ダイバーシティ・コミュニケーション研修
人財開発・組織開発/ダイバーシティ推進部 部長 安原 菜津子氏
140年以上にわたって「研究開発こそ企業の魂である」という創業以来の理念を受け継ぎ、世界中の人々のより豊かな人生のために、インスリン製剤をはじめとする革新的な新薬を開発し続けている研究開発型グローバル製薬企業のイーライリリー。今回は、グローバルの中でも米国に次ぐ規模の組織として重要な位置づけにある日本イーライリリーで、ダイバーシティ・コミュニケーション研修を推進している人事本部 人材開発・組織開発/ダイバーシティ推進部 部長の安原 菜津子様に、その狙いと効果などについてお話を伺いました。
改めて、御社の事業概要とダイバーシティを推進されている背景についてお聞かせいただけますか。
当社は、新薬の研究開発・提供に力を入れているグローバル製薬企業です。ジェネリック医薬品を扱っていないところ、パイプラインが豊富であるところが特徴です。以前からダイバーシティに力を入れてきましたが、日本においては、女性活躍にフォーカスした取り組みを、特にこの10年の間に行ってきました。ビジネスでの成功にダイバーシティ&インクルージョンはかかせません。より良い人材に来てもらい、彼らが持つ力を組織に貢献できるようにしてもらうことが、ダイバーシティ&インクルージョン推進の目的と考えています。
今回、まずは管理職社員に向けての研修をお手伝いさせていただきましたが、管理職が対象となったきっかけを教えていただけますか。
3年ほど前に、現場を見てきた当社のボードメンバーから「男性の管理職と部下の女性社員のコミュニケーションが、どうもうまくできていないようだ」という話がありました。その方から、自分が以前アメリカで受講した男性と女性のものの考え方や表現の違いを理解するトレーニングが良いのではないか、という話もあり、日本で実施できるものを探しました。
同じものは日本では実施されていないため思案していたところ、御社の「男女脳差理解によるダイバーシティ・コミュニケーション講座」を知りました。そこで、最初は公開講座に営業部門の男性管理職や営業担当など数名に受講してもらったところ、参加者から「これは導入したほうがよい」という声が得られたため、社内展開しようということになりました。
特に営業部門で男性管理職と女性部下のコミュニケーションで困っているケースが多かったので、最初は支店長が集まる機会に実施しました。支店長たちから「課長にもやってほしい」という声があがって、次の年から全支店の課長を対象に実施しています。
導入後しばらくして、女性社員にも広げていきたいという話も出てきましたね。
導入当初は参加者の90%以上が男性でしたが、女性も受講したほうが良いという意見もあり、チームリーダー職の女性にも加わってもらいました。1グループに1人は女性が入る形式です。さらに本社の社員にも受講してもらいました。外資企業の社風もあり「男性はこうだ、女性はこうだ」と言われるのは、特に女性からあまり好まれません。私もそうですが、「そんなに違わないし...。」と思っているわけです。しかし、研修を受けてみると「確かにそうだな」と気づく点があるという理解を得られました。これはダイバーシティを推進する立場の人が知っておくべきことだと考えました。
毎回研修を実施するたびに、アンケートの振り返りをしながら進めてきましたよね。
1回1回の研修で各部署の社員からもらうコメントを反映して、次の回に活かしたいと考えていました。メンバー構成や地域差などにも関心がありました。アンケートがあったからこそ、事例を対象部門にカスタマイズしようというアイデアに繋がったりしたのだと思います。
貴社オリジナルの研修カスタマイズで、大事なポイントを「男女脳のトリセツ(取扱説明書)」としてまとめ、持ち歩けるサイズのカードにされましたが、評判はいかがですか?
テキストに載っている重要項目が、自分の手帳などに入っていていつでも見ることができたら便利だろうということで作りました。使っている方は結構いるようです。男性上司が女性部下と改まって話す場面などで、ちょっとした振り返りとして見ることがあるみたいですね。
最初のうちは弊社の講師で実施いただいて、その後、内製化されました。
やはり最初は、外部の方、第三者の方から客観的に伝えてもらうことが重要でした。また、担当された講師の先生が話される事例が非常に効果的でした。家庭でよく起きがちなことなどの身近な事例を挙げてもらったのが、特に男性にとってストンと落ちたみたいです。皆さん「あー」と言って納得していました。全ての課長、何百人に受講してもらううえで、成功した最大の理由はそこだったのではないかと思います。そして、ある程度社内で共通語として定着したので、内製化して社内講師でも受講者が耳を傾けてくれるようになってきました。また、ケーススタディを当社で具体的に起きそうな事例にしたり、時間配分を見直したりなど、当社仕様にアレンジしてもらったことも良かった点かと思います。
インストラクター養成講座も多くの方に受講いただきましたが、今後どのように進めていかれるのですか?
ひととおり全国の対象者に対しての研修を終えて達成感を持っていましたが、これからも新任の管理職が次々に出てくることを考えたときに、管理も大変だし、講師依頼のコストも掛かる。そこで、毎回外注するのではなく、トレーナーの資格を取って内製化しようという考えに至りました。実際にセールス部門では始まっています。
今後、ダイバーシティ推進にはどのように取り組まれる予定でしょうか。
今まで以上にワークスマートにしていくこと、つまり「働き方改革」にフォーカスしています。そして、それとともに、様々な社員がその力を持って組織に貢献できるようになることにフォーカスしています。
一つの多様性である性別に関して言えば、この領域でも、男性社員がもっと育児に関与する、女性の部下が育休を取得する際に理解を示せることなど、やはり男性女性のコミュニケーションが重要になってきます。
内勤の社員は男性女性が半々なのに、女性管理職の比率が上位職になるほど低くなっていることも課題と感じています。今後増えていく女性の管理職に男性部下という組み合わせでも、コミュニケーションのトレーニングは重要になってきます。女性の上級管理職を増やしていくためにも、この研修は社内でも重要な位置づけとして、続けていきたいと思っています。
最後に、パーソル総合研究所に対しては、今後どのような期待をお持ちでしょうか。
女性の場合、育休復帰後にキャリア観が変化することが多かったり、最近では介護の問題も出てきたり、ということがあるので、ダイバーシティ推進にあたってはキャリア開発についてもフォーカスしていきたいです。基本的に社員は自分自身でキャリアを考えるものだと思いますが、考えるにあたって、自分のやりがい、やりたいこと、できることなど、キャリアの全体像を理解できるようなものがあるといい。このようにダイバーシティやキャリア開発に関連する最新情報などを教えていただけたら嬉しいです。