識が強い学生です。仕事や企業についての執着も低く、情報も調べようとしていません。サークルにも入っておらず、「なんとなく」学生生活を過ごしている層に多いことがわかっています。

図8.今を生きる省エネ就活タイプの特徴
図8.今を生きる省エネ就活タイプの特徴

この2つの希望する職種を見ると、さらに特徴が見えてきます。事務・接客が多いことは共通しており、ローカル就職タイプはバックオフィス系の職種を、省エネタイプは、販売・飲食の接客、サービスなど、人と直接対峙するB to Cの職種により傾いているようです。

図9.希望する職種(特徴的に高い職種)
図9.希望する職種(特徴的に高い職種)

さて、就活生の5つのタイプを駆け足で説明してきました。それぞれ表にまとめると、以下のようになります。「安定就職タイプ」が突出して多いほかは、15%前後でバランスよく分布していることがわかります。

図10.それぞれのタイプのまとめ
図10.それぞれのタイプのまとめ

どのタイプが満足の行くキャリアを送っているのか

さて、次に見るべきは、それぞれのタイプがどのように就活を終え、初期キャリアを過ごしているのかです。それぞれのタイプから既に入社した若手社会人のデータを用いて、パフォーマンス、そして本人の満足度を分析し、下表にまとめました。

図11.それぞれのタイプの内定・入社後状況
図11.それぞれのタイプの内定・入社後状況

まず、就活の終了時の結果を見ると、大きな差ではないですが、「やりがい貫徹タイプ」が内定を最も獲得しており、逆に少ないのは、「省エネタイプ」です。それぞれ受ける企業群が異なりますので、この数は、内定の「獲得しやすさ」というよりも、「いつ就活を辞めるか」に関係している、と読みとるのが正確でしょう。やりがい貫徹タイプは最も希望の職業へのこだわりが強いタイプでしたので、納得できる企業から内定が出るまで就活を続け、結果的に内定獲得数が多くなるものと思われます。逆に、すぐ終わらせたがる「省エネタイプ」は、1社内定がでた時点で就活を辞める学生が多いことがうかがえます。

入社後の状況を見ると、最も会社満足度が高いのは、計画的に動いている「就活必勝タイプ」です。ジョブパフォーマンスは並ですが、3年目までの会社満足度を見ても、最も高めにでています。やはり計画的に企業の情報を集め、納得できる企業に入れているのはこのタイプのようです。

そして、入社後状況での最もリスクが高いタイプは、「ローカル就職タイプ」です。全く就活にやる気の無いように見えた「省エネタイプ」よりも、入社後満足度が大きく低く、そしてパフォーマンスも低くなってしまっています。「地元」という勤務地の方にこだわることによって、どうやら仕事内容や企業選びがおざなりになってしまい、結果的に満足行くような初期キャリアを過ごせていないようです。逆に、「仕事のやりがい貫徹タイプ」は、ジョブパフォーマンス、満足度ともに高めにでており、目的意識を持って就活をしていたことが良い方向に作用しているようです。

まとめとして

今回は就活生を大きく5つに分類してみました。データを分析している側から見れば、これは「粗い」目でしかありません。もっと複雑さを許容しさえすれば、より微細なタイプに分けることも可能です。そうしたことを鑑みても、「今どきの就活生」なる像は決して一枚岩ではありません。そうした前提のうえで、上述したような分類が企業側にとって学生を見定める参考になればと思っています。

初期キャリアは、人の人生に一度しか来ません。そうでなくても、日本の雇用社会は、景気含めた大学新卒時の状況にキャリアが大きく左右され続けます。そうしたとき、大雑把なステレオタイプによって採用可否が判断されることは、学生本人にとっても、そして採用する企業にとっても不幸なことです。
多様性を増す採用活動の中で、AIや機械学習、その他アセスメントを用いた客観的・科学的な採用活動は広がっていますが、採用活動にどうしても入り込む認知のバイアスをいかに丁寧に取り除いていくかは、引き続き重要なポイントになるでしょう。

調査概要


パーソル総合研究所×CAMP 「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」
調査方法 個人に対するインターネット調査
調査対象者 居住地域:全国 18歳以上30歳未満の大学生・初職入社1-3年の社会人(離職者含む)
合計サンプル数 1700人
調査日程 2019年2月22日~2月25日

※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所×CAMP 「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。


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