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2014.11.11

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国際競争力を高めるタレントマネジメントとは?

タレントマネジメント

日本企業が国際競争力を高めるためには、イノベーションをどのようにとらえ、どのような人材を育成していくべきか。一般社団法人Japan Innovation Networkで専務理事を務める西口尚宏氏にお話を伺った。

Q. 近年の日本のイノベーション競争力をどうお考えですか

nishiguchi.jpgイノベーションを技術革新と訳す傾向が強いのですが、本来のイノベーションは社会に対する新しい付加価値の創造全体を指します。新しい事業を創造する際に、技術も大事ですが、そこに最終ユーザーである生活者の視点を取り込みつつ事業を興すことにより、事業の成功率を上げていく流れが主流となってきています。これをユーザーイノベーションや人間中心イノベーション等と呼びますが、確定した呼び方があるわけではありません。このことを理解している企業は、規模の大小を問わず競争力をつけ始めているようです。技術が重要であることは前提としつつも、新しく世の中に生みだす付加価値を自ら定義し、それを実現する力が、諸外国との競争力の源泉なのです。

この点については、各国のイノベーション政策に関して1999年から2年に一度、詳細な調査・発表をしているOECDのレポート(*1)をご覧下さい。

同レポートでは、これまでイノベーションを「プロダクトイノベーション」と「プロセスイノベーション」で説明してきました。しかし、それだけでは現在のイノベーション競争を説明できないとし、2011年9月発刊版からは新たに2項目が追加されました。それは、「デザイン、パッケージ、プロモーション、価格等のイノベーション」(マーケティングのイノベーション)と「ビジネスの仕方、組織運営、他社との関係性のイノベーション」(組織のイノベーション)です。

Innovation4-1024x448.png

この4項目につき各国のイノベーションへの取り組みを比較分析したグラフがありますのでご覧ください。日本はその統計に含まれていませんが、他国の傾向値を見ると非常に面白い結果が出ています。

グラフ.png

注)著者加工による大企業のみのスコアをグラフ化した/掲載企業のうちG8、スカンジナビア諸国、アジア、BRICS に該当する国のみ抽出

特徴的なのは、「プロダクト(製品とサービス)」や「プロセス(製造工程等)」と共に、潜在的な顧客との関係を構築していく「マーケティング」とその実現のための組織体制である「組織」を含めた4分野すべてのイノベーションに注力している経営者が大半であるということです。(上グラフの黄緑「4領域すべて」)

特に、「プロダクトとプロセスだけのイノベーション」に注力している割合がほとんどの国で20%以下であることは注目に値します。つまり、各国ではイノベーションといえば、「プロダクト」「プロセス」「マーケティング」「組織」の4分野での「イノベーションの総合格闘技」を指すようになっているのです。その格闘技の中身は、ユーザーに対して生み出す付加価値を自ら定義し、ビジネスモデル化する能力の競争とも言えます。

世界は、既にイノベーションの総合格闘技を行っています。従来の「イノベーション=技術革新」という発想から早急に脱却し、ビジネスモデルやユーザー体験の構築力を早急に強化する必要があります。優れた技術が必要なのは前提としながらも、プロダクト(製品とサービス)、プロセス、マーケティング、組織を含む総合的なイノベーション創出力を強化することが日本の課題です。

Q. 日本がこれから国際競争力を高めるためには何が必要でしょうか

イノベーションを興せる人材の育成が急務です。イノベーションは、ひと握りの天才が興すものではなく、問題意識を持ったごく普通の人々が興せるものです。日本企業のなかには、社会に対する課題意識や変革意欲を持った人材が、その想いを本業に活かすことなく、才能が埋もれているケースが多いのではないでしょうか?

必要なスキルは個人の持つ「世の中を良くしたい、変えたい」という問題意識をもとに持続的な付加価値提供ができるビジネスモデルを構築・実現するスキルです。そのためには、問題の本質を洞察し、解くべき問題を正しく定義する力(課題設定力)の強化が非常に重要です。なぜなら、問題の本質を捉えていなければ、どんなに素晴らしいビジネスモデルを構築したとしても、イノベーションの実現には繋がらないからです。したがって、イノベーションを興そうとする人に求められる能力は、課題そのものを正しく定義し、様々な知見や技術を組み合わせて、その解決策をビジネスモデル化する「事業構想力」です。

Q. では、事業構想力の養成にこれからの教育はどう応えていくべきでしょうか

新卒採用の時期に発表される「企業が求める望ましい人材像」でも、コミュニケーション力やチームワーク力が強調されることはあっても、独創性や構想力などはほとんど入っていません。日本の教育では、これまで「憶えること」「知っていること」を軸に、用意された正解にたどりつくことを教育の目的としてきましたが、「自分の目で見ること」「自分の頭で考えること」「人と違った視点を持つこと」といった事業構想力の基盤となる独創性や構想力の養成に注力してきませんでした。しかし、用意された解が無い時代には、独創性や構想力を持ち、「想いを持って人と違う行動や発想をし、問題を定義して解決する人」を育成し活用していくべきです。そして、その人材が活かされるような学校教育、企業経営、社会風潮が社会のインフラとして必要ではないでしょうか。

これまで日本のお家芸とされてきた技術開発の場面では、構想力や独創力を発揮していると思いますが、プロダクト、プロセス、マーケティング、組織運営など日々の企業活動においては、驚くほど画一性を要求します。これからは、ユーザー起点の独創的な構想力を持つ人材の母集団を圧倒的に増やす必要があると思います。

イノベーションの総合格闘技で勝つためにはイノベーションを興せる人材の予備軍を大量に教育する仕組みが必要で、その教育プロセスを人材開発の「基本型」として、日本の高等教育や社会人教育の一環に幅広く組み込めないか、というのが私の今の問題意識です。

Q. イノベーティブな人材が企業の中でその強みを発揮するためには

教育によってイノベーティブな人材が育成されても、組織の中でその強みが発揮されなければ意味がありません。イノベーションの総合格闘技のなかでは、企業経営の在り方にも、組織イノベーションが必要になります。イノベーティブな人材の発掘、育成、活用といった問題は経営課題そのものであり、経営リーダーが担う役割は非常に大きいと思います。

そもそも、イノベーティブな人間は、知的好奇心が強く、新しいものが好きで、現状を変えたいというエネルギーを持っています。しかし、こうした人材は得てして社会や組織の中で、「浮いた存在」になりがちです。なぜなら、この人たちは「現状を大過なく維持する」ということに興味がないからです。一方、残念ながら現在の社会や組織では、大過なく現状維持することが奨励され、またそのような人材が昇進することが一般的です。実際に私が出会う大企業の20〜30代の若者は社会に対して強い問題意識を持っています。しかし、その問題意識を活用しない経営陣に対して白けた意識を持ち、その才能を社外で活用しています。企業は、「浮いた存在となりがちなイノベーティブな人材」がその強みを十分に発揮できるような組織運営を行うべきです。そのためには、まず組織のリーダー自身が「現状を変える」という強い決意を持ち、彼らを支援することが必要でしょう。

経営リーダーと同様に、人事も重要な役割を担っています。「現状を変えよう」、「イノベーションを興そう」とする人の予備軍に常に目を光らせ、活躍の場を与えることが最重要課題です。また、そのような人材を奨励するような評価制度の構築も急務でしょう。私は、そのよう成長志向の企業がイノベーション人材を発掘・育成するためのプラットフォームを創りたいと考えています。そのノウハウの蓄積が、21世紀の新しい日本型経営を創っていくと考えるからです。

イノベーティブな人材が活きる組織を創るために、企業の中に経営者が直接見守るイノベーション専門部署を立ち上げるのも一案です。そこは、「プロダクト」「プロセス」「マーケティング」「組織」の総合イノベーションを専門で担当する組織です。そして、そこには「社会を変えたい」という強い志を持ったポテンシャル人材を集中的にアサインし、経営者も直接関わり、イノベーションを興していくプロセスを経験していきます。ただ、こうした組織の活動は短期的な成果には直接貢献しない場合が多いので、企業の長期的な視点に立った対応が必要であり、経営トップの直接の支援が必要不可欠です。既に、米国の大手企業ではこのような取り組みが始まっているのも重要な示唆だと思います。日本が再び成長軌道に乗るためには、企業は従来の人材マネジメントの枠に固執することなく、イノベーティブな人材の育成と登用を積極的に推進する必要があります。そして、経営と人事が変革のドライバーとなって、イノベーティブ人材の潜在力を開花させることが日本躍進の鍵と言えるでしょう。日本の持つ潜在力を世界に向けて解き放つためには、経営者がいま行動を始めるしかありません。
*1 「OECD Science, Technology and Industry Scoreboard 2011: Innovation and Growth in Knowledge Economies」

※本記事は、機関誌「HITO」vol.02 『タレントマネジメントの未来』からの抜粋記事です。データ・内容は当時。


nishiguchi_profile-150x150.jpg■ 西口 尚宏(にしぐち・なおひろ)氏
一般社団法人Japan Innovation Network 発起人/専務理事
日本長期信用銀行、世界銀行グループ人事局(ワシントンDC)、マーサー社のグローバルM&Aコンサルティングのアジア太平洋地域代表(ワールドワイドパートナー)、産業革新機構 執行役員等を経て、現職。上智大学経済学部卒、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院卒(MBA)。主な著書に、『M&Aを成功させる組織人事マネジメント』(日本経済新聞出版社、2007年)、『人事デューデリジュンスの実務』(中央経済社、2006年)など。


機関誌「HITO」vol.02 『タレントマネジメントの未来』
cover02.gif知識社会化、サービス経済化、人材の多様化などによって1人ひとりの才能(能力)を最大限活かし、さらに個々の能力を組織の力につなげることがカギとなっています。では、タレントマネジメントの実践にはどのような視点が必要なのか。東京大学の中原淳 准教授のインタビューをはじめ、企業事例などを通してお伝えします。
>>機関誌「HITO」vol.02 『タレントマネジメントの未来』

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