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コラム

2017.02.22

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「徹夜するくらい頑張ったらできる、オレもそうだった」と語られる企業の長時間労働を考える(後編)

労務管理 残業

シニアマネージャー 為田 香苗 

前回は、なかなか長時間労働が減らない企業が取り組むべき施策として、「マネジメントのやり方」や「人材価値の考え方」の意識変革が必要であるという内容をお伝えしました。しかし、意識改革にはやはり時間もかかりますし、それだけで長時間労働が減るわけではありません。合わせて、長時間労働そのものにもメスを入れていかなければなりません。私たちはこれまで、「ザ・現場主義」の組織で長時間労働の削減プロジェクトをご支援してきた経験から、下記の3点を実行することが非常に重要であると考えています。

  1. 未来の「果実」に向けて、トップが現場と痛みを分かち合う覚悟で取り組む
  2. 現場マネジャーに長時間労働のリスクとコストを認識させる
  3. 現場マネジャー自らに目標とアクションプランを考えさせる

1.未来の「果実」に向けて、トップが現場と痛みを分かち合う覚悟で取り組む

上から「残業を減らせ」という指令が下りてくると、現場からは「だったら売上を落としてもいいのか」という声が上がりがちです。事業会社として、無条件で売上・利益を落とせるものではないでしょうが、トップも何かを捨て、痛みを分かち合う覚悟なしに現場は動きません。売上減を甘んじて受けいれろというわけではありませんが、未来の「果実」に向けて、短期的な覚悟も求められるでしょう。

ここで言う「短期的な覚悟」 は、現場との軋轢、時間短縮施策に費やす労力、そして時にはやはり、直近の売上や利益を譲歩することなどです。そんなことできるか、と一蹴されてしまいそうですが、その先にある未来の「果実」を想定し、判断することはトップにしかできません。

未来の「果実」とは、働く環境が整備されたことによる従業員の満足や、採用ブランド力アップ。イノベーティブの余地を生むこと。そして最近では、業績向上にもつながると言われるようになりました。労働時間削減が、売上・利益を減らすのではなく、中長期的にはむしろその逆となるのです。例えば、働く環境整備の先駆者であるSCSKは、労働時間削減により減った残業代はすべて従業員にインセンティブとして還元しました。残業削減=コスト抑制としなかった決意に対する「果実」がその後もたらされました。それは、メンタル疾患者の減少、働きやすい会社として就職人気企業のトップクラスにランクインしたこと、そして増収・増益・増配の実現でした。

少し前の調査になりますが、内閣府経済社会総合研究所の『ワーク・ライフ・バランス社会の実現と生産性の関係に関する研究』によると「一定の時間の中で可能な限り高い成果をあげる」職場の方が、「高い成果を上げるために働く時間を惜しまない」職場より業績が良いという結果がでています。また、日経キャリアNETのデータを基にした分析では、労働時間と売上高利益率に相関はみられないという結果がでています。仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する傾向があります。「一定の時間内で成果を出せ」と求められた社員は、「労働生産性すなわちコスト意識」を考え、「限られた時間で成果創出するための工夫」を行います。

補足ですが、「短期的な覚悟」 としてあえて追記させていただきたいのは、コミュニケーションへの覚悟です。 "説明して、説明して、説明して、それでも分かってもらえない"ので再度説明する。それくらいの覚悟が必要となります。私たちが第三者として企業の長時間労働削減を支援する際もそうです。役員会で話をし、部長会で話をし、現場で話をします。そして、現場で問題が起きればどんなに小さな件でもすぐに経営や人事に報告し、対応にあたります。小さなコミュニケーションミスを起こすと、現場は敏感です。人事施策の中でも特に労働時間削減は、「自分たちの価値を軽視している」「簡単に削減できると思われている」と感じられかねない施策だからです。

2.現場マネジャーに長時間労働のリスクとコストを認識させる

「36協定ってなんですか?」
「どのラインから法律違反を犯しているか知っていますか?」
「あなたの部下のAさんが20時間残業した場合と、80時間時間残業した場合、残業代(=コスト)はいくら違いますか?」
「長時間労働をするとメンタル疾患が起きる可能性は本当に増えるの?」

どれも管理職として知っておいてほしいことですが、あまり労働時間管理を厳しく行ってこなかった会社では、意外にも解答できない管理職がいると思われます。1か月の残業時間が月80時間超の事業所が2か所以上確認されたケースでは社名が公表されてしまうことや、悪質な場合にはトップや上司の書類送検もあることを伝える研修などの場づくりは必ず必要です。現場マネジャーと協力して長時間労働の削減を進めるには、彼らにリスクやコストを正しく認識してもらう必要があります。

私たちは、まず現場マネジャーにこのような必要な知識がない場合には、必ず研修でインプットを行います。長時間労働で安全配慮義務を怠ったがために、せっかくの事業努力が無駄になった事例をケーススタディで学んだり、残業代の計算を算数の問題のように実際に解いてもらったりします。事業努力を行う熱い組織ほど、現場マネジャーにリスクを認識してもらうことが有効です。

コストの理解.jpg

3.現場マネジャー自らに目標とアクションプランを考えさせる

現場マネジャーにとってみれば、必死に売上・利益を上げようとしているところに、上乗せされる「残業削減」指令は歓迎できるものではありません。ただ、「残業削減=売上を上げられない」は事実なのでしょうか。現場マネジャーの「思考停止」を放置するわけにはいきません。

現場マネジャーを動かすためには、現場発信で施策を考えてもらう方法が有効です。私たちは、課題の全体像をみて施策を考えてもらうために、あらかじめフレームを用意し、そのフレームに則って施策を考えていただきます。「フロー時間とストック時間(文末図参照)」に分けて、あるいは「構造的問題と労働マネジメントによる問題」...など。その企業ごとに、現場マネジャーに提供したい視座を考え、フレームを設計します。そしてワークショップでは、そのフレームの中で現場マネジャーに施策を考えてもらいます。

図 課題の設定.png

ワークショップ内で、現場マネジャーたちは大真面目に「売上・利益の下げ方」を考え、同時に「マネジメントでの解決方法」に知恵を絞ります。すると、 "自分たちで決めた"という事実がつくられます。自ら決めた以上は、部下を諭す時も熱が入ります。自分たちで決める時に絶対やりたくないものは施策案に挙げません。また、現場にしか見えていなかった無駄や新たなやり方を見つけることもできます。

本質的な改革には最低でも3年の覚悟を

「PM10時消灯」など緊急措置を第一段階として取り入れざるを得ない場合はあるとしても、それだけを続けてしまっては組織の活力そのものが傷んでしまいます。現場の意識を変え、現場が主体となって長時間労働削減に取り組むためには、前編で述べたような現場マネジャーの意識改革と、合わせて長時間労働のための以下3つの取り組みが必要だと考えています。

<再掲>

  1. 未来の「果実」に向けて、トップが痛みを分かち合う覚悟で取り組む
  2. 現場マネジャーに長時間労働のリスクとコストを認識させる
  3. 現場マネジャー自らに目標とアクションプランを考えさせる

私たちは、長時間労働削減のお手伝いをする際には、アセスメントを実施することを進めています。現場調査を行い、業務をフロー時間とストック時間に整理します。フロー時間は、会議、移動、経費精算、メール対応など業務上やむを得ず消費する時間で、ストック時間は価値を生み出し成果を高めるための時間です。このフロー時間とストック時間を実際どれくらい使っているのか明らかにします。

図 フローとストック時間.png

しかし、業務の「見える化」以上に私たちが調査結果の中で重視しているのは、何が活力の源泉となっているかです。冒頭で述べたように、ここで述べている施策が対象としているのは「現場の活力が生命線の会社」です。活力の源泉を失わないよう、施策の優先順位を慎重に決めていきます。

私たちはよく顧客である企業に対して、「3年はかかります」と申し上げます。現場の活力が生命線の会社では、現場が納得し、自発的に動くまで成果は上がりにくくもあります。しかし、一度動き始めたら、確かな動きとなります。強制された施策は、一時的に効果がでますが、手綱が緩まるとすぐにもとに戻ってしまいます。

現場を巻き込んで、徹底的に3年間くらい労働時間管理を続けると、やがて働き方の意識が変わり、会社の現場が変わります。そのような現場では、上司は「徹夜するくらい頑張ったらできる、オレもそうだった」とはきっと言いません。深夜残業したいという部下に向かって「1時間の中でベストなものを上げてみろ」と発破をかけていることでしょう。

執筆者紹介


ディレクター

為田 香苗

Kanae Tameda

株式会社リクルート入社後、人材総合サービス事業部門でクライアントへの採用戦略の提案を行う。米サンダーバード国際経営大学院への留学(MBA)を経て、2004年よりワトソンワイアット株式会社(現タワーズワトソン)で人材コンサルタントとして人事制度構築、人事に関わる様々なコンサルテーションを実施。2007年より、株式会社リクルート再入社。グループ人事・グローバル人事で、M&Aの人事デューデリジェンス、人事PMIを担当。2012年より、株式会社カンター・ジャパンの人事ディレクターとして人事全般を担当。2014年8月より現職。

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