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コラム

2017.10.13

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グローバル共通の人事制度をつくる前に

グローバル人事 人事制度

人事制度はグローバル共通にすべきか?

人事の方とお話をしていると「恥ずかしながら、うちは"グローバル人事制度"がないのです」という話をされることがある。"グローバル共通の人事制度はつくるべきもの"で、"共通制度がない会社は遅れている"かのような話となっているのである。しかし、グローバル共通の人事制度が必要かどうかは、事業戦略や組織の状態に合わせ判断すべきことではないか。事前に必要な準備のないままグローバル共通の人事制度を作ってしまうことの方が、私にはむしろ懸念が大きい。

グローバル共通の人事制度をつくるべきか、つくるとしたらどこまでを共通項としてつくるべきか。共通制度を設計していくには、まずは、グローバルにおける、「人」と「ポスト」を可視化し、全体戦略に合わせて人をどのように配置・育成していきたいかの人事方針設定が必要となる。本コラムでは、その手順について確認する。また、私はそのプロセスの中でも特に、「ポスト」の見える化の必要性について言及したい。ポストの見える化こそが多くの日本企業がこれまで触れてこなかった部分だけに大きな挑戦となろう。

グローバルにおける本社人事の存在

1970年代、日本企業は高騰する人件費を嫌がり、人件費の安い国に生産拠点を求め海外にでていった。生産拠点が海外になると、当然のように調達や物流部門も海外に移っていく。やがてバブルが崩壊し国内需要が鈍化するに従い、海外は生産拠点としてだけではなく、販売拠点として重要な意味を持つようになる。そうなるとマーケティングや営業部門などのフロントがすべて海外にでていくようになる。フロントがでていくと、間接部門も。グループ数字をみるために経理が、グループリスクを管理するための法務や内部統制機能が、海外と連携せざるを得なくなっていった。

しかしなぜか、人事だけが、最後の最後まで日本に取り残されてしまった。もちろんすべての日本企業がそうだったわけではないが、多くの日本企業の人事は、「海外のことは海外で」、「現地人材は、現地で」、海外の人材をマネジメントしようとはしてこなかったのである。2000年代に入ると、グローバル人事を置く企業も増えてきたが、「実はやっているのは駐在員のケアだけ」というところも少なくなかった。

駐在員だけをみて、各国の採用、育成、人事配置をそれぞれの国に任せていたら、当然のことながら、海外のポスト、海外の人材がみえなくなってしまう。日本企業の海外進出が本格的に始まってからもうすでに50年近くが経とうとしている。各国組織は大きくなり、それに伴いキーポストも増え、その責任も増していった。海外の売上比率が過半を超える企業も増え、現地で本社以上のスケールの仕事をやってきた人材増えているはずだ。しかし、そのようなポストに従事してきた人材も、本社が現地人材に関与していない組織であれば、本社からは捉えられていない。そのような状態で、本社人事主導でグローバル共通の人事制度を作成しても、現場では、実態にそぐわない迷惑なルールを持ち込まれた、という話となってしまう。当然のことながら、これでは制度は機能しようがない。

グローバル人事制度を設計する前に、グローバル全体の事業戦略は何で、それに合わせて本社人事がどのような人事方針を持っているのか。つまり、まずは、グローバル全体で人をどう採用し、育てるか(配置するか)についてグローバル人事方針(戦略)を設定する必要がある。

グローバルタレントマネジメントの一般的なステップ
図1.png

ポストの見える化

冒頭でも述べさせていただいたように、上図の全ステップの中でもっとも重要だと考えているのは、「ポスト」の見える化プロセスである。日本企業の多くは、国内組織においていわゆる日本独特の職能的な制度設計・運用を行っていたため「ポスト」や「ミッション」への意識がもともと弱い。

日本以外では、採用の場面でも異動の場面でも、ポストとミッションで語られる。「このポストの役割は●●で、その要件は△△である」というポスト軸で説明ができない限り、各国の優秀人材にとって選択肢に挙がらない。つまり採用できない。日本から海外にでれば、日本以外のほとんどの労働市場がポスト軸で語られている現状を、我々は肝に銘じなければならない。

日系企業でよく交わされてきたのは、「髙橋さんは今のポスト3年だから、そろそろ××のポストだね」という会話である。これは「人ありき」の会話。この会話、さらに「髙橋さんなら、××のポストはきっとできる」などと続いたりするのであるが、恐ろしいことに、肝心要の××の職務定義や要件が、なかったりする。

20年近く中国で人事のコンサルテーションを行っている弊社フェローの金は語る。「中国に派遣されてくる駐在員たちのほとんどは、会社から何を期待されているか、ミッションが何かを言われず送り込まれている。対して、欧米企業から派遣されてきた駐在員は、明確なミッションを持って赴任先に赴く。契約書の中に、期待されている役割が明確に記載され、その成果に応じて変動給がどのように設定されるかも書かれている。多くの企業では、本社人事や赴任先のボスとの面談も事前に行い、想定される赴任期間、赴任期間中の活躍次第では赴任で成功した次のポストについてまで会話されている。」

アサインメントの種類
2図.png

この違いが、「赴任後に大きな差を生む」そうだ。ゴール設定の出来ている欧米企業からの駐在員に対して、来た理由も不明確な日本企業からの駐在員。よく、日本のビジネスマンの力は海外に行くとまったく通用しないなどと言われるが、これは個々のビジネスマンの力量の問題で片付けるべきではない。会社や人事が、なぜその人を送り、何を成し遂げることに期待しているのか、を明確にできていないからである。さらに言えば、その一歩手前の「海外法人のポスト」の情報についてすら、会社や本社人事からまったくみえていない可能性がある。各国人事が自立している企業ほど、本社人事に支援を求めることもないであろうから、ますます日本の本社人事からは現場がみえなくなる。本社人事が主体的にとりにいかない限り、情報は手に入らないだろう。

ちなみに私たちがポストの見える化をご支援する場合は、各国に赴き、現状の重要と思われるポストでどのような仕事をやり、どのような責務を果たしているのかを確認していく。一方で、経営幹部とは、グローバル人事方針について議論を重ね、「あるべき」重要ポストの職務内容とミッションを紡ぎだしていく。

人の見える化

「ローカル人材は、いくら優秀でも、ガラスの天井のせいで上には上がれない。ラインの長がせいぜい。それより上は駐在員のポストだから」。 私がアジアで日系企業のマネジメントの現地化支援を行っていた時によく聞いたセリフである。それから、もう10年以上が立ち、中間管理職層を中心に現地化は進んだが、彼らの情報は相変わらず本社人事では管理されていないケースが多いようだ。ガラスの天井を取り払ってみたら、その先の本社に壁があったというのでは笑えない。

「ポスト」の見える化と同じステップで、「人」の見える化も進められたい。海外で事業を回していく中で、どの階層でどのような要件のリーダーが必要となるか、どのような職種にどのようなスペックが必要となっているか。全体方針を横目に要件を整理し、情報収集していく必要がある。

以前、私が人事として所属していた外資系の企業は、各国の現地化が進み、ローカルの人事としても非常に自由度が高かった。報酬はもちろん、評価の考え方も日本独自で決めていた。しかし、こと優秀人材の情報収集に関しては様々な手を使いアグレッシブに現地法人の方へ取りに来た。人材開発会議には、CEOをはじめチーフオフィサー全員が日本に揃ってやってきた。幹部職の1年間の取り組み、その評価など様々なレポートを用意させられ、人材開発委員会は1日がかりであった。また、その幹部の後継者候補についても確認された。幹部には、後継候補者の昨年の成長課題に対し育成がどこまで進んでいるのかが問われる。人材開発の網の目にかからない若手層にはインセンティブ制度を設け、若手層を推薦理由とともに推薦するよう促された。他にも、本社経営への提言プロジェクト(若手優秀人材で構成)への参加者推薦、幹部研修への推薦、など様々な選抜制のプログラムへの推薦を求めてきた。ローカル人事の私としては、優秀な人材のリテンションとして、懐の痛まないそのような研修やジュニアボードは有難い施策だった。いま思い返してもあれは、各国の自律性を尊びながら、優秀な人材の情報を吸い上げる方法として有効な手段だったと思う。

優秀な人材は、当然ながら現地法人にとって、自組織にとどめておきたい人材であろう。しかし、日本企業一社に長くいると想像しにくいが、そうした海外の優秀人材には、常に「外に出る(転職する)」選択肢がそばにあるのである。キャリアアップの機会を与え続けなければ、そこを離れるまでだ。現地法人で提供できるキャリアアップにはいつか限界が来る。グローバル全体で優秀人材をリテインするために、現地法人と手を結び、彼らからタレント情報を入手し、引き上げていく手段を検討していくことが求められる。

人の見える化のために必要な情報は何か、については弊所の和田のコラムも参照していただきたい。まずはタレントマネジメントの土台作りとして、各国に散在する人材情報を集約するところから始められたい。

グローバルの全体方針

ポストと人の"見える化"を進めながら、次に決めていきたいのがグローバル人事方針である。事業の目指す姿と同じ方向の中で、どのように人材を活用・育成・配置していくかというステップである。ビジネスのあるべき姿の中で、どの程度人が行き交い、どのような任務を持つのか。また、グローバル人材として本社がウォッチすべき階層はどの部分までなのかも重要な論点だ。

グローバル人材の対象範囲
図11.png

グローバル共通の人事制度が必要か、それはどの階層までを対象とすべきか。それを明らかにするには、当然のことながらグローバル事業戦略とそれに合わせた人事方針を決めていく必要がある。下記の様な検討を経営陣と本社人事で考えていく必要があろう。

中期経営計画達成のためにフォーカスすべき人材群は?求められる人材は?(現地法人社長?本社部門責任者?次世代経営者?専門人材?等)
不足が予想される人材の質と量は?(職種、ポジション、人員数等)
人材育成/配置の考え方(戦略的育成目的の配置やサクセッションプラン等)
採用の考え方(従来と比較し変えるべき点は?候補者にとってのイメージは?説明できる理念は?)
本社、地域統括、現地法人における人事の役割分担
人事上の課題と解決に向けた優先順位(貴社として特に注力すべき部分は?)
中長期的な目指す姿(3年後、5年後、10年後、2023年まで) 等

この議論を踏まえて、グローバル共通の人事制度設計に入ると、内容は自ずと決まってくる。幹部層のみに制度展開するのか、あるいはもっと階層を広げるのか。グレードだけ共通化させるのか、あるいは、評価まで、報酬までを含めて制度を共有化するのか。さらには、もう一軸、制度の中身をガチガチに統一するのか、緩やかな概念だけ共有するか。やりたいことを実現するための手法は様々にあるだけに、まずはポリシーを考える必要があろう。

グローバル人事制度の対象領域
5図.png図6.png8図.png図9.png

グローバル共通の人事制度を設計する前に、まずは、グローバルにおける、「人」と「ポスト」の現状を知り、グローバルの中でビジネスがどう動いていくかを想定しながら、人事方針を設定する必要があるという話をさせていただいた。また、その一つの過程として「ポスト」の見える化があり、これまで多くの日本企業にとってはこのプロセスが大きな試練となりそうだという話もさせていただいた。

全グローバルの管理職に、ガチガチの"グローバル人事制度"を入れた企業が、結局現実では思うような配置転換ができず、制度の対象範囲を限定したケースもある。制度設計を急がず、国を跨いだ人材交流・人事配置がある程度大掛かりになってからでも遅くはない。慎重に人事制度の共通化の必要性と共通化領域を見極めるための、ポストの定義ができるよう本社人事が現地の人事に食い込んでいくことが求められよう。そのためにも、まずは本社人事が現地に足を運び、ビジネスの状況だけでなく、国の風土、文化・習慣、就業意識に触れ実感することがグローバル人材マネジメント実現の第一歩になると思われる。本稿が、日系企業のグローバル展開、グローバル人事部の成長機会の創出の一助となれば幸いである。

執筆者紹介


ディレクター

為田 香苗

Kanae Tameda

株式会社リクルート入社後、人材総合サービス事業部門でクライアントへの採用戦略の提案を行う。米サンダーバード国際経営大学院への留学(MBA)を経て、2004年よりワトソンワイアット株式会社(現タワーズワトソン)で人材コンサルタントとして人事制度構築、人事に関わる様々なコンサルテーションを実施。2007年より、株式会社リクルート再入社。グループ人事・グローバル人事で、M&Aの人事デューデリジェンス、人事PMIを担当。2012年より、株式会社カンター・ジャパンの人事ディレクターとして人事全般を担当。2014年8月より現職。

為田 香苗のプロフィール
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