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2017.07.26

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組織高年齢化時代の人材マネジメント<対策編>

ミドル・シニア 組織開発

シニアマネージャー 石橋 誉

問題提起編で は、組織の高年齢化に伴い、「世代継承性の低下」「労働生産性の低下」「ミスマッチ社員の増加」「中高年社員のパフォーマンスの低下」という4つの問題が引き起こされることを考察した。本稿では組織の高齢化に対して、どのように対策すればいいのか、具体例を交えて考えていきたい 。

対策の方向性

先に挙げた問題は、採用、配置、評価、処遇、育成、キャリア開発、代謝といった人事全般に渡る対策が必要なものである。研修や制度の一部手直しを行えば済むレベルでない。では、これらの問題に対する対策はどのように進めるべきか。まず、対策の方向性について考えてみよう。

(図1)高年齢化による問題と対策の方向性

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本来、日本型雇用はピラミッド型の若い人員構成、かつ市場環境の成長を前提として上手く回る仕掛けだったものである。市場環境の変化のスピードが速く、低成長かつ組織も高年齢化してくるという状況におかれると、まず賃金・ポジションコントロールが難しくなってくる、一方で賃金・ポジションコントロールだけの管理に走ると従業員のモチベーション維持が難しくなるといったデメリットが多く出るようになる。これを解消していくためには、人材マネジメント全体の視点でパラダイムシフトが必要になる。

(図2)人材マネジメントの従来とこれから

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上記は従来の人材マネジメントとこれからの人材マネジメントをまとめた表である。もちろん、それぞれの項目を見れば実施しているものも少なくないだろう。ただし、気を付けていただきたいのは、組織の高年齢化によって発生する問題は、合目的的に機能横断で実施しなければ実効性が上がらない。例えば、キャリア研修だけを新たに行っても、モチベーションは決して向上しないのである。

高年齢化対策が進まない理由と変革を進めるプロセス

ここまでの状況、問題、また対策の方向性は、十分に認識している企業担当者も少なくないだろう。特に人事であれば、要員構成の将来シミュレーションも行っているはずである。それなのに、なぜこの問題が抜本的に対策されることがないのであろうか。それは、下記のような複数の要因が絡んでいる。

(図3)なぜ高年齢化対策が進まないのか?

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1つの要因は高年齢化の問題は、問題が顕在化するまでに時間がかかり、そして成果の確証も乏しく、成果が出るまでにも時間がかかるということが挙げられる。また、社員にも意思決定権者にも不利益を生じさせる改革であるということも、取り組みに二の足を踏ませている要因であると考える。ただし、この問題は重要性が極めて高い問題である。

そのように認識した上で、行うべき改革を着手し実行するためには、何を行っていけばよいか。J・コッターの定義する変革の8プロセスに基づいて行うべきことを整理したい。

(図4)J・コッター「変革を進める8プロセス」

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筆者がこれまでに関わった企業では、「役員、人事部が危機意識を共有化する」「対策のための専任担当者を置き横連携をとって解決にあたらせる」「従業員視点のビジョンを示す」といった変革プロセスの3つ目までで止まってしまったところが多かった。筆者が、外部専門家として知恵と労力を割いたのも社内コンセンサス形成のための事例提供であったり、従業員に大義をもって受け止めてもらえるようなビジョンづくりの支援だった。なお、定年延長に伴い筆者が長年支援を行っている企業においては、トップのメッセージを社内報やビデオ、リーフレットで配布し、メッセージを伝える、社員満足度調査を毎年実施することで施策の効果性や課題点を数値的に明らかにすることで変革をさらに進める取り組みも行っている。こうした、前例のない改革を進めて行く上では、社外の知見を有効に活用していくことが大切であろう 。

事例にみる変革のポイントと取り組み

高年齢化組織において、対策の一番の核になるのは要員構成の多くを占め、人件費単価も高い中高年社員の存在である。その上で、中高年社員の自律化、多様化を実現してい行く上での考え方を提示したい。

(図5)高年齢化対策の阻害要因と促進要因

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上記は高齢化対策に関して、阻害要因となるものと促進要因となるものをまとめた表である。左側の要素は求心力を高め、現状維持・依存を引き起こしてしまう阻害要因となる要素である。この要素は、日本型人事制度の特徴そのものと言ってよく、社員の加齢とともに力が大きくなるものである。また右側の要素は、自律化、多様化という遠心力に向けた促進要因である。

左側の要素は地球の引力のように非常に力が強い。だが、右側の要素は例えるならば、月の引力程度の力しかない。自律化・多様化という領域に到達するためには、阻害要因でもあり引力の強い阻害要因の要素を変えるとともに、促進要因を整備していくことが必要にある。もちろん、一気に物事を変えていくのは困難である。問題を捉えるとともに、時間をかけて変えられるものから徐々に変えていくことが大切である。

では、具体的にどのように変えていけばよいのだろうか。次章では具体的な事例を紹介したい。

事食品会社A社の事例

A社は6年間をかけて50代社員の自律化・キャリア選択の多様化のための取り組みを行っている。A社は長らく業績も安定しており、定年退職者数も少なく、現役時点の処遇をもとに非常に高賃金の再雇用制度の運用をしていた。こうした中で、再雇用率は高く定年者のほぼ9割が再雇用をされている状態であった。

一方で、A社の問題意識としては

  • 定年退職者が今後増加してくる中で、希望者全員に対し意に沿った職務・処遇提示が困難
  • 再雇用が不本意の選択であると当人が受け止めた場合においても、他に選択肢がなくモチベーションの低い状態で再雇用を選択してしまう
  • 殆どの社員が60歳以降のキャリアについて具体的に考えたことがなく、会社に根拠のない希望を抱いている状態にある

こうした中で、意識啓発のためのキャリア研修、再雇用制度の改定、早期退職優遇制度の設置、キャリア面談制度の運用改善、社内キャリアカウンセラーの配置、個別面談の実施、人事制度の改定と再格付けの実施といった取り組みを段階的に行ってきている。

(図6)A社での取り組み

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こうした一連の取り組みの結果、消去法的に再雇用を選択していた社員が減少し、再雇用率は6割に変化した。阻害要因、促進要因を段階的に変えていったことによる効果であると考えられる。

(図7)A社が改革を行ったポイント

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A社の改革は、初期段階では、人事トップの問題意識のもとに専任担当者チームが置かれ、取組結果を年度ごとに見える化し、取り組みの意義や成果を関係者が理解した上で進められていったことが挙げられる。キャリア研修の実施に当たっても、いきなりターゲット世代に行うのではなく、社内に影響性の強い上級部長に実施し、下の世代にも実施する必要性があるという生の声を引き出してから臨んでいる。
A社の事例から言えることは、組織の高年齢化対策のための取り組みを行うということは、考えられる施策を実施するという事よりも、成果の見える化によるPlan-Do-Seeサイクルによるコンセンサスマネジメントに成功要因があったといえよう。

おわりに

組織の高年齢化対策は、日本型雇用がこれまで推し進めてきた全員一律に求心力を高める政策に抜本的な変革を余儀なくさせている。一方でこれまで多くの企業が採ってきた対策は、年齢別キャリア研修、役職定年制度の導入、再雇用制度の改定といった弥縫策が多い。変えやすいものから着手するという観点ではこれでも良いが、組織の高年齢化の問題は、等級、職種、個人別に職域も含めた問題状況が異なる点もあり、一律、共通的な施策だけで問題を解決することが非常に難しいという側面をはらんでいる。

バブル期入社の社員が、賃金カーブのピークとなる52歳に到達するのは2020年頃と言われている。この年はくしくもオリンピックイヤーである。過去の東京オリンピック後の日本や先進諸国のオリンピック後の状況から見てオリンピック後は景気減速局面に陥ることが容易に想定される。いざ、この時に対策を行おうとしても減速期においては打てる手は非常に少ない。中長期の視座をもってこの問題に取り組む、人事の問題意識とリーダーシップのあり方が問われているともいえるだろう。

なお、パーソル総研では躍進するミドル・シニアのタイプ類型化、躍進、減速のための因子とソリューションを開発させるリサーチプロジェクトを現在進行させている。一律共通の研修サービスや制度変更では実現しえなかった領域、特に、年齢逆転で難しさが増しているマネジメントのあり方などに光を当てるものになっている。この内容については、また改めて共有する機会を持ちたい。

執筆者紹介


シニアマネジャー

石橋 誉

Homare Ishibashi

国際会計事務所系コンサルティングファーム(PwC、デロイト)、シンクタンク系コンサルティングファーム(NTTデータ経営研究所)、リクルートグループを経て現在に至る。25年のキャリアにおいて、IT・業務改革コンサルティング、事業戦略コンサルティング、組織・人事コンサルティングの異分野のコンサルティングプロジェクト経験を持つ。2010年よりリクルートグループの人事サービス会社でミドル・シニア領域の新規事業立ち上げメンバーとして参画。企業の組織高年齢化、雇用延長に伴う人事課題解決に向けたプロジェクトを担当。2017年4月よりパーソル総合研究所に参画。
米国CCE,Inc.認定GCDF‐Japanキャリアカウンセラー

石橋 誉のプロフィール
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