キャリアの曲がり角は42.5歳
ミドル・シニア正社員と成長の関係

キャリアの曲がり角は42.5歳ミドル・シニア正社員と成長の関係

今回の成長実態調査2017では、働く人々の仕事を通じた「成長志向(成長を重視しているか)」と「成長実感(成長を実感しているか)」とを別々に聴取しています。グラフ[1]は、正社員について、それらについて「あてはまる」とした回答(TOP2回答)と、それらの数字を用いた「志向-実感」の差分を5歳刻みの年代別に示したものです。

グラフ[1]  (%)
図1.png

まず、青棒の「成長志向」は40代前半にやや下がり、その後緩やかな上昇に転じています。仕事において「成長が大切」だと考えているのは、若い人だけではないということがわかります。しかし、その一方でオレンジの「成長実感」については、40代から50代にかけて大きく減少していきます。成長実感のTOP2値で比べると、35-39歳層は21.0%で50-59歳層は13.0%と、構成比で3分の2以下になってしまっています。

こうした結果、「成長志向と実感のギャップ」が45歳から59歳の年齢層で徐々に大きくなっています。つまりこの年齢層が、「自分の思うように成長を実感できていない」という課題が大きそうなことが示唆されます。そこで以下では、40代以上の年齢層を「ミドル・シニア層」と呼び、この年齢層の正社員が置かれている状況と心理を調査データから概観してみることにしましょう。

ミドル・シニアの「キャリアの折り返し」点は42.5歳

まず、ミドル・シニアの問題を語る上で外せないのが、「出世」の問題です。若いうちにはあまり差はありませんが、年齢を追うごとにいわゆる「出世コース」から外れてしまう人と、役職・階級を登リ続けていく人がはっきりと分かれ始めます。それと同時に、従業員が組織の中で今後も「出世したい」と考える意識も、年齢を重ねるごとに大きく変化します。グラフ[2]は、今回の調査でその意識の変遷を年齢別に見たものです。これを見ると出世意欲が逆転し、「出世したいと思わない」のほうが「出世したい」よりも割合として多くなるのがおよそ42.5歳となりました。

グラフ[2] (%)

図2.png

また、グラフ[3]に示しましたが、出世意欲の下降と並行するように、「自分のキャリアの終わり」を意識する人が多数派になるのが45.5歳ごろという結果になっています。ミドル・シニアの入り口にあるこうした出世意識の変化とキャリアの終わり意識の伸びは、就業人生全体の中でも大きな気持ちの転換点と言えるでしょう。

グラフ[3] (%)

図3.png

ミドル・シニアの「キャリアの最後」はいつなのか

一方で、高齢化と人手不足が深刻化する近年、人々の労働寿命は伸び続けています。2013年には高年齢者雇用安定法が改正され、最近ではリンダ・グラットン「LIFE SHIFT──100年時代の人生戦略」がベストセラーとなるなど、今後は65歳ないしはそれ以上の年齢まで働き続けることがより一般的になってくることが予想されます。

グラフ[4]に示したように、働く本人たちの希望引退年齢を見ても、40代以上は軒並み平均64歳近くまで働くことを希望しており、まだまだ20年程度は働き手であり続けようとしています。ミドル・シニアが40代半ばでキャリアの終わりを意識し始めてからも、実際にはそこからまだかなり長い年月働き続けるのが現実、ということです。こうした背景を考えると、成長実感が40歳ごろから下降し始めてしまうというミドル・シニアの成長実態は、本人にとっても企業にとっても、中長期的な意味で影響の大きい問題と言えるでしょう。

グラフ[4]  (%)
図4.png

成長の阻害要因は、体力の衰え、多忙さ、やりがいの喪失

では、そうしたミドル・シニアの成長実感の無さは何に起因するのでしょうか。今回の調査で聴取した「成長できなかった理由」のデータからヒントを探っていきましょう。グラフ[5]で示したデータから見えてきたことを3点にまとめると、ミドル・シニアの成長を阻害する要因としては「1.体力不安、2.仕事の多忙さ、3.やりがいの喪失」が指摘できそうです。

まずは、体力面です。人生100年時代とは言うものの、やはり若い頃と比べると年齢とともに体力への自信は無くなってくるようです。特に50代後半からは体力の衰えを感じている人の割合は急角度で多くなっています。グラフは省略しますが、本人の健康状態について「重篤な持病がある」「肥満状態にある」という割合も40代後半から上昇してきます。こうした健康と体力不安は成長に対する意識にも大きく影響していそうです。2点目に、仕事が多忙で余裕がない、という意見です。この回答は40代後半で最も高くなっており、これは実際に残業時間が多い層とも重なります。忙しすぎることで仕事を振り返る余裕が無く、成長実感するための内省機会を失ってしまっている働き方が想像されます。3点目は、仕事のやりがいの喪失です。データを見ると、特に40代後半と50代後半でやりがい・意義を感じにくくなっている様子がみてとれます。これまでのグラフで示してきたように、40代中盤はキャリア観・出世意欲が大きく変動する時期です。また、50代後半は管理職やその他の役職から降りる「ポストオフ(役職定年)」を経験する層が多くいます。このように数年単位で揺れ動いていくミドル・シニアの心理が、目の前の仕事に「やりがい」を見えにくくしているようです。

グラフ[5]  (%)

図5.jpg

まとめにかえて

今回は、成長実態調査から、「成長」を中心に、日本のミドル・シニア会社員の置かれている状況を概観しました。この日本のミドル・シニア層の課題については、日本型雇用の構造的な要因も考慮しながら、より仔細に分析されるべきものです。少子高齢化と景気変動に伴って従業員の年齢構成が歪んだ結果、現在多くの企業がこのミドル・シニア層の意欲の低さや、膨らみすぎた人件費などに頭を悩ませています。

パーソル総合研究所では、そうした問題意識の下、法政大学大学院・石山恒貴教授とともに「ミドルからの躍進を探求するプロジェクト」を進めています。今回少しだけ触れるに留まった「ポストオフ(役職定年)」の問題や仕事のやりがい、意義の問題についてもより踏み込んだ独自調査と分析を行っています。すでに第一弾の成果発表として、PJTの特設サイト[https://rc.persol-group.co.jp/mspjt/]を先日公表しました。今後も書籍の刊行やセミナーなどを通じて、こちらの問題を深掘りしていく予定です。詳細は追ってパーソル総合研究所のホームページ等でご案内いたします。


※調査概要
調査主体:株式会社 パーソル総合研究所
調査名:働く1万人成長実態調査2017
調査対象者:全国男女15-69歳の有職者
対象人数:10,000人(性別及び年代は国勢調査の分布に従う)
調査期間:2017年3月

※引用いただく際は出所を明示してください。
出所の記載例:パーソル総合研究所「働く1万人成長実態調査2017」

執筆者紹介

小林 祐児

シンクタンク本部
上席主任研究員

小林 祐児

Yuji Kobayashi

NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年入社。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題 日本企業の「学びとキャリア」考』(光文社)、『早期退職時代のサバイバル術』(幻冬舎)など多数。


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