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2011.05.16

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はたらくを楽しもう Vol.2 「ポジティブワークモデル」の提案

キャリア

report_vol2_01-300x249.png前回のレポートでは、現代の志士や前向きに働いている方をご紹介した上で、ビジネスパーソンの志向性調査を行いました。その中で、"挑戦"や"自立した働き"など日本を元気にする可能性の高いAタイプ(働きがい高×成長志向)がわずか10%しか存在しないことをお伝えしました。
では、B,C,DタイプからAタイプへの移行にはどういった手法が有効なのでしょうか? 今回のレポートでは、人が活き活きと主体的に働くようになる要因を考察した上で、仮説を提示したいと思います。


行動の傾向や志向性は変わる

どうやってAタイプに移行するか?を考える前に、そもそも変わることは可能なのかという点を確認したいと思います。心理学のパーソナリティ理論では、人間の「人格(personality)」は生まれながらの「気質(temperament) 」と、後天的に形成される「性格(character)」とに分けて定義されています。また、エニアグラムにおいても、個人が生まれつき「タイプ」に属しているものの、各タイプによって自己成長や課題克服の方向性が示唆されていますし、Lewinの場理論などは、人間の行動や心理的事実はパーソナリティや欲求だけでなく「場(人と環境の相互作用)」によって生まれると提唱しています。
こういった心理学的な観点から、基本的な感情や気分、特性など人には変えられない要素は確かにある一方で、行動の傾向や仕事への志向性といったものについては後天的に変わると考えられます。

インタビューにみるAタイプへ変わった要因

では、実際にはどういったことが影響し、タイプは変わるのでしょうか?その要因を探るべく、仕事に対する向き合い方の変化を経験した3名の方にお話を聞いてみました。

【Bタイプ→Aタイプ】 「雑用にこそ意味がある」

株式会社ペリエ代表取締役の和田裕美さん。英語教育プログラムを販売する日本ブリタニカで世界142カ国中2位の営業成績を収めた後営業コンサルタントとして独立。数々のベストセラーも世に送り出している和田さんですが、そんな和田さんも最初から仕事に前向きだったわけではありません。

◆在庫室の仕事に「何かを変えたい」と思う日々

report_Vol2_02.jpg「以前はアパレルメーカーにいたのですが、担当は在庫室だったんです。そこでの仕事はカバーの交換とバラバラになった品番の並び替え。暗い在庫室で一人どろどろになってビニールを交換する毎日に、『こんなものは誰でもできる』とか『なんでこんなことしないといけなんだ』といつも思っていました。むなしくなって在庫室で泣いたこともあります。何かを変えたくて秘書検定を受けたり英会話教室に通った時期もありました。」

◆目の前のことを一所懸命にやろう!と気づいた。

「私はこんなことをやるために東京に出てきたんじゃない...と思っていたのですが、ある日、気づいたんです。じゃあ今の私に何ができるのか?私は何がやりたいのか?と。よく考えたら、今の私にできることは"誰でも出来ること"だけだったんです。それに特にやりたいことも見つからない私には目標さえ見つからない。辛いけれど、できることはこれしかない。だから、目の前のことを一所懸命やろうと思い直しました。」

◆どんなつまらないことにも意味がある。

「毎日頑張って取り組むうちに在庫の品番や商品はもちろん、今の売れ筋商品や返品などトレンドも頭に入るようになっていました。そんなある日、常務が在庫室にやってきて『キャリアのコート、ベージュの品番2318ってどこにある?』って聞かれたんです。
一所懸命に仕事に向かっていたおかげか在庫状況は大体頭に入っていました。私はとっさに『右奥、3番目の真ん中に、たしかMサイズだけ5枚ほど残っています。』と答えたところ、そんな私の即答に常務が驚いたような顔をし『これって追加で発注したほうがいいか?』と聞かれたのです。私は頭の中にある、営業の保有状況や去年の品番の戻し状況などをお伝えし、追加生産すべき色などを自分なりにご提案することができました。
その日以来、その常務は毎日在庫室に足を運んで下さるようになり、私に評価をくださいました。私はショールーム担当に抜擢されたんです。すごく嬉しかったですね。まさに日の当たらない地下から地上の新しいところへステップアップでき、当時の私にとっては、スポットライトがあたっているステージに上ったような気分でした。
目の前のステージで一所懸命頑張ると、きっと誰かが見ていてくれて次のステージは用意されていると気づきました。その後いろんな人に出会っても、楽しく仕事をしている人は、それまでどれほどつまらない仕事があっても逃げずに、踏ん張ってやり続けてきた人たちでした。そうでない人は現状に不満を持ち、青い鳥を探しているだけ。以前の私もそうでしたが...。」

◆「良かった」を探す考え方を広めたい。

目の前のことに向き合う大事さを学んだ和田さん。ブリタニカ転職後も、営業ノウハウを勉強し、目の前の1件1件をコツコツ積み重ねることで世界2位の営業成績を収めます。営業コンサルタントとして独立した今、和田さんはどんなモチベーションで仕事に取り組まれているのでしょうか?
「私は陽転思考という考え方"事実はひとつ考え方はふたつ"を8年伝え続けているのですが、暗い中でも明るい星を見つける、そんな考え方を日本中に広めたいと思っています。どんな状況でも良いところ(良かった)を探そうとする思考パターンの人は、仕事もできる人が多いですね。今の日本は自分で考えなかったり、周りに流されたりする人が多いので、この陽転思考を広めて、もっと活き活きした日本になればいいですね。」

【Cタイプ→Aタイプ】 「会社の型にとらわれない、自由な発想がカギ」

組織の枠に染まっている自分に気付き、そこから脱し自由な発想を心がけることで活き活きと仕事を楽しんでいる方もいます。インターリスク総研で事業開発チームリーダーを務める高尾和俊さん。大手損害保険会社で仕事の創造性や面白さに気付いたきっかけは、お客様からの何気ない一言でした。

◆プロセスをこなすだけの自分に"焦り"を感じていた。

「そこに自分の価値は無かったんじゃないか...。入社後しばらくの自分を振り返ると、そんな風に思います。業界特性や規模上、仕方ないのですが、以前はプロセスや答えが決められていて、その手順を一つ一つこなすことが仕事になっていました。もちろんスキルアップやお客様の感謝など喜びは感じていましたし、様々な仕事を経験し、人間としての幅が広がっていくことに充実感は感じていました。ただ、『本当に自分がやりたいことなのか?』『もっと自分を活かせるような環境があるんじゃないか...』と、漠然とした焦りのようなものを感じていました。」

report_Vol2_03-222x300.jpg◆自分で自由に考える面白さにやみつきに。

「転機が訪れたのはロンドンからの帰国後です。さぁ学んできたものを活かすぞ!と張り切っていた矢先、地方のリテール部門の営業へ転勤を命じられたんです。一時は転職も考えたほどショックでした。しかし、先輩からの言葉もあり、腹をくくって転勤先の山口へ向かいました。実はそこで仕事への考え方が変わる出会いがあったんです。
きっかけは、船舶を保有されていた海運会社のオーナー様からの「新しいお客様を探すより、目の前の客に、新しいもの提案してみてよ」という一言でした。ハッとさせられましたね。決められたものを決められたように売る、新規開拓をこなす...そんな定められたやり方に自分が縛られていることに気付かされたんです。
思えば、子どもの頃は他の人と違うことをするのが好きでしたし、入社後も自分が単なる歯車になることに違和感を覚えた時期もあったのですが...、気づいたら染まっていたみたいですね。お客様に向き合い、お客様のために何が出来るかを自分自身の頭で考える。その大事さをお客様から教えていただきました。」
既存の型にとらわれずゼロベースで考え抜いた結果、高尾さんの頭から出てきたアイデアは新会社の設立。船舶のオーナーである顧客同士を結びつけ、船の管理を一括で行う協業管理会社を新設の上、管理業務の規模を拡大しその新会社と船舶保険を契約するというものでした。当時前例の無かったこの試みは成功を収め、噂を聞きつけた他地域からも依頼が殺到するほど。
「違う自分と出会った、そんな感覚でしたね。お客様のために自分の"引き出し"を開けて、自分独自の切り口で考え抜く。その面白さにやみつきになりました。その後、営業推進に異動し、営業戦略の立案や、全国の営業への指導などを行ったのですが、そこでは全国のお客様が対象です。今まで自分が培ってきたものを全て活かす、いわばその当時の自分の"集大成"のような場で非常に前向きに、やりがいがありました。インターリスク総研に移ってからも既存のテーマにこだわらず、新規事業の開発に携わらせて頂いています。今は部下にも自由な発想、つまり個々人が自分自身で答えを探すようなチームであるようマネジメントを心掛けています。『まずはやってみるか!』の精神で引き出していく方が良いアウトプットが出ますし、なによりチームのみんなも、個人的にもやっていて楽しいんです。」

◆これからはみんなの時代-日本全体の能力開発を-

自分独自の切り口で考え抜くことが仕事の面白さだと語る高尾さん。今はどんな志を抱いて仕事に取り組まれているのでしょうか?
「組織の活性化や能力の開発を行っているのですが、ゆくゆくはこれを活かし、日本全体の活性化や能力開発にもつなげていきたいですね。私はいま45歳なのですが、この世代は上の世代の知見と若い世代のパワーをうまく引き出し、日本をよくしていく必要がある世代だと思っています。よく若い世代に対し、『これからは君たちの時代だ』なんていう人もいますが、それはどうかと私は思います。これだけ変化が激しい少子高齢化の時代、今回の大きな震災によって様々な考え方が変わってしまう転換期となっています。これからは"みんなの時代"なんです。上の世代からノウハウやスキルを吸収すると同時に、もっと社会に出てきてもらうように背中を押す、その一方で、若い世代に対しても、私たちが率先して学んでいき、新しいものの創出を応援する。両世代の背中を押し、みんなの能力開発を行うことで日本を盛り立てていきたい。壮大な話ですがそんな風に思っています。」

【Dタイプ→Aタイプ】 「明確になった成功イメージに、"次は自分が"。」

「コーヒーなんて自分で淹れたことはなかった」。そんなアルバイトが仕事の面白さに魅了され、気付けば会社を代表するような存在に成長することもあります。タリーズ新宿若松河田店(当時)のバリスタ佐藤真吾さん。大学に入学してすぐタリーズでアルバイトを始め、たった2年でタリーズが主催する社内コンテスト「第10回タリーズバリスタコンテスト」で全国準優勝の称号を勝ち取るに至りました。当時、anレポートのインタビューで佐藤さんはこう語っています。

report_Vol2_04-300x238.jpg◆先輩に刺激され、「来年は自分が」。

「タリーズに入ってすぐバリスタコンテストの存在を知ったのですが、その年は先輩が出場し地区予選で3位。惜しくも全国大会出場はできなかったんですが、大会に向けて努力する先輩の姿はものすごく刺激になりました。来年は自分が、という想いが強くなりましたね。」

◆ドリンクに感動し、毎日のようにシフトに入る。

先輩に刺激され、目指す姿が明確になったためか、佐藤さんはバリスタという仕事にどんどんのめり込んでいきます。
「初めて自分も先輩も納得できるドリンクを作れたときの感動はよく覚えています。エスプレッソの抽出がバシッと思い通りにでき、頭で思い描いたとおりにミルクの上にマーブル模様にエスプレッソを注げ、味も香りも申し分なかったときの嬉しさは忘れられません。学校が夏休みになると毎日のようにシフトを入れてもらってバリスタの技術をどんどん学んでいきました。それが楽しくて仕方がなかったんです。」
翌2008年、佐藤さんはバリスタコンテストの第9回大会に出場します。ただ、このときはバリスタではなく、キャッシャーとして。バリスタとして出場する先輩と一緒にタッグを組み2人1組で決戦に臨みましたが、結果は地区予選で2位。「バリスタとして出場した先輩は実際にコーヒーを淹れる部門では1位だったので結果的に僕が足を引っ張る形になってしまったんです。それが悔しくて、悔しくて。」

◆「足元にも及ばない...」という実感が、さらなる目標へ。

そんな悔しさをバネにさらなる練習を積んだ佐藤さんは、見事その次の年のバリスタコンテストで地区予選を突破。決勝大会に出場し、準優勝に至ります。大会終了直後のインタビューで、佐藤さんは満足するどころか、次の目標についてこんなことを語っていました。「優勝したのは奈良ビブレ店の女性フェローなんですが、彼女には全てにおいて敵わないと思いました。バリスタの技術だけでなく細やかな心配りと気遣いが出来る人で、僕なんか足元にも及ばない。いいバリスタは技術だけ持っていてもダメなんだと肌で感じられました。今後のいい目標ができました。」

HITO総研の仮説「ポジティブワークモデル」

インタビューの結果、人が変わるには年齢や性別、所属組織などは関係がないことが分かりました。登場した3人の方が変わったきっかけは、それぞれ「目の前の仕事に対する意義の発見」や「自分独自の自由な発想」、「具体的な成功イメージ」でした。人が仕事に主体的に取り組み、志を持って取り組むようになるには、法則性のようなものがあるのではないでしょうか。
ここで私たちがヒントとしたのが経営学のエンパワーメント理論(※)です。Thomas & Velthouseによれば、内発的モチベーションの源泉には自己効力感、影響感、有意味感、選択(自己決定感)の要素が存在し、この4要素が満たされている心理的状態こそ、人間が内発的にモチベートされた状態(=エンパワーメント)だとしています。

【図表2】エンパワーメントの4要素

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-HITO総研仮説: 「ポジティブワークモデル」

私たちが行った志向性調査やインタビュー、そしてエンパワーメント理論から、ひとつの仮説を提示したいと思います。
それはB,C,D各タイプからAタイプへ移行するのに必要な要素は、このエンパワーメント4要素と合致するのではないか、という仮説です。図表3をご覧下さい。

【図表3】 ポジティブワークモデル

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◆Bタイプ→Aタイプへの移行は「有意味感」

例えば、B→Aへの移行。これは、成長したい意欲は強いもののどこか目の前の仕事に必死に取り組んでいない人が、活き活きと主体的に取り組むように変わることを指します。求められている義務を果たしていないにも関わらず、職場への不満を口にしたり、資格やビジネススクールに通ったり...といった人は皆さんの周りにもいらっしゃるのではないでしょうか?こういったBタイプが主体的に取り組むようになるには、目の前の仕事が持つ意味や意義、即ち「有意味感」が重要だと考えられます。例えば、倉庫室の仕事に嘆いていた和田さんは、目の前にある仕事の意義を見出すことで前向きに仕事に取り組むようになりました。「どんなつまらないことにも意味がある」というインタビュー中の言葉はその変化を言い表しているのではないでしょうか。

◆Cタイプ→Aタイプへの移行は「自己決定感」

次にC→Aの変化。与えられた仕事をそつなくこなすタイプだった人が、自ら新しいものに挑戦し、主体的にはたらくを楽しむようになるという変化です。インタビュー2人目に登場した高尾さんは、決められた会社の枠から脱し、自分独自の発想を行うことで新しいスキームを実現し、「面白さにやみつき」になりました。インタビュー中も、会社ではなく自分自身の判断で自由に発想し実行することの重要性を何度もおっしゃっていましたが、これはエンパワーメントの4要素のうち「自己決定感」の拡大による影響だと考えられます。

◆Dタイプ→Aタイプへの移行は「自己効力感」

最後にD→Aの変化については、特に仕事に対して意思を持たなかった人が、仕事に情熱を傾けるAタイプに変身することを指します。これは、まさにタリーズの佐藤さんの例がヒントになるのではないでしょうか。最初はコーヒーを淹れたことすらなかった佐藤さんは先輩の姿に刺激を受けることでバリスタにのめり込み、気付けば毎日シフトに入るまでになっていました。バリスタの全国大会で準優勝を果たしますが、これは先輩との前回大会出場によってゴールイメージが明確になったからこそ「自分も出来る」と確信を得たことが影響しているのではないでしょうか。「自己効力感」は、この「自分にも出来そう」という感覚を指しますが、先輩が大会に出場しまた日々の練習によって自分の成長が実感できたことが、自己効力感の増幅を生んだとも考えられます。

以上のように、理論や実際の事例をもとに、人が活き活きと働くようになるための要因を考察しました。Aタイプへの移行については、「有意味感」、「自己決定感」、「自己効力感」が重要だと考えられますが、その重要度は各タイプによって異なります。内発的動機付けやキャリア開発については従業員一律に行うのではなく、従業員の特性を理解した上で、そのタイプに沿った対応が求められます。
今回、このタイプ別の移行モデルを私たちは「ポジティブワークモデル」と名付けました。今後この仮説を検証するとともに、「はたしてAタイプは高いパフォーマンスを上げているのか?」や「Aタイプはどういったものにモチベートされているのか?」など、今後の研究テーマとして引き続き取り組んでいきます。

2011年5月16日
主任研究員 美濃 啓貴
研究員 田中 聡/森安 亮介
URL:http://rc.persol-group.co.jp

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