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- レポート

2011.04.11

はたらくを楽しもう Vol.1

時代を変えてきた「志」
人事担当者や人事に興味がある方にとって、現代は内発的動機が注目されている時代だと聞いて、さほど違和感は抱かれないかと思います。日本でもヒットした『モチベーション3.0』をはじめ内発的動機をテーマにした本は最近になって多く見られるようになりました。成果主義の弊害による揺り戻しとして、特に欧米においては内発的動機への関心が高まっているのかもしれません。

私たちが調べたところ、日本では江戸時代にすでに内発的動機にもとづく働き方が存在しています。お金のためではなく仕事そのものに喜びを感じ、創意工夫を重ねる日本人の姿が多くの文献で確認できます。江戸時代末期には、既存の体制を打ち破るような志士が立ち上がりましたが、これは昨年の龍馬ブームでも記憶に新しいのではないでしょうか。
日本を変えるような志士として、例えば昨年話題になった坂本龍馬は、佐久間象山や勝海舟、松平春嶽など当時を代表する知識人と若いころから接する中で自分の進むべき道を見つけ、既存の考え方に囚われない発想と行動で日本を変えていきました。
既存の枠組みに囚われず新しい可能性に挑戦する志士、これは現代の日本においても渇望されています。”内向き志向”や”安定志向”など、それとは正反対の若者像が伝えられている昨今ですが、新しい可能性に挑み日本を変えようとする志士は、実は現代にも存在します。
例えば、グリー株式会社の創業者 田中良和さん。田中さんは、大学卒業後インターネット業界を志し、大手通信会社に就職しました。しかし大きな仕事を任されるのには時間がかかる大企業の現実に違和感を抱き、1年足らずで退職。シリコンバレーで出会った若者たちの楽しく働く姿に共感し、当時まだ数十人だった楽天への転職を決意します。楽天で約5年勤務する中でソーシャルメディアに出会い、グリー株式会社を起業。創業5年で時価総額3000億円の企業にまで成長させました。
そんな田中さんにとって、「志」とは一体どのようなものなのでしょうか?

◆自分が少しでも頑張れば、もっと世の中はよくなる。

report.vol1_01何か新しいことをやって世の中をより良くしたい、と小さいころからずっと思い続けていました。そんな自分にとって大学のときに出会ったインターネットは絶好のチャンスに思え、心が震えました。例えば、検索してこれまで知らなかったことを知れるとか、メールで連絡が取れるとか…、まぁ今思えば当たり前のことなのですが。当時は、これまで不可能だったことをどんどん可能にしていくインターネットのすごさに素直に感動しました。「ここに自分が関われたらどんなに嬉しいか」と思ったことを今でも覚えています。インターネットの出現は長い人類の歴史上、「転換点」といえるほどのインパクトがあると思っていますが、自分が生きていられるわずか数十年の間に、そんな転換点に立ち会えることは本当に幸運です。

インターネットに出会ってからは、インターネットで世の中をより良くすることばかり考えていますね。僕が少しでも頑張れば、もっと世の中は良くなる。反対に、僕が1日休めば1日分だけ世の中が遅れてしまう。自意識過剰と思われるかもしれませんが、僕は本気でそう思って働いています。

◆グリーという成功事例を作って、日本に勇気を与えたい。

今思えば楽天という成長企業で、会社とそこではたらく社員が日々成長する様を目の当たりにできたことは大きな財産となっています。「イノベーションはおとぎ話ではなく、現実に起こせるんだ」ということを当時の楽天で実感できたからこそ、いま僕も志高く、自分の信じる道を突き進むことが出来ています。

report.vol1_02成長企業ではたらき、またイノベーションを身近に感じられる機会が少ないことは、今の日本にとって大きな問題だと思うんです。だからこそ、まだ創業6年強のグリーという会社が成長しイノベーションを起こしていくことは、日本にとって大きな意味を持つと思っています。 「ゼロから立ち上がった企業が5年、10年でここまでやれるんだ」という成功事例を作れば、きっと世の中の働く人たちの勇気と自信に繋がる。そう信じています。

「インターネットを通じて、世界をより良くしたい」という志を持ち、はたらくことでそれを実現したいと語る田中さん。では、志を持って仕事に取り組む「現代の志士」は、田中良和さんのような経営層に限った話なのでしょうか。総務省の労働力調査によると、役員の数は359万人です。これは日本の就業人口から考えると全体の5.5%にしか過ぎません。もし仮に企業トップに限った話であれば、「現代の志士」はこの国には一握りしか存在しないことになってしまいます。

 
一人ひとりの「はたらくモチベーション」が、日本を元気にする
私たちHITO総研は、日本を変える力はなにも一握りの経営層に限った話ではないと考えています。むしろ一人ひとりが前向きに仕事に取り組み、活き活きとはたらくを楽しむことこそが、日本が元気になる最も重要な要素ではないでしょうか。

日本の歴史を振り返ってみると、これまで日本の成長を支えてきたのは「庶民のはたらく」でした。あまり知られていませんが、江戸時代には勤勉革命という革命によって自律的な労働が発生し、産業が大いに発展しました。勤勉革命とは江戸時代初期から中期にかけて起こった、生産量の飛躍的上昇を指しますが、これは農民の労働投下量の増加-勤勉さ-によって引き起こされました。結果、隷属的な身分から脱した農家が、自発的に創意工夫を重ねることで革新的な作物が登場し、色々な産業が登場していきます。西川俊作の『日本経済の成長』では、その様子が次のように書かれています。「麻や綿、藍、菜種、茶、蚕、紅茶等々の商品作物ないし工芸作物の栽培がふえ、それにともなって油粕や魚肥などの投入が増えていくのである。さらにこれらの加工が進み、夜なべや余業、副業のかたちで織物や製糸、その他の「工業」が発展した」。日本の成長は一部の武士によるものではなく、むしろ商人や農民といった庶民一人ひとりの自主的なはたらくによって支えられた側面が大きいのです。

では、現代におけるビジネスパーソンのうち、成長を志し、前向きにはたらくを楽しむ人はどれくらいいるのでしょうか?

HITO総研では、関東・関西・東海エリア在住の25-34歳のビジネスパーソン824名を対象に、志向性調査を行いました。仕事選びの際にもっとも重視するポイントに関する回答をもとに、クラスター分析によって4つのタイプに分類しました。

 

【図表1】ビジネスパーソン志向性タイプ分類

report.vol1_03

25~34歳のビジネスパーソンを対象としたインターネット調査(n=824)
インテリジェンスHITO総研調べ(2010年)

 

縦軸に今感じている働きがいの高低を、横軸に成長か安定かという志向性を置くと、Aタイプ(成長志向×働きがい高)は10%、Bタイプ(成長志向×働きがい低)は25%、Cタイプ(安定志向×働きがい高)は15%、Dタイプ(安定志向×働きがい低)は50%という結果になりました。

Aタイプは、仕事選びの際に重視するポイントとして、”挑戦”や”自立した働き”といった点を挙げています。(【図表2】)また、将来展望についての意識調査結果(【図表3】)から、このタイプは日本社会に危機意識を持つ一方で、自分の力で変えられる仕事環境や生活環境については前向きに捉えていることが分かっています。このAタイプこそ前述した日本を元気にする層に最も近い層だと私たちは考えています。

しかし、調査の結果(【図表1】)、現状このタイプは最も少なく、全体のわずか10%に過ぎないことが分かりました。では、こうした10%の日本を元気にする層が今後もっと増えていくためには、どうすれば良いでしょうか。B、C、Dの各タイプからAタイプへ移行するにはどういった手法が有効か?また、そもそもタイプの移行は可能なのか?本当にAタイプの方が成果が高いのか?といった点など、次回以降のレポートで、さらに深めていきます。

【図表2】各タイプの特徴report.vol1_04

【図表3】今後の展望に関する意識調査結果report.vol1_05report.vol1_06report.vol1_07

【参考文献】
・新保博・安場保吉編『近代移行期の日本経済』日本経済新聞社(1979/02)
・武田晴人『仕事と日本人』ちくま新書(2008/01)
・武田晴人『日本人の経済観念―歴史に見る異端と普遍』岩波書店 (2008/11)
・ダニエル・ピンク/大前 研一訳『モチベーション3.0持続する「やる気!」をいかに引き出すか』講談社 (2010/7)
・西川俊作『日本経済の成長史』東洋経済新報社 (1985/11)
・マックス・ウェーバー/大塚 久雄訳『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』岩波書店(1989/1)

2011年4月11日
主任研究員 美濃 啓貴
研究員 田中 聡/森安 亮介
URL:http://rc.persol-group.co.jp

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