初日の受け入れと初期トレーニングのあり方次第で、アルバイト・パートの定着度が変わる。初期に現場で行うべき基本の4ステップ

新人アルバイト・パートを迎える初日の受け入れ体制や初期トレーニングのあり方は、アルバイト・パートの採用後の定着やモチベーションを大きく左右します。「うまく仕事に対応できるだろうか」「職場の人たちとうまくやっていけるだろうか」。新人は、さまざまな不安を抱えて新たな職場にやって来ます。そのため、初日は不安を解消させ、この職場でずっと働いていきたいという気持ちを芽生えさせることが何よりも大事です。初日の受け入れ体制を整えるために、新人を迎える現場はどのような対応を心掛けるべきなのか。基本となる4つのステップをご紹介します。

接客中の写真

  1. ステップ1)新人アルバイト・パートの初日の受け入れ体制を整える
  2. ステップ2)新人アルバイト・パートの初日の不安を解消し、スムーズに働き始める事前準備
  3. ステップ3)働き始めの初期段階に、小さな成功体験の機会提供
  4. ステップ4)現場にあるノウハウを集めたマニュアルの整備
  5. まとめ)新人アルバイト・パートが不安を解消し、働くことに前向きになれるような初期トレーニングになっているか

ステップ1)新人アルバイト・パートの初日の受け入れ体制を整える

まずは、新人アルバイト・パートが初めて職場を訪れる日に、職場のスタッフから歓迎されていることを実感し、安心できるように、受け入れ体制を整えておくことが必要です。そのため、初日に新人を迎える主担当者は、店長や所長といった店舗・営業所におけるトップの人材が担うべきです。初日にトップが迎えることで、新人にとって職場から歓迎されている印象は格段に強まります。また、トップ以外の、現場で働くスタッフが気持ちよく新人を迎える状態にするために、新人の名前や初出勤の日時をきちんとスタッフ全員に周知し、対応できるよう準備しておくことが重要です。新人が来ることを現場で働くスタッフが把握していなかったために、受け入れ対応が迅速にできず、初日から長時間にわたり、新人を放置してしまった結果、翌日から新人が来なくなった、というケースは珍しくありません。職場全体で歓迎の意思を態度や行動で示せるよう、しっかり受け入れ体制を整えておくことが、新人を迎えるための基本の第1ステップです。

ステップ2)新人アルバイト・パートの初日の不安を解消し、スムーズに働き始める事前準備

店舗・営業所によっては、新人に特段レクチャーすることもなく、初日から「とりあえず、やってみて」と、経験のあるスタッフと同等の仕事を与えるケースがありますが、初日から不用意に業務に就かせることは不安を増幅させる要因になりかねません。最近では、初日は新人を現場に立たせない、業務をさせないという会社が増えています。初日を、契約書類の記入など事務的なやり取りに使ったり、翌日からスムーズに働き始められるようにするための準備日と位置づけて、店舗・営業所など職場内のツアーを行いながら、出入口やロッカーの使い方、ユニフォームの着用方法、出勤から退勤までの一連の流れの説明に使ったりするのです。働くにあたっての心構えを認識させるために、経営理念やポリシー、行動指針などを伝える会社もあります。会社の一員としての自覚を促すことが期待でき、有効な初日の使い方といえます。

また、よくある「新人の不安」にもかかわらず、受け入れ側が気づかず説明があまりなされないものに、「アルバイト・パートはどの出入口を利用するのか」や「トイレはお客様と共同利用か」、「勤務時間中、貴重品はどうするのか」といった素朴なものも含まれます。どんなことに不安を抱いているのかを新人本人に直接聞き、それぞれの不安や疑問に答えることもひとつの方法です。「どんな仕事をすることになるのか」も新人が感じがちな不安のひとつです。特に裏方の仕事は外部から仕事内容が推し量れないため、初日に現場の様子を見せたり、具体的に仕事内容を説明したりすることが不安の払拭に効果的です。

ステップ3)働き始めの初期段階に、小さな成功体験の機会提供

無事に初日をクリアしたら、翌日からいよいよ現場での勤務がスタートします。この働き始めの時期に、少しでも自信が持てるような成功体験ができるかどうかが、その後の仕事に対するモチベーションや継続意欲を左右します。例えば接客の現場では、お客様から「ありがとう」という言葉を掛けてもらうことがひとつの成功体験といえます。働く仲間から感謝の言葉をかけられることも同様の成功体験による効果があります。そのため、働き始めの初期段階に、お客様や仲間に「ありがとう」と言ってもらえそうな行動をあえて促してみるのです。任されている仕事が誰かの役に立つ仕事なのだ、ということを実感できれば、先々、多少辛いことがあっても乗り越えられるものです。働き始めの小さな成功体験は、新人にとって、その後の心の支えとなります。
一方、このような成功体験の機会を提供することは、簡単にできることではありません。タイミングを見てうまく機会提供ができるスキルを身につけられるように、教育係や現場のスタッフを育成することも必要になってきます。

ステップ4)現場にあるノウハウを集めたマニュアルの整備

ステップ2で紹介した事前準備において、初日の説明を効率的・効果的にするため、マニュアルを用意して手渡している会社もあります。マニュアルの整備は、現場のノウハウの共有にもつながるというメリットもあります。難しく考える必要はありません。「マニュアル」はゼロから作るものではないからです。現場で行われている基本的な手続きや業務、スキルやノウハウを洗い出し、文字や図、動画に起こせば立派なマニュアルが完成します。現場の状況に即して作るため、形骸化しない、現場で活きるマニュアルに仕上がります。中には、特定の店舗で活躍しているエキスパート人材のノウハウが、近隣の店舗で横展開されているようなことがあります。こういった場合、エキスパート人材にヒアリングするだけで、サービスの質向上につながる素晴らしい要素が豊富に出てくる可能性があります。まだマニュアルを整備していない会社は、ぜひ試してみていただければと思います。

マニュアル写真

まとめ)新人アルバイト・パートが不安を解消し、働くことに前向きになれるような初期トレーニングになっているか

アルバイト・パートの新人に、長期間、モチベーション高く働いてもらうには、まず第1・第2ステップとして、初日に歓迎されている実感を持たせるような受け入れ方をすること、そして不安を解消し、翌日からスムーズに働き始められるように事前準備を整えてあげることを挙げました。第3ステップでは、働き始めた後は早い段階で、小さくても成功体験を意識的に積ませること。そして第4ステップとして、初期のトレーニングを効率的・効果的に行うためにマニュアルの整備が重要であることをご紹介しました。

アルバイト・パートとして働く人が多い飲食や小売、アパレル、運輸業といった業界において、アルバイト・パートの方が働く現場はビジネスの最前線であることがほとんどです。ビジネスの最前線で働いているアルバイト・パートの方に対するトレーニングを怠ることはクレームにつながり、やがては会社やブランドの失墜につながります。だからこそ経営判断として、トレーニングへの投資を充実させるべきなのです。モチベーション高く、長期間働き続けてくれるアルバイト・パートの方が増えれば、サービスの質も向上します。これを機に、現場での受け入れ方やトレーニングのあり方が現状のままでよいのか、ぜひ一度見直してみてください。

執筆者紹介

日比谷 勉

コンサルティング事業本部 フィールドHRラボ
責任者

日比谷 勉

Tsutomu Hibiya

日本マクドナルド株式会社にて、採用部門の責任者として、さまざまな新しい採用戦略を実施し、計100万人のアルバイト・パート採用を推進。

  • 2004年より、"採用の見える化"をゴールとしたHR TECHツールの自社開発をスタート。システム導入により蓄積されたデータは、その後の変化の激しいアルバイト・パート採用市場において、時代を先取りした施策の実施に貢献した。

  • 2008年からの"e-Recruiting戦略"の一環で開発した自社運営のアルバイト求人サイト「マックdeバイト」と一括応募を可能としたコールセンター設立による功績は、全世界でトップ1%の優秀な業績を残した従業員に贈られる「プレジデントアワード」を受賞。また2008年からは、日本マクドナルドのフランチャイズ店舗の比率70%化というビジネスモデルの転換期において、フランチャイズ法人のビジネスパートナーとして、採用・育成・処遇・福利厚生・労務の人事コンサルティングに従事。

  • 2014年、採用部門に復帰後、2015年からのマクドナルドの「V字回復」の成果に関して、年間7万人規模の人材確保の側面から大きく貢献した。

2018年4月、株式会社パーソル総合研究所入社。"現場"のアルバイト・パート領域に特化した調査・研究・コンサルティングを行う「フィールドHRラボ」を設立。ラボの責任者であるとともに、エバンジェリストを務める。

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