データで語る雇用 日本の「起業」

公開日 2014/09/09

日本を取り巻く雇用環境や日本の課題を、データとともにお伝えする。今回のテーマは日本の「起業」。ベンチャーブームの終焉以降、その低調さが叫ばれる日本の起業。特に近年ではシリコンバレーの活況さと対比されることも多いが日本の起業は、実際どれほど低いのか。そしてそれはなぜ低いのか。データに基づく国際比較で日本の課題を抽出したい。

日本の場合59カ国中58位。低調な日本の起業

 

世界各国と比較して、日本の起業活動はどの程度低いのだろうか。GEM(※)「2010 Global Report」で、起業活動の活発さを表す起業活動率を比較すると、日本は59カ国中58位。イタリアに次いで2番目に起業が低調という結果が示されている。

※GEMとは
Global Entrepreneurship Monitor(グローバル・アントレプレナーシップ・モニター)調査。起業活動の国ごとの違いやその要因、経済活動との関連性などを明らかにすることを目的に1997年に米国バブソン大学と英国ロンドン大学の起業研究者たちが中心になって組織されたプロジェクト。1999年以来毎年調査が行われ、日本は初年度から参加している。

図版1.png

日本の場合起業家が生まれにくい日本

 

日本の起業活動はなぜこれほどまでに低いのだろうか? GEMの調査をみると驚くべき結果が分かる。起業への「態度」に関する7項目のうち、日本がワースト3位に入っているのは実に5項目。うち3項目は最下位となっている。「今後6カ月以内に、自分が住む地域に起業に有利なチャンスが訪れると思いますか」という問いに「はい」と回答した割合は、アメリカ34.8%、中国36.2%、ドイツ28.5%に対し、日本はわずか5.9%となっている。「新しいビジネスを始めるために必要な知識、能力、経験を持っていますか」には13.7%。また、職業選択の評価を示す「あなたの国の多くの人たちは、職業の選択として新しいビジネスを始めることが望ましいと考えている」という問いには各国が50%以上が「はい」と回答したのに対し、日本は28.4%となっている。日本は起業家の経営能力・スキルに対する自信に加え、事業機会の認知や、社会的評価などが軒並み低いことが分かる。教育など起業家個人の育成に加え、社会的にも起業家をよりサポートするような体制づくりが求められる。

図版2.png

日本の場合日本の起業家の4人に1人が60歳以上

 

中小企業白書2011年版によると、日本の開業数は年間20万程度。開業率は、アメリカの11.1%に対し日本は5.0%となっている。2004 ~ 06年に創出された日本の雇用の約6割が開業事業所で創出されており、雇用創出の観点からも開業の増加が求められる。
また、起業家の属性で特徴的なのが"高齢化"だ。1979年時点では、60歳以上の起業家は全体の6.6%に過ぎなかった。しかし年々割合が増加し、2007年には全体の26.9%を占め、いまや起業家の4人に1人は60歳以上となっている。

日本の場合経営管理出身のアメリカ、営業・マーケ出身の日本

 

起業家の出身職種の違いも特徴的である。松田修一(2005)は、起業家の出身職種を日韓英米独の5カ国で比較している。日本の起業家で最も多い前職が営業・マーケティング(51.1%)であるのに対し、アメリカでは経営管理経験者が最も多く(43.7%)、且つその多くがMBA修了者だとされている。また研究開発出身の比率は日本は3.8%、最も高いドイツは16.7%にも上っている。

アメリカの場合1分間に 2.8社の企業が誕生

 

アメリカ中小企業白書によれば、アメリカで1年間に開業する企業数は148万6000件。これは九州3個分に相当する数で、実に1分間に2.8社が誕生している計算になる。

アメリカの場合2社に1社が創業メンバーに移民

 

アメリカの起業で、特徴的なのが"移民による起業" である。Duke University (2007) の調査によると、 1995-2005年に設立された企業のうち、アメリカ全体で25.3%、シリコンバレーにおいては52.4%の企業において創業メンバーに移民が含まれていたことが報告されている。

アメリカの場合5,400万人への起業家教育

 

アメリカはイノベーション創出を国家戦略として位置づけており、理数系教育や教師の質向上のほか、小・中学校から起業家教育に注力している。例えばKauffman Center for Entrepreneurial Leadershipでは、実に5400万人以上の若者がこの教育を受けていると言われている。大学や大学院の起業家教育も充実しており、中小企業総合事業団「主要国の起業意識・都道府県起業力比較調査報告書」によると、「大学/大学院の起業家育成コースの受講経験が有る」と回答した学生の割合は日本の1.6%に対し、アメリカは15.6%にも上っている。

《参考文献》
松田修一,ベンチャー企業〈第3版〉 日経文庫,2005
Council on Competitiveness「Innovate America Thriving in a World of Challenge and Change」文部科学省「平成20年版 科学技術白書」
株式会社新社会システム総合研究所「平成22年度創業・起業支援事業(起業家精神に関する調査)報告書」

《出所》
U.S. Small Business Administrations「The Small Business Economy 2009」
中小企業白書「中小企業白書2011年版」
Duke University「American's New Immigrant Entrepreneurs」,2007
中小企業総合事業団「主要国の起業意識・都道府県起業力比較調査報告書」 Global Entrepreneurship Monitor「2010 Global Report」

※本記事は、機関誌「HITO」vol.02 『タレントマネジメントの未来』からの転載記事です。
※文中の内容・肩書等はすべて掲載当時のもの。


本記事はお役に立ちましたか?

コメントのご入力ありがとうございます。今後の参考にいたします。

参考になった0
0%
参考にならなかった0
0%

follow us

公式アカウントをフォローして最新情報をチェック!

  • 『パーソル総合研究所』公式 Facebook
  • 『パーソル総合研究所シンクタンク』公式 X
  • 『パーソル総合研究所シンクタンク』公式 note

おすすめコラム

ピックアップ

  • シニア就業者の意識・行動の変化と活躍促進のヒント
  • AIの進化とHRの未来
  • 精神障害者雇用を一歩先へ
  • さまざまな角度から見る、働く人々の「成長」
  • ハタチからの「学びと幸せ」探究ラボ
  • メタバースは私たちのはたらき方をどう変えるか
  • 人的資本経営を考える
  • 人と組織の可能性を広げるテレワーク
  • 「日本的ジョブ型雇用」転換への道
  • 働く10,000人の就業・成長定点調査
  • 転職学 令和の時代にわたしたちはどう働くか
  • はたらく人の幸せ不幸せ診断
  • はたらく人の幸福学プロジェクト
  • 外国人雇用プロジェクト
  • 介護人材の成長とキャリアに関する研究プロジェクト
  • 日本で働くミドル・シニアを科学する
  • PERSOL HR DATA BANK in APAC
  • サテライトオフィス2.0の提言
  • 希望の残業学
  • アルバイト・パートの成長創造プロジェクト

【経営者・人事部向け】

パーソル総合研究所メルマガ

雇用や労働市場、人材マネジメント、キャリアなど 日々取り組んでいる調査・研究内容のレポートに加えて、研究員やコンサルタントのコラム、役立つセミナー・研修情報などをお届けします。

コラムバックナンバー

おすすめコラム

PAGE TOP